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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 10 野望
122/124

Chapter 10-6 輝ける場所

5/16 14:15 金山県灯島市 虚山洋館地下


 宮本竜と吉村正の2人は地下の人質たちを収容している部屋の一角で外の監視カメラの映像を見ていた。

「竜、上、やり合ってるみたいだぞ。俺たちもいくべきじゃないか?」

「…いや、これ見てみろよ」

 正の言葉に、竜がモニターを指差して言う。映っていたのは泰平だった。

「上は囮、本命はこっちの人質なんだろうな」

「心音たちに伝えるか?」

「…いや、俺たちだけで片付けよう」

 正に対し、竜が言う。そのまま2人は泰平の迎撃のためにそれぞれの武器を装備した。

「おい!ここから出せ!」

 銃を握る2人に対し、監視室の向こうにある檻から声が聞こえてくる。2人は一瞬動きを止めたが、気にせず部屋を出た。

 外に出るために廊下を歩く途中、正は口を開いた。

「…なぁ、俺たち、本当にこのままでいいのかな」

「…でもどうしようもないだろ…このまま行くしかない」

 正の漠然とした言葉に、竜も不安な様子で呟く。正も納得しきれない表情で頷いていた。


 

 泰平は1人で虚山の裏に来ていた。彼が進んでいる道は階段状になっている細道であり、周囲には背の高い木がうっそうと生い茂っている。

 この坂道を登り切った先に心音たちの拠点である洋館の地下への入り口があるという話だった。

(さて、そろそろ迎撃があるはずだ)

 泰平はそう思いながら上を見る。想像通り、よくは見えないものの人の影がいるのがぼんやりと見えた。

(来たな)

 泰平は姿勢を低くする。そんな泰平の数m先で爆発が起きた。

「!」

 泰平は本能的に伏せる。泰平の背中に、爆発で舞い上がった土の塊がかかった。

 泰平がすぐに立ち上がると、山道の頂上にいる人間が誰なのかはっきりと視認できた。

「宮本竜と吉村正…久しぶりだな」

「河田泰平か…」

 竜は泰平の姿を見て呟く。竜は拳銃(M29)を握っており、正はグレネードランチャー(M79)を持っていた。

「同窓会で多くのGSSTのメンバーたちが誘拐されたと聞いた。お前たちは魅神側についたんだな」

「そう、今はお前の敵だ」

 正はそう言って泰平に銃を向ける。竜も泰平に銃を向けていた。

 そんな2人の姿を見て、泰平は納得したように頷いた。

「なるほど。確かに腰に銃を提げているなら、敵と言われても否定はできんな」

 泰平はそう言うと、自分の腰のホルスターと拳銃を見た。

「ならばこうしよう」

 泰平は腰のホルスターを外し、正と竜にも見えるように掲げる。そうして泰平はそのままホルスターごと拳銃を木々の中に放り投げた。

「『マジかよ』」

「俺たちは元々同じチームだった。その時のように話し合おう」

 驚く竜と正をよそに、泰平は堂々と声を発する。泰平のそんな態度に、竜と正はお互いに目を見合わせて泰平の言葉を疑った。

「どう思う?」

「…何か隠してるんじゃないか?」

 やはり慎重になって竜と正は泰平の様子を窺う。泰平は2人の様子をさして気にせず、両手を上げた状態で話を続けた。

「なんでお前たちは魅神についたんだ?お前たちの技術力なら、色んな企業に就職できたはずだ。わざわざ魅神の味方をする必要もないだろう」

 泰平は平然と語りかける。竜と正は泰平の意図が見えず、ひたすら警戒を強める。

「どうする、撃つか?」

「いや、向こうの目的を調べてからでも遅くないと思う」

 正と竜は小声で会話を交わし、次の行動を決めると、竜の方が声を発した。

「おい泰平、お前の目的はなんだ」

「質問してるのはこっちだぞ?」

「銃を持ってるのはこっちだ」

 泰平の口答えに、竜が持っている拳銃のハンマーを起こしながら言う。それを聞き、泰平は不服そうにしながらも納得した。

「答えよう。人質の救出にきた」

 泰平が言うと、竜も正も警戒心を強める。泰平は構わず話を続けた。

「当然わかっていたとは思うがな」

「だったらなんで銃を捨てた。俺たちがただ通すと思ったのか」

 正は泰平の言葉に対して鋭く言う。自分に向けられる銃口を見つめながら、泰平は細い道を左右に歩きながら話を続けた。

「あぁ。お前たちなら話が通じると思ったからな」

「動くな」

 泰平の動きに、竜は改めて拳銃を向ける。泰平は動きを止めて竜と正の方へと向き直った。

「ここにくる前、保高に遭遇したよ。正確には、彼女に殺されかけた。彼女はこの社会に対する恨みつらみを並べていた。魅神についてこの社会への復讐を果たそうとしていた。お前たち2人が魅神についたのも、それに近い理由じゃあないか?」

 泰平の言葉に、竜と正は眉を顰める。2人の表情の変化を見て、泰平は図星を突いたことを確信した。

「当たったみたいだな」

「…それがなんだって言うんだ。俺たちは確かに社会不適合者さ。会社勤めなんかできやしねぇ。毎日電車に揺られて、嫌な上司の相手して、それでもらえるのはケチな給料、そんな生き方してられねぇ」

 竜は心の中の苦しみを吐き捨てるように言葉を並べる。その横で正も下を向きながら言葉を繋いだ。

「俺たちは好きなことだけして生きていたいんだよ。ネットとゲームだけしてれば生きていられる、そんな生活がしたいんだ。トッシーはそれを作ってくれるって言った、俺たちを仲間だって言った。でも結局やってることはこれだ」

「でも今の社会で無理に働いて生きるよりはマシだ。だからやる」

 竜と正の主張を、泰平は真っ直ぐに受け止める。しばらく沈黙し、何かを考えると、泰平は言葉を返し始めた。

「結論から言おう。お前たちの言葉は甘えだ」

「そうだな」

「人間は1人では生きてゆけず、誰かの助けを受けながら生きていく。その対価として労働をする」

「は?」

「簡単に言おう。人が働くのは、自分のために働いてくれる他の誰かのためだ。だから人間には労働の義務がある、と俺は解釈している」

 泰平は竜と正が自分の言葉を理解しようとしているのを察した。今なら泰平の言葉に耳を傾けてくれる、そう思った泰平は主張を続けた。

「だが、人間、好きでもないことを延々と続けることはできない。これもまた事実だ。そして、俺はお前たち2人が自分の熱中する分野においては他の追随を許さないことを知っている。それは決して人質の監視やテロリストへの協力なんてものじゃない。お前たちがもっと輝ける場所を、俺は知っている」

 泰平の言葉に、2人は思わず息を呑む。泰平は最後のひと押しを始めた。

「俺には政府関係の友人がいる。彼はこの国のサイバーセキュリティを強化したがっている。物分かりのいい男で、お前たち2人の好きなスタイルで働くことくらい簡単に認めるだろう。自分の好きな分野で、好きなように働いて、人の役に立てるんだ。俺がいくらでも彼に口利きをする。このまま犯罪者の汚名を着て死ぬのか、俺を信じるか、お前たちが決めてくれ」

 泰平は2人の目を見据えて言う。泰平の言葉が嘘でないことは2人にもわかった。

「…」

 2人は沈黙し、考え込む。泰平の言葉はどこまでも魅力的だった。


 そんな2人の背後から、扉が開くような音が響く。


 2人が振り向くと、マリを先頭に閉じ込めていた人質たちが全員洋館の扉から出てきていた。

「やられた…!」

「『ハメやがったな!』」

 正はマリと銃を向け合い、竜は振り向いて泰平に銃を向ける。しかし、泰平は首を横に振った。

「確かにマリが洋館に入るための時間稼ぎはした。だが話した内容に嘘はない。俺はお前たちの実力を知っているし、このまま魅神たちの道連れになるのを好ましく思わない。だからこういう手段を取った」

 泰平の言葉の正当性に、竜と正も黙り込む。背中合わせのまま竜と正はお互いの思いを確認した。

「…どうする?」

 正が竜に尋ねる。


 竜はじっと黙り込んだ後、泰平に向けていた拳銃を下ろした。


「…俺は泰平を信じる」


 竜は俯きながらもはっきり言い切った。


 正もそれを見て、銃を捨てた。


「人質もこんなふうにされちゃ、もう義理もないもんな」

 正はそう言うと、泰平の方へ振り向く。泰平は竜と正の顔を見て力強くうなずいた。

「よく決断してくれた」

 泰平は2人に対して言う。竜と正はそれに頷くと、人質にしていたメンバーたちの方に向き直った。

「悪かった」

 2人はそう言って頭を下げる。人質にされていたメンバーたちは各々複雑な表情だったが、すぐにマリが声を張った。

「竜たちが主導したわけじゃないんでしょ?だったらあとは首謀者を倒せばいいだけだよ。大丈夫、任せておいて!」

「啖呵を切ってもらったところ悪いが、マリにはこのまま彼らを率いて下山してもらいたい。一般人をこれ以上巻き込みたくないからな」

「わかった。みんな、ついてきて!」

 マリが指示を出し、人質だったメンバーと竜と正もマリについていき、山を下りていく。そんな彼らの背中を見送り、泰平は改めて洋館を見上げた。

「さて、友人を助けにいくか」

最後までご高覧いただきましてありがとうございます

泰平回でした。お楽しみいただけましたでしょうか

このシリーズも残すところあと2話です

最後までこのシリーズをよろしくお願いします

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