5-20.たのもーー!!
時間ができたので、ボクはアルブさんに秘伝書を見せてもらおうと思ってたんだけど、秘伝書を開いたとたんにボクはリオさんの残留思念とお話をすることができたんだ···。
テオの魂の器が治れば、合体変身魔法が使えるようになるって言ってたよ。合体変身魔法については遺産の知識にはあって、1回試したんだけどダメだったんだよね。まさか魂の器を治すとできるとは思ってなかったよ!
「ど、どうした!?大丈夫か!?」
「は、はい···。大丈夫ですよ」
「いったい今のは何だったのだ···?秘伝書が光るなんて初めて聞いたが···」
「あの···、さっき秘伝書に書かれていたリオさんと···、正確には残留思念というべきでしょうか?会って話をする事ができました」
「なんと!?賢者の遺産の力で···?」
「おそらく。テオの魂の器を治せたら、テオとボクで合体変身魔法が使えるようになるそうです」
「合体変身魔法···。秘伝書にもあるが、リオ様の力をアキ様がまとうという、伝説の魔法ですな···。そんな条件だったとは···」
「はい!秘伝書はボクにもメッセージがあって驚きました。あと、聞きたいことがあるんですが···」
「何かな?」
「地上に降りる気はないんですか?」
「···今のところはないな」
「そうですか···。アエスさんはそろそろ降りる頃合いと言ってました」
「そうか···。さっき、『今のところは』と言ったのには理由があってな。今の我らでは戦力になれんのだよ」
「えっ!?そうなんですか?」
「うむ。なぜかと言えば、高速飛行魔法を使える者がわずかであること。そして···、恥ずかしながらドラゴン族はほとんどが弱体化してしまってなぁ〜」
「どうしてなんですか?」
「避難してもう650年近く。それまでは魔獣狩りを楽しんでやっていたそうだが、ここではほとんど魔獣がおらぬ。そのため、試合はするものの力を使うことがほとんどないので、魔獣相手にどう戦えばいいのかがわからん者がほとんどなのだよ」
「あ···」
「コルメやレン、コンのように地上に降りれる者もいるにはいるが、ごくわずか。それに、仮に全員が降りたとしても魔獣同化能力者に太刀打ちできないどころか、逆に捕らえられて竜人を生み出しかねないのだよ。わかってはいるのだよ。いつまでも避難していてはいけないと。だが···、避難生活が長引くにつれて地上に降りる気もなくなったというのが実情だ···」
「わかりました。無理強いはしません。可能な人だけでもお力をお貸しいただければと思います」
「わかった。ただし、我らは人族のために力を貸すのではない。『魔獣を狩る』という本能を呼び覚ますため、と考えてくれ」
「それで大丈夫ですよ。できれば···、ボクとテオ、トルムやコルメみたいに人族とドラゴン族がお互いにいい関係になれたらなぁ〜って思います」
「···ふふっ。やはりライくんは賢者の遺産の継承者にふさわしい。そういった考えが広まれば、かつてのアキ様とリオ様がご存命だった良き時代に戻れるやも知れんなぁ」
「昔の人たちができたんです。ボクたちも、きっとできると思いますよ」
「よし!ではこちらも段取りするとしよう。だが···、あまり期待はしないでくれ」
「ありがとうございます!」
さて···、次はウインの家に行ってみようかな?夕方まで時間あるし。
···え?ここ?聞いてた場所だとここなんだけど···。
なんか···、すごく大きな道場だったよ···。入口には大きな看板が2つあって、『フユ流道場』と『アキ流道場』って書かれていたよ。アキってアキさんの剣術の事だよね?フユ流···。あっ!遺産の知識にもあるよ。アキさんの息子さんの槍術の事だね。
とりあえず入ってみよう。···え?遺産の知識が道場に入る時のあいさつを教えてくれたよ。え〜っと···、
「たのもーー!!」
遺産の言う通りに大声で叫ぶと、中からたくさんの人が出てきたよ!?えっ!?どういう事!?
そして···、ウインが出てきた。いつもと違って稽古着を着ているよ!
「···ライ?···その犬耳としっぽをつけた格好は?···あと、道場破りに来た?」
「えっ?道場破り···?い、いや。ウインの家がここだって聞いたから来たんだけど···」
「···『たのもー』、は『道場破りに来た』って挑戦状を叩きつける常套文句。···ライがその気なら、師範として全力で相手する」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!遺産の知識がそう言えって!」
「···問答無用。···ふにゃ剣モードで勝負!」
ウインはボクにいきなり突っ込んできた!これはボクも本気でやらないといけない!
ボクも魔力剣をふにゃ剣モードにした!これでお互いダメージはなしで、技術だけでの勝負となった!
バシィッ!!
お互いの魔力剣がぶつかった!今日のウインは前回よりもパワーが強い!本気でやってるようだ!ボクも手加減なんてできない!
いったん離れて、ぼくはカウンター狙いで構えた!
「秘技!斬月!!」
「···秘技、弦月斬」
ボクがカウンター技で構えた瞬間に、ウインは斬撃を飛ばしてきた!だったらこれだ!
「秘技!斬月・月輪!だぁああーー!!」
「なっ!?くっ!」
これはボクオリジナルの複合技だ!カウンター技である斬月で振るう剣速をさらに上げて、斬撃を飛ばす弦月斬を放ってしまう、遠距離攻撃用カウンターだ!
でも、やっぱりかわされちゃった···。ギリギリだったから、不意は突けたかな?バランスが崩れているから、ここはスピード勝負だ!
「秘技!紅葉!!」
相手の懐に一気に入り込んで横一閃するこの技!しかし!ウインの魔力剣で受け止められてしまった!
でも、すごい!ウインをここまで追い詰める事なんて、今までなかったんだよ。これも『なりきり!伝説の神狼族セット』のおかげかな?
「···すごい。···力も技のキレも、格段に違う」
「えへへ···。実はこのつけ耳とつけしっぽのおかげなんだ。神狼族の力を使える神器なんだって」
「···そう。···なら、次は本気の皆伝秘技で」
「ちょっと待って!?それ、トランスしてるでしょ!?」
「···ライもできるでしょ?···お互いの皆伝秘技で勝負!」
「···わかった。はぁあああーーー!!」
ボクもトランス(お試し版)を使ったんだけど!?えっ!?前よりもパワーが上がってる!?
「···手加減無用。···皆伝秘技、万仞剣」
「じゃあボクも!皆伝秘技!万仞剣!!」
次の瞬間!また周囲の時間の進みが遅くなった!皆伝秘技は7つの技を順に繰り出す奥義!非常にゆっくりと進む時間に合わせてボクは剣を振るった!
あんまりウインの顔を見る余裕はなかったけど···、なんか驚いてるような表情をしていたと思うよ。
そして···、すべての技をお互い繰り出し終えたところで時は動き出した!
「···やるね?···これまでで1番楽しかった」
「はぁっ!はあっ!な、なんとかしのげたよ···」
まさか道場入っていきなり襲いかかられるとは思ってなかったからね。ボクたちの周りにいた道場の人たちは呆然としていたよ。
そして、道場からもう1人出てきた。
「素晴らしいものを見せてもらった!ウインと互角にやり合える実力者など、サムくんぐらいだったが···。ウイン?この子が?」
「···ん、パパ。賢者の遺産の継承者」
「そうか···。せっかくだし、おれともやってもらおうかな!?」
「えっ!?ウインの···、パパさん!?」
「申し遅れたな!おれはエムス!この道場の当主だ!さあ!構えるがいい!」
「ボ、ボクはライです!えっ?槍?」
「···パパは槍の方が得意」
「それほどの腕前なら武器が違おうとも問題あるまい!さあ!始めよう!!」
あれ?どうしてこうなったんだろう?ただ単にウインに会いに来ただけなのに···。
合体変身魔法は前作を読んでいただいた方はご存知ですが、魂の器を修繕した際に修理した者の魔力が混ざってしまって共鳴することで発動する条件でした。
ですので、今回ライくんがテオくんの魂の器の修繕に『成功』すれば使えるようになるんですね。成功するかどうかはご期待いただければと思います。
そしてウインちゃんの家を訪れたライくんですが、賢者の遺産が教えてくれたあいさつは道場破りしに来た!ととらえられてしまいました。これ、ワザとです(笑)。こうすることでライくんの実力が明らかになるからなんですが、そのことを遺産はライくんに言ってません。ちょっとひどい扱いになってしまいましたね。
さて次回予告ですが、引き続きウインちゃんの道場で試合やったりします。道場を案内してもらってると、とある掛軸に書いてる文字が気になりました。なんて書いてあったのでしょうか?
そしてサムくんの家に帰ると、サムくんから飲食店手伝ってくれ!と言われてしまい、大忙しでお手伝いしますよ〜!
それではお楽しみに〜!




