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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 10 野望
120/124

Chapter 10-4 かけがえのないもの

5/16 13:35 金山県灯島市 堀口家宅


 飛鳥が新聞社に出発した頃、和久、泰平、マリ、玲子の4人は各自自分の装備を整えていた。


 その4人がいる、さして変哲のない一軒家の近くで、斉藤遼と大島広志の2人は、それぞれ襲撃の準備をしていた。

「…気が乗らねぇなぁ」

 暗い表情で広志は呟く。遼も同じような表情をしていたが、すぐに首を横に振った。

「んなこと言ったってしょうがねぇだろ。やらなきゃこっちだって…」

「…わかってるよ」

 2人は暗い表情をしながらその一軒家の裏にへと回り始めた。


 最初に異変に気がついたのはマリだった。マリが座っている椅子の背後の窓の向こうの庭から、不審な気配を感じ取り、振り向いていた。

「どうしたの、マリ?」

「誰か居たような気がする…少し見てきます」

 玲子に尋ねられると、マリは和久にそう言って腰の拳銃を抜き、靴下のまま窓を開ける。

「星野巡査、援護を」

「了解」

 和久の指示を受けて、玲子もマリの後に続く。女性2人が窓の外に出たのを見て、泰平と和久も警戒を強めた。

「気のせいだといいが」

 和久は1人でつぶやいていた。


 庭に出たマリと玲子は、銃を構えつつ周囲を警戒していた。

「誰かいるの?」

 マリは草むらに向けて声をかける。だが、人の気配はしなかった。

「きっと気のせいだったんじゃない?」

 マリの背後から玲子が言う。


 その瞬間、玲子の背後から物音がした。


 玲子は咄嗟に振り向こうとするが、それよりも先に玲子は背後から締め上げられ、口元に麻酔を当てられて意識を失っていた。

 玲子が倒れた物音に気づき、マリは瞬時に後ろを向き、銃を構える。

(大島広志…!なんでこんなところに…!)

 マリは右手に麻酔ハンカチを持つ広志に向けて引き金を引こうとする。

 しかし、そんなマリも背後から強い力で羽交締めにされると、銃を奪われた。

「堀口さ…!」

「頼む静かにしててくれ…!」

 和久を呼ぼうとするマリの口を塞ぐ、その男の顔をマリは見た。

(斉藤遼…?なんで…?)

「佐ノ介の嫁か。ごめんな、こっちも嫁の命がかかってんだ…!」

 遼はマリの耳元でそう囁くと、マリの口を塞いでいない右手に灰色の光を集める。発現したのは丸いヘルメットだった。

 マリも危険を察知して逃げようとするが、それも虚しくマリはヘルメットを被せられた。

 マリの視界が真っ暗になる。そのままマリはもがき続けたが、何をしても意味がなく、身動きも取れていなかった。


 玲子とマリを無力化した遼と広志は、玲子を草むらの中に隠し、マリが入っているヘルメットをその横に置いた。

「なぁ遼、それ…マリ死んでないのか?」

「球体にしただけ。死んじゃいない…人妻殺すのは香織のためでもやりたくないからな」

「あぁ…早く終わらせないとな」

 広志と遼は雑談を交わす。そうしていると、窓が開き、2人の前に新しく人が現れた。

「うちの庭に何か御用で?」

 広志と遼はその声の方に振り向く。そこに立っていたのは泰平と和久だった。

「久しぶりだな、大島、斉藤。ここで何をしている」

 泰平は冷静に尋ねる。広志と遼が暗い表情をしていると、和久が話し始めた。

「野球のドルフィンズの育成選手の大島と、サッカーのマーマンズの斉藤か。確かにどうしてここにいるのかわからない組み合わせだな。こちらは忙しい。お引き取り願おう」

 和久に言われ、広志も遼もその要求に従いたかったが、首を横に振った。

「そうもいかねぇんだ…堀口、あんたに死んでもらわないと、こっちも困るんだよ」

 広志がそう言うと、持っていたバットを構える。同時に、遼も腰のホルスターにしまっていた拳銃をいつでも抜けるようにした。

「和久、下がっていろ。俺がやる」

 泰平はそう言って和久の前に出る。だが、和久はそんな泰平を横に押し退けた。

「いいや、この後の肩慣らしも含めて一度やり合っておきたい」

「おいおい、あんまりナメてくれんなよ。あんたがいくらガタイがいいからって、こっちだって散々戦ってきたんだからよ」

 和久の言葉に、遼が答える。その様子を、泰平は和久の背後で呆れたように見ていた。



 初めに動いたのは遼だった。腰のホルスターに差していたサイレンサー付きの拳銃(USP)を抜き、和久の眉間に狙いをつけて発砲する。

 和久には、飛んでくる銃弾の軌道が見えていた。

(こんな時に遺伝子操作に感謝するなんてな)

 和久はそう思いながら銃弾を回避しつつ、一気に遼の懐まで潜り込む。

 接近戦になり、遼はすぐさま和久の腹に蹴りを入れる。

 しかし、和久の肥満にも近い脂肪に包まれたボディは遼の脚を簡単に弾き返した。

(マジか!)

 遼は驚いたがすぐさま銃で和久を撃とうとする。しかし、それよりも早く和久は体重を乗せて遼へと倒れ込んだ。

 遼はそれを回避しようとするが、和久の体格は大きく、腕を広げられると遼は回避しきれなかった。

「ぐぉっ…」

 和久の体重任せのボディプレスで遼はその場に倒され、上にのし掛かられた。あまりの体重差に、遼はすでに身動きが取れなくなっていた。

「遼!」

 味方である遼が倒れ、広志も覚悟を決めて泰平の顔面を目掛けてバットをスイングする。泰平はあっさりとそれをしゃがんで回避する。

「らしくないスイングだな」

「うるせぇ!」

 泰平の言葉に対し、広志は泰平の脳天を目掛けてバットを振り下ろす。やはり泰平はそれを回避すると、広志の腕を掴んだ。

「理由を調べさせてもらう」

 泰平はそう言うと、右手に灰色の光を集め、本を形作ってすぐさま開く。広志はその瞬間、動けなくなった。

 泰平が開いた本に、つらつらと文章が書き上がっていく。

「どうだ、何か分かったか」

 泰平の本が出来上がると、和久が遼を押さえつけつつ尋ねる。泰平は本のページをめくりながら話を始めた。

「これか。『2025年5月2日、同窓会があった。トッシーが暴れて、美咲を人質に取られた。言うことを聞かないと美咲が殺される』」

「美咲って誰だ?」

 和久が尋ねる。すると、和久に組み伏せられている遼が声を発した。

「美咲は、広志のマブダチだ。お互いに、両思いの友人同士、かけがえのない存在だ」

 遼の声を聞き、和久は遼の方を見る。

「なるほど?となるとお前もそれに近い存在を人質に取られているのか?」

「…あぁ。俺の嫁が、美咲や他の人質と一緒に心音の屋敷に捕まってる。お前をやらなきゃ、みんな殺されるって脅されてな…」

 和久に尋ねられ、遼は答える。泰平も話に加わった。

「他の人質とは、まさか同窓会に参加した他のGSSTのメンバーたちか」

「そうだ…」

 泰平の問いに、遼が苦しそうに答える。それを聞いた泰平は開いていた本を閉じ、広志を解放した。

 意識を取り戻した広志はすぐさま泰平に殴りかかろうとしたが、泰平は腰の拳銃を抜き、広志の目の前に突きつけた。

「大島、お前の動機はこちらも理解した。今すぐ攻撃をやめろ」

「何言ってやがんでぃ!お前たちを倒さなきゃ美咲は…!」

「それを救出するのさ」

 泰平を怒鳴りつける広志に対し、和久は冷静に言う。広志は驚きを隠せない様子で振り向き、和久の顔を凝視した。

「…なんだと?」

「俺たちはこれから奴の本拠地に乗り込む。糸瑞には国家反逆罪の容疑がかかっているからな。そのついでに、お前たちの大切な人たちも救出する」

 和久は淀みなくこれからの計画を話す。それを聞くと、広志は戸惑いを隠せなかった。

「それは…でも、できるのか?あいつら結構な数がいたぞ?」

「首相襲撃事件の時に、犠牲になった国防軍がかなりの数のテロリストを倒した。さらにその残党も、新幹線に工作を仕掛けようとして数馬にやられたらしい。つまり、糸瑞の屋敷にいるのはわずかな手勢ってことさ」

 和久が自信に満ちた表情で言う。それを聞いた広志の心は揺らいでいた。

「信じてみよーぜ、広志」

 そんな広志に、遼が声をかける。

「でもよ、遼、これで万が一美咲や香織を救えなかったら…!」

「きっとあいつら、自分のせいで俺たちが悪事を働く方が悲しむと思うぜ。そういう奴らじゃん」

 遼に言われ、広志も言葉に詰まる。広志が黙り込んでいる間に、遼は和久に頼み始めた。

「俺は降参する。香織を、うちの嫁を助けてやってくれ」

 遼に言われると、和久は遼に覆いかぶさった状態から離れ、遼に手を差し伸べる。遼が和久の力を借りて立ち上がると、泰平は広志に尋ねた。

「俺たちを信じてくれないか…広志。確かに俺や和久には妻子や恋人はいない。だが、かけがえのないものであるということは理解できる。だから」

 泰平に説得されると、広志は目を伏せる。

 そして、バットを放り投げると、泰平の前に正座し、額を地面に擦り付けるようにして頭を下げた。

「この通りだ…!美咲を頼む…!」

「やめろ、そんなの見たくない」

 泰平は短く言うと、広志の顔を上げさせる。そして和久と目線を交わし、頷き合った。

「2人の思いは確かに聞いた。俺たちは必ず君たちの大切な人を救出する」

 和久は広志と遼にはっきりと言い切る。広志と遼はそれを聞き、和久に向けて頭を下げた。

「さて、その作戦で重要になる星野と安藤の両名はどこにやった?」

 泰平は広志と遼に尋ねる。その答えは、草むらの影から聞こえてきた。

「ここよ」

 玲子の声だった。見ると、殴られた後頭部を押さえながら、玲子がゆっくりと上体を起こし、草むらの横に座っていた。

「無事だったか」

「えぇ…油断はしてなかったはずなのに、背後を取られるなんてね…」

「安藤巡査はどうした?」

 ぼやく玲子に、和久が尋ねる。それを聞いた玲子は辺りを見回したが、あるのは謎のヘルメットだけだった。

「…姿が見えないけど…」

「そこのヘルメット、取ってくれないか」

 玲子に対し、遼が言う。玲子は不思議に思いながら、そのヘルメットを手に取り、遼へと軽く投げ渡した。

「それ、何?」

「俺の能力。このヘルメットに収納したものはなんでも球体にしちまうのさ」

「じゃあ、その中の黒い布はもしかして…」

「丸くなったマリだよ」

 遼の言葉に、驚きで全員言葉を失う。

「…実は俺この能力、人に使ったことなくてさ。戻せるかなこれ」

「冗談でしょ?」

 遼の不穏な言葉に、思わず玲子が言葉を漏らす。

 同時に、和久が自分の右手に光を集め、手袋を作り出し、それを手につけながら遼に声をかけた。

「貸してくれ」

 和久に言われ、遼はヘルメットを渡す。和久は手袋をつけた手で、ヘルメットの中の黒い布に触れた。

「何するんだ?」

「俺の能力は触れたものの何かを反転させること。時間経過を反転させれば、元に戻せるはずだ」

 広志の質問に答えながら、和久は解説する。

 その言葉の通り、ヘルメットから徐々にマリの足が生え、胴体が伸びてくると、ものの数秒でヘルメットを被ったマリの姿になり、地面の上に立った。

「ぷはぁ、もう、酷い目にあった」

 マリはそう呟きながらヘルメットを外す。無事な姿に戻ったマリの姿を見て、遼は安堵のため息をついた。

「無事でよかったぜ。悪いことしたな、マリ」

「大丈夫、話は聞いてた。奥さん、必ず救い出してくるから」

 遼の謝罪に、マリは明るい言葉で答える。

 そうしていると、和久のスマホに連絡が入る。和久はスマホを見ると、ニヤリと微笑んだ。

「今飛鳥から連絡が来た。デマの発信源を叩けた。これから糸瑞の本拠点を叩きにいくぞ。大島と斉藤はここで待っていてくれ」

 和久は声を張って指示を出す。それを聞いて、その場の全員は頷いた。


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

和久と泰平の回でした。お楽しみいただけましたでしょうか

残りわずかですが、今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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