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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 6 The Magic Order
81/124

Chapter 6-7 虚(うつろ)の城

19:30

 武田はカーナビを見ながら車を走らせる。そこには赤い点で子供たちの居場所が記されていた。

「もうじき着くぞ。佐藤、幸長は正面から、翁長、望月は他の入口を探せ」

「了解」

 武田は後部座席で武装を整える4人に言う。

「武田、俺は?」

 そう尋ねたのは助手席にひょっこり座っていた波多野だった。

「波多野さんは待機で」

「つまんねぇなぁ」

 武田が少し呆れたように指示を出すと、波多野は助手席で足を組んだ。

「だいたいなんで波多野さんがいるんです、武田さん?」

「いやぁ、お茶しようと思って来たら急にこれよ」

 幸長の質問に波多野が答える。

「それは知ってます。なんで付いてきたんです」

「ガキども助けるんだろ?俺はアイツらに借りがある。ここで返さなきゃ男じゃねぇ」

 佐藤の質問に、波多野は答える。武田は波多野の言葉に、目を細めた。

「波多野さん、命令を変更します。佐藤、幸長、そして私と共に正面から突入してください」

「よし来た」


「着くぞ」

 武田はそう言ってハンドルを切る。そのままそこに車を停めると、車を降りて彼らがいるはずの建物の前に立った。

「いつの間にこんなビルが建っているなんて」

「カーナビには反映されていなかった。この建物、何かあるぞ。注意しろ」

 佐藤の呟きに、武田が全員に声をかける。波多野も懐からドスを抜き、刃を軽く拭いた。

「突入する」

 幸長はそう言ってアサルトライフル(89式小銃)を構えながら目の前に見える入り口に歩き寄る。その間に望月と翁長は違う入口を探しにその場を去った。

 佐藤、武田、波多野も幸長の後ろを歩く。

 幸長は入口のドアノブに手を掛けるが、ドアノブは回らなかった。

「下がって」

 幸長は短く後ろの3人に言うと、腰のポーチから爆薬を手に取る。素早くドアノブ付近にふたつそれを付けると、ボタンを押して小さく爆発を起こし、鍵穴を吹き飛ばした。

 そのまま幸長はドア本体を蹴り飛ばす。左右に銃を向け、敵がいないかを確認する。

 それの答え合わせのように幸長の左側から銃撃が飛んで来た。

 幸長は咄嗟にそこから出ると、壁に張り付いた。

「何人だ」

 武田の質問に、幸長は淡々と答える。

「最低3人、多くて5人」

「数はほぼ互角だ。突っ込むか?」

 波多野の言葉に幸長は腰からひとつスタングレネードを取り出しながら答える。

「こいつを投げてから、ですね」

 幸長はそう言ってグレネードのピンを抜くと、敵のいる方向に向けて投げる。

 グレネードが強烈な音を立てると同時に、幸長は再び中に突入する。

 しかし先ほどまでと変わらず銃撃が飛んで来た。

 幸長はすぐに身を隠す。

「位置が悪かったか?」

「いや、敵は炸裂中も銃撃してた。そもそも効果がないんでしょうね」

 幸長に対して佐藤が答える。それを聞いて波多野は仮説を立てた。

「撃ってきたのは本当に人間か?銃撃だけならドローンや機械で十分だろう?」

「…可能性はありますね。佐藤、車から発煙筒とチャフを」

 波多野の仮説を聞いて武田は佐藤に指示を出す。佐藤はすぐに走り出した。

「何するんだい?」

「敵が機械だと仮定し、発煙筒でセンサーを潰し、チャフで撹乱。その後突入し、動力源を止めます」

 波多野が武田に質問し、武田が答えているうちに佐藤が車から戻ってきた。

「お待たせしました」

 佐藤の姿を見て、武田は冷静に指示を出す。

「よし、佐藤、合図したら投げろ。その後、折を見て全員で突入」

「よし来た」

 武田の指示に、波多野が威勢よく答える。佐藤はチャフグレネードのピンを抜き、いつでも発煙筒に火をつけられるようにしていた。

「佐藤、今だ」

 武田の指示と同時に、佐藤がまず発煙筒を投げ込む。中が明るくなったのと同時に、佐藤はチャフグレネードを投げつける。金属片が室内全体に舞い始めた。

 精密に一定間隔で行われていた銃撃が乱れ始める。ほとんど一点に飛んでいた銃弾も、着弾先が散り始めた。

「突入」

 武田の低い声の号令が辺りに響く。

 姿勢を低くした幸長と波多野が先頭を走り出すと、敵の姿を捉えた。数は4人。見たことのないライフルを持っているが、その場にほとんど固まっている。

「先行け!俺が片付ける!」

 そう叫んだのは波多野だった。走る足をさらに速めて、その通路の突き当たりにいる人影に近づいていく。

 波多野が近づいてきたのを見て、敵は発砲をやめて銃を振り上げる。

 だが波多野の方が速かった。

「もらった!」

 目にも止まらぬ速さでその敵の脇腹を切り抜ける。勢いそのまま残りの3人にも跳び寄ってドスを振るった。

 その間に武田たち3人は先に進む。すぐそこにあった先に進む扉を開けると、幸長が部屋を見回す。

「クリア!」

「波多野さん早く!」

 武田が自分たちの後ろで戦う波多野に声を掛ける。だが、波多野は敵に囲まれ、それを上手くかわしながら戦っていた。

「ああ!わかっちゃ!いるんだが!こいつら!いくら斬っても!死なねぇ!」

 波多野は武田に答える。その間にも、波多野は素早い動きで敵の殴打を全てかわしつつドスでその脇腹を切り抜けていた。

 武田は不審に思うと、持っていた拳銃を敵の1人の後頭部に向け、引き金を引く。

 真っ直ぐ飛んだ銃弾は、敵の後頭部に命中せず、命中するはずのその一瞬だけ敵が透けた。

「なんだこりゃ?」

 目の前で見ていた波多野は思わず攻撃を避けながら呟く。

 武田は瞬時に敵の正体を理解した。

「これは映像です、立体映像です!」

「だからいくら斬っても死なねぇわけだ!だが!こいつら銃弾は実物だぞ!どうなってんだ!?」

「原理はわかりませんが、映像なら電源があるはず!幸長、佐藤、探せ!」

 武田はすぐに指示を出す。幸長と佐藤が部屋を調べ始めると、武田も部屋に入ろうとした。

「おぉい武田!俺はどうすりゃいい!?」

 波多野が立ち去ろうとする武田に尋ねる。武田は部屋から頭だけ出して波多野に答えた。

「そこでしばらく生き延びてください」

「無茶言いやがって!」

 波多野の悪態を聞かず、武田は電源を探しに部屋に入った。

 部屋は質素だった。何も置かれていない机といくつかの椅子や、奥に棚があり、その隣に先に進むための扉があるだけだった。

「幸長、扉。佐藤は机、私は棚だ」

「了解」

 武田の指示を受けて、幸長は奥に進む扉に駆け寄り、銃を構えながら扉を開ける。

 扉を開けた数メートル先にいたのは、ライフルを向けている敵の群れだった。

「!」

 幸長はすぐに扉を閉める。同時に敵の銃撃が、金属の扉を撃ち続ける音が聞こえた。

「失礼!」

 幸長は咄嗟に機転を利かせ、隣にあった棚を扉の前に倒す。それによって扉が簡単には開かないようにした。

 同時に、棚のあった床部分に、金属製の床ハッチが現れた。

「よくやった幸長」

 武田はそう言うと、拳銃を懐に仕舞い、しゃがみこんで床ハッチを開く。

「…なんだ、これは…?」

 床ハッチを開いた先にあったのは、見たこともないタッチパネルだった。既存のパソコンやタブレットの画面とは、表示のされ方、ユーザーインターフェイスが全く異なるものだった。

「おーい!武田ぁ!まだかぁ!」

 波多野の悲鳴にも似た叫び声が聞こえてくる。武田はすぐに答えた。

「あと少しです!」

「なるはやで頼むぞ!」

 波多野の言葉を聞き流しながら、武田は目の前のタッチパネルと格闘し始めた。

「…ちっ、吉村君や宮本君なら速かったんだろうな…」

 武田はそう愚痴をこぼしながら慣れないキーボードではない操作と格闘する。

 その一方で、波多野も息を切らしながら敵の攻撃をかわし続けていた。

「はぁ…はぁ…オメェら…いいよな…息切れしなくてよ…」

 波多野は軽口を無視して殴りかかってくる敵の攻撃をかわす。

 しかし次に襲いかかってきた敵の攻撃は避けられず、受け止める形になった。

「武田ぁああ!急いでくれ!もう保たんぞ!」

「今やってます!」

 武田はようやくタッチパネルを操作し、それらしきものを見つけた。

「Emergency Security Program…これか…!」

 武田は一か八かそう表示されているところをOffに切り替えた。

「どうだ」

 武田は思わず声を出す。

「うぉお…こいつらいい加減に…」

 波多野は敵に首を締め上げられ、高く持ち上げられていた。

 しかし、次の瞬間敵は消え、波多野は重力に従って床に落ちた。

「あ痛」

 波多野は小さく声を上げると、軽く叩きつけられた自分の腹をさする。

「波多野さん!無事ですね」

 佐藤が一瞬で波多野の様子を確認する。

 波多野は立ち上がりながら小走りで佐藤たちと合流した。

「ったく、ひでぇ扱いしやがる」

 武田のいる部屋に入るなり、波多野は武田に愚痴をこぼす。

「申し訳ない。あなたなら余裕だと思ったので」

 一方の武田は半ば笑っているような表情で言葉を返した。波多野はそれを鼻で笑い飛ばすだけだった。

 その間に幸長が棚を扉の前からどかす。先ほどまで扉を叩いていた銃撃の音は、武田が電源を切ったのと同時に聞こえなくなっていた。

「先に進めます」

「ご苦労」

 幸長からの報告を受け、改めて武田は銃を構え、佐藤と波多野もそれと共に武器を構えた。

「行きます」

 幸長はそう言って扉を開けながら銃を構え、周囲を見回す。

 先ほどまでいたはずの敵の群れは、やはりいなくなっていた。それでも一切油断せず、幸長は銃を構えながら薄暗い通路を進んでいく。


 通路は短く、少し進んだ突き当たりの角に、再び扉があった。


 幸長と佐藤が扉の両脇に張り付き、お互いにタイミングを計ると、扉を蹴破りながら部屋の中に突入する。

 中には、何かの機械を脇に抱えている白いスーツのイギリス人、子供たちを誘拐した本人であるクライエントがいた。

「動くな!」

 幸長と佐藤が銃を構えながら叫ぶ。クライエントはその声に振り向くと、右手に隠し持っていた銃らしきものを幸長に向け、引き金を引いた。

 クライエントの銃口から真っ直ぐオレンジ色の光線が放たれる。幸長が咄嗟に飛び退きそれをかわすと、幸長の背後の壁から火花が舞った。

 クライエントは同時に、波多野が駆け寄ってきているのに気づいた。

 すぐさまクライエントが銃を向けるが、それよりも速く波多野のドスはクライエントの首元に迫っていた。

 クライエントはすぐさま銃で波多野の刃を受け止める。そのまま2人は鍔迫り合いのような形になりながら睨み合っていた。

「…素早いな…あと少しで死ぬところだった」

「ハッ、手ェ抜いてやったんだよ」

 クライエントの言葉に、波多野は短く返す。そのまま波多野はドスをさらにクライエントの首元へ光線銃ごと押し込みながらクライエントに尋ねる。

「テメェ、ナニモンだ?なんでガキどもをさらった?」

「教える理由はない」

 クライエントはそう言ってひと息に波多野のドスを弾き返し、波多野へ光線銃を発砲する。しかし波多野はそれをどうにか避ける。

 クライエントはそのまま光線銃を乱射しながら部屋の奥の扉へ走る。武田たちもそれには物陰に隠れるしかできなかった。

「待て!」

 武田は拳銃をクライエントに向けて発砲する。しかしクライエントにそれが当たることもなく、クライエントは扉を閉め、鍵を掛けた。


 4人はすぐに扉の前に集まる。扉を叩いたりドアノブを回したりするが、扉は少しも開きそうになかった。

「ちくしょうめ、なんだあいつ」

 波多野はドスの柄を扉に叩きつける。

 その一方で、武田は部屋全体を見回していた。

「…妙だな」

「どうしました?」

「人を殺せるだけの光線なら、壁に痕が残っていてもいい。だがあれだけ乱射しておきながら、ひとつも痕跡がない」

 武田は光線が当たったはずの壁を眺めながら呟く。確かに武田の言う通り、壁には火花が舞ったにも関わらず、何の痕も残っていなかった。

「つまりどういうことだ、武田?」

「これは仮説ですが、警備の人間が映像だったことも考えると、そもそもこの部屋自体映像なのかもしれません」

 武田の仮説に、幸長が首を傾げた。

「しかし、これらの壁は実際に触れます。触れる映像など、聞いたことがありません」

「携行できる光線銃もね」

 佐藤も幸長に賛同するように呟く。それらの疑問を解決するかのように、波多野は言葉を発した。

「奴らとんでもない技術力の持ち主かもしれねぇぞ。にわかには信じられないが、もしかしたら未来から来た、だとか」

「…さすがにそれは飛躍しすぎかもしれませんが、相手の技術力に関しては同意です」

 波多野と武田の意見が一致する。

「幸長、佐藤。君たちはこの扉の爆破に取り掛かってくれ。私と波多野さんはこれが映像と仮定して動力源を探す」

「了解」

 武田たちは二手に分かれて行動し始める。幸長と佐藤は爆薬を取りに車へ戻り、武田と波多野はその部屋の中に何かしらの動力源がないかを探し始めた。


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

武田と波多野も動き出し、子供たちを助けに動き出しました。彼らは子供たちを救い出せるのでしょうか

次回もお楽しみください

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