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04 ヴィルヘルム・エルランロード

油断もしていた。

はやる気持ちっもあって警戒も怠っていた。

しかし、あまりにも突然そいつは現れた。


ダリウスは発電所を出ようと走っていた。

ひたすら前だけを見て。

だから、奇襲が来るとしたら死角である背後か左右だと思っていた。

しかし、そいつは目の前にいた。


「うおお、いつのまに、、、」


距離は30メートルほど。

小さめなシルクハットをかぶり、全身を黒のスーツ姿で包んだ背の高い男。

先端がきらびやかに光る槍を持ち、空いている手で柔らかな髪を手でいじりながらこちらを見ていた。

年はまだ若い。

20代だろう。

きれいな顔立ちをしているが、その顔は獲物をいたぶるように歪んで薄く笑っていた。


「よお。この発電所をめちゃくちゃにしたのはお前だな。おとなしくお縄につくなら痛い目見なくて済むぞ」


口調は荒いが落ち着いたトーンで話しかけてきた。

もちろん俺はおとなしくつかまったりはしない。

目撃者は殺す。

会話の必要もない。


「ファイア」


とりあえず、奴の近く一帯を焼き尽くす。

鉄をも溶かすほどの熱が放たれたが奴は平然としていた。


「なかなかだな。俺じゃなきゃ黒焦げだっただろう」


おそらくは奴も自分の周りの温度をコントロールしているのだろう。

それなら、一直線に集中してやるしかない。

地面に穴をあけたときののように、道を作るように熱を放射する。

故に俺はこの火の魔法をこう呼ぶことにした。


「ファイアロード」


横幅10メートル以上の熱線が一瞬で伸びていく。

鉄や石もお構いなしにそこには炎の道が残るだけだ。

距離も近いし奴もよけられないだろうと思ったが躱された。

瞬間移動と思うかの移動速度だ。


何度か奴に向かって放ってみたが、後ろに炎の道がいくつもできるだけだった。


「ライトソード」


奴の周囲に光の剣が三本現れた。

そして目にもとまらぬ速度で飛んできて、ダリウスの体に突き刺さる。


「ぐあああああああああ」


急所はあえて外してくれたようだが、痛いものは痛い。

体から力が抜けて膝をつく。

何とか動けるが、かなりやばい。


おそらく俺が次に使う手が生死を分ける。

奴が余裕を見せていなければ、俺はすぐ死んでいただろう。

この一撃で勝負を決める。


「ファイアボール」


熱を凝縮した球体を奴に向けて放つ。

全力で力を注ぎこんだが、よけられれば意味はないだろう。

しかし、これは爆弾だ。

奴の近くで爆発させる。


「破壊球」


奴はよけずに応戦した。

手元から巨大な球体が放たれ、俺のファイアボールとぶつかる。

火力勝負なら負けないと思っていたが、その二つは拮抗して押し合う。

そして、混ざり合い大爆発を起こした。



その日、第五研究所とその一帯は消失した。


******************************



気が付くと俺は道の端で寝ていた。

すぐ近くの建物の壁にはへこんだ跡があった。

吹き飛ばされてそこにぶつかったのだろう。


不思議なことに外傷はなかった。

服は破れてる部分もあるが、そんなに気にならない程度だ。

俺も服も頑丈だな。

いや、俺の方は少なくとも体に穴をあけられていたはずだ。

なぜかわからないが、回復していた。


時間はそろそろ日が昇るかといった時間帯だ。


聖剣は体に括りつけられたままだった。

ギリギリだったし、ひどい目にも合ったがひとまず任務達成だ。


水の魔法を使って体を清める。

服を着たままだが、火の魔法で乾かすから問題はない。

自分がどこにいるかもわからないのが、なるべく発電所からは距離をとりたい。

最後に戦った、シルクハットとの男。

奴も生きているなら絶対に会いたくない。

おそらく飛んできたであろう方向から、とにかく距離をとるため歩き出した。



***



しばらく歩き続けていると、ぽつぽつと人通りが見えてきた。

かなり時間もたっているし、もう奴に追いつかれることはないかもしれない。

そういえば、赤い豚亭で待ち合わせをしていたんだった。

ここがどこかもわからないので、また聞き込みをして向かうことにする。


聞き込みをしたところ発電所からは結構離れているらしい。

最寄りの停留所から、馬車で3時間ほどで着くらしい。

お昼前には着きそうだ。

さっさと行って、リュウを待つとしよう。


赤い豚亭まで誰かに声をかけられるということもなくだどり着くことができた。

聖剣も上着で包んで目立たないようにしていたので、特別見られることもなかった。

この国には武器を持ち歩く人もそんなに珍しくない。

往来で振り回しでもしない限りは大丈夫なようだ。


赤い豚亭は少々にぎわってはいたが、まだお昼前なのですんなり入ることができた。

昨日と同じような位置に席で、同じようなものを頼んで待つことにした。

店は少々広いので、同じ場所の方がリュウも気づきやすいだろう。


やっと足を止めて一息だ。

爆発の後、気を失って寝てはいたが、感覚としては徹夜で働き詰めの気分だ。

なんだかうとうとしてきたな、、、、。


「っっ?!」


突然肩に手が置かれた。

驚いて振り返るが、そこに人はいない。

それを確認して、体を戻す。


「うおっ!!」


なぜか俺の隣にあのシルクハットの男がいた。

全く気が付かなかった。

いつの間に…


「魔法の威力はすごかったが、戦士としては五流もいいとこだな」


そいつは俺の隣からはなれて、正面に座りなおした。


「もう逃げようなんて思うなよ。この間合いだ。お前ごときなら瞬殺できる」


なぜこいつがここに。

いろいろな思考が頭を飛び交いパニックになるが、今は落ち着け。

落ち着いて、逃れるすべを考えるんだ。

確かに、こいつは俺を簡単に殺せるだろう。

だが俺もこの距離なら、一瞬で焼き殺せる。

一か八かだ。


心の中でファイアとつぶやき、魔法を発動する。

いや、発動できなかった。

今までのように腕から手先にエネルギーがみなぎる感覚が伝わってこない。


「残念だったな。首と手首を見てみろ」


俺の首と手首。

そこには鉄製の首輪と腕輪があった。

見た目の割に軽いので、気が付かなかった。


「それらは脳から体への伝達、腕から練り上げる魔力を分断するものだ。忌々しい国の輸入品だが、効果は絶大だな。俺がこの指輪で制御しているかぎり、魔法は使えねえよ」


そういって右手の中指にある指輪を見せてきた。


「そしてこんなこともできる」


次の瞬間、ダリウスの首に電流が走る。


「ぐあっ!」


あまりの痛みに体をのけぞらせ、首元を抑える。


「なにしやがる!」

「お仕置きだ。次にまた、魔法を使おうとしたり、逃げ出そうとすればまた電撃を浴びせる。次はこんなに生易しいものじゃないぞ」


ダメだこれは。

詰んだな。

おとなしく連行されるとしよう。


「さてせっかくだ。お前を引き渡す前にいろいろ聞いておこう。名前と所属を言え」

「ダリウス・スミス。所属と言われても特にない」

「ふむふむ。フリーランスってところか」

「あのー。あなたは何者なんですか?聞いてもよろしいでしょうか」

「おいおい。この国で俺を知らないやつはいないぞ。ヴィルヘルム・エルランロード。この国で最強の騎士だ」


自分で最強とか言っちゃうのか。

まあ、所属チームのエースとかそんな感覚か。


「しかし、お前よく生きてたな。俺もかなりの重傷で、やっと完治してここに来たんだぜ」

「いやー、なぜかぴんぴんしてまして。ちなみになぜここがわかったんですか?」

「お前に刺したライトソードには、相手に痕跡を残せるようにしておいた。どこにいても検知にひっかかる。まあ、国外に出られると厄介だったがな」


なるほど、国外に逃げればよかったのか。

まあ、いまさらだな。

こうしてべらべら話してくれるのも、俺が捕まったからだろうし。

それにこちらの世界ではこれぐらいのことは常識なのかもしれない。


「さて、所属はないといったが、何が目的でこの聖剣を奪いに来たんだ」


ヴィルヘルムの手には聖剣があった。

いつの間に盗りやがったんだ。


「えっと、シエラというやつの贈り物にしようと」

「シエラだと。じゃあ、奴に与するものか?」

「いえ。俺の雇い主みたいな人が、シエラを殺したいらしくて、そのための布石として取り入ろうかと思っていて。そのためです」

「ふーん。荒唐無稽の話だが、まあ信じておこう。その、お前の雇い主は誰なんだ」

「アダム・スミスというやつです。俺も彼についてはよく知らなくて」

「聞いたことのない名前だな」


ヴィルヘルムは少し考えるような動作をしてから、こちらに目を向けた。


「さて、お前の処遇だが、いずれにしろ死刑は免れないだろうな」

「ええええ、勘弁してくれ。殺さないでくれ」

「そうだな。お前は利用価値がありそうだし。しかし、生かしておくよりバラシて何かにした方が安全かもな」


やべえな。

なんでこんな目にあってんだ俺。

あいつのせいか、アダムめ。

次会ったら、ぶん殴ってやる。

ていうかピンチなんだから、無理を押してでも助けに来いよ。

うそうそ、助けに来てくださいの願いします。


心の中でそんなことを願っていると彼が現れた。


ヴィルヘルムはぶん殴られた。

黒いコートを着た、子供を肩に乗せた男に顔面を殴られた。

その勢いで地面と平行に飛んでいき、店の壁を突き抜け外に放り出されたところで止まった。

破られた壁の向こうは街道で、ざわざわとしながらこちらを見ていた。


「ふむふむ、確かに聖剣だな。ご苦労だったなダリウス」

「リュウさん、いつのまに。助かりました」


リュウの手には聖剣があった。

剣を奪ってぶん殴るまでが本当に一瞬だったな。


「いいってことよ。あいつはこの国の騎士か?」

「はい。そうみたいです」

「なるほどな。連行される前でよかったな。さあ、こうなっちまったらしょうがない。一緒にこの国を出ようぜ」

「はい」


よくわからんが助かったな。

リュウもヴィルヘルムも自信過剰っぽかったが、実際はこいつのが強いのか。


こんな大立ち回りをして周りからドン引きされているにも関わらず、リュウは出入り口から堂々と店を後にしようとする。

俺もついていこうとして、ふと会計を行うカウンターが目に留まった。


そういえば注文したけどまだ来てなかったな。

もう食い逃げとかいうレベルの話ではないが、一応金貨を一枚払っておいた。

釣りはいらねーぜ。


「ルミナスソード」


リュウと一緒に店を出ると無数の光の剣が飛んできた。


俺の体を貫いた件より数段エネルギーが強そうだ。

大きく、鋭利で、速く、数が多い。


しかし、リュウは俺の前に立つと素手で軽々と撃ち落とした。


「くそ!化け物か」


光の剣を飛ばしてきたのはヴィルヘルム。

顔の周りは血まみれだったか、傷はすでに完治しているようだった。

光の剣を撃ち落としたリュウを憎々しげに眺めていた。


「皆さん、避難してください」


ヴィルヘルムの声が大きく響き、周りの人たちは戸惑いながらもこの場から離れようと逃げていった。

それを確認してから、槍のような杖をどこからともなく取り出し、リュウに向ける。


「おいおい、騒ぎを起こすなよ。俺はお前と戦うつもりはないんだぜ」

「このまま逃がすわけないだろ。『雷帝』」


巨大な太い雷が杖から放たれ、リュウに向かって落ちてきた。

すかさずリュウは懐から剣を抜き放ち、一太刀で雷を分断。

雷は消え失せた。


「この威力、速度、制御力。なかなかじゃのう。まだこんな人材がいたとは」


リュウの肩に乗ったワイスがのんびりとした口調で称賛していた。

よく振り落とされないなこいつ。

いや、よく見ると肩に乗ってるように見えて、近くに浮いてやがる。


「そうだな。俺が剣を抜くことになるとは」


リュウの剣は日本刀のような形状だが、刀身はダイヤモンドのようにきらびやかだ。

角度によっては無数の色に見える。


俺はリュウの後ろで戦況をただ見ているだけだが、加勢の必要はないだろう。

むしろ邪魔になりそうだから、とっとと逃げるとしよう。


「リュウさんあとはお任せします。近くの停留所にでも行ってます」

「おお、そうか。任せとけ」


俺はヴィルヘルムを警戒しつつもその場から離れようとした。


「逃げるなって言っただろ」


首元から大きな電流が流れ、俺はその場に突っ伏した。

なにこれ、ダサい。

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