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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 5 残党
52/124

Chapter 5-4 異変

今回やや長めです

1月27日 11時 暁広たちが出かけて2時間


 佐ノ介は1人自室の前の廊下を歩き回っていた。ただその姿はいつもの佐ノ介ではなかった。口元を手で隠しながら延々と何かを呟きながら歩き回っている。

「どこいったんだ…マリ…」

 誰にも聞こえないように佐ノ介はそう呟いていた。

「うぃーっす佐ノ介」

「おい数馬!」

 佐ノ介の後ろから軽い挨拶をする数馬に、佐ノ介は振り向きざまに大声を出す。数馬はわざとらしく頭をフラフラさせてから返事をした。

「どしたよ佐ノ?らしくねぇじゃ」

「マリを知らないか!?今朝から姿が見えないんだ!」

 数馬の言葉を遮るようにして佐ノ介は数馬に尋ねる。数馬は片耳を塞ぎながら考える。

「知らねぇけど」

「本当なんだな!?」

 佐ノ介は数馬の胸ぐらをつかみあげながら尋ねる。数馬は佐ノ介をなだめるようにして答えていた。

「おいおいおいおい落ち着けよ、ホントだよ」

 佐ノ介は数馬から手を離す。数馬は服を軽く整えると佐ノ介に尋ね始めた。

「どうしたんだよ?」

「マリが急にいなくなった…お互いに予定がある時は確認し合うようにしてて、今日はお互い何の予定もないはずだった。なのにこれだ、どこ探してもマリがいない」

「急用ができたんじゃねぇの?そんな慌てるようなことでもないだろ」

「だといいんだが…マリらしくなくて…」

「帰ってきてから何してたか聞けばいいじゃん。訓練までには戻ってくるだろ。ほら、飯いこーぜ」

 数馬が軽いノリで佐ノ介に言う。佐ノ介としては未だどこか腑に落ちていない様子だったが、どうしようもないので数馬についていき、そのまま一緒に食堂へ向かった。




13時 暁広たちが出かけてから4時間

 訓練場に子供たちが集まる。

 幸長はいつも通り名簿と子供たちの数を数えたが、何人かいないことに気づいた。

「…数が少ない?連絡が入っていないが…誰がいない?」

 幸長は班ごとに並んだ子供たちと名簿を交互に見返しながら誰がいないのかを確認していく。

「魅神…原田…黒田明美…遠藤…星野…5人もいない?誰か事情を知らないか」

 幸長の問いかけに子供たちがざわつく。幸長の方も思いつくことを全て脳内で整理する。しかし何も思い出せない。

「教官」

 美咲が手を挙げて幸長に声をかける。早速幸長は美咲の方を向いた。

「なんだ、伊藤?」

「昨日の時点で魅神くんと原田さんは一緒に出かけると言っていました。黒田さんはそれを追っているはずです。だから少なくともこの3人は一緒にいると思います」

「どこに出かけているかはわかるか?」

「確か、パンケーキ屋って言っていたと思います」

「どこの?」

「そこまでは…」

「わかった、非常に助かった、ありがとう」

 幸長は美咲の言葉を聞いて早速横にいた佐藤に目配せをした。佐藤はすぐに答える。

「パンケーキ屋なんて正直いくらでもあるわ。さすがに広すぎる」

「だがこちらには人数がいる」

 幸長はそう言って子供たちの方を向き直った。

「諸君、今日は訓練の代わりに魅神たちの捜索を行う。だが、事件性があるかも知れない以上各自気を抜くようなことはしないように」

 幸長の口調は軍人のそれだった。子供たちは緊張感を持って返事をする。幸長は早速これから何を行うのかを説明し始めた。

「各班分担してそれぞれの店に聞き込みを行う。A班は東側、C班は北側、D班は南側の店舗に聞き込みを行ってくれ。効率のために班を分割するのも構わないが、くれぐれも君たちまで行方不明にならないように。B班はここで待機。魅神たちが戻ってきたら各班に連絡すること。質問は?」

 子供たちは沈黙する。いつでも任務に行けるという意味だった。

「よし、作戦を開始する。我々からも随時連絡を入れる。それと、各班佐藤から店の位置を確認すること。作戦開始!」

 幸長が言うと、各班の班長が佐藤の下に集まる。佐藤は早速持っていたタブレットに周囲の地図を表示し、班長たちにパンケーキ屋の位置を教えていた。一方で幸長は訓練場内の固定電話で武田に子供たちを動かすことを伝えた。

 そんな様子を数馬は少し離れたところから壁際に寄りかかって眺めていた。

「数馬」

 考え事をしていた数馬の横から竜雄が声をかける。数馬はおぅ、と軽く返すと、向き直って話し始めた。

「どした竜雄?」

「いや、単純にさ、トッシーたち心配だなぁって。なんか事件に巻き込まれちまったのかな」

「まさかぁ、サボりだろ」

「玲子がサボるかなぁ」

「…言われてみりゃそれもそうだな。あいつこれ以外生き甲斐ないはずだし」

「もう殺されてるかも」

「そりゃないと思うな。あいつ無駄にタフだから」

 数馬と竜雄が喋っていると、2人の共通の班長である遼が軽く2人を手招きする。2人は小走りで遼の下に集合した。

「俺たちが聞き込むお店はこの北側の4つ。今俺らは6人だから3人3人に分かれて聞き込もう。終わったらここに集合」

「メンバー分けは?」

「俺と香織と武、数馬と竜雄と桃の分け方。俺らはこっち2つ行くから数馬たちはそっち2つ頼むよ」

「おっしゃ」

「いくぞ」

 遼が伝えてみんなうなずく。そのままC班のメンバーは走り出した。




 早速C班は拠点であるビルから出ると、二手に分かれつつ北側に向かった。

 二手に分かれたうちの片割れである数馬は桃、竜雄と一緒に一番近いパンケーキ屋に向かっていた。

「こっちで合ってる?」

「間違いないと思う」

 数馬が桃に尋ねると、桃は地図を見たまま答える。

「どうもどうも。あいにく土地勘ないとこだと方向音痴なもんで」

 数馬の軽口に桃は少し肩をすくめただけで返事をする。愛想がいいとは言えない返事だった。

 微妙な空気のまま3人は5分ほど入り組んだ道を歩く。ようやく辿り着いたのは、すでに潰れてしまいそうな、薄暗くボロボロの店だった。

「…ここにあいつらが?」

「さぁ?」

 数馬が不思議そうに竜雄と桃に尋ねるが、桃はそれを軽くあしらった。数馬は少しため息をつくと、竜雄を指で呼ぶ。

「俺と竜雄で聞いてくるよ。桃はここ頼むわ」

 桃が頷いたのを見てから、数馬と竜雄は店の中に入っていく。少しどころかとても嫌そうではあったが、数馬は店の今にも壊れそうな扉を開けた。

 一方、ひとり残された桃は退屈そうに周囲を眺めていた。

「はぁ…本当に何をやってるんだか…」

 桃はいなくなったメンバーに向けて呟く。いなくなったメンバーの中でも玲子は桃の親友であり、だからこそ少し厳しく評価していた。

「…ん?」

 桃はすぐに動物の気配を感じた。どこか生暖かいような空気。

 桃はすぐに足元を見た。そのまま少しずつ目線を上げていくと、見慣れない銀色のような毛を持った犬がいた。その場に伏せて目を閉じている。

「…おぉ…」

 桃は動物が好きだった。特に犬は飼っていたこともある。懐かしさと好奇心が桃を突き動かし、その犬のところまでゆっくり歩いていた。

 近くで見るとその毛はなおのこと整っており、体格も大きいような印象を受ける。きっとよく育てられた犬なのだろう。

「ちょっと失礼…」

 桃は静かにその犬の背中を撫でる。犬は全く撫でられていることを気にせず、そのまま撫でられていた。

「お前はいい子だね…見た感じ…柴かな…?でもなんかちょっと違う気がするな…」

 桃は不思議に思いながら、だんだんと手を犬の頭の方に持っていく。尖った耳と耳の間の額に手を入れて撫でると、犬も少し気持ちよさそうにしていた。

「うちの犬が気に入ったかい」

 桃の後ろから声が聞こえた。桃は振り向きながら立ち上がると、背筋を正した。そこにいたのは、痩せ型の中年くらいの男だった。

「失礼しました」

「謝ってほしいんじゃない。気に入ったのならそういってくれ」

「はい。毛並みもすごく良くて、撫でているこちらが楽しいくらいでした。あなたが育てた犬ですか?」

「そうとも。よければ他の犬も見せてあげよう」

 桃は男がそう言った瞬間、並ならぬ殺意を放ったのを確かに感じ取った。

 即座に後ろに下がろうと脚を後ろに出した瞬間だった。

 さっきまで寝ていたはずの犬が突如として桃を押し倒したのである。

「かず」

 異変を知らせるために数馬の名前を呼ぼうとする桃だったが、その口を男はハンカチで塞いでいた。桃がいくら暴れても犬と男に押さえつけられ、次の瞬間には意識を失っていた。

「ギンー、うまくやったな。お前は本当にいい子だ。後でうんと食べさせてやるからな」

 男は意識を失った桃を横目に、犬の頭を撫でる。犬も嬉しそうに尻尾を振り、舌を出して答えていた。

 そのまま男は桃を担ぐと、犬を連れてどこかに消えていった。



「よぉ、桃、ったく大変だったぜ、あのジジイ話通じねんだもん」

「パンケーキ屋じゃなくてただの喫茶店だったしな。…あれ?」

 数馬と竜雄がぼやきながら出てきたのは男が消えた数秒後だった。

 2人がいくら辺りを見回しても、桃の姿が見えない。

「桃?」

 数馬はひとまず名前を呼ぶ。やはりというべきか返事は返ってこない。

「ヤベェな」

「探さないとまずくないか?」

「あぁ、はぐれないように」

 数馬は竜雄とお互いに確認を取ると、ひとまず周囲に何か手がかりが残っていないかと探し始める。

「数馬、アレ桃のじゃないか?」

 竜雄が地面を指差す。数馬はその方向に走ると、竜雄が指差していたものを拾い上げた。

「桃の携帯か」

 数馬は折りたたみ式のピンクの携帯電話を広げる。だが桃がどこにいるかを示すような情報はそこにはなかった。

「桃がそう簡単に携帯落とすわけねぇよ。きっとなんかあったんだ」

「…誘拐とか?」

 竜雄の考えに数馬も自分の考えを述べる。

 自分達の考えがあっていそうなのが2人としては逆に恐ろしかった。

 そんな2人の緊張を掻き立てるように桃の携帯がジリジリと着信音を立てる。数馬はすぐさまかかってきた電話に応答する。

「重村だ」

「数馬か…?」

 電話から聞こえたのは遼の声だった。数馬はうなずきながら、遼の様子が何かおかしいことに気づいた。

「あぁそうだ、どうした?」

「香織が…さらわれた…」

「マジか…こっちは桃がいなくなった」

「多分同じ犯人だろ…一旦合流したい」

「わかった、今すぐそっちに向かう、待ってろ」

 数馬は短く答えて携帯電話を折りたたむ。鋭い表情になっていた数馬を見て、竜雄は尋ねた。

「なんだって?」

「香織が誘拐されたらしい。これから遼と合流するけど、遼もなんかやばそうだ」

「わかった。急ごう」

 数馬が頷いたのを見て竜雄は走り出す。数馬も不安を押し殺すようにして全速力で走り出していた。




 佐ノ介たちA班は東側を任されていた。

「男女で二手に分かれて聞き込み。いくぞ」

 元々無口な佐ノ介はさらに無口になっていた。無愛想で接しにくい佐ノ介に、周囲のメンバーはやや気圧されていた。

 構わず佐ノ介は真次と広志を連れて街を歩く。

 あまりにも殺伐とした空気に、広志はその場の空気をなんとかしようと話を始めた。

「みんなで脱走してサボってんのかなぁ〜」

「そんなわけないだろ」

 広志の気遣いも鋭すぎる佐ノ介の言葉の前には無駄だった。広志も思わず口をつぐんだ。佐ノ介はすぐに自分の言動を反省した。だがそれよりも先に真次が小言をいう方が早かった。

「おい佐ノ介」

「すまん、悪かった」

「本当に反省してるのか?」

「今が反省会の時間だとは知らなかったよ」

 佐ノ介が真次に皮肉で返す。真次も何か言い返しそうな様子だったが、見かねた広志はすぐに間に入った。

「まぁまぁそんなギスギスしなさんな。俺がふざけたのが悪かった。非常事態なのにな。俺が悪かった。これでこの話は終わりにしよう」

 広志がなんとかその場を丸く収める。これ以上争う理由のない3人はここで口喧嘩を止めた。

 気がつくと3人は目的地に辿り着いていた。

 店の外にも座席が置いてある、一階建ての洋風のパンケーキ屋。佐ノ介は店の扉を開けると、カウンターに立っている若い女性店員に話しかける。

「すみません、これくらいの身長の小学生男子、来ませんでしたか」

 佐ノ介が適当に手のひらで高さを示す。すると、女性店員は店の奥の方を指した。

 3人がそちらを見ると、暁広が保冷剤で後頭部を冷やしながら椅子に腰掛けていた。

「トッシーじゃねぇか」

「すみません、ありがとうございます」

 佐ノ介が店員に礼を言う。店員は不安そうに状況を佐ノ介に伝え始めた。

「あのお客さま、9時ごろにここにいらしたんですが、いつ頃かわからないんですけどボロボロになってて…人通りの少ないところに倒れていたので気付くのが遅くなってしまったんですけど、ここで手当てして休んでもらってました」

「あなたが彼を回収したのはいつ頃で?」

「10時ごろだったと思います。意識を取り戻したのは11時ごろだったと思います。お客さまを助けた時にどこにも連絡しないでほしいと言われて警察や救急にも連絡はしていないです」

「彼1人でしたか?」

「最初にお店にいらしたときは女の子を1人連れていましたが…助けた時にはいなくなっていました」

「わかりました、本当にありがとうございました」

「大丈夫なんですか?何か事件じゃ…」

「大丈夫です。彼の件は本当にありがとうございます」

 佐ノ介は姿勢を正し、踵を揃えてから深々と頭を下げる。店員も遠慮がちに少し頭を下げる。佐ノ介はすぐに暁広の下に大股で歩く。

「おい、トッシー、大丈夫か?」

 佐ノ介は暁広に尋ねる。暁広の爽やかな顔は、ところどころに大きな青あざが出来上がっていた。

「あぁ…大丈夫だ」

「何があった?」

 佐ノ介の問いかけに暁広は苦い表情をして答え始めた。

「茜と一緒に出かけてた…そしたら…茜が誘拐されて…助けようとしたら…訳のわからない連中がそれを邪魔してきて…このざまだ…!」

 暁広は後頭部を冷やしていた保冷剤を強く握りしめる。保冷剤がミシミシという音を立てていたのがわかった。

「玲子と明美と遠藤さん知らないか」

「知らない…だが相手の手口を見る限り、女子を中心に誘拐しているようだから…もしかしたら誘拐されたのかも…」

 佐ノ介の質問に暁広が返すと、思わず広志が声を大きくした。

「おい、美咲たちやべぇんじゃねぇのか?」

「二手に分かれたのは最悪だったか…!」

 真次が呟く。4人は思わず固唾を飲んだ。

 窓の外にバンが走っていくのが見えた。佐ノ介はそれを見逃さなかった。

 彼の優れた視力はそのバンの中にさえと美咲と桜の顔があったのを見逃さなかった。

「最悪だ…」

 佐ノ介は店を飛び出てバンの走っていった方に駆ける。だがバンの速度は早く、すでに佐ノ介でも見えない距離まで走り去っていった。

「佐ノ介!」

 店から遅れて広志が出てくる。佐ノ介は苦い表情で振り向いた。

「あの3人も誘拐された。目的は達成できたから、仕方がないけど一度引き上げる」

 広志は一瞬複雑な表情をしたが、うなずいた。


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

敵の魔の手がどんどんと子供たちに伸びていき、次々と仲間たちが誘拐されていきます。果たして敵の狙いは何なのでしょうか、そして子供たちは仲間を救い出せるのでしょうか

今後もTMOをよろしくお願いします

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