1-10.冒険者ギルドに行ってみよう!
宿の食堂で出会った酔っぱらったおじいさんから、ボクたちは説教を受けていた。
このおじいさん、ただものじゃない。ボクたちの話をしなくても、雰囲気だけで全部言い当ててきちゃったよ!?
おじいさんからは助言を今のところ2つもらった。『他人を信用するな』、『逃げるタイミングを見逃すな』。理由を聞いて納得できたよ。
そして、次が最後の助言だったんだ。
「最後は···、『力を他人に見せつけるな』じゃな」
「『力を他人に見せつけるな』···、ですか?」
「そうじゃ。おそらくライにはとんでもない力があるとワシはみた。それは···、使い方によっては人を不幸にしてしまうこともあるじゃろうなぁ~」
「············」
「力に善悪はない。それを振るうものの善悪によるんじゃな。ただ···、いくら善で振るったとしても結果的に人を不幸にしてしまうこともあるんじゃ」
「えっ···?」
「あくまで『結果』じゃ。使った時は良くても、後でそうなる場合もあるんじゃよ。そして、力に魅了されてしまう者もいれば、恐怖するものもいる。ライの力はおそらくそのどちらにもなるじゃろうな」
「なんで···、そこまでわかるんですか?」
「ワシ自身のくだらん失敗した人生経験というのもあるのじゃが···、簡単に言えば幼い少年が旅するなんてありえないからじゃな。旅をするにはかなりの実力が要求される。それが何かはわかるか?」
「···いいえ」
「正直じゃな!まずは『計画力』。次の町までの距離から食料や水を確保する必要がある。着替えや雨をしのぐ装備も必要じゃ。次は『安全力』。道中では魔獣や山賊に確実に襲われる。それを回避するか討伐するか···。自分の身を守るための力じゃな。最後は『財力』。旅をするには金は必須じゃ。旅するための財力がなければできんのでな」
「············」
「ライとテオにはこの3つの力がある。でないと、ここまで来れんじゃろうしな。だから、その格好ではその力があると見せびらかしているようなもんじゃ。狙って下さい!と看板を掲げて歩いてるようなもんじゃな。周囲には魔獣でなくても飢えた人間だらけじゃ。だからこそ、力を見せつけてはいかんのじゃ。ワシからは以上じゃな」
「ありがとうございました。今後の旅で役立てますね」
「うむ。···ちょっと待っておれ。最後にワシが一筆認めるのでな」
「え?」
アノドさんはカバンから紙切れとペンを取り出して、書いて封筒にいれてたよ。なんだろうね?
「ほれ。これを冒険者ギルドの受付へ持っていけ」
「これは?」
「受付に渡せばわかる」
「はぁ···。ありがとうございます」
「それじゃあワシは帰るでな。···最後まで酔っぱらった年寄りの話をよく聞いてくれたの。···さらばじゃ。願わくば、自身の寿命まで無事に生き延びてくれい」
アノドさんはかなりお酒を飲んでたように思うけど、足取りはしっかりとしていた。
「あのじーちゃん、ただものじゃないな。オレやライの事をずばり言い当てやがったぜ···」
「うん···。でも、悪い人じゃないよ。『他人を信用するな』って言ってたけど、アノドさんは信用できるよ」
「···だな。明日は冒険者ギルドってところへ行くか?」
「うん。門番さんも装備を整えろ!って言ってたしね」
「よし!それじゃあ、ちょっとのんびりしてから寝るとするか!」
「そうだね。今日は疲れちゃったよ~!」
まだ始まったばかりの旅だけど、今日ボクはひとついい勉強になった。旅をしてると、いろんな人に出会うんだ。ただ、その出会いはいいものもあれば悪いものもあるんだ。
アノドさんとの出会いはいい出会いだったと思うよ。アノドさんは信用するなって言ってたけど、あの人は何もお金をとったりせずに親切に、そしてボクとテオの事を心配してくれてたんだ。それって十分信用していいと思うんだよ。
ボクは···、運がいいんだろうな。それは後になって気づいたよ。
翌日···。
「おはよう、テオ!」
「ん~、おはよう。ライ」
「まだ朝は苦手?」
「そうだなぁ~。でもだいぶマシにはなったぜ」
「じゃあ、朝食をいただきに食堂へ行こうか!」
「おう!」
食堂へ行くと、昨日の夜ほど人はいなかったね。夜はみんな食べながらのんびりするからかな?
朝食を食べ終えて、ボクたちは冒険者ギルドへ向かった。場所は宿の人に教えてもらったよ。
大通りに出てから町の中心部へ向かった。中心には役所があり、その隣が冒険者ギルドなんだって。
···これかな?鎧を着て武器を持った人たちが建物から出てきたよ。扉の上には剣の絵が描かれていたから、ここっぽいね。
「それじゃあテオ。中に入ろうか」
「おう!確か受付に昨日のじーちゃんの手紙を渡せばいいんだったな」
中に入ると、壁にたくさん紙が貼られていた。それを多くの人が何かを探してるような感じがするね。奥にカウンターがあって、左側にお店があった。武器に防具、それと食堂のカウンターみたいだね。右側には···、『解体・素材受付』?倒した魔獣を引き渡すところかな?
「おいボウズ!通路で立ち止まるな!邪魔だから外に出てろ!ここはお前の来るようなところじゃねえぞ!」
「あっ!?ご、ごめんなさい!」
いけないいけない···。入った扉の所で立ち止まって周りを見てたから、出入りの邪魔になっちゃってたね···。すぐに横にどいたよ。そして、奥のカウンターへ行った。5つあるカウンターには行列ができていたよ。ボクたちは左端のカウンターの列の最後方に並んだんだ。
「···ん?子どもがなぜ?ボウヤたち?ここはボウヤたちが来るところじゃないぞ?冒険者じゃないだろ?もしかして冒険者へ依頼か?」
隣のカウンターの列に並んでいた人から声をかけられちゃったよ。
「いいえ。ボクは冒険者じゃないですけど、旅をしていて門番さんからここに来てアドバイスをもらえって言われまして···。受付に出す手紙ももらってるんです」
「···は?旅をしている、だと!?」
「え?なにかおかしいです?」
「おかしいに決まってるだろ!?武器や防具もなく、しかもそんな小さなショルダーバッグだけで旅してきたってのか!?」
「はい、そうですが···」
「運がいいんだな···。魔獣に襲われたら命はないぞ?」
「あ、ここに来るまでに倒してきましたよ?」
「···あ~、はいはい。そうかそうか。冒険者ごっこだな?」
「違いますって!」
「ライ、ムキになるなって」
「そういうキミも変わった獣人だな?翼があるなんて見たことないぞ?」
「そうだろうな。ドラゴン族だしな」
「え?はっはっは!こりゃ傑作だ!」
「あぁ?なんだって?」
「そりゃそうだろ!?伝説と言われた種族がこんなところにいるわけないだろ!」
「なんだとー!?」
「テオ!テオがムキになってるじゃん!?」
「ぐっ···。でもなぁー!」
「次の方~!受付しますよ~!」
言い合いしてたらボクたちの番になっちゃってたよ···。
アノドさんからいろんなアドバイスをもらえましたね。ちなみに『計画力』『安全力』『財力』は現代で旅行する場合にも必要です。安全は日本では気にしなくても大丈夫ですが、海外は気をつける必要があります。不用意に治安の悪そうなところには行かないとか、人通りの多いところを通るとかですね。
本当に治安悪いと、一つ通りを挟んだだけで雰囲気がガラッと変わってるんですよ。作者はロサンゼルスでそんな場所を見かけて危険を感じて引き返しましたね。そんな環境は日本にほとんどないのにも関わらずですよ。
さて次回予告ですが、冒険者ギルドにやって来たライくんとテオくんは、受付でアノドさんの手紙を渡します。すると、ギルド長のところで面談が始まってしまいます!何を聞かれるんでしょうか?
それではお楽しみに〜!




