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ハバネロ砂漠

作者: ぺんぺん草

2017年春。突如発生した天変地異により、日本の大半が砂漠に没した。今や全国が鳥取砂丘状態である。しかし一番不可解なのは砂漠を構成する赤い砂であった。研究者が調べたところ、これがハバネロの粉末であるという。


挿絵(By みてみん)


どういうことだ。

ハバネロの粉末て。花崗岩じゃあるまいし、そんなもん地球上に自然に存在しててたまるか。となるとこれは神のイタズラなのか。神は日本人になんの恨みがあるのだ。



あまりに理不尽な話すぎる神の所業に皆が涙を流した。こんなの嘘だ。砂がハバネロだなんて嘘だ。だが一粒口に入れてみれば、紛れもない真実。誰しも悶絶しながらも「これハバネロだ……」と納得せざるをえなかった。



例によってネットでは陰謀論が流れる。中には「メキシコ政府の陰謀だ」という斬新な説も展開されたが信憑性は低い。他にも様々な陰謀論が流れたが、これ以上は政治的にアンタッチャブルな話題なので差し控えたい。


とにかく。日本の大地を覆うハバネロ層の厚さは今や平均8メートルに達している。お蔭で、青いお空はまっかっか。琵琶湖は死の激辛湖へと変貌し、そして人々は辛さで悶絶する。我々はハバネロに埋もれて死ぬしかないのか。悲惨過ぎる。そんなの嫌だ。



そんなある日、怪しげな噂が人々の間に流れた。


「富士の山頂にハバネロの神がいる。もしも彼を倒せたなら、日本を覆うハバネロの砂は全て消え失せ、我が国は救われるであろう……」と。


おいおい。ハバネロの神ってなんだ。現実を直視せよ。現実逃避のあまりRPGごっこか?アホなのか?……と思う方も読者の方も多いだろう。私もそう思った。しかしハバネロの神は存在したのだ。アメリカ軍から提供された「人工衛星より撮影した超高解像度画像」がその証拠である。その画像の中で、「ハバネロの神」と書かれた鉢巻を巻いたオッサンが富士山頂に居座っている姿が確認されたのだから、もう間違いない。コイツが戦犯である。


「だからどうした。オッサンが富士山頂にいるだけだろ……」とは皆思わない。何しろハバネロ地獄はもうたくさんである。オッサン倒して救われるならそれに越したことはない。




「ハバネロの神を倒すべし!立ち上がれ若き勇者達よ!」



日本世論は湧きかえった。




さて。ここでハバネロの神の容姿について説明したい。アメリカ軍からの情報は極秘である故に正確な画像は出回ってはいないのであるが、噂によると貧相な顔つきをしている年齢不詳なオッサンらしい。服装はバカボンのパパに酷似していると言われている。まったくありがたさの欠片もない神である。こんな神なら倒すのも容易いであろう。



しかしながらハバネロに覆われた富士は魔界である。容易に人を寄せ付けない。日本中の勇者達がハバネロの神を倒すべく富士登山を開始したのだが、誰も高度3000メートルまで到達できなかった。ハバネロ防護服を着用しながら富士の頂きを目指すのは至難の業であるがゆえに。


自衛隊がヘリコプターを使って上空より山頂を目指すも、強烈な風によって近づけなかったという。人々は「ハバネロ神の祟り」と恐れた。



ここで私である。大学の山岳部に所属していたこの私。しかも激辛料理に非常に強いタイプである。「前世はインド人」と噂されしこの私こそが、ハバネロの神の打倒にもっとも近い男だったのだ。


私は英雄となるべく、フル装備で富士登山を開始することにした。とはいえ風に舞う砂(ハバネロ粉末)は凶器である。少しでも目・鼻・喉に入れば大惨事である。割愛するが、筆舌に尽くしがたい苦労の果てに、ついに富士山頂に到達したとだけ述べておこう。神社の鳥居の下に寝ころんでいたハバネロの神は、私の存在に気づくと腹巻をポンポンと叩きながら、起き上る。



「ほう。この聖域まで到達できる人間がいたか」


ハバネロの神は噂通り貧相なオッサンの姿をしていた。いや噂以上に貧相であった。だがその口調には威厳が感じられる。私は勇気を出して要件を述べた。



「やいこの迷惑神。ハバネロは迷惑だ。邪魔だから片付けろ」



するとハバネロの神は欠伸しながら私に返答する。



「構わないが条件が1つある」


「なんだ!」


「私は暇だ。暇で暇で仕方がない。ここに将棋盤がある。お前が私に将棋で勝てれば願いをかなえてやろう」



「よし。受けて立とう。貴方が飛車角落ちにしてくれるならな!」




ハバネロ塗れの富士山頂で、私はハバネロの神と激闘を繰り広げた。飛車角落ちというハンデしか要求しなかったことを後悔するぐらい私は将棋は弱かった。そして富士山頂の薄い空気は、もとより停滞気味な私の脳活動をさらに停滞させた。しかしながら途中で待った!を連発してどうにかこうにかハバネロの神に勝利することができたのであった。私の活躍によって日本は救われたのだ。




「よかろう。ハバネロ消えろ!」



ハバネロの神がひと声かけると、大地を覆っていた赤い砂漠は消え失せる。同時に赤く澱んだ空気も消えた。平和は戻ったのである。綺麗な青空に見とれている私が振り返ると、もうハバネロの神の姿はなかった。



こうして私は日本を救った英雄になり、凱旋パレードまで開かれ、美女達の話題の的となる・・・・・・・はずだったのだが。予定は大幅に狂った。


次の日には日本は茶色い砂漠で覆われてしまったからだ。砂の組成はカレー粉であるという。カレー粉の神が室戸岬に陣取ってるらしい。カレー粉の神はチェスの対戦相手を探してるようだが、あいにく私はチェスを知らないのでパスしてる。

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