Chapter 9-7 決意と執念
数時間前 5/16 朝6:30 浅緋川市
4人の人間が、ビジネスホテルの一室にいた。しかし、この4人は互いに鋭い殺意を放っており、お互いに一切心を許していなかった。
「ったく、本当にこっちにくるのか?えーっと?連貫さんよ?」
窓から街を見下ろしながらそう尋ねたのは、カウボーイハットの男、ボニーだった。そのボニーの正面に座り、クロスボウガンを整備する眼帯の男、連貫は鼻で笑った。
「ふん。奴らの狙いを考えれば当然だろう。無駄口を叩いていないでまた失敗しないように準備でもしたらどうだ」
「よく言うよね。女にセクハラして返り討ちにされただけでなんでそんなに偉そうにできるわけ?」
余裕を見せていた連貫に、辛辣な言葉と共に首元へ鋭利な刃物を突きつけたのは若い女、切だった。
「ふん、お前も同じようにねじ伏せてやろうか、小娘」
「はっ、その小汚いの切り裂いてやろうか、オッサン!」
「うるさい。静かにしろ」
連貫と切の会話の横から、女の声で短く制止が入る。右腕に分厚く包帯を巻き、左腕に狙撃銃(レミントンM700)を抱えている彼女は、照星だった。
照星に叱られた切は怒りの矛先を照星に向けた。
「うるさい?片手しか使えないオバサンが何言ってんの?」
「両手が使えるのに仕事をしくじったガキがいるらしいが?」
「はいはい、もうやめろお前ら」
不毛な言い争いを続けようとする切と照星をなだめるように、ボニーが2人の間に割って入る。
「現実見ろよ。俺たちは4人とも、魅神に雇われて、戦いを仕掛けて、しくじった。そうだろ?」
「切ちゃんはしくじってない!」
「だとしても魅神さんから見捨てられた、そうだろ、ガキ」
声を上げる切に、連貫は冷静に言い捨てる。切は感情的になって連貫のこめかみを、指先を刃物に変形させつつ貫こうとしたが、連貫の頭は刃物を弾き返した。
「…ちっ、なんでトッシーはこんなのに龍人の力を与えたのよ」
「悔しければ重村を殺せばいい」
悪態を吐く切に対し、連貫はひと言答える。切もそれを聞いて静かになると、連貫は4人の中心に数馬の全身画像を映したスマホを置いた。
「重村数馬…口にこそ出さないが、魅神さんは明らかにこの男を1番に警戒している。だからこそ俺たちが倒せば、魅神さんからの評価は跳ね上がる」
連貫が言うと、全員の表情が引き締まる。
「他人からの評価などどうでもいい。私に必要なのは報酬だけだ」
「んまぁ、多めに金をもらえるんだったらいいかな」
照星とボニーがそれぞれ呟く。切も、スマホに映る数馬に対して憎悪の表情をむけていた。
「私からトッシーを奪ったこいつ…絶対に殺す…!」
連貫は他の3人も自分と同じようにモチベーションが高いことを感じ取ると、勝ちを確信したような表情を見せた。
「あぁ…確実に殺すぞ」
11:00 浅緋川市
重村数馬は1人で人の少ない道を歩いていた。
(マップアプリはありがたいけど…ホントに合ってるのかこれ?)
数馬はスマホの地図で道を確認しながらバスを目指す。次のバスに乗り込むことができれば、目的地である龍観町まではそう時間もかからない。しかし、人通りの少ない道を選んだので、本当にバス停への道が正しいのか不安になっていた。
(それにしても、割と都会だと思ってたんだが、人がいないところは本当にいないんだな)
数馬は内心感心しつつ、前に進んでいく。
そんな彼の目に、空中で何かが光を反射しているような様子が映った気がした。
(…ライフルか?)
数馬は嫌な予感がすると、咄嗟にしゃがんで前に転がる。
ほとんど同時に何かが着弾したような音が光を反射していたところから響いた。
数馬は顔を上げてそちらを見る。その時、ようやく光の反射の正体を察した。
(ドローン…!連貫め、生きていたか!)
数馬は敵の正体を察すると周囲を見回す。少し離れた空中に、4機のドローンが飛び交い、銃弾を乱反射させていた。
(あれじゃいつ銃弾が飛んでくるかもわからない…今のうちに壊しておくか)
数馬はそう思うと腰の拳銃(M686)に手を伸ばす。
そのまま銃撃でドローンを破壊しようと思ったその時、強烈な殺気を左側から感じ取った。
数馬は銃ごと左に向く。その先にいたのは、ライフルを数馬に向けているカウボーイハットを被った男だった。
数馬は瞬時にドローンよりもその人間の方が脅威と考え、銃を男に向けて引き金を引く。しかし、男もそれに気づいて横に転がって数馬の銃撃を回避した。
(なるほど、2対1か。上等だ)
数馬はそう思って狙いをその男に絞ろうとした瞬間、数馬の背後から金属が擦れるような音が聞こえてきた。
まさかと思った数馬は振り向く。
見ず知らずの若い女が、自分の腕を刃物に変形させて数馬の脳天に振り下ろそうとしていた。
数馬は咄嗟に拳銃を発砲する。強力なマグナム弾が女の腹に直撃するはずだったが、女はもう片方の腕を刃物に変形させて銃弾を受け止め、数馬から距離を取った。
(3対1だったか…勝てない数じゃないな)
数馬はそう思いながら考えを練る。しかし、そんな数馬にドローンから反射していた銃弾が飛んできた。
同時にカウボーイハットの男からのライフル弾も飛んでくる。
数馬は瞬時に両腕で顔面と心臓を守りつつ、全身に終わりの波動を纏わせる。数馬を貫くはずだった2発の銃弾は、赤黒いオーラに触れると、一瞬で朽ち果て、銃弾としての機能を失った。
(さて、反撃を…!)
数馬はそう思ってドローンの方へ駆け出そうとする。だが、そんな数馬の背後から、数馬の肩に弓矢が突き立てられた。
「っ!!」
強烈な痛みに耐えながら、数馬はすぐさま弓矢が飛んできた方向を見る。さして高くない建物の屋上に、眼帯姿でクロスボウを構えた連貫が立っていた。
(クロスボウ?まさか…スナイパーは別でいるのか…!)
数馬はようやく今自分が置かれている事態を理解した。
(4対1…面白くなってきやがった…)
数馬は敵たちの姿を見ながら警戒する。そんな数馬の姿を見下ろし、連貫は高らかに声を上げて笑った。
「重村数馬!お前のために墓場を用意してやったぞ!」
「恐縮ですよ、連貫少尉。使わないものをご丁寧に」
「相変わらずの減らず口、これが最後だと思うと清々するな」
「あぁ、ここの墓場はお前用だからな」
「始めろ!」
連貫の号令と共に、ボニーと切が数馬に銃撃と刃物を飛ばしてくる。数馬は再び全身に終わりの波動を纏いながらそれを防ぎ、建物と建物の間の路地へと逃げ込んだ。
「ターゲットロスト、連貫、次は」
スコープで数馬のいたところを警戒していた照星は、通信機で連貫に連絡する。連貫は建物から飛び降りながら指示を出す。
「照星はその場で待機、ドローンで追跡するからその時に狙撃しろ。ボニーと小娘は重村を追跡し、終わりの波動を使わせろ。そうすればじきにあいつは自滅する」
連貫の指示に、ボニーと照星から返事がくる。連貫はそれを聞いて勝ちに近づいていることを確信した。
「苦しんで死ね、重村数馬…!」
一方の数馬はひたすら全力で走っていた。背後から聞こえてくるボニーと切の足音を聞きながら、数馬は次の手を考えていた。
(さっき波動を出した反動がいつくるかわからない…逃げ回っていても逃げきれないが、足を止めればスナイパーに撃ち殺される…まずはスナイパーを倒さないとな…)
「見つけた!!」
数馬が考えているのもよそに、上から聞こえてくる女の声。数馬は一瞬足を止めて上を見る。両手を巨大な刃物に変形させた切が、上から降ってきていた。
数馬は咄嗟に後ろに転がって切の攻撃をかわす。着地した切は、刃物になった腕に軽く息を吹きかけ、数馬と距離を測るように左右に歩く。
「あんたみたいなのがいるせいでさぁ!トッシーの正義は全然みんなに伝わんないしさぁ!私はトッシーに嫌われてさぁ!あんたみたいなのは世界のガンなんだよ!早く死ねや!」
「そんなに死んで欲しいなら殺せばいいじゃねぇか?」
「言われなくても!」
切はそう言うと、数馬の顔面に目がけて右腕の突きを繰り出す。
(早い!?)
数馬はその速さに終わりの波動を出すのが間に合わないと察すると、上体を捻ってその攻撃をかわす。
反撃をしようとした数馬だったが、切の距離までは3歩ほど距離があり、拳や蹴りでの反撃はできそうになかった。
(遠いが…これの出番だ)
数馬は自分の首元に手を伸ばす。手に取ったのは、首に巻いてあった細長いタオルだった。だがただのタオルではない。その両端に金属製のおもりを仕込んであり、十分に鈍器として機能する武器だった。
切もまさか武器とは思っていなかったものの攻撃を受け、反応が遅れ、おもりの一撃を顔面にもらった。
「痛っ!」
だが切もわずかによろめいただけで立ち直ると、左腕を振るって数馬の首を切り飛ばそうとする。数馬はしゃがんでその攻撃をかわした。
数馬と切が接近戦を繰り広げる中、追いついたボニーは数馬の背後に回り込んでいた。
「お嬢!下がれ!」
数馬に何度も攻撃していた切は、ボニーからそう言われると、すぐに数馬から距離を取る。
それが見えたボニーは、数馬が振り向いた瞬間にライフルから持ち替えたショットガンで数馬を撃ち抜いた。
数馬は咄嗟に身を守りながら正面に終わりの波動を集中させる。結果として散弾が数馬の体を傷つけることはなかったが、数馬の体はその衝撃に大きくよろめいた。
その瞬間、下がっていた切は右腕を大きく振り上げて数馬に迫った。
「やめろお嬢!」
嫌な予感を察知したボニーが叫ぶ。だが構わず切は巨大な刃物になった右腕を振り下ろそうとしていた。
(こいつさえ死ねば!私はトッシーを取り戻せるんだ!)
「死ねぇええええ!!!」
切は絶叫と共に数馬に刃を振り下ろす。
しかし、終わりの波動を出せていた数馬は同時に右手にアイテムである拳銃を発現させていた。
至って冷静に数馬は切の方に体を向けると、腰に構えた拳銃を切に向けた。
「くそっ!」
数馬が拳銃の引き金を引いたその瞬間、ボニーが切と数馬の間に割って入り、切を守るようにして突き飛ばす。
ボニーの背中に数馬が放った銃弾が直撃した。
「うぐぁあああ!!!!」
悲痛な断末魔をあげながら、ボニーの体全てがものの数秒で黒い灰へと姿を変えた。
(まず1人)
数馬は冷静に状況を分析しながら、ボニーに突き飛ばされてその場に尻もちをついている切に止めを刺そうとする。
しかし、数馬が拳銃の引き金を引こうとしたその瞬間、ライフルの銃弾が真上から数馬に降ってきた。
終わりの波動を出していた数馬は無傷だったが、すぐに真上を見る。ドローンが4機、辺りを旋回していた。
(見つかったか…!)
数馬はそれを察すると、再びスナイパーである照星の居場所を目指して走り出す。
「逃さねぇぞコラァ!」
切は自分の横を通り過ぎようとする数馬を切り付けようとしたが、数馬は軽くその攻撃を飛び越える。
切は立ち上がり、数馬に刃を突き立てようとするが、数馬はそれをおもりを仕込んだタオルで払い除けた。
「救われた命を無駄にすんなよ」
「知るか!トッシーに愛されなきゃ人生に意味はないんだよ!トッシーだけがこの世界の人間の人生に意味を与えてくれるんだよ!」
切は狂気的にそう言うと、数馬に攻撃を続け、そのうちおもりを仕込んだタオルを細切れにして切り捨てた。
「死ねぇ!!」
切は数馬の喉元を目掛けて突きを放つ。正確な突きは、数馬の喉元を貫くはずだった。
しかし、切の動きに目が慣れた数馬は、切の攻撃に合わせて終わりの波動を全身に纏わせた。
そのまま体重を乗せて突っ込んできた切の首を数馬は掴み上げた。
「悪く思うな」
数馬は短くそう言うと、切の首に終わりの波動を流し込んだ。
「トッ…シー…!」
切は声にならない声で暁広の名前を呼ぼうとしたが、その場に倒れ込むと、黒い灰になって消え去った。
「惚れた相手が悪かったな…」
数馬は同情にも似た感情で自分が殺した若い女に声をかけると、すぐにその場から立ち去った。
「こちら照星、ターゲットがこちらに接近している。ボニーと刃は何をしている」
照星は片手で狙撃銃の銃弾を排莢しながら、ドローンの動きを見て数馬の動きを追う。すぐに連貫から照星の通信機へ返事が来た。
「どちらもやられた。ドローンは付けてる、重村が血を吐くまで監視して持ちこたえろ」
「…了解」
連貫の指示に、不服そうに照星は答える。照星は、狙撃銃のスコープでこちらに走ってくる数馬の動きを監視していた。
一方の数馬は広い道路に出てしまい、闇雲に正面の建物を目指して走っていた。
(あまり波動を出したくないんだがな…いつ血を吐くかわからないし、いつ狙撃が来るかもわからない…しかもこの立地はまずい…)
数馬は周囲に障害物になりそうなものを探す。近くにあったのは乗用車だけだった。
(一旦隠れるか)
数馬はそう思うと、少し前にあった乗用車の影にしゃがみ込む。走り疲れた体と呼吸を整え、同時に自分の頭上を飛び交うドローンたちを見ていた。
(ブンブンうるせぇなぁ…少し黙らせてぇな)
数馬はそう思いながら、自分が走ってきた道を見る。ボニーを倒して出てきた路地から、連貫が出てきてこちらに向かってきているのが見えた。
「やべ」
数馬は危険を察知すると、車の下にホフク前進で潜り込んで隠れる。
しかし、連貫はそれを見逃さず、さらにドローンたちも車を囲むようにして空中にホバリングしていた。
「そこに隠れたか、重村数馬」
連貫は1人で呟くと、車にゆっくりと近づいていく。
数馬もこちらに近づいてくる連貫には気がついていた。
(…まずったかな)
数馬はそう思いながら車の下を抜け出そうとする。しかし、その瞬間、終わりの波動の反動で、数馬は急に咳き込みながら血を吐き始めた。
数馬の咳き込む声を聞き、連貫はニヤリと笑った。
「隠れても無駄だったな、重村数馬。照星、仕留めてやれ」
連貫は冷静に言う。同時に、連貫が操るドローンも車の上をホバリングしていたものが、車の下の方へ銃弾を反射できるように低空ホバリングを開始した。
「了解、射撃対象確認」
照星も言葉少なく連貫に答え、銃弾を装填する。
一方の数馬も、咳き込みながら自分が立たされた窮地を察していた。
(…いいや、諦めねぇぞ俺は)
数馬は血を吐き終えると、うつ伏せだった体を仰向けにし、腰にしまっていた拳銃(M686)を抜き、車の底面に向けた。
「頼むぞ、357マグナム…!」
数馬は祈りながら引き金を引いた。
同時に、照星も狙撃銃の引き金を引いた。
照星の放った銃弾は、真っ直ぐドローンの一体に直撃すると、反射し、数馬のいる車の下へと飛んでいく。
(勝ちだ)
照星も、連貫もそう思った瞬間だった。
数馬が隠れていた車が爆発したのである。
想定外の出来事に、思わず連貫は爆風から身を守る。
照星も、急な爆発で目を逸らす。
(馬鹿な…私の狙撃が外れたのか…?)
照星は未だに信じられず、もう一度狙撃銃のスコープ越しに周囲を見回した。
「照星、爆発させるならそう言え」
「違う、私じゃない」
連貫からの通信に、照星は焦りがこもった声で答える。連貫はまさかと思い、周囲を見回すと、ドローンの残骸が道路に散らばり、赤い炎が辺りに広がっていた。だが一つ足りない。
「…重村の死体がない…!」
連貫が言うと、照星は狙撃銃から目を離し、自分の目で車の残骸があった辺りを見た。だが見えるのは炎ばかりで、数馬の姿はなかった。
「まさか…!」
「その通り」
照星の背後から、数馬の声が聞こえてくる。数馬は息を切らしていたが、十分に戦意に満ちていた。
照星はすぐさま狙撃銃の銃口を数馬に向けたが、数馬は狙撃銃ごと蹴り飛ばす。
「死んでもらうぞ」
拳を構え、冷酷に声を発する数馬に対し、照星は声を作った。
「お願い!殺さないで!数馬!」
彼女の特技の声帯模写で陽子の声を作り、命乞いをする。思わず数馬の動きが一瞬止まった。
(もらった!)
照星は左足に隠していた拳銃へ手を伸ばす。しかし、その瞬間、終わりの波動をまとった数馬の拳が、照星の顔面に炸裂した。
照星は声を上げることもできず、顔から徐々に黒い灰へと姿を変えた。
「…下手な声真似しやがって」
数馬は静かに言うと、建物の屋上から連貫を見下ろす。連貫は憎悪の表情で数馬を見上げていた。
連貫は通信機を取ると、照星の通信機に連絡を入れる。数馬もその通信機を取った。
「ふん、重村、しぶといじゃないか」
「まぁな。あんたもそろそろ諦めたらどうだ」
「貴様を殺すまで、俺は諦めん」
「くだらねぇな」
連貫の言葉を、数馬は一蹴する。連貫は怒りを抑え込みながら言葉を続けた。
「くだらない?俺もお前も本質的には変わらない。人殺しだ。だというのに何を偉そうにしている」
「俺が人を殺すのは、自分や自分の大切な人が生き延びるためだ。お前みたいに私怨に囚われたり、目先の金のために人を殺したり、魅神みたいに思想のために人を殺したことは一度もない」
「だが人殺しだろう」
「そうだ。だが俺がやらなきゃもっと大勢が死んだ。だから俺は自分が人殺しであることを否定しない。大勢のために必要とあれば敵は殺す。それが俺の生き方だ」
「馬鹿らしい。俺たちは所詮五十歩百歩だ」
連貫はそう言い放つと、ボウガンで数馬を撃つ。しかし、数馬はそれを終わりの波動を纏った拳で払い除けた。
「貴様がそう言えるのは勝ってきたからだ!俺がここで貴様に勝てば、全ては正当化される!俺の人生も全て!だから俺はお前を殺し、魅神さんの作る世界で全てを手に入れる!」
「好きにしな。俺を殺せるならな」
連貫の言葉に、数馬は短く答える。連貫は数馬を強く睨むと、膝を深く曲げ、数馬が立つ建物の屋上によりも上空に跳躍し、数馬に向けて弓矢を放つ。しかし、数馬はそれをあっさりとかわす。
そうして数馬が立ち退いたところに、連貫が着地する。2人の男は正面から向き合った。
数馬と連貫は距離感を一定に保ちながら左右に歩いてタイミングを測る。
(重村が銃撃するほんの一瞬、終わりの波動が解ける。そこを見計らって俺の弓矢を叩き込む…!)
連貫は数馬がアイテムの拳銃を撃ってくることを待っていた。その瞬間に生じるわずかな隙で数馬を殺そうという計画である。龍人である連貫は数馬の終わりの波動でしか殺せないということを加味した作戦だった。
互いの距離は5歩。接近戦をするには遠すぎる。
数馬と連貫はお互いに足を止めた。
先に動いたのは数馬だった。
アイテムの拳銃を発現させると、一気に前に踏み込んだ。
連貫は動かず、数馬が拳銃を撃つまで数馬の動きを見ていた。
(撃ってこい!この距離で貴様の拳は届かない!)
連貫が見ていたのは数馬の右手に握られていた拳銃だった。
だが、数馬は撃たなかった。
逆に一気に懐まで潜り込んだのである。
連貫はそれに対応してクロスボウガンを数馬の頬に目掛けて振るう。
数馬はそれを受け止めるように終わりの波動を顔面に纏いながら、拳銃を終わりの波動に戻し、右手に纏わせると、渾身の右ストレートを連貫の腹に叩き込んだ。
「うぐっ!!」
連貫の腹に終わりの波動が走り、連貫は動けなくなる。
そのまま膝から崩れ落ち、手からクロスボウガンを落とすと、連貫は天を仰いだ。
「負けたか…俺は…」
連貫はそう呟く。数馬は連貫の近くまで歩いた。
「これが…因果応報か…自分の人生しか考えず、他人の人生を踏み荒らしてきた人間は…こうなるしかないのか…」
「…そうだ」
数馬の返事を聞き、連貫は血を吐いて咳き込む。
「重村…お前はいつも強かった…その強さが羨ましかった…だがそれは…他人の人生を守るための強さだったんだな…」
連貫はそう言うと、ついに力尽き、前に倒れる。彼の体は、黒い灰になって空へと舞っていった。
「…もっと早く気づいてほしかったぜ、教官」
数馬は空に舞っていく自分の教官の亡骸を見て呟く。そしてすぐに自分の任務を思い出すと、目的地に向かって歩き始めた。
12:00 北回道 龍観町
数馬はバスを乗り継ぎ、人がいない自然ばかりのこの街に降り立った。
数馬が降り立ったバス停には、数馬の仲間たち5人がすでに先に到着して数馬を待っていた。
「よう、遅かったな」
雅紀が陽気に数馬に声をかける。数馬はそれに頷いた。
「まぁひどい目に遭ってな」
「実はみんなそうでよ。全員待ち伏せを食らったらしい」
「おかげで死にかけだよ…痛てて」
数馬と雅紀の会話に、奥のベンチで竜雄に手当てされている佐ノ介が言う。佐ノ介の隣では、狼介と隼人が手当ての順番を待ってベンチに腰掛けていた。
「でもまぁ、雄三以外はここまで来れて運が良かったよ。雄三も病院に運ばれて、無事らしいし」
雅紀が軽い空気で言う。数馬もそれに答えた。
「まずはそれを喜ぶか。でも、この後にもまだやらなきゃいけないことは残ってる。みんな、頼むぞ」
数馬が言うと、男たちは太い声で、おうと答える。6人の男たちは、鋭い、仕事をする表情になっていた。
最後までご高覧いただきましてありがとうございます
数馬回でした。お楽しみいただけましたでしょうか
今回で残り10話となりました。最後までこのシリーズを楽しんでいただけると嬉しいです
今後もこのシリーズをよろしくお願いします