5-22.飲食店の朝は早い
「おい!ライ!起きろ!」
「···ん〜?サム···?」
「昨日母ちゃんが言ってただろ!?地獄の特訓やるって!道連れにさせてもらうぜ!」
「···えっ!?ちょっと!?待って!まだ寝巻き」
「そのままでいいから!ほら!行くぞ!?」
「ちょっと!?いくらなんでも強引だよ!」
まだ夜明け前だった···。ボクは叩き起こされてしまったんだよ···。
昨日もそうだったけど、普通に起きるといつもより早く起きちゃうんだよね。どうしてだろう?
「おや?ライも本当に来てくれたんだね!じゃあ始めようか!」
「おはようございます、アエスさん。早いんですね」
「そりゃそうさ。食堂の仕込みもあるからね。鍛錬やって朝食作ったらすぐに厨房に入らないとね!」
「···え〜っと、アエスさん?その···、手に持ってる武器は···?」
「ん?あぁ~、これかい?麺棒だよ」
「麺棒···。麺類の生地を延ばす···?」
「おや!?さすが賢者の遺産を継承してるだけあって、料理の知識もあるようだね!」
「アキさんの娘さんが料理人だったみたいですし」
「私らはその娘さんのナツ様の血筋だからね〜!この麺棒も、ナツ様が愛用されていたっていう、由緒正しき麺棒なのさ!」
「へぇ〜!すごいんですけど···、調理器具が武器なんですか?」
「なんでも武器にするのがナツ様流だよ」
う〜ん···。いくらそうであっても調理器具は調理専門で使う方がいいと思うけどね。
アエスさんの鍛錬は、アエスさんが姿と気配を消して、四方八方からの攻撃をひたすら避ける!というものだった!アエスさんも8人に分身してるから、8人同時で相手してるのと同じだよ!?
「うわっ!?うぐっ!」
「ちょ!?母ちゃん!?いつもよりハードじゃねえかよ!?あたっ!?」
「どうしたどうしたぁ〜!そんな程度なのかい!?まだ小手調べだよ!?この程度で音を上げるんじゃない!!」
つ、強い!分身8人がタイミングを微妙にずらして逃げ道をつぶしにきてるんだ!しかも逃げ道をあえて作って誘導してワナにもハメられた!完全にアエスさんの手のひらの上で踊らされてたよ···。
「はぁっ!はあっ!こ、これは···、キツい!」
「母ちゃん!?オレばっかり集中攻撃してたな!?」
「当たり前だろ?ライは初めてなんだから、いきなり本気でやったら自信なくしちまうだろ?っていうか、あんたはこの程度じゃなかっただろ!?地上に降りてサボってたのが丸わかりだよ!」
「うぐっ···!」
「ウインにお守りをお願いしてたんだけどねぇ〜。ウインが見てないところでサボってたんだろ?ちゃんとこれが耐えられないんじゃ、地上に降りても足手まといだ」
「そんな事ねえ!」
「だったら実力で証明しな!ライ、ここにいる間にこいつはできる限り仕込んでおくよ。地上に戻ったらこき使ってやっておくれ。今度は私がウインに代わって監督するからさ」
「げぇっ!?マジかよ!?それなら魔獣に食われる方がマシだっつーの!!」
「···あぁ?」
「···いや、なんでもないです」
アエスさんって怖いなぁ〜。サム···、『頑張って!』しかボクは言えないよ···。
こうして早朝の鍛錬···、というかシゴキが終わった。アエスさんはさっと朝食を作ってくれたよ。
「アエスさんはすごいですね!あれだけ動いたのにこうやって朝食作ってくれたり···」
「あはは!母親ってのはね?強いのさ。家族を育てて守って···。それに、何事にもコツはあるのさ。『物事の本質を見極める事』。この言葉はご先祖様が遺した名言だけど、私はその通りやってるだけだよ」
「なるほど···。さっきの攻撃もですか?」
「そうだね~!戦いってのはね?いかに自分に有利な状況へもっていくか?が重要だ。相手を不利な状況に追い込んでしまうのも有効だね。ライはスタンピードを殲滅したこともあるらしいけど、そういうふうにやってなかったかい?」
なるほど···。確かにボクは落とし穴を深く掘ってそこに向かって攻撃する戦法をよくやるけど、落とし穴が魔獣たちを不利に追い込み、落とし穴の上で魔獣たちに攻撃させずにボクの攻撃ばかり当てる。これはボク自身が有利な状況になっているね!
「言われて気づきました···。確かにボクもそうやってましたね」
「だろ?戦いはね?ぶつかり合う前からもう始まってるのさ。あとは、いかに相手の作戦の上をいくか?だね。そのあたりは経験がないと厳しいんだけど、ライには賢者の遺産がある。膨大な知識がここで活きてくるのさ。遺産とよく相談して上手にみんなを導いておやり」
「はい!ありがとうございます!」
アエスさんの助言は非常に役立つね!ボク自身がどういう立ち位置がいいのかを教えてもらった。するとサムは、
「って事は母ちゃん?ライって前線向きじゃねえんだな?」
「どっちかと言えば参謀向きだね。もちろん戦闘もできるけど、賢者の遺産をフル活用するなら戦闘の前だね。いいかい?あんたはどう考えても参謀には向いてないバカだ。あんたは自分の能力が何に使えるかをわかってんのかい?」
「···情報収集と潜入?」
「わかってるじゃないか。でもしくじったってウインから聞いてるけどね」
「あれは相手が悪す」
「救援要請した時点で失格だよ!どんな相手でも、気づかれずに痕跡残さずやり遂げるのが潜入なんだよ!バレたら終わりなんだよ?」
「うっ···」
「だからこそ、万が一バレたら無事に逃げ切れなきゃならない。しかも、味方の不利にならないようにね。あんたの役割はあんたが思ってる以上に大きい。敵の情報を知るのは味方全員を有利にするために、そして命を救うためには絶対に必要なんだよ。だからこそ、厳しくやるのさ」
「···わかったよ」
それぞれの役割か···。改めてボクも勉強になったよ。
「さて、ライ?今日は時間あるんだろ?」
「え?は、はい。昨日で町の中を見たりウインの家で鍛錬したりしてましたし···」
「じゃあ、今日はうちの飲食店を1日手伝ってみないかい?いい鍛錬になるよ」
「あ〜、昨日の夕食時は大変でしたね。わかりました!できる限りやってみます!」
「やったー!今日は楽できるぜ!」
あっ···、サム?それをアエスさんの前で言っちゃう?予想通り、サムの頭にゲンコツが振り下ろされてたよ···。
この日、ボクはランチタイムもお手伝いに入った。まずは床をモップ掛けして、テーブルを拭いて回り、テーブルの上に空のコップと注文用紙をセットした。
その間、アエスさんは忙しく料理を仕込み、サムは表に出す看板にきょうの日替わりランチのメニューを書き込んで準備していたよ。
···あれ?そういえばタースさんは?昨日サボって店にいないってサムは言ってたけど、今日の朝からも見てないんだけど?
「サム?タースさんは?」
「親父?知らねえよ」
「えっ?それいいの?」
「いつもの事だよ。ふらっと勝手に出かけて知らん間に帰ってきて、いつの間にか店を手伝ってるからな。どこに行ったのかも分からんし、母ちゃんも気にしてないけどな」
え〜?そ、それはある意味すごい事なんだけど···。大丈夫かなぁ〜?
アエスさんの地獄の特訓にライくんも参加することになりました!アエスさんの武器は前作のナツちゃんがヨウくんをバシバシどついていた麺棒です(笑)。1000年近く使い込まれてますよ。頑丈にできてますからね〜。
そしてそのまま飲食店のお手伝いをすることになりました。タースさんはどこ行ったんでしょうね?ぎっくり腰で動けないはずなんですけど。ちょっと謎の多い親父さんです。
さて次回予告ですが、ウィリーさんの噴水作りをライくんは見学します。いろんな助言ももらうことができたので、テオくんの魂の器の修理の準備が整いますよ〜!
そしてコルメちゃんの家に行くと···、コルメちゃんの弟くんがいましたが、『かえれ!』と言われて追い出されてしまいます。どうしてなんでしょうか?
それではお楽しみに〜!




