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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 4 悪意
32/124

Chapter 4-6 復讐の炎

残酷な描写が含まれています

苦手な方はご注意ください

今回もやや長めです

1月5日 23:00

 灯京都早月区 毎朝新聞本社近く


 シルバーの4ドアのワゴン車が誰もいない車道の端に停められる。

 中にいたのは、火野たち4人だった。

「もう一度確認する」

 水茂が後部座席に座る上風とヨシカに言う。4人とも表情は暗かった。

「俺と火野が爆弾を仕掛ける。その間に各自所定の位置につく。俺と火野からの離れたという連絡があり次第上風が爆破。何かの事情で上風がダメならヨシカが、最悪俺たちが自己判断で爆破する」

「警察も嗅ぎ回ってますからね。見つからないようにしないと」

「とにかく仕掛け終わり次第連絡する。そこからは臨機応変に」

 水茂はそう言って全員にリモコンを手渡す。全員リモコンを受け取ると、それを握りしめた。

「俺たちの復讐は邪魔させない…誰にもだ…!」

「行くぞ」

 火野の言葉に水茂が言う。2人は車のドアを開けると、周囲を見回しながら真っ直ぐ毎朝新聞の本社のビルへと歩いていく。

 火野と水茂の姿が見えなくなると、上風とヨシカも車から出て自分の持ち場へ歩き出した。



 消灯しきったビルの前にやってくると、火野と水茂は入口の前に警備員がいることに気づいた。だがひとりである。

 火野と水茂は上手くアイコンタクトを取ると、正面から堂々とその警備員へ歩いていった。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です。もう帰っていいですよ」

 警備員の挨拶に対して火野が言う。警備員は一瞬首を傾げると、全てを察した。

「まさかお前ら…!」

「おっと」

 警備員は肩の通信機に手を伸ばそうとするが、警備員の後ろから水茂が拳銃を突きつける。すぐに警備員の正面にいた火野が拳銃を警備員の喉に突きつけて通信機を奪う。

「これがわかるよな?ん?」

 火野の問いかけに警備員は涙目になって何度もうなずく。

「命は要らんから鍵をよこせ」

「従わないと…」

 火野が突きつける力を強める。警備員は必死になりながら右ポケットから鍵束を差し出す。水茂がそれをひったくった。

「よし。うちに帰してやる。行け!」

 火野が急に圧を強めて言うと、警備員は泣き出しながらその場から駆け足で逃げ去る。警備員の後ろ姿が見えなくなると、鍵を開けた水茂と合流してビルの中に入っていった。


 そのころ、ヨシカは車道からすぐ近くの細い路地で待機していた。周囲から見れば夜遊び中で、スマホで音楽を聴いてる若い女子高生。街灯の当たらないところにいる以外はおそらく怪しまれることはない。仮に怪しまれても車までは200mほど。全力で逃げれば逃げ切れる。

 左のポケットには爆弾のリモコン。右のポケットには血を吸ったナイフ。いざとなったらまた血を吸わせればいい。ヨシカはそう思いながら火野と水茂からの連絡を待っていた。

 ポケットの中のリモコンを左手で弄んでいるうち、イヤホンの向こうから気配が変わる音がした。

「仕掛け終わった。待機されたし」

 水茂の声である。ヨシカの目つきが鋭くなった。

 ついにこの日が来た。自分の愛する人の気持ちを踏みにじった悪魔どもを、この手で吹き飛ばす日が。もう二度とあんなことをされずに済む。

「見ててね、カズキ」

「土方ヨシカさんですか?」

 突如として聞こえた声。ヨシカは慌てている様子を隠そうとしながらそちらへ振り向いた。

 自分と同じか少し背丈の低い3人組。暗がりでよく顔は見えないが、頭に黒いヘルメットを、胴の部分には防弾ベストと思わしき黒いものを付けていた。

(私のことを知っている…何者?)

 目の前の不審な集団にヨシカは右のポケットのナイフを握りしめる。

「そうですが」

 ヨシカは念のために言っておく。

 正面にいる3人組の真ん中が、一歩前に出た。ヨシカは一歩下がる。

「我々はあなた方を保護しにきました。起爆スイッチを置いてご同行願えませんか」

 ヨシカはこの人間たちが理解しきれなかった。だがひとつはっきりしているのは、こいつらは自分たちの目的を知っている。

 窮地を察したヨシカは彼らに背中を向けて走り出すが、すぐ真後ろにいた何かにぶつかり走り出せずに尻餅をつく。

 ヨシカの背後だったところには、同じような服装、同じような背丈の4人組が立っていた。

「取り押さえろ」

 3人組の真ん中、河田泰平が指示を出す。竜とめいがヨシカに駆け寄ると、ヨシカは右のポケットからナイフを抜き放った。

 瞬時に竜とめいはバックステップで距離を取る。その間にヨシカは立ち上がる。

「近づかないで!」

 自分を取り囲む人間たちに、ナイフを向けながらヨシカは距離を取る。

 動けない彼らを見て、ヨシカは左のポケットからリモコンを取り出した。

「私を捕まえようってんなら吹っ飛ばすわよ!?」

 ヨシカはそう言ってジリジリと下がっていき、壁に背が当たる。

「ほら、早くどきなさいよ!」

 ヨシカは焦って声を上げる。しかし子供たちは退こうとしなかった。

「理由がどうであれ、あなた方は多くの命を奪った。それを許すわけにはいかない…ッ!」

 泰平が淡々と、しかしはっきりと答える。ヨシカは泰平にナイフを向けた。

「あんたに…何がわかるっての!」

 ヨシカが感情的になってナイフを振り上げたその瞬間だった。

 泰平が隠し持っていた「何か」をヨシカの右手に投げつける。「何か」はヨシカの右手首に直撃すると、そのままヨシカの右手首を壁に叩きつける。

 ヨシカは右手を動かそうともがくが、壁に貼り付けられてしまって動けない。

「なんなの…こんなの…!」

「行け」

 泰平が指示を出すと、めいと竜が改めてヨシカに駆け寄る。今度はヨシカはナイフを使えない。

 ヨシカは左手一本でリモコンのスイッチを押そうとする。

 だがそれよりもめいがヨシカの手首を壁に叩きつける方が早かった。

「っ!」

 ヨシカの手から離れたリモコンは、地面に落ちる前に正がキャッチする。正はそのまま腰に下げていた工具セットを使ってリモコンの分解を始めた。

 ヨシカはなんとか左手一本でめいを振りほどこうとするが、すぐに竜も加わったせいでどうしようもなかった。

「離せ!離せぇっ!」

 ヨシカは檻から逃れようとする獣のように暴れ回る。

「前田」

 泰平は短く指示を出すと、暴れ回るヨシカの脚を抑える。

 そこに理沙は布を持ってヨシカに近づいた。

「静かにしてて、しばらくね」

 ヨシカは首を振ってもがく。

「やめろぉぉおっ!」

 ヨシカの叫びを封じ込めるように、理沙は麻酔を染み込ませた布をヨシカの口元に押し付ける。理沙が数秒押しつけると、ヨシカは抵抗しなくなり、意識を失った。

 泰平は周囲を見渡す。おそらく誰にも見られていない。

「よし、池田、竜、手筈通りに。細田」

 泰平の指示を受けて蒼がまずヨシカの右手首に何かを振りかける。

「すごいでしょ、私の作ったスライム」

「いい出来だった。次も頼む」

 蒼が言っているのは、泰平が投げつけたものの話だった。泰平に褒められると、蒼も得意げに微笑む。

 しばらくすると、スライムが溶けた。倒れてくるヨシカを竜が背負う。

「じゃあ行ってきます」

「武田さんのところへ、頼んだ」

「『タダでも喜んでやるぜ』」

 良子と竜はヨシカを運ぶのとその護衛としてその場を後にする。

 同時に泰平は通信を入れた。

「こちら西側D班、土方ヨシカを確保、ただいまより作戦第二段階に入ります」

「こちら武田。了解した」

 泰平は通信を切ると、リモコンを分解した正に話しかける。

「どうだ?」

「チョロい。もう済んだ」

「よし、次も頼む」

「アイサー」

 泰平と正は短く言葉を交わす。そして泰平がハンドサインを送ると、D班はどこかへ駆け出した。




 事態を知らない上風は、毎朝新聞本社の南側で火野と水茂からの連絡を待っていた。

 上風のいるところからはしっかりと本社が見える。爆発させればその情景は全て上風の目に映る。

「もうすぐ会えますよ、皆」

 上風の表情は穏やかだった。

 右耳に付けたイヤホンにノイズが入った。

 上風がイヤホンを押しつける。

「水茂だ、位置に着いた。いつでもいいぞ」

「火野もだ」

 上風は2人の声を聞くと、リモコンを両手で握りしめた。

「わかりました」

 上風は静かにそう言うと、左手一本でリモコンを持ち、本社の方へ突き出した。

「これでおしまい…」

 上風の親指がボタンにかかる。少し力がかかればボタンは押される。

「また会いましょう」

 上風が指に力を入れた。


 銃声が鳴り響く。


 手元から離れて宙を舞ったリモコンに、もう一度銃声が鳴り響く。


 上風が手を伸ばした時には、リモコンはバラバラになっていた。


「そんな…」

 上風が振り向くと、硝煙漂う拳銃を持っているのが2人、佐ノ介とマリが上風に銃を向けていた。

「あの人を」

 佐ノ介が他の班員たちに軽く指示を出す。みんなズラズラと上風に近づくが、上風は一切抵抗しない。

 真次が上風を後ろ手にさせて手錠をかける。やはり上風は抵抗しなかった。

「こちら南側A班の安藤。上風を確保」

 佐ノ介は短く通信を入れる。そのまま指示を出す。

「遠藤さん、広志、上風を武田さんのところへ」

 佐ノ介の指示を受けてマリは上風の腕を掴む。

「あなたと会ったのはもう10年も前になるわね。あなたったら本当におっちょこちょいで、ヒサトが生まれた時も本当に大変だったわ…」

 マリはその時初めて上風が延々と何かを呟いているのに気づいた。耳を傾けると、それは、夫との思い出話だった。




「おい、上風、まだか?」

 水茂は携帯電話に呼びかけるが、返事がない。

 水茂は固唾を飲みながら本社の方へ振り向く。爆弾は仕掛けた。だが爆発する機会は全くない。

 携帯電話から怪しい物音が聞こえてくる。上風はやられたのだろう。

「勘付かれたか…なら俺が…」

「動くな」

 水茂の背中に何かが当てられる感覚と、若い声が響く。水茂は瞬時に考えを巡らせ始めた。

「水茂貞興だな?抵抗しないで俺たちと同行してくれ」

 水茂を説得しようとするのは遼だった。水茂は銃を突きつけている人間と話している人間が別人であることから、最低でも3人以上はいることを確信した。

「断ればどうする」

 水茂が語気を強めると、背後で銃を構える音がする。おそらく全部合わせて敵は7人。さらに相手が素人であろうことを考えると、水茂には十分突破できる算段がついた。

「生かしては返さないだろう」

 遼は一瞬躊躇うと、毅然として言い切る。

 子供たちは各自の拳銃を握り締める。

 水茂の背筋がスッと伸びた。

「やってみせろ」


 水茂がそう言って振り向くと同時に、真後ろで銃を突きつけていた武が投げ飛ばされて壁に叩きつけられる。

 水茂は人数を確認する。やはり読み通り残りは6人。嬉しい誤算で1人は完全に及び腰になっている。

 水茂は正面にいるサブマシンガン(UMP)を持つ遼に瞬時に近寄る。

 遼が引き金を引くより早く、遼をボディーブローで吹き飛ばすと、吹っ飛んだ先にいた香織とまとめて地面に倒した。残るは4人。

 水茂はその時、後ろから凄まじい力で背後から何かに首を締められていた。

「何っ!?」

 水茂が驚く間も無く、首を絞めている明美が水茂に声をかける。

「あなたの気持ちはよくわかります!全部を理不尽に奪われ、その上あんなことを書かれたら怒って当然です!だけどどうか冷静になってください!」

「俺は冷静だ!知ったような口を利くなっ!」

 言葉を発しながら気合いを入れると、水茂は明美を振りほどいて投げつける。

 運悪く水茂の正面にいた桃に、明美が飛んでくる。回避が遅れ、桃は明美の下敷きになって動けなくなった。

「数馬!」

「殺るしかねぇ!」

 現状で数少ない無傷の数馬と竜雄は短く言葉を交わし、水茂との戦闘に臨む。

「待て…数馬…!」

 遼が止めようとするがまともに声が出ない。数馬ならきっと水茂を殺す。遼はそう確信して最後まで手を出させなかった。だがこうなってはどうしようもない。

数馬と竜雄は走りながら水茂に拳銃を向ける。距離は約5m。

 水茂もすぐに拳銃を抜く。そして抜き放ちざまに数馬に狙いをつける。

 数馬は引き金を引くより飛んでくる銃撃の回避を優先した。地面を前転すると、飛んできた銃弾をかわす。

 その間に竜雄が一気に駆け寄る。そのまま水茂の頭部を狙った銃撃。しかし水茂はそれを首をひねってかわした。

 その隙が竜雄の狙いだった。

 水茂の姿勢がわずかに崩れた下半身を狙い、竜雄は姿勢を低くして突っ込む。

(なんだと!?)

 水茂は銃撃ではなく、格闘戦を仕掛けてきたことに驚く。結果反応がわずかに遅れ、姿勢が崩れると、そのまま竜雄のタックルで床に押し倒された。その衝撃で水茂のポケットからはリモコンがこぼれ落ち、思わず拳銃も手から離れた。

 そのまま竜雄は水茂に馬乗りになると水茂の顔面を目がけて拳を振るう。だが水茂は竜雄の攻撃を全てかわしていた。

「こんの野郎!」

 そうして水茂は反撃のパンチを竜雄に入れると、彼を蹴り飛ばす。

 そのまま水茂がリモコンを取ろうと手を伸ばした瞬間、銃声が響いた。

「…なんだと…?」

 水茂が自分の脇腹に手を当てる。生暖かい感覚がそこにあった。

 水茂は少し顔を上げて辺りを見る。数馬の拳銃が、黙って硝煙を上げていた。

「…くっ…俺はいつも詰めが甘い…」

 数馬が水茂に近づいていく。数馬は水茂を真下に見下ろせる位置まで来ると、拳銃を構えた。

「覚悟してくれ」

 数馬がそう言うと、水茂は目を閉じる。

 これなら捕まえられる。数馬はそう思うと、左のポケットから手錠を取り出そうとする。

 それが甘かった。

「フン!」

「!」

 水茂は残っている全身の力で体を地面を滑らせるように回転させる。そうして数馬の足を払ってそこに倒した。

 水茂はそのまま立ち上がると、自分が落としたリモコンと拳銃の下へ駆ける。

 数馬も痛がる暇もなく膝立ちになって右手に握った拳銃を水茂に向ける。


 水茂が振り向く。


 数馬が構える。


 2発の銃声は同時に響く。


「ふ…ふ…」

 水茂が笑い声を漏らす。一方の数馬は鋭い表情のままだった。

 そのまま数馬は立ち上がると、脇のホルスターに拳銃をしまった。

「最初からこうするしかなかったんだ」

 数馬はそう言って水茂に背を向ける。振り向いた数馬の頬には銃弾が掠めていた。

 水茂はもう何も言わない。眉間に空いた風穴を、誰にも見せないように暗闇に倒れ込んだ。




 火野は本社の東側で様子を窺っていた。

 携帯電話から聞こえる物音は、上風も水茂も何かに巻き込まれたことを意味していた。その証拠に本社は一切爆発する様子を見せない。

「…誰だ」

 火野は背後にただならぬ気配を感じた。振り向きざまに拳銃を抜き、気配に向けて銃を構える。

 白色の街灯の光に照らされたのは、防弾ベストとヘルメットを着用した特殊部隊員、それにしては明らかに小柄な人間だった。背中に回してはいるものの、ショットガンを持っているのも火野にはわかった。

「火野、マチオさんですね。今すぐそのリモコンを置いて投降してください」

 火野の目の前の人間は静かにそう言う。

 火野は拳銃を下ろそうとはしない。左手に握るリモコンも、離す気配すら見せない。

 だが火野の目の前の人間は話し続ける。

「大切なものを奪われ、踏みにじられ、復讐に走った。あなたは間違っていない。正義はあなたにある。これ以上あなたが手を汚す必要はない。だからそれを置いてください」

「貴様に何がわかる…!カナコはまだ3つだった、あの子が死んで当然だったなんて誰にも言わせん!そんなことを言う奴が1人だってこの世に存在しちゃいけねぇんだ!」

 火野は叫ぶ。特殊部隊員が黙り込むと、火野は続ける。

「さぁわかったらそこをどけ!俺の邪魔をするな!」

 火野が拳銃を握る力を強める。

「あなたの気持ちはわかります」

「ふざけるな!」

 火野の一喝にも怯まず、特殊部隊員は黒いヘルメットを外した。

 街灯の光に対し、影になっていた彼の顔がはっきりと火野の瞳に映った。

「…子供?」

 火野の手が震えた。目の前に立ちはだかるのは、まだ年端もいっていない子供。おそらく10代前半だろう。

「子供が…どうして…」

 火野は思わず声を漏らす。それに対して子供は毅然とした態度で話し始めた。

「俺の名前は魅神暁広。俺もあの街で家族をみんな失いました。自分から全てを奪った連中を殺してやりたい気持ちはよくわかります。そんな俺たちだからあなたを止めに来たんです。これ以上はいけない」

 暁広の言葉に、火野は戸惑う。後退りそうになる足を必死で踏ん張りながら、火野は暁広に銃を向ける。

「…だったら…わかるだろう…」

 火野は自分に言い聞かせるように声を発する。

「一度始めたことを…復讐を…ここで投げ出すわけにはいかないんだ…!」

 暁広は火野の言葉に身構える。火野はそれを制すように暁広の足元に発砲した。

「頼む…子供は撃ちたくない!」

「火野さん!」

 火野は暁広の呼びかけに銃撃で答える。防弾ベストに直撃した銃撃は、暁広を吹き飛ばした。


「俺は…地獄に落ちるしかないんだ!」


 火野の叫びと同時に、スイッチは押された。


 夜の闇に、紅い炎が立ち上った。

 白い煙が舞うと、轟音があたり一帯に響き渡り、近代的で都会の一角を彩っていたその建物は崩れ落ちた。

 炎はあたりを食らうように燃えていく。空まで喰らわんばかりに、炎は天に昇っていった。

 子供たちは一斉にそちらに振り向く。建物は全壊し、炎が辺りを照らす。


「武田だ。爆発を確認した」

 子供たちの通信機に武田から連絡が入る。武田は冷静に続けた。

「任務は続行する。繰り返す、任務は続行する。消防及び警察が来る前に残る火野マチオを無力化せよ」

 武田の声は暁広にも届いていた。

 そんなことは知らず、火野は暁広の目の前を横切り、本社から離れるように走り始めた。

「こちら…魅神…B班のみんな…!プランCを実行する!」

 暁広はヘルメットを回収しながらその中の通信機に呼びかける。持ち場についていたB班の各メンバーは、任務の本格的な始まりに気合を入れた。


 火野は入り組んだ路地裏を走る。目指すは西側。逃走用の車を停めておいた場所。

「まだ捕まるわけにはいかない…奴らに協力した全てを…この手で殺し尽くすまで…!」

「そこまでよ!」

 路地を抜けられそうなところまできた瞬間、火野の正面に玲子が飛び出してくる。

 火野が拳銃を構えるより速く、玲子は持っていたリボルバー拳銃(M500)を発砲し、火野の脇腹を撃ち抜いた。

「ぐあぁあっ!!!」

 玲子の拳銃は並大抵の拳銃よりも威力がある。思わず火野もそれに怯み、大きく後ずさりながら拳銃を乱射する。

 玲子は咄嗟にその場にあったゴミ箱に隠れてやり過ごす。

「くそっ…!」

 玲子を倒さないと西側へは進めないと察した火野は血の流れる脇腹を抑えながら来た道を走って戻っていく。迂回すれば西側に回り込めるはず。

 火野は北側へ曲がれる十字路までやってくる。だが、そちらもまずかった。

 火野がそちらを覗くと、拳銃を持って待ち構えていた心音が、火野に発砲してきた。さらには火野の背後からは玲子が迫ってきている。

 仕方なく火野は南側に逃げる。

 この先に西側に曲がれる道はひとつしかない。火野としては最悪だった。

 心音や玲子も火野の背後から銃撃を浴びせてくる。火野はそれらをしゃがんでかわしながら進んでいく。

西側に曲がれる突き当たりへやってきた。だが火野の望みは断たれる。

「諦めてくれ」

 西側への通路の先にいたのはサブマシンガンを持った駿だった。

(なんて連中だ…!)

 火野は舌打ちしながら東側へ逃げていく。こうなってはこのまま路地裏を抜けるしかない。

 背後から駿のサブマシンガンによる弾幕も加わる。激しい攻撃をいなすようにしながら火野は路地裏から出た。


 路地裏から出た先は海だった。その先に逃げ場はない。

「動くな!」

 火野の左から声がする。火野が向くと暁広と茜が各々の銃を火野に向けていた。

 火野は反対側を見るが、そちらにも圭輝と浩助が銃を向けて立っていた。

 全ての方向を敵に囲まれ、火野は動けなくなっていた。背後は海である。

「どけ!俺の邪魔をするな!」

 火野は拳銃を向けて叫ぶ。子供たちは怯まなかった。

「投降してください!」

 茜が叫ぶ。だが火野はそちらを向いて怒鳴った。

「黙れ!」

 茜に対して火野が発砲する。

 即座に暁広が茜におおかぶさって庇う。

 そのまま火野は拳銃の5連射で残りの子供たちの銃を吹き飛ばした。


 暁広はショットガンを向けた。


 火野と暁広の目があった。


 暁広が引き金を引いた。


 銃声が鳴ると同時に、火野の腹に風穴が空いた。


「あ…ああ…」

 火野は腹を押さえながらその場に崩れ落ちる。彼の瞳には、茜の手を取って立ち上がらせる暁広の姿が映っていた。

 その景色は、自分が妻の手を初めて取ったあの時が重なって見えた。

「ともか…」

 いつか自分の娘が大きくなった時、大切な人とああいう風に手を取り合うはずだったのだろうか。

「カナコ…」

 右手から拳銃がこぼれ落ちる。

 もう何も見えない。

「俺に…もっと力があれば…」


 火野はそう言って力尽きた。

 最後まで右手を拳銃へ伸ばし、その果てだった。


 暁広は彼の死に様をただ見つめると、ヘルメットの通信機へ話しかけた。

「こちらB班…火野マチオを…殺害した」


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

火野たちは一つの結末を迎えました

ですが物語はまだ続きます

どうか最後までお付き合いください

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