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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 1 少年たち
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Chapter 1-5 星野玲子

 同日 8:00

 数馬達4人はしばらく昇降口前で待たされた後、今ようやく3階の教室、6年3組に入ることができた。

「なんですぐ昇降口開けないんだろうねウチの学校」

 めいの疑問に素早く泰平が切り返した。

「こんな連中が教員の目につかない時間に来て何するか分からないからだろうな」

 こんな連中とはもちろん数馬と佐ノ介である。さっそく2人とも前後になるように自分の席に着き、机に近所の空き地の見取り図を広げて話し始めた。

「この第二広場か慰霊碑裏がいいんじゃないか?」

「いや、俺なら松の斜面にするかな。人通りも少ないし、遮蔽物も多い」

 2人が白熱した議論を繰り広げていると、突如教室の扉が開いた。

 一斉に振り向くと、数馬の友人、川倉かわくら竜雄たつおがそこにいた。

「お、竜雄!おはよう!」

「おはよう数馬。朝なのに元気だな…」

「オメーも元気出してけって。ちょい来てよ。泰さんも」

 いつも通り元気のない竜雄を気にせず、数馬は男たちを集める。数馬が広げていたのはどこかの地図のようなものだった。

「これは?」

「天見山の地図だよ」

「ひでぇ地図だ」

「余計なお世話だ。で、あんたらならどこに秘密基地を掘る?」

 数馬の質問に真っ先に答えたのは泰平だった。

「数馬と同じく松の斜面だな。人が通らないから迷惑にならない」

「大人ぁ」

「さらにそこなら素早く頂上に逃げられるし、頂上を取られても隠れることができる」

 泰平の言葉に数馬も佐ノ介も黙り込む。こうも論理立てて説明されると、説得力がありすぎて数馬も佐ノ介も何も言い返せないのだった。

「んじゃま泰さんもこう言ってるわけなんで、ここに基地掘りますか」

「だがどこであろうと穴が開いていたら通行人の迷惑だ」

「大丈夫。穴掘った後は鉄板を上に被せて落ちないようにする。普段はそうしておいて、出入りするときは鉄板を外す」

「それならいいと思う」

 泰平に言われ数馬もヒューと笑う。

 その時、ガラガラと音を立てて教室の扉が開き、誰かが入ってきた。

「朝っぱらから賑やかだと思ったら、やっぱりね」

 女子の声である。

 女子にしては高い背丈、そして明らかに敵意をたたえた目つき、それに釣り合わない上がった口角。彼女は星野ほしの玲子れいこ。クラスの女子の中では間違いなく一番強いと評判で、同じく腕に覚えのある数馬を目の敵にしていた。

 玲子の後ろから仲の良い女子3人がゾロゾロとやってくる。しかし、彼女たちはその場に広がる殺伐とした空気に思わず怯んだのだった。

「誰かくたばってくれたのかしら?」

「いいやこれからお葬式だよ。星野さんのね」

「重村さんに変えてやってもいいのよ?」

「ウチの親父が何したってんだ?」

 玲子の皮肉に数馬も笑って切り返す。2人は笑顔を見せるが、目は一切笑っていない。むしろお互いに右の拳を握りしめいつ殴り倒してやろうかと考えているようだった。

 見かねたそれぞれの友人たちがゆっくり肩を持って諫め始めた。

「数馬ぁ、やめとこうぜ?いくら数馬でも喧嘩の強い玲子じゃ厳しいって」

 そう言って数馬を抑えるのは竜雄である。一方の玲子も親友の吉田よしださくら中西なかにしもも細田ほそだあおいの3名に引き止められていた。

「玲子も、喧嘩はよそうよ〜、フレンドリー、フレンドリー」

 桜に言われて玲子も踏みとどまったようだった。

 緊張した空気が解けた瞬間、校内放送の呼び出し音が鳴った。

「生徒の呼び出しをします、6年3組、安藤君、重村君、登校していたら職員室まで来るように」

 担任の大上先生である。普段は優しい先生の怒気を孕んだ声に、数馬と佐ノ介は肩をすくめ少しニヤけた。

「あら、呼び出しなんて。結構立派なことしたのかしら?」

 玲子がまた皮肉っぽく尋ねる。数馬たちが先生からお叱りを受けることが明白だったからである。

「そうだな、きっと社会のゴミ拾いを褒められるに違いない」

「1番大きいゴミ、拾い忘れてるけど?」

 玲子はそう言って数馬をにらみつける。

「忘れてたよ、目の前のこれか」

 数馬はそう切り返し、玲子を睨み返す。もうひと波乱ありそうな空気を察して、改めて女子は玲子を抑え、男子は数馬を抑えた。

「ほら、さっさと行かなきゃ余計怒られるぞ」

 佐ノ介に言われ、引きずられながら数馬と佐ノ介は退場した。

「あぁムカつく」

 玲子は数馬がいなくなると感情そのまま呟く。横から蒼も賛成した。

「ね!イケメンじゃないくせにしゃしゃんなって感じだよね!」

「誰も顔の話はしてないと思うよ」

 桃が冷静に切り捨てる。いつものことである。

 玲子はため息を吐きながら席に着く。

 隣の席の泰平が目も合わせずに話し始めた。

「星野、数馬の何がそんなに憎いんだ」

 泰平の質問に、玲子は吐き捨てるように答えた。

「なんとなくよ」


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

個人的には数馬と玲子のやりとりは書いてて楽しいです。お互いに腕を認め合っているからこそギスギスしている、そんな2人だと認識していただければ嬉しいです。

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