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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 2 幕開け
11/124

Chapter 2-1 銃声

残酷な描写が含まれております

苦手な方はご注意ください

2013年12月25日 14:00 金山県湘堂市 四辻元町 天見山


 5人の少年たちは秘密基地を作っていた。穴を掘り、5人が隠れられるだけのスペースを作った時、異変が起きた。平和な街の午後には聞こえないはずの、銃声がひとつ鳴り響いたのである。

 少年たちは一斉に自らの耳を疑った。だが本能的に何かがまずいことは察していた。

「おい、今の…聞こえたか?」

 佐ノ介が不安そうなのを噛み殺しながら尋ねる。数馬がすぐにリュックの中身を整理しながらうなずいた。

「銃声…」

「んなわけないだろ?さっき工事やってたから多分発破だよ」

 浩助が呟いた言葉をかき消すようにして暁広が言う。

「ほらな、今は聞こえないだろ?第一、銃声なんて映画の見過ぎじゃ」

 暁広が次の言葉を繋いだ瞬間、また銃声が響いた。

 金切り声のような火薬の破裂音、何かが爆発する音、車の防犯ブザー、そして人間の悲鳴。平和な街で聞こえるはずのないものが一斉に彼らの耳を襲ってきた。

「…なんだ、これは…?」

 泰平が思わず呟いた。答えられる人間はここには誰もいなかった。

「様子を見に…」

「待った、隠れろ!」

 暁広が言おうとするのを佐ノ介が止めて静かに叫ぶ。佐ノ介の指示より速く数馬は穴に隠れ、残りの4人も数馬より遅れて穴に隠れた。

「なんなんだよ佐ノ介、かっこつけてんのか?」

「入り口見ろ」

 暁広の言葉を無視して佐ノ介が山の北側の入り口を指差す。少年たちが目をやると、腕に傷を負った警官が山頂を目指して登ってきているのが見えた。

「助けに…!」

 すぐにも飛び出そうとする暁広の腕を掴み、数馬が制止する。同時に佐ノ介が鉄板を持って穴を上から塞ぎ、外から自分たちが見えないようにする。警官は悪態をつきながら自分が来た入り口の方へ銃を構えた。

 少年たちが固唾を飲んで見守っていると、先程警官が入ってきた入り口から人影が現れた。顔には目出し帽を被り、黒い服を着ている。そして何より異常だったのは、その両手で持ち運んでいるショットガンだった。

 警官はすぐに黒服に向けて銃を発砲する。下り坂の10m先。しかし黒服は近くの岩場に隠れて2発やり過ごしたかと思うと、すぐにショットガンを構えて警官へ発砲した。

 警官の青い服の腕部分が赤く染まる。もう一度ショットガンの轟音がしたかと思うと、警官は悲鳴をあげてその場に倒れた。

 地面に這いつくばりながら警官は必死に後ろへ逃げる。だが黒服の殺意は警官を逃さず、警官のすぐ近くまで駆けてきた。

「よせ!やめろ!」

 警官は両手を上げて黒服へ叫ぶが、それは結局ショットガンの銃声にかき消された。天見山の砂に赤色が広がっていくのを、少年たちは黙って眺めていた。

「天見山を確保、応援を頼む」

 黒服はポケットから通信機のような何かを取り出して呟く。だが少年たちはそれよりも目の前の状況に戸惑っていた。


「なんなんだよ…これ…」

 暁広が力無く呟く。その横で、数馬がカッターナイフの刃を点検して呟いていた。

「やる時が来るとはな…」

 数馬の言葉に、真っ先に泰平が噛み付いた。

「何をする気だ数馬?まさか戦おうなんて言うんじゃあないよな?」

「そのまさかだ」

「死にたいのか重村数馬?今すぐ逃げるのが最善だ、できなきゃ話し合い、殺しなんてありえん、死ぬぞ?」

「こんな状況じゃ町もヤバいだろ。敵は減らしたい」

数馬が言うと、佐ノ介もうなずいた。首に下げていた射撃用のゴーグルを着けて、エアガンを片手にしている。

「話し合いができるなら警官は死ななかったろうな…」

佐ノ介は呟く。すぐに暁広が反論した。

「だからって奴に勝てるわけないだろ!向こうは実銃、こっちはオモチャにカッター、しかも大人と子供!逃げるしかない!」

「後顧の憂いは断つべきだ。最悪俺と数馬の犠牲で3人は逃げ切れる」

「勝算は!?」

佐ノ介に代わって数馬が答えた。

「佐ノ介がエアガンで囮役。俺が警官の実銃を取って背後から奴を撃ち殺す」

「殺す…お前意味がわかってるのか」

「あぁ、後でムショにでもなんでも入ってやるさ。だが殺んなきゃ殺られるなら殺るだけだ」

 泰平の疑問に答えながら、数馬の目は据わっていた。そして、有無を言わさぬ殺意と覚悟が彼と佐ノ介を包んでいた。

「合図したら佐ノ、飛び出て右へ。その間に俺が左から回り込んで銃を取る」

「おし、みんなは隙を見計らって逃げてくれ」

 数馬と佐ノ介が引き締まった表情で言う。その表情には生きて帰れないという覚悟があった。

「…わかった。死ぬなよ」

 暁広が言う。数馬と佐ノ介はうなずくと、音を立てないように鉄板を敵側に向けて立て、敵がこちら側に背を向けているのを確認した。


 数馬が左へ、佐ノ介が右へ飛び出す。

 それぞれ木の影に隠れて、視線を短く交わすと、数馬が戦没者の慰霊碑の影に駆け込んだ。

 まだ誰も見つかっていない。

 数馬が慰霊碑の影から警官の死体に駆け出そうとした時だった。

 枯葉を踏みにじる音が響いたのである。

「誰だ!」

 敵の太い声が響く。

 同時にショットガンの轟音が天見山に響いた。

 咄嗟に隠れなければ数馬も吹き飛ばされていただろう。

 敵もよくわかっていた。

 数馬のいる方に見当をつけると、ゆっくり数馬の方に歩きながらもう一度ショットガンの引き金を引いた。

 木の根っこに当たった散弾が跳ね返って何発か数馬の頬をかすめる。思わず数馬も顔を隠した。

「数馬ァ!」

 佐ノ介の大声がした。

 彼は持っていたカッターナイフの刃を最大限露出させると、叫びながら、こちらに振り向く敵に向かって投げつけたのである。

 敵は叫び声で振り向き、飛んできたカッターナイフを平然と避けると、佐ノ介の方に向けてショットガンの引き金を引く。

 すぐに佐ノ介も木の陰に隠れたが、銃弾によってその木の一部が吹っ飛んでいた。

 敵がショットガンの排莢を済ませたのと同時だった。

「オリャアア!」

 敵の背後から響く数馬の叫び声。

 振り向くと数馬がカッターナイフを敵に向けて突撃してきていた。

 敵はなんとかそれをかわしてショットガンの引き金を引く。

 しかし弾が出ない。

「もらったぁ!」

 明るい声と同時に数馬がナイフを振るう。

 敵は辛うじてショットガンでナイフの刃の部分を受け止めると、数馬の腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 数馬もナイフを落としたが簡単には倒れない。

 吹き飛ばされたのをバネにして、敵の腹にショルダータックルを入れる。

 敵もまさかと思ったのか、大きく姿勢を動かされ前屈みになる。

 敵がショットガンを振り回そうとしたその時だった。

「ウッ…!」

 うめき声は敵のものだった。数馬が隠し持っていた十徳ナイフで敵の腹を貫いていた。

「こんのぉ…ガキィ!」

 敵は持っていたショットガンを振り下ろす。

 すぐに数馬はバックステップでそれをかわすと、落ちていたナイフを拾い上げ、そのまま相手の顔をナイフで切りつけた。

「うぐわあああっ!!」

 相手が顔を抑えながらのたうち回る。

 数馬は一切の容赦を捨てた。

 相手が怯んだところを見計らうと、ナイフで相手の喉仏を貫く。

 右手がどんどんと血に塗れてきているのがわかる。生暖かい。

 数馬の手を押し返そうとする手に力がない。

 数馬はナイフをひと息に引き抜くと、相手を蹴り倒す。

 首から大量の血を流している相手はすでに生きてはいないだろう。

 だが数馬はそれに馬乗りになると、改めてナイフを逆手に持って敵の心臓部分を目掛けてナイフを振り下ろしていく。

 一撃一撃に体重を乗せているので刺突の間隔は遅い。

 10発ほど攻撃を入れると、数馬の動きは止まる。敵の体にナイフを突き立てたまま、数馬は敵の体から降りて肩で息をしていた。


「ハァッ…ハァッ…殺っちまった…嫌すぎる…」

 数馬が自分の血に汚れて震える両手を見て呟く。そんな彼に、佐ノ介と、隠れていた暁広達が現れた。

「数馬…」

 佐ノ介が心配そうに数馬の名前を呼ぶ。数馬は首を横に振ってから冷静に話し始めた。

「武器を奪おう。弾も」

 数馬に言われ、やや気が動転しながらみんな敵の死体に近づく。数馬以外の4人は嫌悪感を示したが、数馬は敵の死体をためらいなく漁り始めた。

「ホルスターに…CZだな。で、ショットガンに、ナイフ、と」

 数馬はそう言いながら敵から武装を外していく。暁広達隠れていた3人はやや引いていた。

「じゃあみんなで銃は分けよう。俺にはスコップと十徳があるから銃はみんなで分けてくれ」

「俺は要らん。人殺しなどできん」

 数馬の言葉に泰平が言う。数馬はそれを無視して警官の死体に近づいていった。

「じゃあ俺はショットガンを」

「いいぜ。浩助、拳銃もらってもいいか?」

「ああ、俺銃なんて使えないからな」

 その間に暁広達は銃を分け合う。暁広はショットガン(レミントンM870)を、佐ノ介は拳銃(CZ75ファーストモデル)を手にして、浩助はナイフを身につけた。

 ちょうど数馬も警官から銃を回収した。

「泰さん、これ」

 数馬が泰平に血に汚れた手で拳銃を手渡す。泰平は少し怒ったようだった。

「俺は人殺しなどせん」

「ならどうやって身を守る。使わんでもいいが持っておけよ」

 数馬はそれだけ言うと銃を泰平に押し付けるようにして渡す。泰平は渋々拳銃(ニューナンブM60)を受け取った。

「あと3発しか入ってないからな。大事に扱いなよ」

 数馬が改めて泰平に言う。泰平はやはり嫌そうにうなずいた。

「これからどうする?」

 浩助が尋ねる。彼の声の裏では、街の方からの銃声が響き渡っていた。

「七本松小ならみんないると思う。逃げるならそこだろ」

「異論なし」

 暁広が肩ひも付きのショットガンに弾を込めながら提案し、数馬が賛同する。5人は短くうなずくと、銃声の鳴り響く四辻の街へ駆け降り始めた。

最後までご高覧いただきましてありがとうございます

ついに始まりました。ここからが本当のTMO(The Magic Order)です。

嘘だろ、と思うようなことの連続する世界なので、ツッコミどころも多々あるかとは思います。それでも、どうか寛大な心でこの作品をお楽しみいただければと思います。

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