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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 3 復讐
22/124

Chapter 3-3 不可視の鷹

残酷な描写が含まれています

苦手な方はご注意ください

 泰平たちD班は洋館の北側から突入していた。

 この班は湘堂市から脱出する際にあまり戦っていない。そのためどこか不安そうな空気が班の中に漂っていた。

 先頭を行くのは竜と正。そのすぐ後ろで泰平はサブマシンガン(P-90)を構えてまとまって歩いていた。

 門を開け、扉を開ける。薄暗く不気味な倉庫が目の前に広がっている。そして左側の方から壁越しに銃声が聞こえてきていた。

「数馬たち、本気で撃ち合ってるね」

「敵は向こうの方に行ってる。今なら洋館の中央の敵指揮官を狙えるだろう。トッシーたちを援護しに行こう」

 めいの言葉に泰平が方針を明示する。他のメンバーもうなずいた。

 その瞬間だった。

 上から何かが降ってくる。黒い影。

 瞬時に彼らはそちらに銃を向ける。黒い影はゆっくりと子供たちの方を向いた。

「機敏な判断。どうりで生き残っているわけだ」

 黒い影は短くそう言うと腕のナイフを広げた。

「細かいことはいいだろう。俺はお前たちを通せない。子供であってもな」

 ゆっくり歩いてくるその影が光に照らされる。黒い服にフードをかぶっているようだった。

「戦闘は本望ではない。退いていただきたい」

「断る。こちらは戦いが望みなんだ」

 泰平に対して黒い影はそう返す。子供たちの目つきがキッと鋭くなった。

「さぁ、戦おう」

 黒い影はそう言う。同時に竜が持っていたリボルバー拳銃(S&W M29)の引き金を引く。黒い影はそれをサイドステップでかわしながら、次の瞬間には徐々に透明になっていた。

「消えた…!?」

 蒼が思わず声をあげる。文字通り敵は消えたのである。

「メタリカか?」

「『見えないんだ…』」

 正と竜が短く言葉を交わす。すぐに泰平は指示を出す。

「みんな背中合わせになって警戒!」

 泰平の指示通り全員で背中合わせになって円陣を組む。すべての方向に銃を向けて警戒をする。

「どうするの?見えない相手なんてどう戦うの…!」

「足音聞こえるんじゃない?静かにしてれば」

 良子に対して理沙が皮肉っぽく言う。しかし彼女たちが黙り込んでも足音は聞こえなかった。

 泰平の左側から物音が聞こえた。すぐ左側には背の高い木箱。その影から物音が聞こえたのである。全員でそちらを向いたその時だった。

 背後になった方角から銃声と銃弾が飛んでくる。全員慌てて振り向きながらその銃声から距離を取るように女子たちが逃げる。

「待て!散らばっちゃダメだ!」

 泰平が言うと、女子たちは距離を取りすぎない程度に箱に張り付く。

 すぐさま正が持っていたグレネードランチャー(M79)の引き金を引く。爆発音が鳴り響いたかと思うと、着弾した部屋の壁から爆煙が舞い上がり、赤い炎が残る。部屋は頑丈なのか爆発によって崩れることはなかった。

「やったか?」

「甘い」

 敵の声が低く部屋全体に響く。敵がどこにいるのかわからない。

 泰平の目には一瞬赤い炎が透明な何かに遮られたように映った。すぐに狙いをつけてサブマシンガン(P-90)の引き金を引く。しかしすぐにその違和感は消え去り、ただの赤い炎があるだけだった。

「さっきのは外れてくれたからなんとかなったけど、このままじゃ間違いなく死人が出る。なんとかしないと」

「そんなこと言ったってどうやって?」

「さっき敵が炎の前を横切ったら違和感があった。似たようなことをできれば…」

 泰平はめいに対してぼやく。彼らは常に全方向を見回しながら方法を模索するが、敵の姿が見えない。

(考えるんだ…何かあるはずだ)

 泰平は必死で考えを巡らせる。サブマシンガンの銃口から漂う硝煙越しにあたりを見回すが、何をどうすればこの状況を突破できるか、未だに思いつかない。

(足音は鳴らない、だからそれはダメだ…なら何があるんだ…!)

「そこだ」

 頭上から響く低い声。泰平たちは瞬時に前に転がる。そして振り向くとナイフが泰平のいたところに突き刺さっていた。

「勘のいいガキどもだ」

 敵が呟くと同時に子供たちは銃撃を浴びせる。すぐさま敵はバック宙返りして箱の上に乗る。同時にまた姿を消した。

(箱の上も動き回るようじゃ床に細工をしてもダメだ…もっと何か工夫をしないと…)

 泰平は考えを巡らせる。子供たちの銃口から硝煙が漂っていた。

(これだ…)

 泰平の脳神経が活発化し、彼をせきたてた。

「煙幕だ、煙幕を部屋に撒けば奴の姿が見えるはずだ!」

 泰平が熱を帯びて言う。子供たちも泰平の意見を聞くと、目に光が宿った。

 泰平はすぐさまリュックを前に下ろすと、そのファスナーを開け、中身を漁る。

「油断したな」

 泰平の横から声がする。彼がそちらを向いた瞬間、銀のナイフが煌めいた。

「!」

 泰平はすぐにその場を離れ、ナイフを抜く。そして自分の左腕にナイフを這わせ、敵に血を飛ばした。

「?」

 敵にはその行動が理解不能で、すぐさままた透明になって姿を消す。子供たちも銃撃を浴びせたが、1発も敵には当たらなかったようだった。

 泰平はリュックに駆け寄ると、その中から煙幕を取り出す。

 ピンを強引に引き抜き、床に叩きつけるようにしてそれを投げる。ものの数秒で部屋中に白い煙が充満した。

「よし、この状態で赤い物体が浮いていたらそれが敵だ!探し出して狙って撃て!」

 泰平が指示を出す。子供たちは周囲に目を凝らした。

(小細工を…!だが気付かれる前に殺せば勝てる!)

 敵は今になって泰平のしたことに気づくと、覚悟を決めてステルス迷彩のスイッチを入れ、箱の上を駆ける。

 泰平たちまで5mほどの箱の上に彼がたどり着いたその時だった。

「そこだ!」

 泰平と目が合った。泰平はそのままサブマシンガンの引き金を引いていた。

 銃声が鳴り渡った。だが敵は走るのをやめない。

 銃声が大きくなる。破壊音とも聞きまごうような金属音が部屋に響く。透明だった敵の体は再び元の色になっていた。

 敵は箱を飛び降り、泰平の首を狙ってナイフを振りかぶった。

「うおらああ!」

 泰平は覚悟を決めた。

 目の前に迫ってくる敵の表情を真っ直ぐ睨み返しながら横に飛び込みつつサブマシンガンの引き金を引いた。

「うぐわぁあああ!!!」

 敵の悲鳴がする。防弾チョッキの装甲が薄かった敵の脇腹を、泰平のサブマシンガンは撃ち抜いていた。

返り血が泰平の顔を汚す。

 敵はその場に倒れると、天を仰いだ。薄暗い照明の中、男女入り混じった子供たちの顔が、自分を見下ろし、銃を向けていた。

「ここまでか…してやられた」

 敵はそう呟きながら咳込む。泰平が現れて敵に銃を向けると、敵は自嘲的に笑った。

「見事だった。頭が切れる男はいい」

 泰平はその言動に違和感を覚えた。これが本当に自分たちの故郷を滅ぼそうとした人間の言動だろうか。

「あなた方は何者なんです。どうして俺たちの街を…」

 泰平が言うと、敵は首を横に振った。

「俺の、最期の、至福の時間を、くだらないおべんちゃらで遮るな…」

 敵はそう言うと、右手のナイフを床に置き、ポケットへ手を伸ばす。子供たちが警戒するが、すぐに敵は言葉を発した。

「やめろ…抵抗する気はもうない」

 敵はそう言うと、右手で何かを取り出し、左手を自分の胸に置く。右手で何かを握り、それを顔に近づけていた。

「この先にエレベーターがある。それを登った先に、俺たちのボスがいる」

 敵はそう言うと、右手の物体を口に飲み込んだ。

「何をした!」

「毒だよ…もうお前らに危害は加えない…」

 敵は安らかな表情をすると、小さく呟いた。

「祖国に栄光あれ」

 敵はそれだけ言うと目を閉じた。

 敵はもう身動きひとつしない。

「…行こう」

 泰平が言うと、全員両手を合わせてから小走りでエレベーターを目指した。







 佐ノ介たちA班は南門から突入していた。先頭を行くのは佐ノ介とマリ。後ろから他の子供たちも銃を構えてついてくる。初めは戦うのを恐れていた子供たちも、今はその表情から恐れが消えていた。

 彼らは扉を蹴り開けると、洋館の中に入って状況を見渡す。銃声が東門の方から聞こえてきた。だが彼らの前には薄暗い空間が広がるだけで敵も何もいない

「こっち側に敵が全くいない…」

「音はC班の行った方から聞こえるね〜」

「敵は全部C班に集中してるのか…」

 さえ、桜、広志が口々に言う。

「どうする?」

 真次が佐ノ介に尋ねる。マリも不安そうに佐ノ介の様子を見ていた。

「俺たちの任務は敵の黒幕を殺すこと。最優先はそれだ。武田さんの話だと黒幕は中央にいる。ならば中央に行くぞ」

「C班大丈夫かな」

「数馬はじめ皆腕が立つ。なんとかなるだろう。行こう」

 佐ノ介が言うと、みんな不安そうな表情を押し隠して走り出す。正面にあったエレベーターの扉を開けてそれに乗り込むと、エレベーターはゆっくりと上に登っていく。

 エレベーターが止まると、細い通路が目の前に現れた。

 細い通路の先に広間があった。だがその広間に、何人か見覚えのある顔が床に転がっていた。

 子供たちが通路を駆け広間にたどり着いたのと同時に、謎の男の声が聞こえた。

「ここまでだ、少年」

 佐ノ介はすぐさまその声の方を向いた。

 黒ずくめの謎の男が2階でナイフを誰かに向けている。

 佐ノ介は一瞬で狙いをつけると、ナイフへ銃弾をたたき込んだ。

「っ!」

 ナイフが吹き飛ぶ。謎の男はゆっくり佐ノ介の方へ向いた。

「女子は怪我人の手当てを!真次、広志!奴をとっちめて2階の負傷者を助ける!」

「おっしゃあ!ぶっ飛ばしてやるぜ!」

 佐ノ介が指示を出すと女子は広間に倒れている玲子、駿、浩助、圭輝を救出する。真次と広志は銃を2階に向けていた。

「冷静な判断力に優れた射撃の腕。お前、名前はなんだ?」

 佐ノ介は容赦無く敵に発砲する。敵が少し体を捻らなければ、そのまま眉間を撃ち抜かれていただろう。

「教える義理はない、か。いいだろう。私のことはヤタガラスと呼びたまえ」

「ハッ、かっこいーねぇ、この人殺し!」

 佐ノ介はそう言うとヤタガラスの眉間を目掛けて引き金を引く。同時に真次も拳銃デザートイーグルを、広志もアサルトライフル(HK33)を発砲する。ヤタガラスは伏せながら手すりに隠れつつ転がった。

「気をつけろ…!奴はワイヤーで移動する!」

「トッシーか!?」

 2階から暁広の声がする。真次も一旦発砲をやめて質問する。暁広は柱の影に隠れようと這いずった。

 佐ノ介と真次と広志は左側の階段を登りながら発砲する。ヤタガラスはすぐさまワイヤーを伸ばし、広間の真上の天井にぶら下がり、広志を撃ち抜いた。

「うぉあっ!」

 広志が階段に倒れる。真次がすぐさま彼を担ぎ、2階に登った。

 佐ノ介は階段に止まったままぶら下がるヤタガラスに発砲する。すぐさまヤタガラスはフックショットごと広間に着地してその銃弾をかわす。

「くそっ、よく動く鳥さんだね!」

 佐ノ介が悪態を吐きながら2階に登る。2階の柱の影では、茜が暁広と心音と広志を治療していた。

「佐ノ介!大丈夫か!」

「俺は大丈夫だ!」

 真次と佐ノ介が短く言葉を交わす。そして拳銃をヤタガラスに向けて発砲しようとするが、ヤタガラスは瞬時に真次を撃ち抜いた。

「くそぉっ!」

「真次!」

「俺は平気だ!奴を倒してくれ!」

 真次は這いずって柱の影に隠れながら佐ノ介に言う。佐ノ介は素早くうなずいた。

 佐ノ介は一瞬だけ身を乗り出して引き金を引く。佐ノ介の放った銃弾はヤタガラスの拳銃を吹き飛ばした。

「おぉ、やるじゃないか」

 佐ノ介はヤタガラスの声に応えるようにもう1度引き金を引く。瞬間ヤタガラスはフックショットで2階へ登ろうとする。

 すぐに佐ノ介は狙いをつける。撃つのはフックショットから伸びるワイヤー。

 銃声が鳴り響くと同時にヤタガラスのフックショットのワイヤーが切れる。ヤタガラスは姿勢を崩しながら2階に転がり込んだ。

「いい腕だ、本当なら全部急所だったろう」

「ご要望とあらば!」

 佐ノ介が言い返すと同時に引き金を引く。しかしヤタガラスは姿勢を低くして前転すると、佐ノ介の拳銃を蹴り飛ばした。

「くっ」

 佐ノ介はすぐに銃を取ろうとするが、ヤタガラスは蹴りを佐ノ介の腹にたたき込んだ。

「うぐぅあっ!」

 佐ノ介は吹き飛んで倒れた。ヤタガラスは倒れた佐ノ介を見下ろし、もう一丁の拳銃を腰から抜いた。

「ここまでだ。いい腕だったぞ」

 ヤタガラスがそう言ったと思うと、拳銃を佐ノ介に向ける。ほとんど同時にヤタガラスの左側から銃弾が飛んでくる。

 その銃弾はヤタガラスの肩をかすめただけだったが、ヤタガラスはすぐさまそちらへ振り向く。女子が1人、遠藤マリが通路の影から拳銃を発砲していた。

「あぁ、そういうことか」

 ヤタガラスは一言そう言うと、拳銃でマリを狙った。

「この野郎!」

 佐ノ介はすぐさま立ち上がり、ヤタガラスの腰に飛びつく。ヤタガラスは後退り、佐ノ介を振りほどこうともがき始める。

「守るものがある人間は強いな!だが!」

 ヤタガラスは佐ノ介の顔面に膝を叩き込むと、佐ノ介を蹴り飛ばす。

「そこまでだ!」

 ヤタガラスはすぐさまマリを拳銃で撃ち抜く。マリは咄嗟に影に隠れたが、肩を撃ち抜かれていた。

「俊敏だな」

 ヤタガラスは小さく言うと、改めてそこに横たわる佐ノ介に銃を向けた。しかしそこに佐ノ介はおらず、佐ノ介はどうにか転がって柱の影に隠れた。

「大切なものを守るためにお互いに命をかける。素晴らしいな」

 ヤタガラスは独り言で呟く。

 その頃2ヶ所にまとまることになった子供たちはそれぞれ作戦会議を始める。

 2階の柱の影にいるのは暁広、茜、心音、佐ノ介、広志、真次。

 1階の通路の影にいるのは駿、浩助、圭輝、玲子、マリ、美咲、さえ、桜。

 2階で無傷なのは茜、1階で無傷なのは美咲、さえ、桜である。

 暁広はその場のメンバーを集めて話す。

「このままじゃ全滅する。どうにかして奴を倒すぞ」

「だが適当に銃を撃っても避けられる。背後から狙撃できれば…」

「1階の駿たちとうまく連携できなきゃ無理ね」

 暁広、佐ノ介、心音と話す。

 一方の1階側も作戦会議をする。

「どうすんの、私らにできることは…」

「持っている銃の性質的に、弾幕を張るのが得意だから…」

「奴の気を引き、2階の人たちの狙撃に委ねる」

 さえ、駿、マリと話す。

 彼らが作戦会議を終えたのとほとんど同時だった。

「いいかお前ら!私はあと10秒で貴様らのどちらかを全滅させる!1階か、2階か!さぁどっちだろうな!」

 ヤタガラスは叫ぶ。

 部屋の子供達に、異様な緊張感が走った。


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

未だ緊張感漂うChapter3です。最後までみんな生き残ることができるのでしょうか。

どうぞ最後までお楽しみください

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