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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 2 幕開け
14/124

Chapter 2-4 校内探索 3階A班

残酷な描写が含まれています

苦手な方はご注意ください

今回やや長めです

 各階ごとに分断された6年3組だが、各班そのまま役割分担通りに各階を探索することになった。

 最上階である3階を担当するのはA班。安藤佐ノ介、遠藤マリ、伊藤美咲、金崎さえ、大島広志、藤田真次、吉田桜の7人である。


 まず佐ノ介はひと通りみんなが持っている銃を眺めていた。みんな拳銃である。持っているのは佐ノ介、マリ、真次、桜の4人。真次の持っている拳銃デザートイーグルは殺傷能力が高く、頼りになりそうだったが、佐ノ介としてはそれ以上に拳銃しかないことが不安だった。

(敵には長物持ちが結構いる…いくら屋内では取り回しの利く拳銃も優れてるとは言え、素人だしな…)

「こんなかで一番荒事慣れしてんのは佐ノ介だろ?どうする?」

 広志が不安そうに尋ねる。佐ノ介は背後の防火シャッターを叩いて銃で撃ち抜けなさそうなことを確認すると、話し出した。

「このシャッターはどうしようもないだろう。とりあえず6年3組の教室で一旦今後の見通しを立てるか」

 落ち着いた佐ノ介の声に、みんな少し安心しながらうなずく。ひとまずは佐ノ介を先頭に左に進み、6年3組の教室の扉の前に立つ。

 佐ノ介が扉を少し開けて中を確認する間、他の面々は辺りを見渡す。窓も防火シャッターで塞がれた暗い廊下は小学生達の不安を煽るには十分すぎるほどだった。

「異常なし」

 佐ノ介が短く言ってそっと扉を開く。佐ノ介が廊下を警戒し、他のメンバーはズラズラと教室の中に入っていく。最後のマリが入ったのを見ると、佐ノ介も教室に入って扉を閉める。教室の窓もやはり防火シャッターで閉じられており、電気のついてない教室は暗かった。

「遠藤さん、向こうの扉お願い」

 佐ノ介がマリに指示を出す。マリがうなずくと、2人はそれぞれ扉の近くに机を並べ、簡易的なバリケードを作った。

「じゃあ安藤、仕切ってよ」

 美咲が言う。声が震えて、いつもの余裕はない。佐ノ介はそれを気にせず続けた。

「お言葉に甘えて。紙と筆記用具ある?」

「あるよ〜。置き勉しててよかった〜」

 佐ノ介が言うと、桜が自分の机から筆箱とルーズリーフを取り出す。佐ノ介はそれを受け取ると、机の上にそれを広げて校舎3階の地図を書き始めた。みんなも机の周りに立ってその様子を見守る。

 校舎はアルファベットの「Z」のような形をして、北棟と南棟に分かれている。佐ノ介達がいるのは「Z」の上の直線部分、斜線との付け根辺りで、北棟だった。

 6年3組を出てすぐ左には6年生の教室がある。さらにその奥、「Z」の書き初めのところには教材室があり、北棟はそれだけである。

「Z」の斜線部分は渡り廊下で何もない。下の直線は南棟で、6年生と5年生の教室が並び、直線の中央辺りに階段があり、1番端には準備室のついた音楽室がある。

「まずは俺たちのいる北棟の教室をひと通り調べよう。教材室は重点的に。その後に南棟で」

「4組の前の外階段も調べておこうよ」

「南棟に行ったら階段も調べた方がいいんじゃないか?あっちからなら脱出できるかも」

 佐ノ介の言葉にマリと真次が言う。佐ノ介はうなずいた。

「全員固まって行動するのを忘れないように。ヤバくなったりはぐれたりしたら、無理に合流を試みるより、ここに逃げ込んで」

 佐ノ介が言うとみんな緊張した表情でうなずく。女性陣は暗い表情すらしている。佐ノ介はそれを見て、小さく笑ってみせた。

「なに、みんな性格悪いから簡単にゃ死なないって」

 佐ノ介なりの緊張をほぐすジョークである。すぐに桜がのほほんと切り返した。

「性格悪いとか〜、佐ノ介に言われたくな〜い」

「ホントね。日頃問題児のくせに」

 桜の言葉に美咲が同意し、さえも笑ってうなずく。マリは何か言いたそうだったが、無言でうなずいていた。釣られるようにして広志も小さく笑っていたが、真次だけは佐ノ介の耳に近付いて尋ねた。

「バカにされてんのにいいのか?」

「全員で生き残る確率が上がるなら、安いもんさ」

 佐ノ介の言葉に真次は黙ってうなずく。真次も小さく笑った。

「じゃあ行くか。気を引き締めて。俺と遠藤さんで先頭行く。真次、桜、後ろ頼んだ。残りは間に挟まって」

 佐ノ介に言われて一行は隊列を組む。

 佐ノ介は教室の扉をそっと開けて周囲を見回した。異常はない。そのまま左側へ歩き始めた。


 北棟の廊下の突き当たりにやってきた。佐ノ介達は6年4組の扉を開ける前に、まずすぐそこにあった外階段の入口を調べた。

 外階段は各階の北棟を繋いでいる階段である。仮にここが使えれば分断された状況も打破できる。

 しかし、目の前の扉はどういう訳か鍵が掛かっていた。鍵穴らしい鍵穴もない。

「前までここの鍵って手動だったよな?」

 佐ノ介が低い声で尋ねる。マリが応えた。

「去年校長先生が変わった時にオートロックになったよ」

「そうだったか」

 佐ノ介も納得して6年4組の扉に向き直った。周囲には何の気配も感じない。

「開ける」

 佐ノ介が低い声で言い、みんな気を張る。

 佐ノ介が扉をゆっくり開けて様子を見渡す。異常はなかった。

「異常なし」

 佐ノ介が言い、一行は教室の中に入る。最後の真次が入ると扉を閉めた。

 教室内には見渡す限り何もない。だが、一行は散らばって教室内を調べた。

 3分ほど辺りを調べ、見つかっためぼしいものはハサミとノリしかなかった。教室の窓もやはり防火シャッターが閉まっている。

 広志のリュックにそれらを預けると、一行は改めて警戒しながら廊下に出る。

 そしてすぐ左の廊下の奥にある教材室の前に立った。

 佐ノ介はそっと扉を開けて中を見渡す。

「異常なし」

 佐ノ介が言うと、みんな中に入る。真次が扉を閉めた。

 教材室は狭く、棚がいくつか並んでいるほか、書類ばかりだった。

「こんなの役に立つのかね?」

 広志が地球儀を持って呟く。佐ノ介はドライバーで地球儀から脚を外し、地球の模型だけを広志に投げ渡した。

「あんたの肩ならこいつ投げりゃ武器になると思う。物は使いよう」

「…わかったよ」

 広志は球体を受け取るとリュックの中に入れた。

「武器以外にもこういうのは役立ちそうだよね」

 マリがそう言ってガムテープを取ってリュックに入れる。

 しかしめぼしい物は他には無く、教材室にあるのは文具系のみだった。この状況ではどちらかというと工具の方が重宝する。

「ここまでにしよう。次は南棟」

 佐ノ介が言うと、みんな手を止める。

「南棟は先に音楽室を調べてから他の教室を調べない?」

 さえが突然佐ノ介に言う。佐ノ介は静かに尋ね返した。

「理由を」

「南棟は音楽室以外に目立った教室はないし、音楽室の近くには階段もある。時間かかるところから調べた方が効率がいいと思う」

 さえの意見に佐ノ介も黙り込んで考えを巡らせる。

(確かに効率はいいが、音楽室は廊下の1番奥、手前の教室に敵がいたら挟み撃ちにされて全滅だな…)

 佐ノ介の考えが読めたのか、マリが横から口を挟んだ。

「効率より安全を取るべきじゃないかな。音楽室は1番奥だから、手前側の教室から調べた方が安全だと思うよ。下手したら挟まれる」

「長時間うろつき回るのも危険じゃない?」

 マリの言葉にさえも返す。佐ノ介がすぐに言葉を発した。

「二手に分かれよう。危険そうな音楽室は俺と遠藤さんが受け持ち、残りが教室を調べる」

「ちょっと待て佐ノ介、お前たちだけに危険を背負わせるわけには…」

「俺たちなら大丈夫」

 佐ノ介を気遣う真次を、逆に佐ノ介が制止する。

「敵を倒した経験があるから。むしろ真次達の方こそ、自分たちの命を優先してくれ。他人を気遣いながら生き残れるほど敵は優しくない」

 佐ノ介の言葉に、みんな改めて表情を硬くしてうなずく。

 佐ノ介はそれを見て、行くか、とだけ言って扉を開けた。


 周囲を見回しながら一行は渡り廊下に差し掛かった。やはり窓には防火シャッターが下りていて外に出られそうもない。

 人の気配は少しもない。静まりかえって不気味ですらあった。非常口の照明だけの暗がりでよく見えないが、床に血の汚れなどがあるようにも見えない。

 そのまま一行は周囲を見回しながら渡り廊下を渡り切る。

 ほとんど同時だった。

「ピアノの音…?」

 一行の1番後ろにいた桜が呟いた。それに反応してみんな足を止める。確かによく耳を傾けるとわずかにピアノの音が鳴っているのが耳に入った。

「トルコ行進曲…」

 さえが呟く。ピアノに詳しいさえならではのひとことであった。

「どうすんでぇ佐ノ介?このままマリと音楽室行くのか?」

 広志が不安そうに尋ねる。佐ノ介はマリと短く視線を交わすとうなずいた。

「行く。みんなは教室を頼む」

「気をつけろよ?」

 佐ノ介の言葉に真次も不安そうに言う。佐ノ介は黙ってうなずいた。

「マリもだよ。安藤に無理に付き合う必要はないから」

「私は大丈夫。美咲ちゃんも気をつけて」

 美咲に言われてマリもうなずく。

「じゃあみんな後で会おう」

 佐ノ介が言うと、一行は二手に分かれた。佐ノ介とマリは左に曲がり、残りは正面の教室へ入っていった。


 佐ノ介とマリは南棟の唯一の階段の前にやってきた。

 やはりというべきか防火シャッターが下りていて、下の階にも屋上にも行けそうにない様子だった。

 ピアノの音が大きくなっている。だがここに至るまで人影も、人の気配もなかった。

「やっぱり、音楽室に誰かいるんだね…」

「巻き込んですまない。絶対に守るから」

「ううん、佐ノくんのみんなへの優しさはわかってる。足引っ張らないよう頑張るから」

 マリは不安そうな表情を押し殺して佐ノ介に言う。佐ノ介はマリの肩を軽く叩くと、うなずいて歩き出した。

 こんな状況で音楽室にいて、ピアノを弾いている。そんな人間が普通であるわけがない。

 佐ノ介は不安を全て拳銃を握りしめる力に変えて音楽室の扉の前に立った。左には準備室への入り口もある。

「行くよ…」

 佐ノ介はマリに小さく言うと、音楽室の扉を開けた。


 音楽室は明かりが付いていた。そして鳴り渡るピアノの音。いつもなら音楽の授業はこんな感じで始まるが、今は「いつも」ではない。

 マリが佐ノ介に続いて音楽室に入ると、音楽室の扉が音を立てて閉まる。マリは開けようとしたが、鍵が掛かって開きそうになかった。

「無理だよ。鍵は閉めた」

 ピアノと同じ方向から女性の声がする。佐ノ介とマリにとっては聞き慣れた声。だが今日のそれは不気味な響きを孕んでいた。

「四葉先生…」

 マリが呟くように相手の名前を呼ぶ。

 ピアノを弾いているその30代の女性は彼らの音楽教師の四葉先生だった。

「閉めたなんて冗談はやめてください。一緒に避難しましょう?」

 佐ノ介がある程度社交的に振る舞って言う。四葉先生はピアノを弾いたまま笑った。

「ヤダ。冗談じゃないよ、鍵を閉めたのも、避難するのも」

「こんな状況で何言ってるんですか?」

「あなたたちこそ何やってるの?」

「俺たちは校舎内に役立つものがないか調べに来ました」

「あそう。ま、どーでもいいわ」

 普段の優しい四葉先生からは想像できない冷めて疲れ切った口調。佐ノ介とマリは改めて警戒心を強めた。

「別にあなたたちが何してたって私がやることは変わんない。退屈な世界を『面白く』するの。あなたたちを殺してね」

 四葉の目が一気に鋭くなった。ピアノの曲が止まり、不協和音が鳴り響く。

「今ので屋上へのシャッターが開いたわ。屋上にいる怖い人たちが下りてくるわよ?『面白い』わねぇ?」

四葉が笑顔を見せる。だがその笑顔は優しさのかけらもなかった。

「待ってください!今この階には仲間たちがいるんです!やめてください!」

「あなたたち、他人の心配より自分の心配した方がいいわよ?」

 佐ノ介の叫びを四葉は冷静に受け流す。次の瞬間、彼女はピアノの全ての音を順にかき鳴らす。

 窓の防火シャッターが一瞬開いたかと思うと、窓を割って何者かが2人入ってくる。黒い服に目出し帽。

 佐ノ介はすぐにその2人に正面を向けて、自分の背後にマリを隠す。2人はライフル銃で武装していた。

「四葉、なんだこりゃ?やりがいもなさそうだが」

 2人の片割れが言う。四葉は鼻で笑って答えた。

「骨があって案外楽しめそうよ」

 佐ノ介は瞬時に身構えた。右手に拳銃があり、正面には椅子も学生用の机もある。背後には守るべき大切な女。彼は全ての覚悟を決めた。

「さ、楽しませて!」

 四葉が言う。ピアノが唸った。

 佐ノ介の正面の2人の敵が銃を向けてくる。

 佐ノ介は正面の机を蹴り倒した。

 敵が引き金を引く。

 佐ノ介はマリを抱きかかえて倒した机の影に倒れ込んで隠れる。彼の腕の中のマリは震えていた。

 敵が近づく足音が聞こえた。

 位置はおおよそアテがついた。

 佐ノ介は銃声が止んだほんの一瞬、顔と腕を上げた。

 左右45度方向にそれぞれ1人ずつ。

 特に右側は近づきつつある。

 佐ノ介はその一瞬で全てを判断すると、まず右側の人間の眉間に銃弾を叩き込んだ。

 そのまま流れるように左側に銃を振る。

 目出し帽越しに相手の表情が怯むのが佐ノ介には見えた。

 その怯んだ表情を終わらせるように相手の眉間に向けて引き金を引く。

 教室に2カ所、血溜まりと死体が出来上がった。

「やるじゃん…」

 極限状態で引き出された佐ノ介の集中力は、四葉の悪態と、銃を抜く音を聞き逃さなかった。

 左を見ると、四葉の拳銃ははっきりとマリに狙いを付けていた。

 佐ノ介にとって命に換えてでも守りたいひと

 四葉の拳銃が唸る。

 9mm弾はマリの後頭部を捉えていた。

「!」

 佐ノ介が9mm弾の正面に踊り出る。

 9mm弾が佐ノ介の左肩を貫いた。

 佐ノ介は奥歯で悲鳴を噛み殺すと、右手一本で狙いを定め、ピアノの前に腰掛ける四葉を撃ち抜いた。

 心臓を撃ち抜いたのが佐ノ介にははっきり見えた。

 四葉が椅子から転がり落ちる。

 佐ノ介は荒れた息で立ち上がった。

「…ぁ…ぁ…くっそ…つまんねぇ…人…生…」

 四葉はそう言って天井に手を伸ばし、にらみつける。だが、すぐに彼女の瞳には獰猛な表情をした佐ノ介と銃口が映り込んだ。

「面白かったよ…安藤…佐ノ介…」

「感想なんかどうでもいい…ここの鍵やシャッターの仕掛けを教えてもらおう…」

 佐ノ介の呼吸はまだ荒れている。だが拳銃の狙いは寸分違わず四葉の眉間を捉えていた。

「ピアノ見ればわかる…」

「あんたなんだってこんなこと…」

 四葉は佐ノ介の言葉に鼻で笑った。

「それしかできなかっただけよ」

 四葉はそう言って右手に持っていた拳銃を動かす。

 佐ノ介は問答無用で拳銃の引き金を引いた。

 足下に先生の死体と血の海が広がり、佐ノ介の頬は返り血に汚れた。


 佐ノ介はそのまま力が抜けたように壁に寄りかかって座り込んだ。

「佐ノくん!!」

 マリの絶叫が横から聞こえる。佐ノ介が振り向くと、マリが必死の形相で佐ノ介に駆け寄り、彼の近くでしゃがみこんだ。

 佐ノ介の肩の傷を見てマリは言葉を失う。そして涙を流しながら叫ぶようにして謝り始めた。

「ごめんなさい…!足引っ張らないって言ったのに…!私が役立た」

 マリの唇が、ほんのり優しく冷たい佐ノ介の唇で塞がれる。マリが前を見ると、佐ノ介が優しい表情で笑っていた。

「無事でなにより」

「でも佐ノくん、その怪我…」

 マリは改めて涙をこぼし始めた。

「泣かないで。俺はマリを守れて嬉しいからさ。だからマリも笑ってほしい。笑って『ありがとう』って言ってくれるだけでいい。そうしてくれれば、俺は不死身だから」

 佐ノ介は笑って言う。左手でマリの涙を拭う。マリも、涙を拭って笑顔を作った。

「守ってくれて…ありがとう!」

 佐ノ介も笑顔でうなずく。

 マリに肩を担がれながら佐ノ介は立ち上がり、ピアノに歩いて行った。

「佐ノくん…私守られるだけじゃないように強くなるから。ゼッタイに」

「だったらそれまで命懸けで守るよ」

 佐ノ介とマリは短くやり取りすると、ピアノの前に立つ。

 ピアノの楽譜は見たところ4つあった。「トルコ行進曲」と名打たれたものの他に、「屋上シャッター」、「音楽室」、「屋上」の3つである。

「この楽譜に書かれてるのを演奏すれば対応する鍵が開くのかな」

「さえちゃん連れてくるべきだったね。とりあえず音楽室をやってみる」

 マリが「音楽室」と名打たれた短い楽譜を演奏する。

 音楽室の入口の鍵が開く音がした。

「凝った仕掛けだね…いつの間にこんなのを…」

「後で考えよう。とにかくまずは銃を取ってみんなを助けに行こう」

「うん、今度こそ頑張るから」

 マリの決意を聞いて佐ノ介もうなずく。2人は倒した死体から銃を漁り始めた。



 一方の美咲、さえ、桜、真次、広志の5人は危険を感じて6年3組の教室に戻っていた。桜がシャッターの開いた音を聞き取り、それを危険に思った5人はすぐに調査をやめて6年3組の教室に引き上げたのである。

 桜がバリケードを作った扉越しに耳を当てて廊下の音を聞き取る。

「どう、桜?」

 美咲が不安を隠しきれなくなって尋ねる。桜は真剣そうな表情だった。

「結構大きな足音…4人くらいはいると思う」

「どうするの、安藤とマリが…」

 さえが不安そうに呟く。真次が桜のそばで小声で話し始めた。

「桜、敵が近くに来たら教えてくれ」

「なにするんでぃ?」

 広志が興味深そうに真次に尋ねる。

「不意打ちなら敵を倒せるかも。俺と桜が銃で倒してる間に、3人はどこかへ逃げて」

「ムチャ言わないでよ、こんな狭い校舎で逃げ切れるわけないじゃん!」

 美咲が思わず叫ぶ。その声を聞きつけたのか、足音と怪しい話し声が6年3組の教室の前で大きくなってきた。

「迎え撃つしかない。敵が扉を開けた瞬間に一斉に銃撃だ」

「いよいよ撃つのか〜…」

「黒板側どうする?」

「扉が開いたと同時に机を倒して逃げるってのぁどうだ」

「じゃあ黒板側は私たちがやる」

 5人が短くやり取りを交わし、それぞれ配置につく。真次と桜は後ろ側、広志、美咲、さえの3人は黒板側にしゃがみ込んだ。

 緊張感が教室を包む。

 扉が音を立てて開く。

 真次と桜の側だった。

 机の脚と脚の間は開いている。そこから見えた敵の黒い足。

 真次はその内の一本に狙いを付けると、拳銃デザートイーグルの引き金を引いた。

 大きな衝撃が彼の手を襲う。

 だが同時に正面から敵の悲鳴と血が飛んできた。

 敵が倒れ、目出し帽越しに真次をにらんでくる。

 だがすぐに桜が引き金を引いてその敵を撃ち殺していた。

 真次と桜がひと安心したのも束の間だった。

 黒板側の扉が開いた音がする。

「かかれぇっ!」

 敵の怒鳴り声が響く。

 広志は夢中になってバリケードになっていた机をひっくり返した。

 美咲とさえは机を踏み越えて廊下に飛び出す。

 左右に敵が1人ずつ、銃を向けてきていた。

「くらえ!」

 広志は咄嗟に持っていた地球儀の地球部分を、左側の敵に投げつけた。

 不意を突かれた敵は思わずそれを真正面から顔面に受けた。

 ほとんど同時に美咲も右側にいた敵に全力でぶつかっていく。

 クラス1の俊足から繰り出されるタックルだが、相手はそれを食らっても立って受け止めていた。

 敵が美咲を抱き止めつつ、右手で腰のナイフを抜く。

 美咲にナイフが振り下ろされる寸前、さえが敵の右腕に噛み付いた。

 結構強いアゴの力からか、敵がナイフを落とす。

 状況を察知した広志がすぐにダッシュで美咲とさえの方に近づく。

 怯んでいた敵のアゴに、広志のジャンピング頭突きが炸裂した。

 広志はそこに倒れるが敵も怯んでその場に倒れた。

「今のうち!」

 美咲とさえは走り出し、渡り廊下に差し掛かる。

 だがすぐに立ち止まった。

 正面に立ち塞がった黒光りする銃口と、目出し帽越しに見下ろしてくる鋭い目。

 美咲とさえは人生で初めて足のすくむ感覚を味わった。

「このガキ!」

 敵の怒鳴り声が響く。

 美咲とさえが目を伏せる。

 銃声が2度鳴り響く。

 うめき声を出したのは敵の方だった。

 さえと美咲が正面を見る。

「2人とも、無事?」

 硝煙が漂う拳銃を構えるマリが、倒れた敵の背後から現れる。さえと美咲は一瞬で安堵した表情になった。

 そのままマリに声をかけようとする美咲とさえの背後から銃声が響き、2人はしゃがみ込む。

 マリの背後にいた佐ノ介が現れて銃声の方へ駆け出した。

 佐ノ介が6年3組前の廊下に差し掛かる。

 広志と桜と真次が、荒い息をしながらそこに立っていた。床には敵の死体が3つ転がり、桜と真次の服は血で汚れていた。

「大丈夫か」

 佐ノ介が声をかける。3人はハッとしたように佐ノ介の方に振り向く。表情に余裕はなさそうだった。

「あ、あぁ、生きてる」

 真次が興奮冷めやらぬ状態で答える。佐ノ介はそれにうなずくと、背後にいたマリ達にも、大丈夫そうだと伝える。7人は再び合流できた。

「全員生きてるね?怪我は?」

 佐ノ介が全員の様子を見回しながら尋ねる。桜が答えた。

「私たちは全員無事だよ。むしろ佐ノ介の怪我は?」

「かすり傷だ」

 佐ノ介は淡々と答えた。そのまま佐ノ介が続けた。

「音楽室を調べてたら屋上へのシャッターを操作する方法を見つけた。もしかしたら脱出の手がかりになるかも」

「ただそれのせいでさっき敵が来ちゃったから、今後はもっと注意が必要だと思う」

 佐ノ介の言葉に、マリが続ける。みんなの空気は動揺から立ち直ったようだった。

「じゃあ、音楽室に行ってから、屋上を調べるの?」

「そう」

 美咲の質問にマリが答える。

 みんなももう一度気を引き締めて音楽室へ歩き出した。


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

守るものがある男は強いですね

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