番外編-20.コルメ、Sランク冒険者として暴れまわる!
「じゃあ、Sランク冒険者として好きに暴れておいで」
「············」
あたしは冒険者ギルドの中央本部があるレクトの国にやって来たのよ。
2つ書状もらってたし、お金を受け取る目的だったのよ。
レクトに到着して、ギルドの中央本部に入った。みんなあたしをジロジロ見てくるわね···。ドラゴン族が珍しいのはわかるけどね。
中には挑発するような目をしてるヤツもいたわね。まぁ、襲いかかってきても返り討ちにするけどね。
受付で書状を渡してしばらく待つように言われ、すぐに案内された先は『総帥室』と書かれた部屋だったわ。
冒険者ギルドをまとめる頂点の者···。それなりに強いんでしょうね。勝負してみたいわね!
しかし、そんな気は入った途端に消え失せたわ···。
「やあ、初めまして。赤竜のドラゴン族のコルメさん。私はエマ。ギルドの総帥をさせてもらってるよ」
こいつ···、人間じゃない!澄ました笑顔で話しかけてきてるけど、得体のしれない恐怖を感じるわ···。まるで首元に鎌を仕掛けられたような感覚で、身動きが取れなくなっていたのよ···。
「···な、何者よ?」
絞り出せた声がこれだけだった···。
「ははは!これだけ威圧しているというのにそういう問いができるとはね···。失礼。ちょっとした試験だったんだよ。これでいいかな」
「はあっ、はあっ···。地上にこんなにも強いのがいたのね···」
「そうだね。この世界でかつて神によって創られたドラゴン族や神狼族に匹敵する存在はほとんどいないけど、いるにはいるのさ。私はかつてこの世界に侵略するために訪れて、取り残された異世界の神さ」
「···なんで別の世界の神様がこんな事をしてるのよ?」
「この世界が好きだから、って言っても信じないでしょう?」
「そりゃね。侵略にやってきたんだから、滅ぼす側でしょ?」
「確かに。でも、さっきの言葉は本当さ。それに、かつて私も冒険者だったんだよ。キミのご先祖様が生きていたよりも前の話だけどね」
「あたしに何させようってのよ?」
「逆に聞くけど、キミは地上に何しに来たのさ?」
「魔法の実験よ。浮遊大陸では厳しいから」
「なら、魔獣相手にやったらいい」
「もうしてるわよ···」
「それで結構。なんせ魔獣被害が甚大だからね。じゃあ、Sランク冒険者として好きに暴れておいで」
「············」
って事なのよ···。
世の中、上には上がいるって思い知ったわ···。ご先祖様はかつて地上を恐怖のどん底に突き落とした『大魔王ムーオ』ってヤツと死闘を繰り広げたって秘伝書には書かれていたけど、あんなヤツ相手にやってたのかもしれないわね。
そう考えると、ご先祖様ってすごかったのね。あたしはそこまでできるとは思えないけど、それでもそれに近いぐらい強くなってみせるわ!
宿は豪華だったわ。広すぎる部屋に広すぎるベッド···。ここ、あたしが使っていいのかしら?ちょっと不安になってくるわね···。
コンコン!
誰か来たようね···。
「は〜い!開いてるわよ〜!」
「し、失礼します···」
入ってきたのは顔を真っ青にしてうつむきがちに歩いているお兄さんね。何者かしら?
「あ、あの···、わ、私はコルメさんの専属のギルド職員で、テディって言います···。よ、よろしくお願いします···」
「専属って、何するのよ?」
「コルメさんへの···、依頼の受付や依頼主との金銭のやり取りとか···、事務的な事です···」
「ふ〜ん···。要するに、あたしが魔獣退治をやりやすくしてくれるって事かしら?」
「そ、そうです···。あの···、あんまり仕事は増やさないで下さいね···」
「え···?どういう事よ?」
「魔獣だけ倒していただければ···。それ以外だと問題になって···」
「あ〜、そういうことね。大丈夫よ!」
「よ、良かったぁ〜。よ、よろしくお願いします」
「ええ!で?何かあるかしら?」
「今日は特に···」
「じゃあ、スタンピードとかドでかいのがあったら教えてね!」
「は、はい···」
次の日···。
「コルメさん···。いきなり来ちゃいました···」
「へ···?何がよ?」
「スタンピードですぅ···」
「···ホント、多いわね。いいわ!で?どこよ?」
「ここです···」
「···え?」
「今、レクトが襲われてます···」
「そういう事は早く言いなさいよ!?」
「す、すいません···。ほかの冒険者さんたちが先行してまして、手に負えないってなったみたいで···」
「わかったわ!どっちに行けばいいのかしら?」
「西門だそうです···」
「あっちね!それじゃあ行ってくるわ!」
「え?窓から!?」
「当たり前でしょ!?あたしはドラゴン族よ!この方が速いわ!」
って事で宿の窓から飛び出して、あたしは西門に向かったわ。
あらあら···、結構やってるじゃないのよ?冒険者たちが壁の上から魔法を撃ったりしてるわ。ちょっと威力が弱くないかしら?
壁の上にはへたり込んでる冒険者もいたわ。どうやら弓矢で攻撃してたみたいだけど、矢が尽きちゃったのね。
それじゃあ、あたしもお邪魔しますか!壁の上に降り立って、お偉いさんの兵士さんっぽい人にこう言った。
「状況は?目の前のコイツらだけかしら?」
「な!?翼が生えた獣人!?」
「あたしは赤竜のドラゴン族のコルメって言うSランク冒険者よ。助太刀に来たわ」
「そ、そうか!今のところは目の前の連中だけのようだ。だが、兵士も冒険者も魔力が尽きてるのが多いのだ···」
「あっそう。だったらなおさらあたしの出番ね。休んで見てなさい!」
「済まない!頼む!」
「フッフッフッ、まっかせなさーい!」
目の前には無数の魔獣!魔法のいい的ね!
まずは土魔法からいきましょうか!
「ストーンランストゲトゲ地獄!いっけぇ〜〜!」
壁の上から土魔法を広く展開してあげた。すると!
ズドドドド!!
地面から無数の石の槍が突き上げてきた!無数の魔獣たちを貫通させていったわ!
しかもこれ、先端が尖っているから防壁代わりにもなるのよ。突っ込んできたら串刺しになるって事ね!
これで壁に張り付いていたヤツは倒したわ。次はこれなんてどうかしら?
「マッドスワンプ。沈みなさい」
お次は泥沼魔法よ。足元を泥沼にして身動きを封じる魔法なんだけど、あたしのは底なし沼にしてみたのよ。
少しずつ沈み始めて身動きがとれなくなり、最終的には息ができなくなってしまったわね。これでほぼ掃討は完了かしら?
ホントは爆裂系とかド派手で高威力の大規模殲滅魔法が気持ちいいんだけど、さすがに町の近くはねぇ〜。怒られちゃうしね!
「は〜い!おっしま〜い!」
「す、すごい···。これがSランク···」
たった2つの魔法だけで殲滅しちゃったのがびっくりしたのか、あたしに『魔帝』と言うあだ名がここでもつけられちゃったわ。
「コルメさん···。やりすぎです···」
このあと、テディは後始末が大変だったみたいで、胃のあたりを押さえながら顔を真っ青にしてたわね。
どうもあたしのトゲトゲ地獄の石が固すぎて片付けが難航したのと、辺り一面底なし泥沼化してしまったために道まで沈んでしまい、道が通行止になっちゃったんだって···。
仕方ないでしょ!?スタンピードでやられるよりマシって思ってよ!?
こうして、あたしはSランク冒険者になったのよ。この1年後にトルム、サム、ウインの順でSランクの仲間が増え、最後にライとテオが入ったのよ。
このお話でコルメちゃんのお話は終わりです。
この後もコルメちゃんは魔法の実験を繰り返して2次災害が発生し、テディさんの胃のライフは0になってしまうんです(笑)。本編でもお城をぺしゃんこにしてましたからね~。
これでSランクメンバーの過去のお話は終わりです。いかがでしたでしょうか?それぞれ個人に焦点を当ててちょっとしたお話を展開するのは前作を含めてあんまりやってませんでしたが、キャラそれぞれが何を思い、何を考えて行動しているのか?どういうキャラなのか?を、こういった形で提示するのも小説の手法だと考えています。あんまり長々やって本編ほったらかし!ってのはダメですけどね。そういう意味では1人5話というのがダレずにいいのかな?と書いてて思いました。
さて次回予告ですが···、ここまでSランクのみんなのお話でしたが、次の回は敵側のお話です。敵側のお話を書くのは前作も込みで初めてでしたね!
ライくんが一度戦闘した『魔獣同化能力者』たちが誕生するシーン、そして人を絶滅させて魔獣の世界にしようとする計画の一部が明らかになります。いったい何を企んでいるのでしょうか?
それではお楽しみに~!




