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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 1 少年たち
9/124

Chapter 1-7 2人の少年

 先生に叱られたあと、数馬と佐ノ介は1階の廊下を歩いていた。

 すると、視界の右側にあった保健室から女子生徒が2人出てきた。2人とも同じクラスの人間である。

「げっ、数馬と佐ノ介…」

 そう言ったのは2人の少女のうちの1人、池田いけだ良子りょうこである。彼女はすぐに状況を察した。

「あぁ、さっき先生に呼ばれてたもんね。また怒られたんだ、そうなんだ、大上先生不機嫌だろうね、宿題増えるね、八つ当たりされるね、そうやってまたみんな私に宿題押し付けて私の成績下がるんだよねわかってる」

「面白いわね、良子。なんも言ってないけどね、数馬達は」

 良子の隣に立っていたもう1人の女子、前田まえだ理沙りさが鋭く皮肉る。しかし良子の被害妄想は終わることを知らず、延々と続いていく。無視して数馬達は理沙に話しかけた。

「何してんだ?もしかしてあんたも先生に怒られてた?」

 数馬の軽口を理沙は鼻で笑って流す。

「保健委員のお仕事。一緒にしないで、あんたらと」

 理沙の言葉は鋭い。思わず数馬は笑うことしか出来なかった。

 そのまま数馬達と理沙達が合流して階段に差し掛かると、正面に4人組がいた。男が3人に女が1人。数馬はすぐに挨拶した。

「ぃようトッシー。おはようさん」

数馬達と合流したのは魅神みかみ暁広としひろとその友人達だった。暁広は明るく応じた。

「おはよう数馬。先生に呼ばれてたみたいだから何人かで様子見に来たぞ」

「とてもお見せできるようなもんじゃござんせんで。もう終わったし」

 数馬も笑って答える。そのまま8人になった集団は階段を登り始めた。

「なんで呼ばれてたんだ?」

「いつも通りさ、悪党殴ってこのザマ」

 数馬は自嘲的に言う。一方の利広は真面目そうな顔をしていた。

「ひどいな…正しいことをしているのにそれが認められないなんて。ちゃんと認められる世界になりゃいいのにな」

「まぁ1人でもそうやって認めてくれりゃそれでいいさ」

 暁広の言葉に数馬は軽く言う。2人は小さく笑い合った。

 暁広にとっては数馬が笑っていられるのが少し不思議だった。自分自身ならば正しいことをしたのに批判を受けたならばもっと怒っているだろう。佐ノ介もやはり不思議な存在だった。彼は普段から皮肉しか言わないのに、どこか目が優しく、そして不屈さをたたえている。この2人は、暁広にとって異質な存在だった。

「全く、なんでトッシーは重村や安藤みたいなクズとつるんでるんだろうな」

 集団の後ろの方で洗柿あらいがき圭輝たまき原田はらだあかねに言った。彼は数馬と佐ノ介のことをひどく毛嫌いしていた。

「そんな言い方しないでもいいじゃない」

「でもあんたも気にならないのか?あんなのとトッシーが話してて腹が立たないか?」

「トッシーはどんな人だって仲間だって思ってる。トッシーの仲間ならそれでいいの」

 茜は圭輝に対して言い切る。しかし茜も圭輝の言わんとするところはどことなくわかっていた。数馬と佐ノ介はやはり何か変である。それでも茜は暁広が仲間と信じる相手である以上信じることにしていた。


 6年3組の教室に戻ると、クラスメイトのほとんど全員が揃っていた。

 さっそく教室に入ると利広に女子生徒の1人、細田蒼が挨拶をしていた。

「おはよ!」

「おはよう!」

「うん、やっぱトッシーの挨拶はいいね!ね、玲子!」

 蒼が隣に座っていた女子である星野玲子に突如話題を振る。玲子は困惑して言葉が出てきていなかった。

「え、あ、うん、まぁ…」

「玲子、髪型変えた?」

 しどろもどろになっている玲子に対して暁広が尋ねる。玲子は少し嬉しそうな声色になっていた。

「え、わかった?」

「うん、似合ってる」

「あ、ありがとう…」

 玲子が照れ臭そうに言うと、暁広も屈託のない笑顔を浮かべた。玲子はこれに弱く、これを見せられるとつい頬が緩んでしまうのだった。

「あ、あのさトッシー…」

「あ、茜!」

 玲子が蚊の鳴くような声で言ったのが聞こえなかったのか、暁広は茜の席の隣に歩いていく。玲子は少しうつむいて黙り込んでいた。

「んなさりげなさすぎるアピールじゃ振り向いてもらえないよ」

 クラス1の恋愛通の美咲が玲子の後ろでそう言って笑う。玲子はあえて美咲に背中を向けたまま咳払いをするだけだった。

「あ、ほら、トッシーが茜になんかするみたい」

美咲が玲子に聞こえよがしに呟く。玲子は慌てて暁広の方を見た。

「忘れてたよ茜、はいクリスマスプレゼント。開けてみてよ」

 暁広はそう言ってピンク色の紙袋に包まれた何かを手渡す。茜が嬉しそうに眉を上げてからそれを受け取ると、丁寧にセロハンテープを剥がしていく。

 中から現れたのは黒と緑の暖かそうな手袋だった。

「トッシー、これって…」

「前デパート行った時に欲しがってたじゃん?」

「うん!覚えててくれてありがとう!大切に使うね!」

 暁広と茜が笑顔でやりとりする。玲子はその様子を黙って見ていた。

「あちゃー、こりゃ完全敗北ね」

 美咲が玲子の後ろで玲子の心情を実況する。玲子はやはり黙りこむだけだった。

 玲子が気を抜いてると暁広が玲子の方へ歩いてきた。玲子は淡い期待と純情を胸に彼に視線を送った。

(あっ…)

 しかし玲子は左側を歩いていく暁広に視線を送るだけになった。暁広はそのまま数馬達がたむろしているところにやってきた。

(ホントなんで数馬なんかと!)

 玲子のそんな思いが届くはずもなく、暁広は数馬に話しかけていた。

「よ、今いいか?」

「モテ男君こそ女の子達の相手はいいのかい?」

「うるせー。みんな明日空いてるか?」

「俺は空いてるよ。竜雄と佐ノと泰さんは?」

 数馬が3人に尋ねると、佐ノ介、泰平、竜雄の順で答えた。

「空いてる」

「同じく」

「2時半からなら」

 3人の返事を聞くと、暁広はうなずいた。

明日天見山あまみやまで基地作ろうぜ」

「あぁ、場所は決めといたよ」

「じゃあ1時な。浩助も来る」

 短く暁広と数馬達がやり取りを済ませると、暁広は茜の隣である自分の席に戻っていった。

 暁広はすぐにランドセルの中から実験レポートを取り出す。

「茜さん、頼んます!」

「いいよお」

 暁広に頭を下げられると、茜は嬉しそうに実験レポートを差し出すのだった。


 8:30になると、始業のチャイムが鳴り、大上先生が不機嫌そうに教室に入ってくる。不機嫌さそのままに出席を取り始める。

「…2人いないけど」

 大上先生が呟くと同時に教室の扉が乱雑に開く。大柄な男子の宮本みやもとりゅうと小柄な男子の吉村よしむらただしがそこに現れた。

「セーフ!」

 正が叫ぶがクラスメイト達は一斉に腕をバツの字に組んで意思表示をした。アウトである。

「何で遅れたの?」

「『道が混んでた』」

 竜が答える。大上先生はそれを軽く流すと、竜と正を座らせた。

「これから終業式です。みんな整列して体育館に行きますよ」

 大上先生の言葉を聞くと、生徒たちは席から立ち上がり、廊下に背の順で並び始めた。


 体育館は寒かったが、話をするのが伊東校長先生1人だったため、短く終わりそうだった。

「おはようございますみなさん!寒いから短く終わらせましょう。

 明日からみなさんが待ちに待った冬休みです!風邪を引いたり、事件や事故に巻き込まれたりしないようにしましょうね!また、万が一のことがあったときの避難場所などは、帰った後に家族と確認しておきましょう!以上で話を終わります!」

 伊東校長先生は話を終えると、生徒たちから拍手を受けながら体育館の舞台から降りた。


9:00

 終業式が終わると生徒達は教室に戻ってきた。

「はーい理科のレポート集めるよ!」

 教室に戻るなりすぐさま蒼が声を張る。生徒達はすぐにレポートを引っ張り出すと、蒼に手渡していく。

 暁広も茜と一緒にレポートを手渡しながら雑談を交わしていた。

「ホント茜助かったよ」

「トッシー勉強苦手だもんね」

「まぁね。あ、そうだ、茜は明日空いてる?」

「ごめん、明日は女子全員で集まってクリスマスパーティーするんだ」

「そっか。楽しんできなよ」

 2人が談笑しながら席に着くと、大上先生が教室に入ってくる。眉間のシワが減り、これで大丈夫だろうと暁広が油断した時だった。

「成績表を渡します!」

 暁広は恐怖で開いた口が塞がらなくなった。



12:00

 暁広は大掃除を終えると家に帰ってきていた。

「ただいま!」

 暁広が叫ぶと家の奥の方から、彼の母の「おかえり!」という声がする。

 暁広は雑にランドセルを部屋に放り投げると、リビングで掃除している母親のところまで歩いた。

「母さん、例えば地震とか起きた時って、うちはどこに逃げることになってるの?」

 母親は急に尋ねられて首をかしげた。

「なぁに?急にそんなこと聞いて?」

「いや、学校で校長先生がさ、非常時の避難先を家族で確認しときましょうって」

「ああ、そういうこと。うちは七本松小だね。何かあったら、仲間や他の人達と協力しなきゃダメよ?」

 母親が優しく言う。暁広も満足そうにうなずいた。

「わかってるよ」

「非常時の時ほど助け合いを忘れちゃダメよ?お兄ちゃん達ともね」

 暁広には中学生と高校生の兄が1人ずつ居た。喧嘩してばかりだが、暁広はその兄達を根っこから嫌っているわけではなかった。

「とにかく大事なのは協力よ。忘れないようにしなさいね」

「当たり前だね」

 暁広はそう言って笑うとその場を立ち去る。

「あ!トシ!通知表は!?」



19:00

 数馬も夕食を食べながら父に同じ質問をしていた。

「非常時の避難場所か。本当は良くないが、我が家では決めない」

「なぜですか」

「非常時は臨機応変な対応が求められることが多い。そこで避難場所での合流を優先した場合、死ぬこともある」

 数馬の父義和は冷静に語っていた。

「我が家の方針は『各自生き残れ』だ。同じ場にいたなら協力し、できなければ各自自己判断で最善を尽くす。他人を頼りにしすぎるなよ」

「肝に銘じます」

 義和の真面目な声に数馬は気を引き締めてうなずいた。

最後までご高覧いただきましてありがとうございます

ついにこの作品で主軸を担う28人の少年少女が出揃いました。そしてこの作品で大きく物語を動かしていく2人、暁広と数馬、この2人がひとところに集まりました。

彼らが何を思い、どう生きていくのか、今後の展開をお楽しみください

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