番外編-08.ウイン、焼きたてパンを食べるために稼ぐ!
「···ん」
地上に降り立ったその日に見つけた町で1泊した。なんとか地上のお金を手に入れて泊まることができたのだ。
さあ、今日からは稼ぐ!あの焼きたてのパンを食べるために!
部屋で携帯食を軽く食べてから冒険者ギルドに向かった。朝はいい依頼が多いそうで、争奪戦の様相だった。
ま、そんなのはどうでもいい。残った依頼で十分だ。魔獣退治の依頼なら歯ごたえありそうなのが残ってるに違いない。
···あった。ブルータイガーという魔獣退治があった。最近ここの東門近くに現れて、氷魔法を使う魔獣らしい。魔獣で魔法を使うやつは非常に手ごわい。だから敬遠されて報奨金が上がるらしい。
その紙を持って受付に向かった。
「あら、ウインさん。この時間に来てもいいのがないですよ?」
「···これ」
「えっ···?これは!?」
「···行ってくる」
「待ちなさい!さすがにムリよ!?」
「···朝飯前。···もう食べたから焼きたてのパン前?」
「は、はぁ···?って!?本気なの!?ちょっと!」
ま、問題ない。強い魔獣ほど燃えるよ。
さて、東門に向かう。ここは昨日通った道だ。町に入ったのは東門だったからだ。
ということは···
「············」
「あのな···。買いに来たんじゃねぇのかよ?」
パン屋の交差点を左に曲がろうとしたら、交差点の手前でうっかり左に曲がってパン屋に入ってしまった···。
これも不可抗力。こんなおいしそうな焼きたてのパンを焼いてるのが悪い。じゅるり···。
「···はっ!?」
「な、なんだよ!?」
「···パンの香りに引き寄せられてしまった」
「そ、そうか···。でも、買わないなら出ていけ」
「···夕方に買いに来る」
「そんな時間にはもう閉めてるぞ。早朝に仕込みするからな」
「···じゃ、明日の朝。···今度こそ絶対に買う!」
「お、おう···。金払ってくれんなら客だからな」
それは当然。これで俄然やる気が出てきた!
そのまま東門へ向かった。
「おっと、昨日の嬢ちゃんか。どうしたんだ?」
「···魔獣討伐依頼」
「へぇ~。冒険者になったんだな。で?何を狩るんだ?こっちは凶悪な魔獣が出没してるんだが···」
「···ブルータイガー」
「なっ!?やめとけやめとけ!先週氷漬けで発見された冒険者がいたばかりだぞ!?」
「···だいじょぶ。···逆に凍らせてやる」
「どうなっても知らないぞ?冒険者は自己責任だからな」
「···ん。夕方に戻る」
「無事に帰ってこいよ」
止められたけど、あっさり通してくれた。それにちゃんと心配してくれた。
だいじょぶ。この地上で私が勝てない相手なんてそうそういない。さっさと片付けてしまおう。
門を出て草原を進む。あちこちに魔獣が草に隠れて私を狙ってる。もちろんバレバレだ。魔獣レーダーで確認するまでもない。視線と殺気を感じてるからね。
そんな状況で背後から魔獣が襲いかかってきた。
「···秘技、斬月」
ザシュッ!!
「ギャアアアーーー!!」
まずは1体。すると、今度は全方位を囲いだして一斉に攻撃を仕掛けてきた!
「···秘技、螺旋斬」
囲まれてもこの技で対処できる。10体を仕留めた。
さすがにこの状況で次の攻撃を仕掛けようとする魔獣はいなかった。なるほど、なかなか賢いようだ。私は倒した魔獣を無限収納ポシェットにしまいこんだ。これはギルドで売却して焼きたてのパンに変わるのだ。···じゅるり。
その時だった。殺気を隠そうとして隠しきれていない魔獣がいることに気付いた。数は···、4体。
どうやら私を狙ってるようだ。こんな高等技術を持ってる魔獣は数少ない。おそらくブルータイガーという魔獣だろう。
名前からして体の色が青系なのだろう。今日はいい天気だから、空の青と草原の緑色で保護色の役割を果たしてるのだろう。目では探すのは困難だろうね。
でも···、相手が悪かったね。私には位置はすべて把握済みだ。忍び足っぽく歩いて近づいてるのもわかってる。
サムがやってるのを見たことあるけど、サムはわざとバレバレの歩き方をしてそっちに注意を引きつけて別の暗殺技で相手を倒す方法をやったりしてた。サムのやり方とかを見てたので、これはやりやすい。
すると、ある程度の間合いで止まった。となると、四方から氷魔法で攻撃してくるはず!
すると、氷の矢が真正面から飛んできた!これは囮だ。本当に当てようとしているのは背後から。しかも避けると予想して私の左右に1本ずつ打ち込んできていた。
なるほど···。狩りは得意ということだ。でも残念。狩られるのはそっちだ。
「···秘技、紅葉」
正面から来た氷の矢を真っ二つに切り裂き、左右へ飛んできた矢をかわし、両側からはブルータイガーが同時に襲いかかってきた。
「···秘技、疾風迅雷」
まずは左を一閃し、その位置で振り返って右から来たやつに一閃。
すぐに左へ向いて最初に私の真正面から氷の矢を撃ってきたやつに一閃し、最後はこれで終わりだ。
「···秘技、弦月斬」
斬撃を飛ばして真っ二つだ。これでおしまい。
午前中で目的は果たした。でも、夕方まではまだ時間がある。どうもこの東門の先にいる魔獣はかなり手強いようで、ブルータイガー以外にも誰も討伐できてない魔獣がいたのは知ってた。
ついでだ。一気に潰しておこう。こうして私は夕方まで狩りに明け暮れた。
···楽しい。やっぱり私は神狼族だと改めて実感した。襲いかかってきた魔獣を真っ二つにした時の『···え?』という魔獣の表情がなんとも面白い。
結局調子に乗りすぎて殲滅してしまった···。今日だけで100体以上は狩れた。
うん、ものすごく満足···。そして門に戻ってきた。
「おお、無事に戻ってきたか!」
「···もち」
「ずっとここで警備していたが、断末魔の声が聞こえてたんだ。あれは全部魔獣だったんだな」
「···ん」
「お疲れさん。宿でゆっくり休みな」
東門をくぐり、冒険者ギルドへ向けて歩いてると···、道に迷った···。
あれ···?昨日も今日も通った道なのに?どうして?
あれこれ考えても仕方ない。来た道を戻ると、昨日と違うことが1つあるのに気付いた。
そう、焼きたてのパンの香りがしてなかったのだ···。そういえば夕方はもう閉店してるとの事だった。すっかり忘れてた。
少し考え事をしていたので曲がる交差点を通り過ぎた···。どうも焼きたてのパンの香りを目印にしていたのは失敗だった···。
そしてギルドで素材買取コーナーに今日の獲物をずっしりと渡した。
「ほ、本物ぉ〜!?本物のブルータイガーの革···。これは高値で買い取れるぞ!?」
結局査定が終わらなかったので、すぐにお金がもらえず、今日の宿代と夕食代はギルドが立て替えとなってしまった···。
どうも明日の昼には査定が終わるそうだ。ということは、明日も焼きたてのパンが買えない···!
「ぐぬぬぬ···」
なんとも言えないもどかしい感情を抱きつつ、その日も宿で寝ることにした。
アレバくんのパンが食べたい!という気持ちが空回りして大量の魔獣を狩ってしまって査定が翌日になってしまいました(笑)!
ウインちゃんも想定外の事だったようで、怒りたくても怒れない状況でしたね。宿については冒険者ギルドと提携してるというのもあって立替はできるんですが、『仮払い』という事自体がないのでできないんですよ。
これは査定完了してない段階で、もし査定金額が仮払い金額を下回った場合に逃げられる可能性があるからなんです。いくら冒険者証持っていて身分が明らかでも、このあたりは厳格な管理がされてるんです。
あとは、高額素材の魔獣を狩れる冒険者が無一文って事自体がほぼないからですね。ウインちゃんはお金持ってくるのを忘れてたので、こればかりは仕方ありません。
さて次回予告ですが、翌日の昼にはまとまった現金が手に入る!と考えていたウインちゃんは、時間潰しで町中を散策と襲撃時の対策を考えようと出かけると···、無意識にアレバくんのパン屋に入っちゃってました(笑)!
そしてねんがんの現金を入手したウインちゃん。やっとパンが買えると思って店に行くと···?パンは買えたのでしょうか?
明日は夜勤なので朝に投稿します。お楽しみに〜!




