煌 『扉が閉まるとき』
物語のあるリボン作家『いろいと』です
私の作るリボンには、1つずつ名前と物語があります
手にとって下さった方が、楽しく笑顔で物語の続きを作っていってもらえるような、わくわくするリボンを作っています
関西を中心に、百貨店や各地マルシェイベントへ出店しております
小説は毎朝6時に投稿いたします
ぜひ、ご覧下さい♡
Instagramで、リボンの紹介や出店情報を載せておりますので、ご覧下さい
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祈るしかなかった
この場で何か出来ることはない
ただひたすらに無事でいてくれたらとお願いするだけ
暗い夜を彩る月だけが明るく私を照らしていた
遡ること、半日前
朝は、いつものように〈いってきます〉と〈いってらっしゃい〉の言葉を交わし、ゆっくりと一日が始まった
笑顔で見送った後は、掃除も済ませ少し紅茶を飲む
ふと時計を見ると、思ったよりも時間が過ぎていたので、急いで買い物へ行く準備をし、私は足早に家を出ていく
『今日は、何にしようかな。そういえば、ハンバーグがいいって言ってたな』
子どもたちのリクエストを思い出しながら夕飯の食材を買いにスーパーへと向い、お菓子もしっかり買って私は家へと着く
何の変哲もない、いつもの朝を過ごし、お昼を迎えていく
家で仕事をする私は、マイペースにゆっくりと午後の仕事をこなしていく
のんびりした空気を一変してくれたのは小学2年生の息子だった
『ただいまぁ!ママ!遊びに行ってくるね!』
帰って来たと思ったら、ランドセルを廊下へ置き、突風が吹いたかのような勢いで出掛けていった
落ち着きのない息子は、宿題もせずに出ていったが、また夜に騒がしく大慌てで仕上げるのだろう
一瞬で静かになったすきに、私は一気に仕事を片付ける
『ふぅ』
時計を見ると、そろそろ夕飯の支度の時間
『ただいま!ママ!ねぇ聞いて?テスト点数良かったよ♪』
今度は、部活が終わり帰ってきた上の娘が話しかけてくる
と思ったら、その後ろを息子が付いてくるように帰ってきた
夕飯時は、一気に騒がしくなる
仕事の手を止め、急いで夕飯を仕上げていく
後は、ハンバーグを焼くだけになった時の事だった
携帯の着信音がキッチンに鳴り響く
誰だろう?と手にし、電話越しから聞こえる声に顔が強ばる
話を終えた私が次にしたことは、実家へ連絡すること
『もしもし?あのさ!彼が事故にあったみたいで今から病院へ行く事になった。子どもたち預けていい?』
母の答えは、もちろん二つ返事
ほんわか日常が一変した一瞬だった
薄暗い病院は、一層私の心を寂しくする
走馬灯のように今までの事を思い出す
付き合った日の事、『煌』を付けて花火大会へ行った事、喧嘩して家出した事、子どもが産まれた日の事
想い出はたくさんありすぎて、心のアルバムが何冊もある事を改めて知る
その中の一冊に、一人になろうと思っているアルバムもあった
結婚生活何十年と暮らしていると、そんな一冊も出てくるが、結局ずっと一緒に暮らしている
まぁ。しかし、人生何が起こるか分からないというのは、こういう事なのだろう
今は、無事でいてくれる事を祈るだけ
手術室へ入っている彼はどうしているだろうか
時間だけがいつもと変わらずに進んでいく
最悪の結果が頭を過る度、私は首を振る
少し気分を変えようと、待合室の隣にある自動ドアを出た
相変わらず、明るく穏やかに輝く月は美しい
冬を間近に控える外の空気は、どこか切なげに体を冷やす
軽く伸びをした私は、もう一度待合室へと向った
もうかれこれ4時間は経過している
心身ともに少し疲れを感じる私は、病院の蛍光灯を見上げ、ため息を一つ
その時だった
ガラガラという音と共に、数人の白い服を着た人達が、ベッド囲むようにこちらへ近づいて来た
一人の看護師が私に声をかける
『今から病室へ向かいますので、一緒にお願いします』
ベッドを見ると、ほんのり頬を赤くしている彼が横たわっていた
『無事なんですね』
『今から集中治療室へ向かいます』
ホッと胸を撫で下ろした私は一緒にエレベーターに乗る
集中治療室がある階に止まると、これからの説明があるから少し待ってて下さいと私を残し、彼を連れて行く
ガラガラと運ばれる彼を見つめ、私は胸の真ん中に暖かいものを感じた
まずは、無事で良かった。生きていてくれて良かった。
集中治療室の扉が開き、奥へと入っていく
これから始まる日常を迎えるため、私は心にまた違う火を灯す
これまでの日常に一度、幕を下ろすかのように・・・
自動ドアが閉まるその寸前まで、私は彼を見送った
終
最後まで読んで下さり、ありがとうございます
色々なお話を書いておりますので、どうぞごゆっくりとしていってもらえると嬉しいです
また明日、6時にお会いしましょう♪