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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 2 幕開け
12/124

Chapter 2-2 決意

残酷な描写が含まれています

苦手な方はご注意ください

 天見山を降りた暁広、数馬、佐ノ介、泰平、浩助の5人は街の惨状を目の当たりにした。それぞれの住宅の中から悲鳴が聞こえ、路上には炎上した車などが放置されている。街で買い物していただけであろう主婦や、散歩していたのであろう老人、遊んでいたと思われる小学生の見るも無惨な銃殺死体が辺りに転がっていた。

「むごいな…なんでこんな…」

「感傷に浸るのは後だ。逃げるぞ」

 暁広のため息に数馬が短く言うと暁広もうなずく。

 彼らの目の前には5方面に道が続いていた。うち3つは炎上した車で塞がっている。残る2つは左と左前の道。いずれも七本松小学校には繋がる道だった。

「どっちだ」

 浩助が短く尋ねる。それに答えるように左の道の方から悲鳴が聞こえた。しかも、聞き覚えのある男子の声。

「助けてくれぇ!」

「竜雄か…!」

 クラスメイトの1人、川倉竜雄の声だった。気づいた一行は相談するよりも速く左の道へ駆けていた。


 左の道はまっすぐではなくわずかにカーブしている。竜雄がそのカーブを抜けると、竜雄の方に駆けてくる一行が見えた。

「走れ竜雄!」

 叫んだのは数馬だった。彼の瞳には、竜雄の背後にいる黒服に目出し帽の武装した人間が映っていた。

竜雄と一行の距離が縮まるのと同時に、敵は立ち止まり、持っていたライフルを構えてこちらに狙いをつけていた。

「やめろ!」

 泰平が叫ぶ。だが敵はそんなことを気にしてはいなかった。竜雄の背に狙いをつけて引き金に指をかける。

ためらいはなかった。

 泰平は普段エアガンでやっている要領で拳銃を構え、素早く敵の右腕に狙いをつけるとそのまま引き金を引いた。

 敵の右腕から赤色が吹き出す。

 泰平はそのまま敵の胴体にもう一度銃弾を叩き込んだ。

 敵が赤色を撒き散らしながら倒れる。泰平はゆっくり敵の横へ歩き始めた。数馬もその横で十徳ナイフを片手に付いてきている。

 泰平は倒れた敵を見下ろして、銃を構えた。

「何者なんです。もうやめてください」

 泰平は敵に優しく言う。敵は泰平の言葉を鼻で笑い飛ばした。

「黙れクソガキ」

 敵はそう言って落としたライフル銃に手を伸ばす。しかし、すぐに数馬がライフルを拾い上げ、さらにうつ伏せになった敵を踏みつけた。

「…そうか。だったら俺も腹を括ろう」

 泰平は悲しそうな目をしたかと思うと、数馬が踏みつけている敵の後頭部に銃口を密着させた。

「ブッ殺すッ!」

 彼の叫びは自らの銃声でかき消した。泰平は足下に広がる赤色を見ると、持っていた拳銃を投げ捨てた。

「人殺しは…嫌なものだな」

「当然だ」

 泰平の言葉に、数馬が賛同する。泰平が竜雄の方に歩いて行ったのを見ると、数馬はトドメに相手の後頭部にナイフを突き立てた。

 一方の竜雄は暁広達の前で肩で息をしていた。

「みんな…ありがとう…俺の家族は見てないか…?」

「いいや、見てないけど」

「はぐれたんだ…無事だといいんだが」

「小学校にきっと逃げ込んでるよ、大丈夫」

 竜雄の言葉に対して暁広が言う。ひと息ついていると、数馬がみんなを呼ぶ声がした。

「武器分け合うぞ」

 みんな一斉に数馬に駆け寄る。数馬はすでに奪った物を並べていた。

「拳銃にアサルトライフルにサバイバルナイフ。ナイフもらっていいか」

 数馬が早口で言うとみんなうなずく。

「じゃあ俺これ」

「だったらこれもらうよ」

 竜雄はそう言ってアサルトライフル(AK47)を、浩助が拳銃(ベレッタM8000)を手にした。

「竜雄、この道の先は?」

「銃声がかなり聞こえたよ。遠回りして学校行った方が安全だよきっと」

 数馬の質問に竜雄も短く答える。竜雄のアドバイスに従って来た道を戻り、天見山から見て左前の道を進むことになった。



 道を進んだはいいものの、どこもかしこも炎上した車に道を塞がれて最短ルートでは小学校にたどり着けそうもなかった。

 仕方ないので正面の直線を走ることになった。100メートルも走れば2回左に曲がってそこが七本松小学校である。ここからなら小学生達の全力疾走で5分。

 少年たちは走った。銃やナイフの慣れない重さに振り回されるようにしながら銃声や悲鳴だらけの街を駆けて行く。

 道の横に畑が広がる。しかしその奥の家からは男性の悲鳴。小学生達は植え込みの影に隠れるようにしながらしゃがみこんで走る。

 そのまま見つからないように左に曲がるための交差点に出たが、左側は炎上した車で塞がれていた。

「正面からひとり!」

「後ろからもだ!」

 正面を見張っていた数馬と最後尾で背後を見張っていた佐ノ介が叫ぶ。

「右に行って隠れるぞ!」

 暁広が指示しながら駆け出し、みんなついて行く。数馬と佐ノ介が最後尾を走る。今度の敵は大型の銃こそ持っていなかったものの、どちらも拳銃を片手にこちらに駆けてきていた。

 彼らの正面にあったのは子供達が自由に遊べる木造の屋内アスレチックだった。暁広達も普段はよくここで遊んでいた。

 彼らは施設の中に入ると、まず最後尾の数馬が入り口の扉を閉める。

「とりあえず地下に隠れよう」

 暁広が指示を出す。

 この施設は3階建てだった。暁広達の正面に見える入り口などから入れる「地下」には子供が四つん這いになって動ける迷路が広がっていて、迷路のゴールは外にも繋がっている。今暁広達がいるのが1階、さらにその上には2階もあるが、そこに行くためには階段ではなく網を登っていかなければならなかった。

 暁広の指示通り地下に一行は滑り込む。数馬が鍵をかけた入り口が銃で撃ち抜かれるような音がした。

「時間を稼ごう。敵の姿が見えたらここから俺と佐ノ介が撃つ。数馬が背後から回り込んでトドメを刺してくれ。残りは出口の確保」

「あいよ」

 暁広が短く指示を出す。数馬は電気が止まって暗い地下道をホフクで進みながら、施設の入り口に最も近い地下への入口へ進んでいく。

 扉が蹴り開けられる音がした。

 硬い靴音が木製の床を叩く。

 ショットガンを握る暁広の手が汗で濡れていた。

「喰らえ!悪人が!」

 暁広が叫びながら敵2人の足に向けてショットガンの引き金を引いた。

 敵はすぐに気づいたのか後ろに飛び退くと、暁広に向けて発砲してくる。

 自分の撃ったショットガンの反動で姿勢を崩していた暁広の頬を銃弾がかすめた。暁広はそのまま地下に潜った。

 すぐに佐ノ介が地下から頭と腕を出し、敵におおよその狙いだけつけて拳銃を2連射する。

 どちらも足だけかすめたようだった。だが敵は体勢を崩しながら左右に散らばった。

 佐ノ介から見て右側に逃げた敵の後ろに、地下への入口があった。

 数馬がすぐに顔を出して敵の背後から足をナイフで切りつける。

 敵が姿勢を崩したのを見ると、数馬は地下から地上に上がり、敵の脇の下にナイフを刺し、引きずり倒してトドメに喉仏を貫いた。

 生き残っていた片割れが動揺したようで、佐ノ介はそれを見逃さなかった。

 もう一度地下から頭を出すと、敵の胸に銃撃を1発浴びせる。

 血を上げて倒れた敵を確認して佐ノ介は地上へ飛び出る。

 敵が苦し紛れに1発撃って来たのを避けてから佐ノ介は一気に倒した敵に駆け寄り、敵の眉間に銃弾を叩き込んだ。

「…終わったか?」

「…みたいだな」

 数馬と佐ノ介が背中合わせになってそれぞれの武器を構えながら周囲を見回してうなずく。暁広も地下から顔を出して様子を見てから地下道を進んで外への出口を確保した泰平達に終わったと声をかけた。

「…撃ち合いって、こんなに…」

 暁広はひとり頬の傷を指でなぞりながら震える手を抑えた。その間に数馬と佐ノ介は倒した敵の装備を奪っていた。

「ベレッタにS&Wか…ぼちぼちってところか」

「数馬…染まってきたな」

 敵の装備を物色する数馬に対して、暁広が呟いた。数馬は一瞬悲しそうな目をしたようだったが、すぐに自嘲的に鼻で笑った。

「そうしなきゃ死ぬんでな」

 数馬が呟くと同時に、地下道から泰平達3人が現れた。

「武器分けよう。泰さん、俺はこれが欲しいんだが、泰さんはこっちでもいいか?」

 数馬はそう言って拳銃を2丁見せる。銃のことには詳しくない泰平だったのでとりあえずうなずいた。

「好きにしてくれ」

「悪いね」

 こうして数馬は拳銃(ベレッタM92F)をホルスターごと敵から奪い、泰平も拳銃(S&W M3913)を手に入れた。

 武器の整理が終わり、一行は改めて周囲を見回した。

「ここもひどいな…」

 佐ノ介が思わず呟く。壁という壁に赤色が広がっていた。やや黒ずみ始めているものも少なくない。

 そして何より目を伏せたくなるのは、どう見ても暁広達より年下の子供達の死体がいくつも転がっていることだった。小学校に入って間もないような、あるいは楽しい小学校生活を謳歌していたであろう子供達が容赦なく銃弾の餌食になっていたことだった。

「おい、佐ノ」

 数馬がひとつの死体を見て佐ノ介を呼ぶ。佐ノ介が数馬の方に駆けると、見覚えのある顔がひとつ、無残な姿で床に転がっていた。

「昨日の子…!」

 佐ノ介が思わず声を詰まらせた。昨日数馬達が大上先生に叱られている時に庇ってくれた少年が、目を見開いたまま殺されていた。

「まだ小1だぞ…こんな…」

 佐ノ介が言葉を漏らす。数馬は少年の目を閉じさせると、黙って目を伏せた。

「こんなことをする悪人は絶対に許さない…何があってもだ」

 暁広は強い意志を持って呟く。浩助もうなずいていた。

「…行こう。ここにいても、何もならない…」

 泰平が言う。少年たちは悲しげにうなずくと、暗い地下道へ潜って行った。



 地下道から外に出ると、右に曲がって左に曲がれば七本松小学校にたどり着くことができる。今度こそという思いをかけて一行は全力で走っていた。

 七本松小学校への最後のT字路に差し掛かる。ここまで敵には見つかっていない。一行は改めて周囲を見回しながら左へ曲がる。

 最後の20m、敵の姿はない。その代わり、小学校の正門には警察官が2人武装して立っていた。

 少年たちは全力で走る。警察官が振り向いて銃を向けてきた。

「待ってください!味方です!」

 泰平が叫ぶ。警察官は銃を下ろし、走ってきた暁広たちを見た。

「君たちは…」

「近所の小学生です、避難しにきました」

 泰平が説明する。警察官は怪しそうに一行の装備を眺めた。

「…本当なら銃刀法でしょっぴくところだが、今は非常事態だ、それを使って身を守ってくれ。警察も全員は守りきれない」

「わかりました。ありがとうございます」

 少年たちが短く答える。警察官の片割れが「体育館だからな」と教えてくれたのを聞くと、一行は体育館へ走り始めた。

「なんとかなったな…」

「まだこれからさ」

 暁広と数馬が短く言葉を交わす。自転車やパトカーで作った急造のバリケードを乗り越えると、体育館へと入るのだった。


最後までご高覧いただきましてありがとうございます

突如として街全体を襲った暴力、それに抗い、生き残るために敵を殺し、自分の手を汚すという「決意」

子供でありながらも彼らは戦うことを選びました。

この選択が彼らの未来にどう影響を及ぼすのか、どうか最後まで見届けていただけると幸いです

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