5-1.うわぁ~、この人···
本日から第5章全26話が始まりますよ〜!
ボクたちがSランクになって5年が経ち、ボクは10歳になった。
そこそこ背は伸びた気がしてるけど、どうもボクは同い年の子に比べたら小柄なようだ···。でも、ちょっとは筋肉質な体つきになったんじゃないかな?しっかりと鍛錬続けてるしね!
冒険者業は順調だ。スタンピード討伐もたくさんやった。ボクが最初にダイナモの町で退治したスタンピードなんて、小規模だったとつくづく痛感したよ···。
同じくSランクのみんなと一緒に大規模のスタンピード討伐はやった。みんな、試合した時は完全にお遊びだったと思ったよ···。
「ま、こんなところかしらね〜」
「僕が本気を出すまでもなかったですしね」
「···物足りない」
「もうちょっと歯ごたえあるかと思ったけど、拍子抜けだぜ···」
「は、ははは···。皆さん、すごいですね···」
ついついボクがそう言うと、反論を言われまくった!
「そういうライは、あれ何よ!?一瞬にして魔獣の周囲に泥沼作って沈めたじゃないのよ!?しかも猛毒入りだし!」
「おかげで殴り倒すのが楽でしたよ〜!」
「···技の撃ち放題」
「お前、意外と忍者向きじゃね?ワナにハメて一方的にタコ殴りなんてなぁ〜。なかなかエグいぞ···」
「は、ははは···。いつもこうやってたんで···」
コルメも、トルムも、ウインも、サムも、みんな呆れていたよ。ボクは普段通りやっただけなんだけどね···。
そんなこんなでボクは頑張っています。今はレクトに拠点を移してるけど、たまに地元のマイカ村には戻ってお手入れしたり、アスが住んでいるグランドの町にも顔を出してる。
グランドの町ではギルドで手に負えない魔獣がいるとアスから聞いたら討伐もやってるんだ。お願いされたらやるって方針だけどね。
そんな毎日を過ごしていると、貯金は100億ジールまでになっていた!
そりゃ、町を破滅させるスタンピードを討伐してるからね。でも、ボクが使い切れるお金じゃないので、銀行に預けて『資産運用』をしてもらってる。儲けるつもりはないけどね。
町が潰されて困ってるところに貸し出して再建を手伝ってるんだ。利息はわずかしか取ってないけどね。方法は遺産の知識にあったから実践したんだ。最初は無償で助けようとしたら、レートさんに怒られたんだよ。
「ライさん!考えは素晴らしいですけど、それやったら際限なくなります!困ったらタダでお金出してたら、みんなもらいに来ちゃいますよ!?しっかり利息取っておかないと、返済のために頑張らなくなりますって!」
だってさ。そう言われればそのとおりだね。みんなボクが養うわけにはいかないもんね。
ちなみにほかのSランクの人たちは自分のために使いまくっていたよ。まぁ、いつでも浮遊大陸に戻れちゃうから使い切っちゃおう!って考えだろうからね。ボクからは口出ししていないよ。
そんなある日···。
「おい、ジェネ?これはどういう事だ?」
「すいません、サムさん···。副長が方針を急に変更しちゃいまして···」
「オレらは命かけて討伐やってんだ。なんでギルドがその上前はねる金額を上げやがるんだ?」
「副長言うには『同じ討伐でもSランクの報酬が破格過ぎてA以下の報酬金額が労力に見合わない』そうでして···」
「なんだよその論理は!?そりゃ1件あたりの討伐数はオレたちが多すぎるわ!魔獣1体あたりに換算したらD以下になるぞ!?」
「わ、私も!そう言いました!Sランク担当者全員反対したんですって!でも···」
「···ハァ〜。その副長って、先日来たヤツだよな?」
「は、はい···。前の副長が先日の討伐調査の際に魔獣に襲われて亡くなってしまったので、キャビの町のギルド長が副長になりまして···」
「ソイツ、いきなり来た割には偉そうだな?何かあんのかよ?」
「い、いえ···。仕事がすごくできる方なので···。おかげさまで残業減って職員みんな好感得ちゃってるんですよ···。A以下も報酬が上乗せになって大喜びですし···」
「はぁ~、ジェネにゴネたところで元には戻らんか···。わかったよ。でも、これ以上報酬が下がるなら、オレはSランク辞めるからな!」
「そ、それは困りますよ!」
「あのなぁ···。オレらは無償で退治してるんじゃないんだぞ?いくら神々の遺産持ってるからって、危険な事には変わらないんだからな!」
「わ、わかってますよぉ〜」
カウンターでサムが担当のジェネさんと揉めてたよ。そして話が終わって、ボクたちが戻ってきたことに気づいてこっちにやって来た。
「よ!お二人さん。無事に討伐終わったんだな?」
「うん、サム。どうしたのさ?揉めてたけど···」
「ギルドの副長が、オレらへの報酬を3割減らすって言い出したらしいぞ」
「えっ!?3割も!?」
「いくらなんでも取りすぎじゃねーかよ!?」
うわぁ~、この人···、結構横暴だなぁ〜!どうしてそんな事を···。
「まったくだぜ···。確かにオレらの報酬は1件あたりすごい金額だ」
「それはそうだね。ボクも最初は驚いたけど···」
「でも、それにはそれだけの危険があるってことだ。それを金額だけしかそいつは見てねえんだよ」
「確かに···」
「というわけで、今回だけはしぶしぶ妥協してやるが、これ以上下がるならオレは出ていくことにするぜ」
「えっ!?」
「当たり前だろ?ライはどうするか知ったこっちゃないが、オレははっきり言って人族なんてどうでもいい。修行が目的ではあるが、まともな報酬もらえないならここにいる必要ないしな!」
「そう···、なんだ···」
「ああそれと、これは何もオレだけじゃないぞ?ウインもトルムもコルメも同様だ」
「············」
そう言ってサムはチョット怒りながら部屋へ帰っていった。
3割かぁ〜。確かに多すぎるような気がするよ。ボクたちが役に立ってないわけじゃないんだけどね。みんなしっかり魔獣討伐やってるんだしね。
もしかして···、こういう未来になると知ってあのおばあさんの助言があったのかな?『稼げる時に稼いでおけ!』ってのはそういう意味だったのかな?
すると、今度はレートさんがやって来た。
「ライくん、テオくん。ちょっといいかな?」
「はい、いいですよ」
「もしかして、さっきのサムの件か?」
「あ〜、聞いちゃったか···」
「3割報酬が減るって···」
「ちょっといきなり過ぎて私もついていけてないんだ···。ただ···、あんまり言いたくないがほとんどが歓迎してるんだよ···」
「そうですか···」
「そりゃ、自分らの取り分が増えて喜ばないヤツはいないよな〜」
「そう。ちょっとSランクの希少価値というか···、真の評価がされてないのは私としても不満なんだ。ただ···、どうしても···」
「圧倒的に数が少ないから···」
「···そういう事だよ。いわゆる多数決の欠点だね。少数意見が踏みにじられてしまうのさ。だからといって多数決でなければ物事を決めることができないのも事実なのさ」
「人族はやっかいだなぁ〜!」
「ドラゴン族も似てるでしょ?強さが絶対って聞いてるから、弱者は聞いてもらえないらしいし」
「うっ···」
う〜ん···。この副長さん、何か意図がありそうな気がするぞ?と言ってもボクたちにできることなんてほとんどないんだけどね···。
ライくんとテオくんがSランク冒険者になって5年が過ぎました。
順調だった冒険者生活が、ここから変わり始めます。
いきなり報酬3割削減って横暴ですよね。ただ、Sランク以外の報酬が上がるとなるとほとんどの冒険者が喜んでしまいました。こうなると多数決の論理からするとライくんたちの言い分が正当でも非常に不利です。
これ、会社ならあり得る話なんですよね。会社は労働者に報酬を分配する組織だからです。会社の英語である『Company』は『Common』と『Pan』の造語って聞いたことありますね。『みんなで助け合って稼いでパンを食べよう』って意味だったかと思います。
しかし、冒険者は言ってみれば個人事業主なんですね。一人親方なんですよ。だからやった分だけ報酬を得れますが、休業補償がありません。
ですので、サムくんもライくんもこの方針に違和感があるんですね。危険度で言えばSランクがゲキヤバですからね。
さて次回予告ですが、いきなりライくんたちがレートさんに呼び出されます。内容は···、エマさんの死期が近いということで呼び出されます。そして次期総帥は···、報酬削減案を出した副長に職員投票で決まってしまうのです···。かなりマズい状況になるライくんたちはどう動くのでしょうか?
それではお楽しみに〜!




