05 ダリウスの処遇
ダリウスはしびれた体で何とかはいずり、リュウとヴィルヘルムの方へ顔を向けた。
「『炎帝』、『風帝』、『ルミナスソード』、『氷解風』」
ヴィルヘルムの魔法が街道の一角で荒れ狂う。
高威力ながらも制御された魔法は的確にリュウだけを狙っていた。
さらにそれを回避しようとするところに、生き物のようにしなやかに動くやりが追撃を加える。
対するリュウはそれを易々と打ち払う。
その手にはもう剣はなく、素手で戦うだけの余裕があった。
躱し、薙ぎ払い、その身をかすめても平然としていた。
そして、蹴りやパンチで相手をぼこぼこにしていた。
相手をいたぶる程度の攻撃だが、そのたびにヴィルヘルムには生々しい傷が残る。
ヴィルヘルムは魔法で治癒を行ってはいるが肉体、魔力、精神ともに疲弊していった。
「いい加減あきらめろ」
「ふざけるな!『暴風爆』」
爆弾のような風がリュウに直撃し、吹き飛ばす。
ヴィルヘルム自身も吹き飛び距離が取れる。
「暗界」
周囲一帯が光を一切通さない暗闇へと変わる。
「『ルミナスランス』、『黒雷帝』」
三本の光の槍がリュウの動きを制限するように放射される。
リュウはそれをよけるが、一瞬足が止まる。
そこに暗闇で見えなくなっていた、黒い雷が突き刺さる。
致命的なダメージにはならないが、肉体がのけぞり硬直する。
「死ね」
七色に光るヴィルヘルムの槍がリュウを貫いた。
胸から心臓を貫かれ、口から血がこぼれる。
闇が晴れて、血まみれの二人が鮮明に映し出される。
「七炎葬」
きらびやかな美しい炎がリュウの肉体を焼き尽くす。
鋼の肉体であるはずのその体も焼きただれ崩壊を始める。
しかし、リュウの肉体がその炎をも覆うほどの光に包まれてそれは止まる。
炎は消えて、肉体は再生されていった。
「お前の強さは認めてやる。世界屈指だろう。だが、いま、俺に勝つことはかなわん。あきらめろ」
リュウは体を貫かれたまま、ヴィルヘルムの首を掴む。
「これ以上やるなら殺す。お前の首を民衆にさらし、国をがれきに追い込むとしよう」
「わかった、俺の負けだ。ここで死ぬわけにはいかん。いかなる条件でも飲む」
「よしそうだな。俺を犯罪者にはするな。この国は気に入った。あと、聖剣はもらおう」
「了解だ。少し苦しい、放してくれ」
「おお、そうだな」
リュウは首から手を放し、ヴィルヘルムは槍を引き抜いた。
胸の穴は光に包まれて消えた。
二人は少し距離をとり、向き合った。
「聖剣はあきらめよう。お前も犯罪者にしない。約束しよう」
「やけに聞き分けがいいな」
「俺がこのざまだ。どうしようもない」
「そんなに悲観するな。かなり強いぞお前」
「そりゃあ、どうも」
「それとあいつもなにかの罪で罰するようなことやめてくれ。せっかくだから身柄はお前に渡すとしよう。野に放ってくれても結構だ。だが悪いようにはしないでやってくれ」
リュウはダリウスの方を振り返りながらそう言った。
「わかった。だが野に放たないよ。あんないかれた爆弾みたいなやつ。しかい、こんな口約束で、あいつを引き渡していいのか?」
「連れて行ってやろうかとも思ったが、俺は身軽な方が性に合っているんだ。それにあんな小僧一人の処遇のために、俺を敵に回すリスクは負わないだろう」
「そうだな。まあ、悪いようにはしねえよ」
「そうか。よろしくな。じゃあ、俺はここで引きあげるとしよう」
そういうとリュウは明後日の方向を向き、地面をける。
それだけの動きでぞ面に大穴が開き、地震のような地響きがした。
リュウの体は大砲のように吹っ飛んでいった。
「くそ、この俺が遊ばれるとはな」
ヴィルヘルムは憎々しげにリュウの飛んで行った方向を見送っていた。
そして、さてとつぶやきダリウスの方へ歩いてきた。
ダリウスはどうにかしびれた体を動かして距離をとろうとするが這いづるだけだ。
体がうまく動かない。
とにかく恐怖を感じるので離れてはみているものの、このしびれた体で魔法も使えないのに逃げ切っれないのはわかっている。
ヴィルヘルムはそんな様子を気にすることなく、近づいて首輪と手かせを外してくれた。
「さて、これでお前は魔法が使えるわけだが、どうする、暴れるか?」
ヴィルヘルムはリュウとの約束を守ってくれるようだ。
さすがにこれはチャンスと暴れるほど馬鹿ではない。
「いや、ひどい目に合わないなら抵抗しないよ。おとなしく従おう」
ヴィルヘルムから手が差し出され、俺はその手を握って起き上がった。
***
「これからお前は俺の直属の部下として動け」
「え、部下なの?」
「不服か?」
「そんなことはないけど。何をさせられるのか不安で、、、」
「俺が部下を無碍に扱うわけないだろ。さて、掃除だけして帰るとしよう」
そう言うとリュウが空けた大穴を土の操作と石の舗装の修復をすることだ直した。
さらに赤の豚亭に入り、壁などの修復をできる限りしていった。
これを塗装すれば、元通りだろう。
わずか10分程度でその作業を終えた。
「すげえな」
「俺の現場の修復ぐらい、俺がやるさ。さて、いくぞ」
「どこにだよ」
「首都バランだ」
「どうやって行くんですか、ヴィルヘルムさん」
「俺についてくればいい。お前に口調が安定しないのはうっとおしいな。気を使って話すな、疲れる。俺のことはヴィルと呼べ」
「りょうかい、ヴィル」
俺たちは魔法で体を清めて、馬車の停留所に向かった。
そこで馬車に隣同士に乗り込み走り出した。
「えっと、そのバランってところにはどれくらいかかるんだ?」
「普通にいけば5日だが、特殊な手段を使う」
「へえ、どんな?」
「転移魔法陣だ」
一時間ほど馬車おを走らせたところの停留所でおりた。
裏路地の方へ進んでいき、狭い道途中で足を止めた。
「確かここだったな」
ヴィルが壁に手を当て呪文を唱えると、壁が崩壊した。
壁の中は街の雰囲気と似つかわしくない、宇宙船の中のように近代的だ。
古風な石碑も並んでおり、超古代文明などという言葉を連想させた。
2人が中に入ると壁は自動的に元に戻った。
「これをつけろ」
ヴィルは指輪を取り出して、俺に渡した。
手元を見ると、彼も同じものをつけていた。
「これは?」
「転移するときに必要な指輪だ。これは国内で上位10人の騎士にしか与えられていない」
「へえ、あんたは10番の中に入ってるのか」
「あほか。最強といっただろ。1番だ」
「あんなにやられてたのに…」
「だまれ。あと、ここのことは最重要機密だ。現在の上位10人以外は誰も知らない」
「まじかよ。もうすこし共有してもいいんじゃないか?」
「これは王のいるところに直通で行けるのでリスクが高い。それにこの指環は量産ができない。
現在国内には12個しかない」
「なるほどね」
大きな魔法陣に乗り、ヴィルが魔力を流し込むと二人はその中に吸い込まれた。
着いた先は仰々しい折の中だった。
しかも柵は三重構造だ。
「ベラ、俺だ、開けろ」
「あ、隊長。遅いですよ。罰として私とデートの約束をしないと空けてあげません」
柵の向こうには長いピンク髪の派手な女がいた。
丸眼鏡をしているが、美人だし、スタイルもいい。
大きなコートを着て露出は少ないが、なぜか雰囲気がエロい。
「ふざけてねえで、さっさと開けろ」
「えー、そんなに言い方するんだったら、自分でどうにかしたら?」
「わかった、そうしよう」
「えっ…」
ヴィルは槍を取り出して虹色の火をまとわせる。
それを力強く柵に振るって破壊していく。
三重の柵を破壊するのにかかったのはわずか2秒だった。
「修理代はお前が払え」
「ちょ、さすがにひどくないですか」
「俺の虫の居所が悪いところに、茶々を入れてくるからだ。じゃあな」
ベラはその場にへたり込み呆然としていた。
ヴィルは気にする様子もなく、長い廊下を進んでいく。
かなり広いつくりで壁一面が大理石のような光沢のある石だ。
一体いくらするんだろう。
それらに目を奪われながらも、ヴィルの後を追っていく。
「あの子流石にかわいそうじゃないか?」
「いつもあんな調子だ。たまには灸を据えてやらないとな」
「いや、それにしたって」
「あいつがちゃんと修理を自費でしていたら、俺があいつのところに同じだけ振り込んでおくさ。
そんなことより今日は緊急会議が入っていたんだ。この国のトップ騎士が王と謁見する。
お前から目を離すわけにはいかないのでついてこい。気を引き締めろ」
「まじかー」
ダリウスは憂鬱な気持ちで王の間に向かっていった。