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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 6 The Magic Order
80/124

Chapter 6-6 The Magic Order

<注意>

今回、物語根幹に大きく関わるシーンを含みます

また、過去のシーンとも関連する部分もあるので、まだこの話より前の話を読んでいない方はひと通り読んでいただけるとここから先もお楽しみいただけると思います

「どうか、君たちに、世界を救ってほしい」


 突如として誘拐された子供たち。そんな彼らに、誘拐した主犯であるクライエントはモニター越しに真っ直ぐ伝えた。


「…何を言ってるんだ?こいつ」

 暁広の隣に座る圭輝は、目の前のモニターで語られることを理解できずにいた。

「誘拐しておいて都合いいこと抜かすな、とっととみんなを家に帰せ!」

 暁広がモニターに映るクライエントに向かって叫ぶ。

 クライエントは目を少し動かしてから答えた。

「今の声は、魅神暁広か」

「暁広、盗聴されてるぞ」

 クライエントの言葉にすぐに反応した星が暁広に忠告する。暁広も思わず息を飲んだ。

「暁広、いや、君だけじゃない。みんな私に対して同じ思いを抱えていると思う。だが、私の話を聞いてくれ」

「どの道聞かされるんだ、さっさとしてくれ」

 モニターから、佐ノ介の声が聞こえてくる。クライエントは眉を上げてからそれに答えた。

「仰せのままに」

 クライエントが言うと、モニターに映る画面が切り替わる。


 映し出されたのは、赤く煤やけ、多くの金属の残骸が散る大地だった。

 子供たちはそれぞれの部屋で目の前のモニターに映る景色を見ていた。

「これは…どこだ…?」

 暁広が呟く。しかし子供たちは誰一人として答えられない。そんな彼らを見て、モニターからクライエントの答えが聞こえてきた。

「ここが私たちの住む世界。西暦3015年の地球だ」

 クライエントは平然と言ったが、子供たちにはにわかに信じられないことだった。

「3015年…今から約1000年後の未来から来たのか?」

 星がクライエントに尋ねる。

「その通りだ。今君たちの住んでいる2014年の世界は、私たちにとっては太古の時代だ」

「頭おかしいんじゃねぇのか?」

 クライエントの信じがたい言葉に、圭輝が毒づく。

「そう思うのも仕方ないだろう。だが、これは事実だ。その証拠は、ここに連れて来られた数名にはよくわかるだろう。野村駿、君たちだ」

 突如名前を出された駿は少し身じろぐ。そして彼は周囲のメンバーたちを見回してから呟いた。

「確かに俺たちは妙な光線を浴びせられて、消滅したはず…だが全員なんの怪我もなく生きている…」

「そう、それが君たちにとって未来の技術、『原子保存装置』だ。光線を当てたものを原子レベルに一度分解し、電子化して保存。任意のタイミングでもう一度元の形に戻せるという技術だ。未来ではこれを応用し、必要なものを原子化して持ち運ぶことで、実際に持ち運ぶものは非常に軽くなっている」

「スター・トレックの転送みたいな原理ね」

 未来のことを語るクライエントに、蒼が呟く。そのまま蒼は持論を語った。

「大量の紙媒体が電子化で物理的にポケットに収まるほどに小さくなったことを考えれば、1000年後にはそもそも物質自体そういう風にできているのかも。今で言う、画像をデータ化してプリントアウトするみたいに」

「じゃあ1000年後にはタイムマシンもあるのか?」

 少し呆れたように暁広がクライエントに尋ねる。

 クライエントは静かに答えた。

「残念ながらタイムマシンの製作は国際法で禁じられている。だからタイムマシンは作っていない」

「こっちの法律は守らないくせによく言いやがる」

「待て、じゃあどうやってこの時代にやってきたんだ?」

 クライエントの言葉に、遼が毒づくと、駿が疑問を口にする。

 クライエントはモニターにこそ映らないが、一人静かに口角を上げて答えた。


「偉大なる力…魔法だよ」


 クライエントは至って真剣に語った。

 だからこそ、子供たちは言葉を失った。

「魔法?そんなものあるわけないじゃないの」

 美咲がクライエントを小馬鹿にするように言う。

 しかしクライエントは冷静に言葉を返した。

「『君たちが元々住んでいた世界』ではそうだろうな。だが『こちら』は違う」

「どういうことだ」

 暁広はクライエントに食ってかかる。暁広は自分でも理由のわからない恐怖で背筋が震えていることに気がついた。それは暁広だけではなかった。

 クライエントはその様子を見て、得意げな顔をして語り始めた。


「単刀直入に言おう。私たちが君たちを『魔法のない世界』から『魔法のある世界』へ引きずりこんだ」


 クライエントの言葉に、子供たちは衝撃を隠せなかった。

「いつ、俺たちを」

 暁広は衝撃を隠せない様子で尋ねる。クライエントは平然とした様子で答えた。

「君たちが電車で逃げた時だよ」

 クライエントの言葉で、暁広は全てを理解した。

「トンネルに入った時のあの妙な景色…!お前たちの仕業だったのか…!」

「そう。あの瞬間、君たちはこの世界にやってきた。この私の『世界線と時間を移動する能力』を使ってね」

 クライエントが言うと、彼の隣にいたスパイダーがくたびれたように声を発した。

「ったく、今日までホント大変だったぜ。お前らみたいな雑魚をどうにか生かしてやるのはよ」

 スパイダーの言葉に、暁広が食ってかかった。

「生かしてやるだと?ふざけるな、俺たちはみんなで協力して自分たちの力で湘堂を脱出し、ヤタガラスを倒し、火野も船広も倒してきた!」

「それがおかしいとは思わなかったのか?」

 暁広の言葉に、スパイダーは冷静に答える。スパイダーの言葉に、暁広は返すことができなかった。

「お前たちはただの小学生、確かに銃は少し扱えたかもしれない。だがそう簡単に急所に銃撃を当てられるか?そう簡単に窮地から脱出できるか?なんで銃弾がお前たちに当たらなかった?」

 スパイダーはニヤリとすると、子供たちに絶望を与えるつもりで言い放った。

「教えてやろう。俺たちがそういうふうに細工してやったんだよ。俺の能力は『原子を操る』こと。それを利用して、お前たちに弾が当たらないように軌道をずらしたり、逆にお前たちの弾が当たるように軌道をいじったり。挙句はアイテムを授けてやったりもしたなぁ?」

 スパイダーの言い草に、数馬は目を見開いた。

「体育館の時のスタングレード…!」

「わかったみたいだな。最初からお前たちは俺たちの手のひらの上だったってわけ」

 スパイダーは満足そうに言い切る。

 子供たちは今までの努力を否定されてような気がして、うつむくことしかできなかった。

 その中で、佐ノ介が口を開いた。

「…そうかい。丁重に扱っていただき恐悦至極でございますよ。で、その理由はなんだ?ただのお人好しで俺たちを助けたわけじゃないだろ」

 佐ノ介の質問に、再びクライエントが答え始めた。


「西暦2990年、ほんの数人のエゴで世界大戦が始まった。彼らは金が欲しいという気持ちだけで戦争を引き起こし、長引かせた。戦争が長期化し、人々が疲弊したところにビジネスチャンスがあると考えていたからだろう。だが状況は変わった」

 クライエントが重い表情で語る。スパイダーがクライエントに続いた。

「戦争が始まって10年経った頃、そいつらは世界中に細菌攻撃を実行。自分たちが作った血清を売り捌いて儲けるはずだったんだろうな。だが結局そいつらが作った血清も効果がなかったのさ。不治の病が地球上に蔓延し、人口は大きく減少。戦争のダメージも相まって細菌が蔓延して15年で地球の人口は3000人まで減り、あの煤やけた地球が出来上がった」

「それと俺たちになんの関係が?」

 駿が尋ねると、クライエントが再び話し始める。

「私たちは滅亡を避けるべく、過去に戻って戦争の原因である数人を排除したり、平行世界を探索したりもした。だがどれもダメだった。地球が滅びる運命はほんの数年違うだけで、変わらなかった」

「平行世界?」

「人間たちの選択や行動、それによってできるたくさんの世界のことだ。分かれ道で右に行くか、左に行くか、それだけでもふたつの世界、ふたつの未来があるだろう?私の能力はその無数の世界を行き来することだ」

 クライエントはそう言うと、モニターに映る映像を切り替える。無数の平行線が同じようなところで途切れる中、一本だけ延々と伸びていく線が映し出された。

「私たちはその能力で、ひとつの世界を見つけた。その世界には私たちが経験した戦争は存在せず、人々は栄え、平和が保たれていた。どうしてだと思う?」

 クライエントはニヤリとしながら尋ねる。理由を想像もできない子供たちは、黙り込んだ。

 クライエントは、それに対して答えた。

「とある組織が存在したからだよ。彼らは不老不死となり、どこの国にも属さず、平和を乱しうる存在を芽のうちから排除していた。1000年以上も、な。魔法を駆使してね」

 クライエントは一度息を大きく吸った。


「その組織の名は、『The Magic Order』」


 クライエントは言う。子供たちは息を呑んだ。

「彼らが目指したのは『魔法による秩序』。だから『Magic Order』なんだろうが、本来なら『Magical Order』だ」

「いかにも英語の苦手なお前たち日本人らしいミスだよ」

 クライエントが小言のように言う。スパイダーも一緒になって鼻で笑う。

 同時に、暁広はスパイダーの言葉で全容に気づいた。

「まさか…そのマジックオーダーって組織、そのメンバーは違う世界の俺たちなのか…!」

 暁広の言葉に、クライエントは頷いた。

「察しがいいな。その通りだ」

「つまりお前らは、別世界では世界を守っている俺たちを連れて行けば、自分たちの世界を守れるって思ってるんだな?」

「パーフェクトだ」

 考えを述べる暁広に、クライエントは言う。子供たちはそれによってクライエントの狙いを理解したようだった。

「俺たちに何をさせるつもりだ」

 暁広はさらに食ってかかる。クライエントは平然とした様子で答えた。

「簡単だ。これから私たちの世界にも『魔法による秩序』を敷いてもらう。私の指示で平和を乱す賊どもをこの時代から排除し、私たちの住む3000年代はもちろん、その先も何万年と続く平和を、君たちに作ってもらう」

「断ったらどうする」

 クライエントの言葉に暁広が目を鋭くして聞き返す。

「君たちに拒否権はない。私たちも必死なんだ。これしか世界を救えないんだ!」

 クライエントはモニターにこそ映らないが、立ち上がって声を張る。

「仮にイェスと言っても、俺たちは不老不死でなければ、魔法の力もないぞ!」

 暁広はどうにか情報を引き出そうと、言葉を返す。クライエントは冷静になって答えた。

「こちらの世界で不老不死にするだけのこと。まずは魔法の力を与えよう。ライター!」

 クライエントが指示を出すと、キャップ帽を被ったライターがカメラの前に立つ。彼の横には、スタンド付きのストロボライトがカメラに向けられていた。

「さて、お喋りはここまでだ。君たちに偉大な力を授ける!」

 クライエントのひと声で、モニターに映し出された映像が切り替わる。

 モニターに映るのはストロボライトだけだった。

 それが逆に子供たちの警戒心を煽った。

「何か来るぞ!」

 暁広が叫んだが、すでに遅かった。

 

 モニターに映し出されるライトは、優しさすら感じさせる白い光を放ちながらゆっくりと明滅する。子供たちはそこから目を離そうとするが、離せなかった。

 数秒もしないうちに、倒れる子供が現れる。ひとり、またひとりと、その光の前に意識を失い、倒れて行く。

 最後まで立っていたのは暁広と、別室に監禁されている数馬だった。しかし、彼らもじきに同じタイミングにモニターに向かって倒れた。


「…これでいい」

 モニターに映る監視カメラの映像を見て、クライエントはひとこと呟いた。そのまま彼は振り向いて仲間たちの方を向いた。

「3人とも、ここまでありがとう」

「何言ってんのさ。こっからだろ?私らの世界に戻って、そこから秩序を作り出す。礼はそん時だよ」

 クライエントの言葉に、フォルダーは照れ隠しも含めて返す。

「元の世界に戻るまで、プロジェクターのエネルギー補充があと20分。あいつらもあと30分は起きないはずだから、どのみちあいつらは連れて行けるね…これで世界が平和になるよォ」

「バカ。戻ってからが大変なんだよ」

 ライターが安堵したような声を出すと、それをたしなめるように、スパイダーがライターの背中を軽く叩く。だがスパイダーの表情にも明るいものがあった。

「よし、あと20分、自由にしてていいぞ」

 クライエントがそう言った瞬間だった。

 

 クライエントの背後のコンピューターが機械的な警告音を立て、すぐに機械の声でアナウンスが入った。

「警告、警告、2番入口から侵入者あり。警告、警告」

「コンピューター、緊急警備プログラム起動!侵入者を排除しろ!」

 クライエントは背後にある大型のコンピューターに命令する。すぐにその場の彼らは鋭い表情になっていた。

「クライエント、俺も行こうか」

 スパイダーがクライエントに尋ねる。しかしフォルダーがそれを止めた。

「待って、ガキの中に覚醒するとヤバいのがいる、あんたは万が一の時それの処理用にここにいた方がいい」

「だがあっちにはプロジェクターがある。万が一があれば帰れなくなるぞ」

 スパイダーはフォルダーとクライエントに言う。クライエントはすぐに指示を出した。

「今回はフォルダーの言う通りだ。スパイダー、お前はここに居ろ。私がプロジェクターを取ってくる」

「…わかった。気をつけろよ」

 クライエントはスパイダーに見送られながら走り出した。


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

ここまでご覧になった方は「なんでMagic Orderなんだろう」と疑問に思ってらっしゃった方が多いと思います。今回がその答えのひとつです

ですが、この物語はまだまだ続きます

今後もこの物語を最後までよろしくお願いします

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