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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 5 残党
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Chapter 5-9 血路

 幸長から逃げ場の指示を受けた子供たちは各自地図を確認して自分たちのいる場所から一番近い回収ポイントを探す。


 暁広が率いる15人のチームも同様だった。携帯を持っている心音が暁広に地図を見せながら、暁広は作戦を練っていた。

「よし、聞いてくれ。俺たちはこれから朱雀川駅北口を目指す。全員はぐれないでくれよ」

 暁広は仲間たちに指示を出す。仲間たちは、特に女子を中心に不安そうな表情だったが、唯一茜だけは暁広を信じ切った眼差しをむけていた。暁広はそれに必ず応えると心に誓い、逃げ道の方へ振り向いた。

「いくぞ!」

 暁広が号令をかける。彼の隣にいる浩助、圭輝と共に息を合わせると、大通りを挟んで20m先にある別の路地裏の入り口へ駆ける。3人の後ろからすぐに武器を持っていない茜、美咲、明美が続く。

 先に行った6人が問題なくもうひとつの路地裏に辿り着いたのを見て、残された側の9人も状況を見ながら走り出す。

「心音、さえ、広志、行け!」

 遼が指示を出す。決して足の早くない心音とさえに合わせながら広志は周りを警戒しながら走る。

 広志たちがちょうど目的地にたどり着く頃を見計らって遼が再び指示を出す。

「桜、駿、真次!」

 遼が3人の背中を叩く。比較的足の速い3人は、そう時間をかけず暁広たちの元に辿り着く。

「遼!」

 暁広が遼の名前を呼ぶ。遼はうなずくと、香織、武を連れて走り出す。

 遼が見渡す大通りは至って普通に見えた。店やビルが立ち並び、人々は静かに歩いている。だがいつどこから敵が襲ってくるか全くわからない。だから彼らはとにかく人目のつかないところを走っている。

 遼たちが暁広たちのいるところまで後半分に差し掛かった時だった。

 遼たちの右耳を、轟音が襲った。遼は咄嗟に香織に覆いかぶさるようにして彼女を守りながら音のした方向を見る。

 さっきまで平和に生活を送っていた店や街の通りが、次々と爆発していくのが彼の目に映った。

「な…!」

「急いで逃げるんだ!」

 暁広が遼に向けて叫ぶ。遼は武を立たせて先に逃げさせると、聞こえてくる悲鳴や爆発音に耳を伏せながら、自分も香織の手を取って暁広たちのいる路地裏の陰に転がり込んだ。

 暁広たちは爆発が起きた街並みを見る。なんの罪もない一般人が爆発から逃げようと悲鳴を上げていた。それを無視するように次々と爆発が巻き起こる。

「一体何が…」

 戸惑う子供たちの耳に今度は銃声が入ってくる。悲鳴と銃声の中、冷徹な船広の声が辺りに響いた。

「売れそうな女は取っておけ。他は殺せ」

 船広の言葉に応えるように銃声が大きくなる。

 路地裏から状況を覗き込んでいた暁広と、船広の目が合った。

「あのガキだ!殺せ!」

「まずい、逃げるぞ!」



 同じ頃、泰平率いるD班のメンバーはいち早く合流地点のひとつである駅の北口ロータリーにたどり着いた。

 ロータリーの端に駐車されている黒に銀の荷台のトラック。泰平は運転席に乗っている人物の顔を確認した。

「望月さんだ」

 泰平は他の班員たちにそう言って安心させてから運転席にむけて両手を振る。泰平たちに気づいた望月は、荷台に乗るようにハンドサインで指示を出す。D班の子供たちは素早くトラックの後ろに回り込み、荷台の扉を開けて全員転がり込むようにして中に入った。

「D班全員います」

 泰平は荷台に乗り込むなり望月に報告する。望月はうなずくと、幸長や佐藤に連絡を入れる。

「こちら望月、D班を全員確保しました」

 望月が連絡を入れるのを横目に、D班のメンバーはひと息つく。怪我人は1人もいないのが彼らにとって幸いだった。

 連絡を終えた望月は泰平に尋ねる。

「君たちだけ?」

「はい、他の班は分かりません」

 泰平がそう言うと、彼が隠し持っていた通信機に爆発音と銃声が響き始めた。それと同時に、暁広の焦ったような号令が聞こえ始める。さらには僅かに女子のものと思わしき悲鳴がその中から聞こえた。

「助けに行った方がいいんじゃない?」

 めいが泰平に言う。泰平も一瞬納得しかけるが、そこに望月が口を挟んだ。

「ここで下手に動いても余計に被害が拡大する可能性が高まるだけ。気持ちはわかるけど、トラックの安全確保に専念して」

 望月の声と意見は冷静だった。なので、反論する気もD班のメンバーには起きなかった。

「分かりました。D班はここで待機。みんながここにきても大丈夫なようにトラックの周囲を見張っておこう」

 泰平が改めてD班の他のメンバーに指示を出す。みんな異論はないようで、泰平の言葉に黙ってうなずいていた。

「さて、トッシーたちが無事ならいいが…」



 暁広たちは目的地であるロータリーまで約500mの狭い路地裏にいた。だが彼らの背後からは無数の敵が迫ってきている。

 最後尾にいた暁広は叫んだ。

「足の速い遼と駿が先頭になってみんなを近くのショッピングモールまで避難させてくれ!俺と圭輝と浩助で一旦防ぐ!行ってくれ!」

 暁広が言うと遼と駿が早速走り出し、声を張る。

「こっちだ!ついてこい!」

 彼らが隠れている路地裏が表通りに出るまでは約20mの距離がある。足の遅い子供たちも少なくないので、残る暁広たち3人はそれなりに時間を稼がなければならない。

「さて、やるぞ浩助、圭輝!」

 暁広は2人に声をかけると、敵が迫ってきている側の物陰に隠れた。

 すぐさまそれに応えるように3人を目がけた銃撃が飛んでくる。すぐにそれを物陰に隠れてかわすと、暁広は圭輝と浩助に指示を出す。

「2人は弾幕で牽制を、動きが止まった奴らを俺がショットガンで仕留める!」

「了解!」

「撃ちまくれ!」

 暁広が声を張ると、一息に浩助と圭輝は物陰に隠れながらそれぞれアサルトライフルとサブマシンガンを乱射し始める。

 不用意に近づいてきていた何人かの敵が、銃弾の素早い連射の雨に倒れる。

「固まるな!乗り捨てられた車や電柱を利用して隠れろ!」

 敵の指揮官である船広が大声で指示を出す。それを聞いた船広の部下たちは車の陰や電柱の影に隠れる。

 隠れ始めた敵を見て、暁広はそれに狙いをつけた。

「逃さん!」

 暁広は引き金を引く。車の影に隠れようとしていた敵を1人倒していた。

「撃ち返せ!」

 同じように車に隠れた船広が部下に指示を出す。言われるまでもなく敵は銃撃を強める。流石に勢いで劣る暁広たちは物陰にしゃがみ込んだ。

「トッシー!俺らいつまでやりゃあいい!?」

 圭輝がサブマシンガンを握りしめながら尋ねる。暁広は左耳の通信機に神経を集中させて声を張った。

「駿!」

「今全員ショッピングモールだ!みんな避難したらしく人はいない!」

「おし!」

 暁広は駿からの報告を受けると、圭輝と浩助に指示を出す。

「逃げるぞ!」

 暁広が言うと、一目散に3人は走り出す。船広はその足音を聞き逃さず命令を下した。

「警戒しながら慎重に前進。追跡を続けろ」

 船広の指示に従って敵は銃を構えつつ暁広たちが隠れていた路地裏に迫っていく。

 敵の先頭が逃げる暁広たちの背中を見つける。

「見つけたぞ!カバー!」

 暁広を見つけた敵が叫ぶ。暁広は一瞬苦い顔をしたがすぐに浩助と圭輝に指示を出す。

「構うな!ついて来い!」

 銃声が響き始める。3人は姿勢を低くしながら銃撃を何とかかわしつつ路地裏を抜ける。

「走れ!このままショッピングモールへ!」

「そのまま追撃、絶対に逃すな!」

 暁広と船広それぞれの号令が響く。


 暁広たち3人の視界に、少し離れたショッピングモールの駐車場が現れた。

 銃撃が暁広たちの足元を掠める。怯まず彼らは駐車場へのフェンスまで走ると素早くフェンスをよじ登り、乗り越える。

「うぐぅっ!?」

 着地した暁広の左腕の上側を、敵の銃弾が貫く。思わぬ被弾に暁広も悲鳴をあげた。

「トッシー!」

「大丈夫だ…!車の陰に隠れろ!早く!」

 暁広は左手を庇いながら指示を出す。圭輝と浩助もそれに従って3人ですぐ近くの車の陰に隠れた。

「車に隠れたぞ、撃ち殺せ!」

 敵の部下たちはお互いに連携を取って暁広たちの隠れている車にさまざまな方向から迫ろうとしてくる。暁広はその間に駿と連絡を取る。

「駿!どこにいる!」

「ホームセンターの中だ!」

 駿の返事を聞きながら暁広は車に隠れようとする敵を牽制するために銃撃を浴びせる。

「よし、圭輝、合図したら撃ちながらあっちに逃げろ。浩助はその後時間差で反対側に、俺は最後に真っ直ぐ逃げる」

「わかった」

「駿、合図があったら遼、広志と一緒に攻撃を始めてくれ」

「おう!」

「行け圭輝!」

 暁広が叫び、圭輝が姿勢を低くしながら走り出す。暁広と浩助はそれを援護するように迫りくる敵に牽制の銃撃を放つ。

 圭輝もある程度距離ができると、銃撃しながら走るようになった。

「よし、浩助!」

 暁広は隣でアサルトライフルを撃つ浩助に指示を出す。浩助は銃撃を止めると、先ほど圭輝が走っていった方向とは逆方向に走り出す。

「指示を出してるのは今隠れているガキだ。あいつに攻撃を集中しろ」

 船広が部下たちに指示を出すと、浩助や圭輝を無視して敵は暁広に近づくために車の影に隠れながら前に進む。

 暁広もそれに対応するようにショットガンの引き金を引くが、別方向からの銃弾が頬を掠めた。

 咄嗟に車の影に隠れた暁広はショットガンに入っている弾を見る。既にマガジンは空だった。

 敵の銃弾が暁広の隠れている車の窓ガラスを割る。ガラスの破片が暁広の頭に降り注ぎ、それから暁広は身を守る。

「ええい、クソ!」

 暁広の声は通信機越しに駿たちにも聞こえてくる。緊迫した表情で、茜は両手を握って祈っていた。

「…いくぞ」

 暁広は小さくそう言うと、しゃがみこんでいた状態から立ち上がり、その勢いで正面に走り出した。

 銃撃が激しくなる。それに当たらないようにと祈りながら逃走経路上にあるボンネットの上を転がる。

 敵もより確実に暁広を仕留めるため彼を追っていく。

 暁広は次の車のボンネットの上を転がりながら自分を追ってくる敵の様子を見る。


 暁広の口角が上がった。


「駿!今だ!」


 ボンネットから転がり落ちるようにしながら暁広は叫ぶ。

 それに呼応するように、暁広を追っていた敵の後方から悲鳴が聞こえ始めた。

「横からだと!?まさか…」

 船広が暁広の狙いに気づいて目を見開く。一方の暁広はショットガンのマガジンを交換しながら口角を上げていた。

「そう。俺を追えば隊列は必然的に間伸びする。そこを横から突けば分断するのは簡単だ!」

 駿たちの不意の銃撃により、間伸びしていた敵の隊列、特にその中央部分はどんどんと倒れていく。

 暁広は指示を出す。

「浩助!圭輝!手頃な奴からぶっ殺せ!」

 暁広は言うが早いか暁広を深追いした敵に銃撃を浴びせる。そこに圭輝と浩助の銃撃も加わっていき、実質的に4方向から攻撃を受けている敵の先頭部隊は、瞬く間に倒れていった。

 指示を出す間もなく倒れていく部下たちを見て、船広も焦りながら叫んだ。

「総員撤退!急げ!」

「言うと思ったよ。真次!心音!武!出て右側の連中を攻撃!」

 船広の指示に対して暁広も指示を出す。

 船広たちは銃撃しながら暁広たちから距離を取っていく。ある者は近くにある車の窓ガラスを割って車を盗もうとするが、暁広の銃撃に倒れた。

 しかし船広は誰よりも早く車を盗むと、数人の部下と共に車で逃げ去ろうとする。

「逃がさない!」

 走り出して背を向ける車に、心音が銃撃を浴びせる。遅れて真次と武も銃撃する。

 心音の1発がタイヤを撃ち抜いた。

 車は甲高い音を立てて後輪を滑らせるようにして心音たちに対し真横を向けた。

「クソガキが!」

 船広は吐き捨てるように言うと心音たちのいる側とは反対側にある運転席の扉から飛び出し、足を引きずりながらその場から逃げようとする。

 部下たちは逆に船広を逃そうと車から降りて心音たちに銃撃を放つが、すぐに敵を殲滅して心音たちと合流した駿と暁広たちの銃撃が彼らを撃ち抜いた。

「指揮官が逃げるんじゃねぇ!」

 敵の殲滅を確認した暁広は船広の背中めがけて銃の引き金を引く。

 船広は大きく跳ね上がりながらその場に倒れた。

「クソッ!なんで…なんでこんなガキに…!」

 船広は悪態を吐きながら這いずって逃げようとする。しかし、あっという間に暁広たちに囲まれていた。

 船広が絶望した表情で前を見上げる。鋭い表情の暁広が銃を船広に向けていた。

「お、おい…やめろ…!俺は何も悪くねぇ!!」

「罪を償え、その命で!」

 暁広は船広の命乞いに一切耳を貸さなかった。自分の声と銃声で船広の命乞いをかき消すと、その場に倒れた船広の死体を見下ろしていた。



 一方、誰もいないホームセンターに隠れていた茜たち女子は銃声が鳴り止んだ状況に気づいたが、何もできずにいた。

「まさか…全滅してないよね?」

 さえが不安そうに呟く。その言葉に茜が自信を持って答えた。

「してないよ。トッシーたちが勝ったに決まってる」

 ホームセンターの自動ドアが開く音がした。

「ほら、トッシーだよ!」

 物陰に隠れていた茜はそう言って入口のすぐ近くへ飛び出た。

「お疲れ、トッシ…」

 茜の目の前にいたのは暁広ではなかった。

 ボロボロになりながら銃をゆっくり茜に向ける、それは敵だった。

 茜は絶望するのと同時に、自分らしいとも思った。不注意で飛び出して死ぬ。

 茜は覚悟を決めると、目を閉じた。


 銃声が響いた。


 ドサッ、という人の倒れる物音が屋内に響いた。


「茜?」

 暁広の声がする。

 茜はゆっくりと目を開く。

 愛しい暁広の表情が、目の前にあった。

「トッシー…」

「無事っぽいね。よかった」

 暁広が笑顔を見せる。子どもらしい屈託のない、心優しい笑顔。

「みんな!いいよ!」

 暁広は物陰に隠れている他の女子たちにも声をかける。

 暁広の仲間たち15人が無事な姿で揃った。

「いやぁ、トッシーの見事な指揮もあって全員無事。最高だな」

 暁広の隣に立っていた遼が暁広を軽く小突きながら笑って言う。暁広は照れくさそうにして首を横に振った。

「いいや。みんながいてくれたから上手くいったんだ。ありがとう」

 暁広が頭を下げる。そしてすぐに頭を上げると、暁広は声を張った。

「さ、早くトラックまで逃げよう!」

 暁広が言うと、子どもたちはうなずいた。

「隊列はさっきと同じ。武器を持ってるメンバーで持ってないメンバーを挟むようにして走る。行くよ!」

 暁広の声に従って子供たちは隊列を組む。列が整った様子を見て、暁広は彼らの先頭を走り始めた。

 曇り空には僅かに光が差していた。

最後までご高覧いただきましてありがとうございます

今回は暁広が率いるチームの逃走劇を描かせていただきました

お楽しみいただけたでしょうか

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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