番外編-03.サム、冒険者活動を始める
「···ん?もう朝か···」
ここは冒険者ギルドの隣りにある宿屋だ。久々にふとんで寝ることができてぐっすり寝ちまったようだな···。野宿だと寝てても常に警戒してるから、眠りが浅かったしなぁ〜。
昨日は冒険者登録を済ませて、ギルドの施設の使い方や依頼の受け方を教えてもらったら夕方になっちまったんだよ。
宿に泊まろうにも金ないんだよなぁ〜。そう思ってたら受付嬢が一筆書いた紙を宿で渡せば宿代が後払いにしてくれるって話になったので、宿に泊まれたってわけだ。おそらくあの素材を売った金から昨日の宿泊代金を差し引いて渡すって事だろうな。
さてと、今日はどうすっかな〜?とりあえずこの町でしばらく世話になるんだったら、ある程度町の形を把握しておく必要がある。
うちの家系は代々暗殺技を使っていて、もちろんオレも一通り使える。まぁ、母ちゃんにはかなわないけどな!母ちゃんはまさにバケモンだぞ!?アレに勝てるヤツなんていねえだろ!?ってぐらいにな!
暗殺を生業にしていた家系だから、こういった調査は得意だぜ?知っておかないと、物陰から暗殺を狙ったり狙撃したりってできないからな。
ふむふむ···。とりあえずこの町の地理は把握したぜ。
この町はいびつだが円形に簡素な壁や柵で囲われている。門はオレが入ってきた南門とちょっと整備された道がつながっている北門の2箇所。
町の外周から壁までは畑が一面に広がっている。川も流れているから、水の確保は問題なさそうだな。
町はそんなに大きくない。高い建物もなく、平屋か2階建てしかないな。中心部に商店や冒険者ギルド、食堂や宿がある。住民はだいたい2000人弱ってとこか?
こんなとこか···。とりあえずギルドに向かうか。そろそろ査定が終わって換金できてんじゃねえかな?
ギルドに入ると、受付以外誰もいなかったな。話によると、朝に依頼掲示板を見て冒険者たちが出かけてしまうらしい。だからこの時間に来てもいい依頼は残ってないらしいぜ。まぁ、オレは依頼を受ける気は今のところないけどな。
「あっ、サムさん!査定終わってますよ〜!」
「そうか!で?どれぐらいになったんだ?」
「それが···。ちょっとお金を用意できないぐらいでして···」
「へ?どういうことだってばよ?」
「とりあえずお支払いできる上限までこの場でお渡ししますが、残りはこの北にあるレクトの国の中央本部で受け取っていただきたいんですよ」
「···あ〜、そういう事か。完全に理解したぜ!別に構わねえよ。宿代とメシ代払えたらいいからな!」
「申し訳ないです···。この手紙を中央本部で渡して下さいね」
「わかったぜ!そんじゃあな〜」
「あ、あの!サムさんって強いんですよね?」
「あ?まぁな。そこそこじゃね?」
「今のところは大丈夫なんですけど、もし手に負えない魔獣が出たら倒してもらえますか?」
「なんだ、そんな事かよ···。いいぜ!強いほど燃えるからな!」
「頼もしいですね!ではよろしくお願いしますね!」
さて、今日はもう宿に入ってのんびりしよう!ずっと森での生活だったからな〜。のんびりしたっていいだろ?
···そう思ってたんだけど、のんびりはさせてくれなかったんだよ。
「(ドンドンッ!)サムさん!?いますか?」
「···んだよ、のんびりしようとしてたのにってよ。いるぜー!どうしたんだ?」
「魔獣の大群が北門に来てるんです!退治できますか!?」
「いきなりかよ···。しゃあねえな〜!晩飯前に一暴れすっか!」
受付嬢から言われて北門に来てみると、柵の内側から槍を突き出したりして魔獣と応戦している兵士たちがいた。
お〜、それなりにいるな。応戦しちゃいるが、柵がミシミシ言い出してるから突破されるのは時間の問題だな。
「キミ!なぜここにいるんだ!?早く逃げるんだ!」
どうやらここの警備の隊長っぽいな。とりあえず話だけ通しておくか。
「オレはギルドから要請を請けてここに来たんだけど?」
「そうだったのか!なら応戦を頼む!ここの左を任せていいか?」
「···あ〜、それって柵の内側からやんの?」
「何を当たり前なことを···。その通りだが?」
「そんなチマチマやってたら日が変わるぜ?オレが外に出て倒してきてやるよ」
「···は?何を言ってる?」
「まぁ、そこで見とけって!5分で片付ける!そりゃ!」
「なあっ!?」
オレは身体強化魔法を使って思いっきりジャンプして門を飛び越えた!数は200ってとこか···。スタンピードほどじゃないが、これはちょいと兵士たちには荷が重いか···。
この程度なら身体強化魔法だけで十分だな!さあ、始めるぜ〜!
オレは魔獣の群れのど真ん中に降り立った!もちろん着地時に魔獣を踏んづけて倒したけどな。
「秘技、螺旋斬!」
着地と同時に魔力剣を展開してその場で3回転して周囲の魔獣を切り刻んでやった!間合いが確保できたところで次はこれだ!
「秘技、弦月斬!十六夜!」
斬撃を周囲に飛ばしまくった!これでほぼ掃討できたな!
すると、一気に倒されたのに驚いたのか、魔獣たちが逃げ始めた。
残念だったな!オレと当たったのが運の尽きだぜ?逃がすかよ!
「暗殺技、魔力手裏剣」
魔力で作り出した手裏剣なる投げる刃物を逃げる魔獣にめがけて放ちまくった。もちろん、すべて命中して倒すことができたぜ。
「す、すごい···。あの数を···、たった1人で···」
「まぁ、こんなとこか。あんたが隊長さんだったな?」
「あ、ああ···」
「魔獣の死骸処理は任せたほうがいいか?それともオレがやったほうがいいか?」
「ああ、それはこちらでやっておこう。素材回収は警備費用に充てられるんでね」
「そっか。じゃあオレはここまでだな。そんじゃあな〜」
「待ちたまえ!キミの名は?」
「オレか?冒険者のサムだぜ」
「サム···。今回は助かった。礼を言う」
「気にすんなって!あばよ!」
こうして初めての冒険者活動である魔獣の掃討を終えた。まぁ、この程度なら朝飯前だな!
そしてギルドに戻って受付嬢に報告しておいたぜ。
「サムさんが来てくれたおかげで町は救われましたよ〜!ずっとここにいてくれるんですよね?」
「んなわけねえだろうが···。金受け取るのにレクトって国に行かなきゃならんのだろうが?」
「受け取って戻ってきてくれないんですか?」
「う〜ん···。どうするかはまだ決めてないんだよなぁ〜。ここ以外にも行ってみようかと思ってるしな」
「そうですか···。ここまで強い方もそんなにいらっしゃいませんからね···。でも、いる間はよろしくお願いしますね〜!」
「できる範囲でな」
「おっ!?その言葉、本当ですよね?」
な、なんだ?いきなり顔つきが変わったぞ!?オレ、なんかマズい事言ったか?
「ま、まぁな。できないことはやらんぞ?」
「じゃあ、全部できますよね!?」
「はぁ!?どういう頭してんだよ!?『できる範囲』っつっただろうが!?」
「サムさんのできる範囲って、常人を軽く超えてますから、常人で考えうる範囲だと全部ですね!」
「···勝手にしやがれ」
「フフフ···。また言質いただきましたよ?サムさんって不用意ですね〜」
どうやらオレは失言してしまったようだ···。なんかこの受付嬢に手玉に取られてるような気がするのは気のせいか···?
いきなり実力を見せつける状況になってしまい、サムくんは大量の魔獣を討伐しました。その事を知ったギルドの受付嬢は『使える!』と思ってしまい、サムくんから言質とっちゃいましたね!
まぁ、町を魔獣から守るために手段を選ぶ余裕なんてないですからね。そのワナにまんまとひっかかってしまったサムくんでした。
さて次回予告ですが、サムくんが泊っている宿のおやっさんがぎっくり腰になってしまい、食事の提供ができないと言われてしまいます。サムくんは実家が飲食店なので、『じゃあオレが料理してやるけど?』と助け船を出しますよ~。サムくんの料理の腕前はどんなものなのでしょうか?
明日と明後日は夜勤なので朝に投稿します。お楽しみに~!




