03 聖剣を求めて
聞き込みをしてみたら、第五発電所の場所はすぐにわかった。
ここから4時間ほど馬や馬車を走らせれば着くらしい。
海岸沿いの切り立った崖にあるということだそうだ。
なぜそんなところに時になったので聞いてみたら、よくわからないが危ない方法で発電しているかららしい。
何人かに聞き取りをして、しっかりと場所が確定したところで馬車に乗り込んで出発した。
電車やバスのように定期便が出ていたのでそれに乗ることにした。
その馬車は異様に早かった。
馬の足も速いし、馬車の車輪の抵抗感も少ない。
元の世界の乗用車とさして変わりはないだろう。
乗り心地もよく、ご飯を食べたばかりということもありうとうとしてしまった。
気づいたときには目的の場所まで着いていた。
第五発電所からは少し遠い停車位置だったが、今の俺の足なら10分程度で到着する。
そんなに大きい道ではなかったので小走り程度で第五発電所に向かった。
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第五発電所。
そこはとても巨大な工場地帯だった。
何の設備かはわからないが、大きな建物が乱立していた。
空はすでに夕暮れ時だったが、暗くなるにはまだ少し時間がかかるだろう。
アダムはそこにいるやつを皆殺しにすればいいと言っていたが、俺はなるべくばれずにやり過ごしたいものだ。
侵入するのは夜になってからでいいだろう。
しかし、この規模の建物、警備体制もはたから見てわかるほど高い。
すべてを破壊して周るなどできそうもないが、誰にもきずかれずに盗みを働くのも不可能だろう。
ある程度は戦闘になることも覚悟しておく必要がありそうだ。
そういえば、アダムは4つの属性の魔法が使えるようになると言っていたような。
自分の力は確かめておいた方がいいな。
俺は人目につかなそうな海岸に移動した。
***
さて、4つの属性とは何があるのだろう。
とりあえずは火と水だろう。
これが入らない漫画やラノベは見たことがない。
まずは水っぽい魔法。
理想としては氷を操りたいな。
目の前は海岸だ。凍らせてみよう。
「アイスエイジ」
まあ、言いたくなったので言ってみた。
一瞬凍り付く音がしたかと思った瞬間、そこには氷の世界が広がっていた。
まさかここまでとは。
とりあえず見える範囲はすべて凍っていた。
「す、すげえ、、、」
しかし、なぜか俺は凍えてはいなかった。
そういえばやけに周囲があたたかい。
無意識に自分の魔法で温度調節をしたようだ。
この壮大な光景をもう少し見たいところだが、こんなに目立つことをして大騒ぎになったら大変だ。
今度は逆にこれを溶かしてみよう。
よし、次は火の魔法だ。
うーん。いい詠唱が思い浮かばないな。
そもそもでたらめだし、必要ないんだろうけど。
「ファイアー」
手元から途轍もない炎が出た。
いや、炎の形はあまり見えない。
熱線のようなものが放たれた。
海が割れた。
いや、正確には俺から一直線上に海が蒸発したのだ。
蒸発していないところも当然ながら氷は溶けていた。
海に現れた一直線に続く道。
モーゼの十戒のような光景だ。
団体さんが海を渡れそうだ。
だが、すぐに蒸発していない部分の水が侵食してきた。
当然大波が起こる。
どうにかしたいところではあるが、何かしても余計に悪化しそうだ。
ていうか、このままじゃ波に巻き込まれる。
急いでその場を後にした。
しかし、凄まじい能力だったな。
もう最強になった気分だが、そんなわけはない。
自分で津波を起こして、おぼれそうになったくらいだし。
それでもできることは多いだろう。
時間的にももう十分に暗くなり始めている。
俺は覚悟を決めて、第五発電所のある所に戻った。
***
俺は発電所の門からかなり離れた位置に陣取る。
目の前には侵入を防ぐための高い塀があった。
この世界で俺の身体能力は上がっている。
この程度なら余裕だ。
馬鹿正直に門から侵入することはあるまい。
しかし、ここからただこそこそ侵入しても見つかりそうだ。
だから入る前に攻撃開始だ。
「アイスエイジ」
まずは発電所を氷漬けにする。
先ほど海にやった時より念入りにだ。
ピンポイントに絞って凍らせたつもりだったが、やりすぎて発電所の周りにも冷気が立ち込めている。
通報されて警官隊でも来られたら大変だ。
急いで兵を飛び越えて侵入した。
中は驚くほど静かだった。
たまに氷漬けの人間を見かけるが、ピクリともしない。
こいつら死ぬのかな。
まあ、いまさら殺人罪でビビったりはしない。
かわいい子がいたら、それくらいは助けてやろう。
聖剣の場所に心当たりはないので、とりあえず見える限り一番大きな建物を目指して歩いていく。
その建物は巨大な研究施設といったところだろうか。
入り口を探すのも面倒なので、壁面を強引に炎で破壊して侵入した。
侵入した先は簡素な会議室だった。
特に何の変哲もないが、元の世界に戻ったかのような印象を受けるほど近代的だった。
この世界の文明度は思っているより高そうだ。
部屋を出たが無機質な廊下が広がっているだけだ。
いくつか部屋を見たが代り映えのしない部屋ばかりだった。
とても聖剣なんて代物が置いてあるとは思えない。
困ったな。
さすがにしらみつぶしとはいくまい。
勘を働かせなければいけないな。
さて、どこにあるか。映画とかで見た定番は地下だろう。
「よし、やるか。ファイア」
熱線が地価を貫く。
かなり下まで巨大な穴が開いた。
見たところ、やはり地下にもいくつかフロアがあるようだ。
氷を使って階段を作り、一番下の階まで行った。
ここは地下五階になるだろう。
すごいなここは。
映画でしか見ないような最新鋭の研究所だ。
頑丈そうな作りで、大きなガラスに囲われた部屋がいくつもあり、中にはすごそうな機材が並んでいる。
俺はその一室に強引に入り、中を物色した。
聖剣らしきものはないし、文字は読めるが内容はさっぱりだ。
ガンッ!
いきなり背中に大きな衝撃が来た。
そのまま壁にたたきつけられる。
振り返るとそこには足を突き出した一人の男がいた。
おそらくこいつにけられたのだろう。
そいつは手に警棒を持ちそのまま突っ込んできた。
こちらの反撃を警戒してか、左右に展開しながら迫ってくる。
確かに攻撃はあてずらそうだが、おかげでこちらも魔法を使うだけの余裕ができた。
ピイポイントで狙っても当てられないので、部屋全体を焼き尽くす。
「ぐあっ、、」
警棒を持った男はあまりの熱に動きが止まり、そのまま焼き尽くされた。
断末魔の声を上げたのも、本当に一瞬だった。
黒こげの死体が残っていたので、ピンポイントに熱を浴びせて消し炭にした。
危なかった。
最初の一撃が刺殺を狙っていたら死んでいたかもしれない。
追撃が一直線に向かってきていたら、殴り殺されたかもしれない。
俺は少し慎重に周りを警戒しながら、そのフロアを探索していった。
10分ほど歩いたら大きなと扉を見つけた。
まさに厳重といった頑丈そうな扉だった。
ここなら聖剣があってもおかしくない。
期待を胸に熱で扉を破壊した。
「おお!きっとあれだ!」
中には頑丈そうなガラス張りの入れ物に入った剣があった。
剣の周りは配線がいっぱいあり、まるで剣が重症患者のようであった。
俺はすぐに近づいて、ガラス張りを破壊して剣を取り出した。
両方に刃のついた白銀の剣。
あまり大きすぎず、俺でも振れそうだ。
まあ、こんなものを使うより魔法のがよっぽど使い勝手がいい。
上着を一枚脱いで、それを使い聖剣を背中に括りつけた。
不格好だが、まあ別にいいだろう。
剣を手に入れたので、さっさと退散だ。
天井に熱線で穴をあける。
上るのがめんどくさいな。
何か手段はないものか。
上に昇っていく魔法か。
そうだ、あれだ。
地面に向かって魔性を発動。
俺の想像した通り、俺を乗せた地面がせりあがる。
俺は魔法を発動し続け、地上まで来ることができた。
やったぜ。
どうやら俺は土魔法も使えるらしい。
後は風魔法かな。
それを試すのは今度にしよう。
地上はちょうど屋外になっていた。
どちらに行けばいいかわからないが、とにかくこの発電所から離れよう。
俺は方向を定めて駆け出した。
邪魔なものは火の魔法で排除しながら、とにかくまっすぐ進んでいった。