5-3.ライたち、追い出される!?
エマさんが旅立った翌日の早朝の事だった。
ドンドンドン!
扉を叩く大きな音がしたんだ···。扉を叩くって事はサムじゃないのは確定だ。
ボクが扉を開けると、そこには見慣れない大男がいたんだよ。
「やっと起きやがったか!オレの時間をムダにしやがって!」
「···どちら様ですか?」
「この宿の支配人だ!!」
「···え?女性の方でしたけど?」
「あのアマはクビだ!オレが今日から支配人だ!さあ!出ていけ!!」
「ちょ!?横暴ですよ!?」
「貴様らに拒否権はない!監査したところ、お前らの宿代は滞納してることが判明したんだよ!よって貴様らは不法滞在の犯罪者だ!今なら逮捕されないだけありがたいと思え!!」
「···すぐに支度します」
「10分でだ!こんなしょうもないことでコストがかかってんだぞ!!わかってんのかぁ!?」
···思ってたよりも早く締め付けに来たようだ。ここの宿代はギルドが支払って···?
ま、まさか!?あの新総帥、宿代を払ってなかったのか!?それに、この宿の親切な支配人のお姉さんがクビって···。
これは陰謀···、いやクーデターってやつか!?今まではエマさんがそう言った反抗勢力を上手に抑え込んでたのかもしれない。そのエマさんがいなくなったから···?
とにかく、騒ぎが大きくなる前にここを出よう。今は従うしかなさそうだな···。ボクたちには情報が足りなさ過ぎる。
「テオ!起きて!」
「ん〜〜?ライ?どうしたんだぁ〜?」
「···宿を追い出されることになった」
「···えっ!?」
「宿代をギルドが払ってないらしいんだ。すぐに出ていけって···」
「···わかった。すぐに支度するぜ。ライは片付けしておいてくれ!」
「ほぼ終わってるよ。あとはテオの寝巻きだけ」
「わ、わかったよ!」
そうしてボクたちは部屋を追い出されてしまったよ···。5年間過ごした部屋は、こんな形で出ていくことになってしまった···。
「おい!?勝手に入るな!?」
「···無礼千万」
「待ってください!いきなりすぎませんか!?」
「何よあんたたち!?早朝から乙女の部屋に入るなんて失礼でしょ!?」
ほかの人も追い出されちゃったようだ···。とりあえずみんなで食堂へ行くか。
そうして宿を出て食堂へ行くと、食堂の割引がなくなってた···。
「わたしもなんでこんな事になったかわからないんだよ···。いきなりお達しが出てね···。『Sランクは収入が多いから割引く必要性がない』って···。Aランク以下の割引率は上げられちゃったから、うちの収益が下がりそうで···」
いつもお世話になってるおばちゃんが、申し訳なさそうに教えてくれたよ。どうやら食堂にまでギルドは圧をかけているようだね···。
それと、ギルドの中の雰囲気がかなり悪い。みんな、ボクたちSランクをにらみつけてるよ···。レートさんの話やサムが聞いた話だとボクたちのせいで報酬が低かったって情報を鵜呑みにしているようだね。そんな雰囲気の中、サムがイラつきだしていた!
「あぁ?なんだてめぇらは?なんか文句あんのかよ!?」
「今までSランクだからっていい気になってたからだよ!この叛逆者!!」
「なっ!?なんだとぉ~!?」
「サム!···場所を変えよう」
「···ちっ!そうするか。こいつらに当たっても解決しねえよな···」
その時、ギルドのカウンターから5人出てきたよ。レートさんたちだ。
「ライくん、テオくん。ちょっと外で話をしようか?」
「はい···。ちょっとここではまずそうですね。みんなもいいかな?」
「「「「わかった」」」」
ギルドの外に出た。すると、町の雰囲気もいつもと違っていた。ボクたちを見ると、なんだか離れて行ってしまうんだよ···。まさか···?
「どうやら町にまで誤った情報を流されてるようだね。これはちょっと···」
レートさんが困っていたよ。···うん。こうなったら転移で別の町へいったん行くか!
「みなさん。今からボクの転移でこの国から脱出して別の町へ行きますが、いいですか?」
みんなうなずいた。じゃあ、ちょっと建物の影に入ってからボクは転移した。転移先は···、ダイナモの町だった。
「お~?おい、ライ?ここはどこだよ?」
「サム、ここはSSランクだったアノドさんが作った町のダイナモだよ」
「···レクトに似てる?」
「ウイン、そうだね。レクトをもとに作ったみたいだよ」
「ライ?どうしてここを選んだんですか?」
「トルム、ここは腕利きのギルド職員さんがいるんだよ。ここなら問題ないと思ったからね」
「ならさっさと行きましょう!食堂で朝食食べたいわ!」
「そうだね、コルメ!じゃあ行こう!」
ボクたちSランク6人と担当職員5人の11人でダイナモの町のギルドへ向かったんだ。ここに来るのも本当に久しぶりだなぁ~!
実はカソドさんには以前に手紙を書いていたんだ。その返信で、だいぶスタンピードのトラウマがなくなったそうで、訪問しても差し支えないだろうって事だったよ。あと、ボクが成長してるから、当時の子どもと気づかないだろうって書いてあったけど···。そんなに背が伸びてないから大丈夫かなぁ~?
町中に入ると、以前よりも活気づいていた。人も建物も増えたような気がするよ。どうなったのかな?
そしてギルドの建物に入った。もう朝のピーク時間は過ぎていたので、人はだいぶ少なかったよ。だからボクたちが入ると、すぐにポーラさんに気付かれてしまったんだ。
「あっ!?ライくんにテオくん!?」
「ポーラさん!ご無沙汰しています!」
「元気そうでよかったわ~!背がちょっと伸びたかな?」
「···あんまり成長してないってことですよね?」
「あっ!?ご、ごめんなさいね~!それと大勢連れて···?あら?」
「ポーラ先輩!ご無沙汰しています!」
「レートじゃないのよ!?それにジェネにランナ、シンにテディ!?揃いも揃ってどうしたのよ!?」
「実は···」
「待ちなさい。ここではマズそうね。奥の会議室で話をしましょうか?」
「その前にあたし、朝ご飯食べてないのよ~!いいかしら?」
「あら?あなたはもしかして···?じゃあ、食事も会議室へ持っていくようにするわね!」
「助かるわ~!」
ということで、奥の会議室へ案内されました。コルメが朝食食べてないって言ったから、しばらくすると食堂のおっちゃんが朝食を持ってきてくれたので、みんなで先にいただくことにしたんだ。
そして食べ終わった後、カソドさん、ポーラさん、イグニスさん、バンドさんが入ってきたよ。
「これは懐かしい顔ぶれだな。ようこそダイナモへ。レートたちがここに来るということは···、中央で何かあったのだな?」
「はい。実は···」
レートさんが代表して中央本部での出来事を話し出したんだ。
「···なるほどな。まさかそんな事があったとはな」
「今度の新総帥は、あんまり現場を知らない人なんでしょうね」
「それにしたって急過ぎやしねえか?Sランク全員を遠巻きに追い出すなんて、自殺行為だぜ?」
「この程度の情報では判断できんな。その新総帥がなんの目的でSランクを追い出したのか?カソド、この意図がわからん以上、こっちは表立って動けんぞ?」
「バンドの言うとおりだな。私としても何かきな臭いと感じるな。キミたちをかくまう事はできるから、しばらくはここで滞在したらいいぞ。その間に私のほうでも可能な限り調べてみるとしよう」
「ありがとうございます、カソドさん」
「なに、この程度なら問題ない。スタンピードの時の事を考えればな。しかし···。よくぞここまで立派になったな。ライ、テオ」
「ありがとうございます」
「ま、当然だな!」
「もう、テオ!ダメだよ。そう言っちゃ」
「ははは!···朝から大変だっただろう?すぐに宿を手配しよう。費用はいただく形になるし、中央で提供されていた部屋とはあまりにも粗末だろうが、構わないだろうか?」
「はい。それでお願いします」
こうして、当分はダイナモの町で滞在することになりました。しかし···、どうしてこうなったんだろうか···?
ついにライくんたちはギルドから『合法的に』追放されました···。ちょっと強引な部分はありますけどね。
追放ものの作品は結構多いんですが、だいたいは感情的に追放されるんですよね。中には納得の理由がある追放ものもありますが。
本作ではさらに別の追放する手法として、このような『合法的追放』にしてみました。あんまりないんじゃないですかね(笑)?これも実験の一つです。
そして冒険者ギルドという組織自体がライくんたちと対立することになってしまいました。これも実験の一つですね。
一般的に冒険者ギルドという組織は主人公たちに対してサポートをする立場という作品がほとんどです。ある程度力を持ったら反抗するってのはあるとは思いますが、本作では完全に対立···、と言うか敵側の手に落ちてしまって追われる身になるってのはほとんどないんじゃないでしょうか?
しかし、ライくんたちにはカソドさんたちのように味方をしてくれる人たちもいます。信頼できる人たちがいるというのはいいですね~。
さて次回予告ですが、ライくんたちから聞いた情報を元にカソドさんたちは対策を打ち出します。一方の中央本部ではなにやら怪しげな動きが···。いったい何を始めようとしているのでしょうか?
それではお楽しみに~!




