6-9.ライ、村長として周辺の町へあいさつに行く その1
おはよう!今日もいい天気になったね。
昨日、マイカ村に降り立って村の再建というか、拠点づくりが始まった。
まぁ、あくまでドラゴン族の人たちが地上に慣れてもらう間だけの拠点なんだけどね。遺産の知識であるアキさんはそんな事お構いなしに国を作るレベルを提案してきてるけど、一応規模を縮小してやる予定だよ。
プレハブ長屋に関しては10部屋分作成が完了して、まずはドラゴン族以外の人たちが相部屋で寝ることになったよ。
一方の共用部分は食堂だ。昨日はキャンプスタイルでの食事の提供だったけど、今日のお昼からは食堂での提供になるんだ。
アエスさんはちゃっかり『ハンティング・アイ マイカ村店』って看板を入口につけちゃってたよ···。まぁ、地上でお店を再開したいっていうご先祖様の悲願を一応達成したらしく、看板設置後にちょっと涙を流していたね。
今日も昨日に引き続いて村を開拓していく作業だ。今日は一部の人は畑作りに入るんだ。さすがに毎日魔獣のお肉だけってのは厳しいからね。
担当する人にはかつて畑だった場所に案内したんだ。畝の跡は残ってるけど、やっぱり最初から作り直しのようだ。
そして、ボクはこれからマイカ村村長として、あいさつ回りに行くんだ。まずはカパーの町だね。5年ぶりだなぁ〜。スナ隊長は元気にしてるかな?
「それじゃあテオ、よろしくね!」
「おうよ!行くぜ〜!」
カパーの町は近いからね。転移は使わずにテオに乗っけてもらって移動だ。
1時間もしないうちにカパーの町の手前までやって来た。以前来た時はボクはあんまり世間を知らなさ過ぎたからなぁ〜。
そして門にたどり着いた。町はちゃんとあって良かった···。
「こんにちは。身分証の提示をお願いできるかな?」
「はい。これで」
「へぇ~!若いのにDランクなんだね!」
···そう。この時に提示した身分証は偽装用だ。もしかしたら、魔獣同化能力者たちに乗っ取られたギルド中央本部が、ボクたちSランクを指名手配してる可能性があるからね。用心するに越したことはないよ。
「いえ、運が良かっただけですよ。そうそう、ここの警備隊長であるスナさんはいらっしゃいますか?」
「隊長を知ってるのかい?」
「はい。以前来た時にお世話になりまして···」
「そうなんだね。今日は詰所にいると思うよ。場所はわかるかい?」
「はい。知ってます」
「そう。じゃあ、中にどうぞ!」
うん、偽装の身分証は怪しまれなかったね。ギルドで発行してもらってるから本物と言えば本物だからね。
町は···、ところどころが壊れていた。爪痕もあることから、何度か魔獣の襲撃があったようだね。
そして詰所にやって来た。ここも懐かしいなぁ〜。
ボクは入口にいた人にスナ隊長はいるかを確認した。入口で待つよう言われて数分後···。
「2人とも!久しぶりじゃないか!」
「お久しぶり···!?ど、どうされたんですか!?」
「ん?あ〜、これかい?」
スナ隊長さんを見たボクはびっくりしてしまったんだ···。左腕が···、なくなってたんだ···。
「しくじっちまってな···。魔獣に食いちぎられちまったのさ···」
「そ、そんな···」
「ははは。そんな顔をしないでくれ。こうして命があるだけでも御の字だよ。ところで本当に久しぶりだ。今日はどうしたんだい?」
「ちょっとごあいさつと思って来たんです」
「そうか···。積もる話もあるだろう。こっちにおいで」
スナ隊長はボクたちを隊長の部屋へと案内してくれたんだ。
「さて···。あいさつとのことだが、その前にとあるウワサについて聞かせてもらってもいいかな?」
「ウワサ···、ですか?」
「ああ。つい最近にこの町にも連絡が来てな。どうもギルド中央本部が襲われたそうだ」
「えっ···」
「そして襲ったのは···、信じられんがSランク冒険者だそうだ」
「············」
「そして、名前まで言われて驚いたよ···。ライくんとテオくんは、Sランク冒険者になってたんだね?」
「それは···」
「わかっている。何かの間違いだろう?それとも···、何かあったのかい?」
「それも説明しますね。実は···」
カソドさんの予想は大当たりだった。冒険者ギルド中央本部の総帥の名前で、ボクたちSランク全員が指名手配されてたよ。門で偽装用の身分証を見せて正解だったってわけだ。
「魔獣同化能力者···。中央本部はそいつらに乗っ取られたってわけか···」
「はい···。レクトの国の奪還を狙って攻め入ったんですけど···、戦力不足で撤退したんです···」
「···なるほど。事情がわかってスッキリしたよ。その情報を伝えてきたヤツも怪しかったから、この情報は領主には伝えてないし面会もさせてないんだ」
「怪しかったんですか?」
「ああ。詳しく話を聞こうとしたんだが断られたんでな···。そこでこう聞いたんだ。『それはいつ起こったんですか?』ってな。そうしたら『10日前だ』と答えたんだよ」
「え?どこがおかしいんです?」
「10日でレクトからここまでは馬を飛ばしても来れないよ」
「···あっ!?」
「ははは!ライくんはテオくんに乗せてもらってるんだろ?徒歩移動じゃないから、この点には気づかないな!ヤツは徒歩で来ていたから、これはおかしいと思ったのさ。魔獣の力があったから、とんでもない速さで来たって事になるな。やっと納得したよ」
さすがだなぁ〜!直接聞きだすんじゃなくて、別の情報から正しい情報を知ったってことだね!
「しかし、ヤツはどう見ても普通の人だったな。目がおかしかったが···、気のせいか?と思ったが、あれでは門では通してしまうな···。これは警備上、かなりマズいな···」
「そうなんです。あと、人を食べたくなるそうです。そんな話が入ったら間違いないと思います」
「わかった。情報ありがとう。あと、あいさつとの事だったが、どういった話だい?」
「あっ、そうでした!実は···」
ここでボクは浮遊大陸からドラゴン族が地上に戻る手伝いをしてること、戦力が整い次第レクト奪還に動く事を話して、拠点となってるマイカ村の村長にボクがなった事を話したんだ。
「そうか···。確かにマイカ村は隔絶された場所だから、うってつけだな。ただ、この話は領主には話さないでおくよ」
「えっ?どうしてです?」
「キミたちの時と同じさ。『そのドラゴン族にここを守れ!と指示すれば警備費用と兵士はいらんな!』って事になるのが丸わかりだからだよ」
「···あ〜、そういう事かぁ〜」
「だから、ここだけの話にしておくよ。そうそう、そのドラゴン族とかの身分証はどうする?」
「···あっ!?考えてなかったです···」
「そうか。そういった手続きも村長としての業務だよ。名簿を用意しよう。それに記入して、後日また持っておいで。ここで領主にバレないようにこっそり作成しておくよ。名簿はできた身分証と一緒に返却するよ。持ってたら税金を領主に納めないといけなくなるからね」
「わかりました!ありがとうございます!」
やっぱりスナ隊長はボクたちの理解者だよ〜!そして、ボクの仕事が増えちゃいました···。
村長って、やる事多いんだね···。
現状ではいつ魔獣に襲われて命を落としてもおかしくはありません。スナ隊長は懸命に町を守ろうとして戦い、腕を失ってしまいました。こういった人たちは結構多いんですよ。
いくら回復魔法があると言っても欠損修復するとなるととんでもない魔力が必要となります。前作でも合体回復魔法を使ってやっとってぐらいでした。可能といえば可能なんですが、ハードルが極めて高いんですよ。
今回からライくんは村長としてあいさつ回りをしますが、村長としての仕事はこれだけではないと知りましたね。行政手続きが村でできない以上、カパーの町に出向いて代行してもらう必要があるんです。意外とやることが多いんですね。
そして魔獣同化能力者たちに乗っ取られた冒険者ギルドが動き出しました。まずはライくんたちの指名手配です。今のところはSランクが襲撃したなんて突拍子もない話をみんな信じられないので、即通報とはならないでしょう。通報されたギルド側もどう対応していいものか困りますからね。
さて次回予告ですが、次はダイナモの町に向かいます。ところがギルドを訪ねるとポーラさんから『監査が来てるから来ないほうがいい』と言われて追い返されてしまいます。仕方ないので日を改めて訪問することにして、グランドの町へ向かいますよ~。
それではお楽しみに~!




