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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 10 野望
117/124

Chapter 10-1 責任

5/16 13:00 金山県灯島市 堀口家宅


 堀口和久は、数馬からの連絡を受けて頷いていた。和久が通話を切ると、彼の隣にいた飛鳥は真剣な表情で尋ねた。

「なんだって?」

「数馬が魅神を倒した。俺たちも動くぞ」

「よしきた」

 和久の言葉を受け、飛鳥は明るく返事をする。

「準備はできてるか?」

「ええ。昨日のうちに武器の搬入は済ませてる。あとはみんなに召集をかけるだけ」

「わかった。俺は泰平に連絡する。飛鳥はマリに連絡してくれ」

「了解」

 和久からの指示を受けた飛鳥は、すぐにスマホを取り出す。和久のいない場所まで席を外すと、飛鳥は通話を始めた。

「もしもし、マリ?出番だよ、例の集合地点に来て」



同時刻 安藤家宅

「はい、すぐに行きます」

 マリは歯切れ良く返事をすると、通話していたスマホを置く。すでに彼女の服装は、私服でこそあったがいつでも動けるような服装になっていた。

 鏡の前で後ろ髪をひとつに結ぶと、鏡台の引き出しにしまっている彼女の拳銃(CZ75)を取り出し、内部に銃弾が装填されていることを確認し、腰のホルスターに仕舞い込み、シャツの裾でそれを隠す。

 そうしてスマホをズボンのポケットにしまうと、彼女の家のインターホンが鳴った。

「こんな時に?」

 マリは不思議に思い、インターホンのモニターを見る。

 やってきたのは、玲子だった。

「玲子?」

 マリは改めて疑問を深めた。

(玲子にも飛鳥から召集がかかってるはず、なんでここに来てるの?)

 マリは脳裏に嫌な予感がよぎりながら玲子がいる玄関まで小さく走る。玄関までたどり着くと、マリは笑顔を作って扉を開けた。

「いらっしゃーい、どうした…」

 マリが愛想よく挨拶するが、思わず言葉を失う。

 マリの目の前に立っていた玲子は、右手に拳銃(M500)を握りしめ、その銃口をマリに向けていた。

「中に入って、早く」

 玲子は低い声で言う。マリは笑顔を消しながら後ろに下がり、家の廊下に立つ。玲子は玄関に立つと、扉を閉め、鍵をかけた。

「玲子、どういうつもりなの?さすがにこれは笑えないよ」

「笑わせるつもりでやってるわけじゃないからね」

 マリの言葉に、玲子は短く答える。玲子は険しい表情をしていた。

 マリはこの状況を変えるために、腰の拳銃に手を伸ばそうと考える。そのために、玲子の注意を逸らそうと話し始めた。

「私、飛鳥のところ行かなきゃいけないの。玲子もそうでしょう?だったら、早くこんなことやめて…」

 マリがそう言いながら腰の拳銃を抜き、すぐさま玲子に向けるが、玲子はほとんど同時にマリのその拳銃を蹴り飛ばした。

「っ!」

 拳銃は壁を反射し、マリの後ろへと滑っていく。玲子に背を向けずに拳銃を取るのは難しそうだった。

「抵抗しないで…殺しはしないから…」

 玲子は心苦しそうに声を発する。マリはそんな玲子を見ながら尋ねた。

「ねぇ玲子、どうして?早く私たちが行かないと、またたくさんの人が苦しむんだよ?魅神は佐ノくんが倒してくれる、私たちは心音たちを止めなきゃ、また…」

「76人」

 玲子はマリの言葉を、謎の数字で遮る。マリはその人数が何を指すのか理解した。

「…この間の首相襲撃事件で亡くなった人の数?」

「そう」

「それがどうしたのよ?」

 マリに尋ねられると、玲子は目を伏せる。そして声を絞り出すようにしてその質問に答えた。

「…私が殺した…」

 玲子が言うと、マリは首を傾げた。

「何を言っているの?事件の日、私たちは一緒に交番にいたじゃない、あなたに誰を殺せるって言うの?」

「違う…!」

 マリの言葉に対し、玲子は首を横に振った。

「もっと前…桜たちから通報があった時…私はトッシーと遭遇してたの」

「えっ…」

 初めて聞かされた真実に、マリは言葉を失う。玲子は言葉を続けた。

「彼は…私に…『好きだ』って…だから…撃てなかった…止められなかった…!そのせいで…あんなに大勢の人が死んでしまった…!」

 玲子は目に涙を湛えながら言葉を振り絞る。マリはそれを聞き、奥歯を噛み締めた。

「魅神…!他人の心を弄んで…!そんなの玲子のせいなワケない!一番悪いのは魅神でしょ!?」

 マリは感情的になって声を大きくする。そのままマリは玲子の目を見て訴えかけた。

「ねぇ玲子!冷静になって!こんなことしても何にもならない!今すぐ銃を下ろして、飛鳥のところに行きましょう?」

 マリは思いを吐き出すだけ吐き出すと、玲子に優しく声をかける。しかし、玲子は首を横に振った。

「私は感情に任せて彼の味方をしてしまった…!彼を止められなかった…!こうなってしまった以上は、やるしかないの…!」

 玲子は悲痛に叫ぶ。そのまま玲子は拳銃の撃鉄ハンマーを起こし、マリの眉間に狙いをつける。

 同時に、マリはそんな玲子の言葉に眉をひそめ、鋭く玲子の目を睨んでいた。

「自分のミスのためにさらに人を殺すの?それが警察官のやることなの?」

 玲子は初めて見るマリの鋭い表情と正論に、思わずたじろぐ。そんな玲子を見て、マリは一気に姿勢を低くして突っ込んでいった。

 マリは玲子の胴に飛びつくようにタックルを入れ、玲子を玄関の扉に追いやる。しかし、玲子は即座にマリの顔面に膝蹴りを入れると、自分から離れたマリに、追い討ちで蹴りを叩き込む。

 マリは悲鳴を上げながら廊下に倒れ込み、そんなマリに玲子は銃を向けた。

「マリだってわかるでしょ…!佐ノ介のためだったらあなたはなんだってする、私だって…!」

「私の佐ノくんと魅神を一緒にしないで!佐ノくんは罪のない人間を一方的に殺したりなんかしない!仮にそんなことをしても、私はそれを手伝ったりなんかしない!だって私には責任があるから!」

 マリはそう言葉を返し、すぐさま立ち上がると、玲子の顔面に目がけて蹴りを放つ。玲子は片手でその足を掴むが、マリは掴まれていない足で玲子の顔面を蹴り上げると、玲子の背後に回り込み、玲子を羽交締めにする。

 玲子は抵抗するが、同じ警官として訓練を受けているマリの拘束からは簡単には抜け出せなかった。

「好きな人のために動いてしまう気持ちはわかるよ、でも私たちには、警察官として、この街の人たちを守る責任がある!忘れたなんて絶対に言わせないから!」

「責任...」

 玲子はマリの言葉に考え込む。だが、すぐに玲子はマリを力任せに振り解くと、マリを投げ飛ばした。

「っ…!こんのぉ…!」

 マリは怒りに任せて立ち上がり、玲子のもとへ駆け寄る。しかし、玲子は冷静にマリのボディーに一撃を叩き込むと、怯んだマリの頭を真横から蹴り抜く。

 マリはすぐさま蹴り返すために右足を振り上げるが、玲子はすぐさまマリの軸足を蹴り飛ばし、マリをその場に倒した。

「痛ぁっ…やっぱり玲子に格闘じゃ勝てないか…」

 マリは背中の痛みに身をよじりながらぼやく。

 そんなマリを上から踏みつけて抑えると、玲子は両手で拳銃を構え、マリの眉間に狙いをつけた。

「何もかもマリの言う通りだと思う…私たちには責任がある…でも私はそれからも逃げてしまった…もうこの世界に私の居場所なんかない…せめてトッシーに筋を通して…私は自殺する」

「それで弱そうな私を狙ったの?この卑怯者!」

 マリの言葉に、玲子は思わず怯む。温厚なマリにここまで強い言葉をぶつけられたのは初めてだからでもあった。

「撃ってみろ!星野玲子!教えた通りに!ほら早く!」

 マリは玲子を強く睨みながら叫ぶ。拳銃を握る玲子の手が震え始めた。

「撃てないんでしょ?ここに来た本当の理由は、私に止めて欲しかったんじゃないの?」

 マリの言葉に、玲子は言葉を失う。マリは同時に押し切れると察した。

「最初からわかっていたんでしょ?ミスを取り戻すには、戦うしかないって!でも好きな人を裏切ることになるのが怖かった、だから私のところに来た!そうなんでしょ!?」

 マリは最後のチャンスと思い、声を張る。


 玲子は奥歯を噛み締めた。


「ぅう…あぁぁ…っ!!」


 玲子は涙を落とし、マリから足を外し、銃を下ろす。そのまま玲子は玄関の隅で頭を抱えながら人目を気にせず泣き出し始めた。

「マリ…!どうしよう…!私…私…!」

 膝を抱えて泣きじゃくる玲子の隣に、マリはゆっくりと腰を下ろし、玲子を抱きしめた。

「トッシーのことが好きだった…!でも、私はやっちゃいけないことをした…!私は、警察官なのに…!もうこうなったらトッシーのために何人でも殺さなきゃいけないって思った、でもそんなことできなかった…!どうしたらいいの…!トッシーの味方にも、人々を守る警官にもなれない私は…!」

「…玲子、一緒に戦おう。私たちは、警官でしょ?」

 マリは玲子に語りかける。

「一度ミスをして、それで大勢が亡くなって、でもだからといって2度と戦わないって言えば、また誰かが殺されるだけ。大事なのは、少しでも多くの、今を生きてる人たちを守ることでしょう?それができるのが警官でしょう?」

「マリ…」

「だから、力を貸して、玲子」

 マリは優しく微笑み、手を伸ばす。玲子は一度俯く。

「...やっぱりマリには敵わないな…」

 玲子はそう呟くと、顔を上げてマリの手を握った。

「…精一杯、頑張ってみる。私が殺してしまった命に報いるために」

 玲子は決意を新たにした表情でマリに言う。マリは微笑んで頷いた。

「それじゃあ」

 マリはそう言うと、不意に玲子の頬にビンタを入れた。

「痛っ!...なんで?」

「佐ノくんを馬鹿にした罰だよ。さぁ、行きましょ!」

 マリは爽やかに言うと、廊下に落とした自分の拳銃を拾い、腰のホルスターにしまい込む。玲子も自分で立ち上がり、マリの隣に立つ。

 2人は目を合わせて頷くと、玄関の扉を開けて外へ歩き始めた。

最後までご高覧いただきましてありがとうございます

マリと玲子の回でした。お楽しみいただけましたでしょうか

残り数話ですが、今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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