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白の運命(改タイトル)  作者: けい
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case3 堕ちる者 :2

第十話 対峙


向ヶ丘高校に近づく一人の少女。


ヘッドホンを付け、向ヶ丘高校のものでは無いブレザーの下にパーカーを着ている。


その手には凡そ女子高生が持つようなものでは無い物が握られていた。


一丁の拳銃。


少女はそれを遊ぶように人差し指で回す。


「すおー。どこいくんだー?」


拳銃から気の抜けた声が出る。


少女は鼻歌を歌いながらその問いに応じる。


「ん〜、暇つぶし?」


少女は坂を登りきり、敷地内に入ろうとする。


「あれ……」


少女が足を止め、持っていた銃をつつく。


「ねぇ、これってあの封域って奴?」


「痛いからそれやめてってば!……えっと、うん。誰か居るみたいだね」


銃の返事を聞くと、少女は分かりやすく嫌な顔をした。


「うえぇ、先客いるんだ……」


少女は振り返り、歩いてきた道を戻っていく。


「え!?すおー、やらないの?」


銃の声を塞ぐように、少女は持っていたバッグの中に押し込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


葦原の封域での戦闘後、逆神ら待機班が封域内に入り、事後処理が行われた。


紅林凪は緊急で機関の所有する病院へと運ばれ、間もなく手術が始まる。


白崎透華は最後まで手術室から離れようとしなかったが、柏がそこについて待つと説得し機関へと戻された。


「……状況は芳しくないのは重々承知だが、今回の報告を頼む」


陰鬱な空気の執務室。


逆神はいつもより真剣な表情で白崎らを見ていた。


「……ったく」


俯いたままの白崎に代わり、御影が口を開く。


「作戦時間1600葦原が封域を展開、戦闘に入りました。ただ、俺と紅林、白崎と女で分断され、それぞれ別の人物と戦闘開始っす」


御影はそこまで話すと沈黙する。


「……どうした御影」


逆神が続きを促すと、御影は側頭部を掻きながら続きを話し始める。


「……うす。俺らは葦原と戦闘。…………状況は次第に悪くなり紅林が倒れました。葦原はその後分断した岩壁を破壊し、白崎側の敵と合流しそのまま退却。俺からは以上っす」


御影の報告に逆神は違和感を感じたようだったが、彼から視線を外すと白崎に向かう。


「白崎くん、次はキミだ」


白崎は俯いたまま動かない。


隣で御影がため息をつくも、反応すらしなかった。


「白崎くん、心境は察するが責務は果たしてもらわないと困る。この戦いはそういうものだよ」


白崎は一度拳を握りしめる。


「……っ!」


顔を上げようとした時、誰かが白崎頭を撫でるように押さえた。


「私からでいいなら、報告するわ。透華はいますごく落ち込んでるんだから」


白崎の後ろにいた凛が前に出る。


「喋れるようになったのか、ならまずは名前を聞こう」


逆神がそう言うと、凛はニッコリと笑い、さらに前に進む。


「……どうした?」


逆神の目の前まで進むと、凛は逆神に手を伸ばす。


「……は?」


凛は無言で逆神の胸を揉む。


「やり返しです」


笑ってそう言うと、白崎の隣へと戻る。


「まずは名前からでしたっけ。『エンヴィ』、凛です」


凛はそのまま続ける。


「私たちは分断された後、向ヶ丘高校の校医である大宮琥珀と戦闘をしました。彼女は桂花『グリード』と正体不明の暗器型の『罪』も所持していました。戦闘中に私の意識が覚醒、その後大宮を倒しました。その後は葦原って奴に大宮は持っていかれました。以上」


凛が淡々と報告すると、逆神は面食らった顔で彼女を見ていた。


「そ、そうか……あの時の状態でも記憶はあるんだな、失礼した」


逆神が咳払いをし、資料を手に取る。


「各自報告ありがとう。今回の作戦における被害や処理だが、今回は何も無い。予想されていた周防綾芽の襲撃も何故か無く、向ヶ丘高校の旧館も健在だ。紅林くんの負傷だけが今回の損失となっている」


逆神は厳かにそう言うと、立ち上がる。


「暫くは向ヶ丘高校に機関の職員を配置して、周防綾芽に備える。それと同時に葦原、大宮の捜索だな。それまでは各自待機となる……」


彼女はそこまで言うと、白崎を見つめる。


「葦原らが白崎くんに近づいてくる可能性は高い。凛くん、キミには彼女に付いていてもらいたいのだが……」


凛は静かに頷く。


その日は解散となり、白崎は逆神の車で送られた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日になって白崎の元に一本の電話が入る。


白崎は重い頭と体をどうにか起こして着信を取った。


「……もしもし、白崎さん?柏です」


電話の主は柏碧人で、その声は何処か明るかった。


「はい……おはようございます」


柏は白崎の声を確認すると、すぐに話題を切り出した。


「うん、凪ちゃんの手術が終わったよ。一応一命は取り留めたけど、暫くは昏睡状態みたいなんだ。……それだけキミに伝えたくてね」


その報告を聞くと、白崎の表情は明るくなる。


「……よかった」


白崎の瞳に涙が浮かぶ。


柏は紅林の目が覚めるまでは面会ができない旨を伝え、電話を切った。


携帯電話を机に置き、白崎はベッドから立ち上がる。


瞳の涙を拭うと、自室の扉を開ける。


「おはよ、透華」


「え」


自宅に凛が居た。


白崎の部屋の目の前に待っていたかのように彼女は居た。


「なんでいるの……?」


満面の笑みで白崎を見ている凛に問う。


「え?だって透華がいつ敵に狙われるか分からないじゃない、だから近くにいるようにしてるのよ」


凛はいつもの白いスーツ姿で、さも当然かのように言う。


「まって、何時から家の中にいたの?お母さんは?」


「あぁ、お母様なら今朝私の料理を食べてお仕事に行ったわよ?」


凛のその言葉で白崎は完全にフリーズしてしまう。


どうやら凛は昨日白崎が自宅に入った後、行き倒れた振りをして白崎の母に家に入れてもらい、当然のように泊まっていったという。


「嘘でしょ……」


白崎は絶句しながら階段を降りる。


「でも大変だったんだからね。透華の部屋に入りたかったけど、落ち込んでたし、平静保てるか自信なかったし」


凛も白崎についていきながら戯言を言う。


「あ、朝ごはんは作ってあるからね。出かけるなら言ってね〜」


まるで自宅かのように凛はリビングのソファに座るとテレビを見始める。


「えぇ……」


白崎はドン引きしながら凛の作った朝食を食べた。


時刻は昼近くとなり、白崎は外出の準備を始める。


1階に降り、テレビを見ている凛に声をかけた。


「凛、今から図書館行くから」


凛はそれを聞くとテレビを消して、立ち上がる。


「はーい、道中は私がいるから気にしないでね」


その笑顔は何処か白崎を不安にさせた。


「……あの」


白崎は動きづらそうに歩いていた。


「ん〜?どうしたの?」


凛は白崎の腕を自身に引き寄せ、無理やり腕を組んでいた。


「歩きづらいし……人の目を気にして欲しいんだけど」


凛は出かける前に、白崎によって目立ちすぎないよう服装を変えられていたが、それでも腕組みは周囲の人の視線を買う。


「別にいいじゃん。ゆっくり出来るならしないとだし、リフレッシュしようよ」


多少呆れながらも、白崎は彼女のすきにさせる事にする。


暫く歩いていると、見知った人物が図書館に向かっていく姿が見える。


「あ、黒咲さん……」


黒咲も白崎に気づいたようで、視線を向けるとすぐに怪訝な顔をした。


「あ、透華ちゃん……その人は?」


当然の質問だった。


しかし、白崎はその答えを事前に用意していた。


「この人は従姉妹のお姉さんだよ。大学の冬休みで家に遊びに来てるの」


白崎がそう言うと、黒咲はどこか納得がいかないような顔をする。


「……にしても近すぎじゃない?」


彼女は白崎と凛の距離を見たあと、凛を見据える。


「可愛い妹を当然可愛がってるだけよ?」


二人の間に変な空気が流れる。


「ま、まぁ黒咲さんも勉強するんでしょ?一緒に行こうよ」


白崎は場を取り持つと、目的地へと足を進める。


図書館に着くと、凛も勉強すると言っていくつかの本を机に持ってくる。


白崎と黒咲はお互いに冬休みの課題を広げ、黙々とした時間が流れる。


その日は図書館の閉館時間まで勉強し、帰路に着いた。


「凛、今日はどうするつもりなの……?」


帰り道に恐る恐る聞くと、彼女は当然のように答える。


「え、お母様に暫くは居ていいって言われてるわよ」


白崎は母の危機感の無さに絶望した。


翌日は機関へと行き、逆神とトレーニングとなっていた。


自宅を凛と出る。


機関の送迎は街の外れの小さな駐車場で行われており、その日もそこまで歩いていた。


駐車場の付近は夜に開く店が多く、昼時はいつも静かだった。


「……!」


目的地の近く。路地に入った所でとある人物が白崎を待っていた。


「よぉ、元気か?」


電柱に背を預けるように佇んでいたのは、葦原橙矢だった。


彼の姿を確認するなり、凛が白崎の前に出る。


「なんの用?」


敵意を顕にし、凛が威圧する。


一方の葦原は、まるで戦う気など無いように覇気がなかった。


「……紅林は生きてるか」


彼の言葉に白崎は反応してしまう。


「……っ、お前が……」


彼の態度から、どうにか怒りを抑える。


「……あんたに話す義理はない」


白崎がそう言うと、葦原は至って冷静なトーンで話し始めた。


「この間のアイツについて話しておくことがある」


凛はすぐにでも戦闘に入れるよう、剣を既に顕現させていた。


「戦闘について何も聞いてないなら黙って聞け」


葦原はため息をつく。


「あの日確かに俺は殺すつもりで戦ってた」


葦原が急に着ていた上着に手をかける。


服を軽く捲り、あるものを見せてくる。


その脇腹には大きな傷があった。


「コイツはあの鎌男で付けられた訳じゃねぇ」


葦原はまた上着を着ると、白崎らに向かう。


「アイツはあの時の戦いで異形化した。それも三度だ。その辺の野良適合者の異形化ぐらいなら大したことねぇけどアイツは別格だ。ちゃんと抑えさせねぇと周りに被害が出るぞ」


それだけ言うと葦原は立ち去ろうとする。


「まって……」


白崎の言葉に葦原は止まる。


「だからって、あそこまで」


そこまで話したところで、振り返った葦原に言葉を遮られる。


「前に言ったろ、異形化は成れ果てだ。欲望、信念のコントロールが効かねぇんだ。動き続ける限り何回でも起きるんだよ。異形化して人に戻ってまた異形化して。想像つくか?」


葦原の表情は苦痛そのものだった。


「それにアイツの死にそうな顔だ。どうにも上手くいかねぇ自分自身に嫌悪した顔だ。楽にしてやるにはああするしかなかったんだよ」


気分が悪そうに葦原は舌打ちをする。


彼は白崎がその言葉を聞いて黙り込んだのを確認すると、踵を返す。


残された二人はその事実に愕然としていた。


重い足で機関との待ち合わせ場所へ行くと、駐車場には既に柏がおり、手を振っていた。


彼は凛に驚きと戸惑いを見せながらも、研究者としての性か彼女に質問攻めをしながら車を走らせる。


機関に着くと、逆神は既にトレーニングルームに居るようで、執務室にはいなかった。


白崎は彼女に話をする為、トレーニングルームに向かう。


その途中で御影に会う。


彼は白崎を見ると普段通りいい加減な態度で話しかけてくる。


「おぉ、今日も司令にシバかれに行くのか?」


そんな彼に白崎は違和感を覚えた。


白崎に向けて手を挙げた時、彼は一瞬自分の肩を見た。


「ちょっとごめん」


白崎は御影の上着を剥ぎ取り彼の着ていたワイシャツを捲る。


御影の肩には不格好に包帯が巻かれており、少し血が滲み出していた。


「これ、なに」


白崎が真っ直ぐに御影を見つめる。


彼はバツが悪そうに視線を逸らすと、白崎を振り解きその場から立ち去ろうとした。


「……葦原に聞いた」


白崎がそう言うと、御影は立ち止まる。


「司令に言うのか?」


普段聞かないような声だった。


白崎は黙ってしまう。


「アレは事故みてぇなもんだ。紅林が自分で解決するべき事だ。俺らが口出しするもんじゃねぇと思うぜ」


そう言うと、傷のある肩を自分自身で叩いて見せた。


「っ……。信じろよ。適合者も俺ら『罪』も異形化も、全部同じもんで出来てんだ」


御影はそう言い残し、今度こそ歩いていく。


「……言ってることは間違ってるわけじゃないけど」


凛は俯いて黙ったままの白崎を撫でる。


「友達としての気持ちは大事だと思うわよ」


白崎はその言葉に小さく頷いた。

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