Chapter5.5-A-4 道拓興太
4月4日 15:30
入学式の式典が終わり、教室に戻ってきた暁広は自分の席に着く。担任の先生からの諸連絡をメモし終えると、先生の号令で一礼し、そのまま教室は解散となった。
暁広もそのまま帰ろうと思ったが、立ち上がる拍子にボールペンを落としてしまった。
「あぁっ」
暁広が手を伸ばすと、すでにボールペンは誰かの手に拾われていた。
「落としたよ、魅神くん!」
大きくハキハキとした声。暁広が見ると、背筋がスッと伸びた男子生徒がいた。
「あぁ、ありがとう」
「さっき、星と話していたよね。俺は道拓興太。君のすぐ後ろの席だ。よろしくな!」
興太はボールペンを暁広に渡すと、すぐに握手のために右手を差し出す。暁広もその手を握り返した。
「星と話していた内容、少し聞こえていたよ。魅神くんは、湘堂の出身なんだってね?」
「暁広でいいよ。まあそうだね」
暁広と興太はリュックを背負いながら雑談を交わす。興太は暁広の返事に、深く何かを考え始めた。
「…素晴らしい」
興太が急に小声で呟く。暁広はよく聞き取れなかった。
「え?」
「素晴らしいよ暁広くん!」
今度は興太が急に大声で言う。暁広は少し驚いて1歩引いた。だが興太は熱く語り始めた。
「絶望的な状況!だが君はそれでも諦めず!目の前に立ち塞がる障壁を乗り越え、ここまでやってきた!」
「いや、そんな大層なことじゃ…」
「そこに至るまで、悲しいこと、苦しいこと、どっちもたくさんあったはずだ…」
「それは、まぁ」
「しかし君はめげていない!普通の俺たちのような生徒と同じように、笑い、未来に希望を抱いている!それは、君が困難を乗り越えて成長してきた証だ!これこそ、人間讃歌!君はそれを体現している!」
「そんな大袈裟な…」
暁広は少し戸惑いながら、しかしすぐに言葉を返した。
「でも、困難を乗り越えること、それは何よりも大事だと、俺も思うよ」
「さすがだ、暁広くん!」
興太は目を輝かせながら暁広を褒める。暁広は気まずそうに目を逸らした。
「実際にそうやって生き延びた人に言われると、魂が震えるよ!暁広くん!これからも是非俺と仲良くしてくれ!」
「それは、もちろんだよ」
「ありがとう!」
興太の勢いに少し押されながら、暁広はうなずく。暁広が少し困っている中、星が歩いてきた。
「興太、帰ろうぜ…あぁ、暁広、こいつに捕まってたの?」
星は少し笑いながら暁広に尋ねる。暁広は首を横に振った。
「いやいや、捕まったなんてそんな」
「認めていいんだよ、暁広。こいつそういうやつだから」
「はっはっは!星!また悪口のキレを増したな!」
星が言うと、逆に興太も笑う。暁広もつられて笑っていた。
「おい、興ちゃん、帰ろーぜ」
「一体何を騒いでいるんだ」
興太の元に、流と光樹もやってくる。興太はそちらに向き直ると、暁広の紹介を始めた。
「おう!流!光樹!彼は魅神暁広くんだ!あの湘堂の出身らしいぞ!」
興太が言うと、暁広も明るく挨拶を返した。
「魅神暁広。よろしくな」
「へぇ〜俺様には及ばねぇけどイイ男じゃん。よろしく」
「暁広の勝ちだな、流。よろしくな、暁広」
暁広は新しい友人たちに囲まれ、穏やかに笑っていた。
「おい、トッシー」
正面にいる4人の新しい友人たちとは逆方向の背後から暁広を呼ぶ声がする。暁広が振り向くと、圭輝と浩助が暁広を待っていた。
「あぁ、圭輝、浩助」
「暁広、知り合いか?」
圭輝と浩助に挨拶すると、星が尋ねる。暁広はすぐに振り向いて紹介を始めた。
「うん、同じ小学校の圭輝と浩助だよ」
「おぉ!暁広くん以外にもいたのか!俺は道拓興太!よろしくな!」
興太がそう言って浩助と圭輝に感激しきりの様子で近づいていく。
その様子を見て、暁広は何かを思いついた。
「なぁ、よければ明日の午前中、みんなの自己紹介も兼ねて一緒に出かけないか?ちょうど土曜だしさ」
「賛成。9時に校門前でどうだ?」
暁広の提案に、すぐに星が具体的なアイディアを加える。その場の男子たちは一斉に賛成と声を上げた。
「じゃあ決まったな、また明日!」
「ういーっす」
男子たちは群れを成しながら教室を出ていく。そのまま彼らは放課後の街へ帰って行くのだった。
最後までご高覧いただきましてありがとうございます
今回は暁広の新たな友人の4人目を描かせていただきました
今後もこのシリーズをよろしくお願いします