Chapter 8-11 突き立てる刃
23:45
雅紀と竜雄が桜と別れたのとほとんど同じころ、1人の女が従業員以外立ち入り禁止の誰もいない男性用の更衣室へ入っていた。
女は部屋に入るなり男臭い部屋に顔をしかめたが、すぐに彼女自身の目的を果たすために片っ端からロッカーを開けては空のものは閉めていた。
そうこうしているうちに、一番奥のロッカーを開けると、彼女はロッカーの中に目当てのものを見つけた。紺色の作業着である。
女は着ていたベージュのコートを脱ぐと、履いていたジーパンも下ろし、Tシャツと下着だけの姿になる。
すると、更衣室の扉が開くような音がした。女は開けてあるロッカーの影に隠れると、入り口からこちらに向かってくる人影を監視する。
女にとって都合がいいことに、入ってきた人間は女に気づかず、部屋の真ん中のロッカーと向き合って服を着替え始めた。
女はニヤリと笑うと、着替えに夢中で自分に気づいていない男の背後に回り込む。
彼女の能力で、音もなく自分の指を鋭利な刃物に変えると、その指で男の喉仏を貫く。貫かれた男は自分が何をされたのかもわからず、声も上げられないまま、その場にバタリと倒れた。
「あは…即死…」
女は小さく笑うと、自分の下着の紐に挟んでいたスマホを抜く。刃物になっていた指を元に戻し、スマホのカメラを起動すると、わざとらしく自分の胸がわずかに見えるように服をはだけさせ、背景に自分が殺した死体の傷跡が見えるようにしてカメラのシャッターボタンを押した。
そのまま彼女はその写真を送信すると、スマホで通話しながら着替えを始めた。
「あ、もしもしトッシー?切ちゃんだよ。今日の分、見てくれた?」
着替えをしながら無邪気に切はそう言う。スマホの向こうから聞こえてくるのは、暁広の声だった。
「あぁ、見たよ」
「今日のやつ、すっごい綺麗に刺し殺せたんだよ?しかも切ちゃんのセクシーショット付き。めっちゃいい1枚じゃない?」
「最高だよ、切」
「でしょー?待っててね、トッシー、このあと、とびっきりの送ってあげるから」
「どんなのが来るのかな?」
「船ごとみんな死んじゃうの!派手にやっちゃうからさ、できたら褒めて褒めて?」
「素敵だね、切。楽しみにしてるよ」
「うん!」
切は暁広の声を聞くと、嬉しそうにして通話を切る。彼女は同時に、作業着に着替え終えていた。
「さーて、推しのためにも頑張らなくっちゃ!」
切は明るくそう言うと、自分が殺した死体を蹴り上げてロッカーに叩き込む。そうしてロッカーを閉じると、悠々と更衣室を後にするのだった。
更衣室を出た切は、スマホを取り出し、船内の地図を確認する。
(エンジン室はここから3階層下かぁ…めんどくさいなぁ…)
切はそう思いながら廊下を歩いていく。
スマホに目線を落としていた彼女は、正面から人が来るのに気が付かず、そのまま衝突した。
「痛っ」
「失礼」
切とぶつかった眼鏡の男性は、小さく会釈して謝る。切も軽く舌打ちすると、すぐにもう一度スマホを見ながらその場を立ち去った。
(ったく、眼鏡野郎が。生理中だったら八つ裂きにしてたわ)
切は内心でそう吐き捨て、エンジン室を目指して階段を下りていった。
「船内の地図、か」
先ほど切とぶつかった眼鏡の男性、狼介は眼鏡を掛け直しながら、誰もいない廊下でふと呟いた。
(妙だな。あれはおそらく整備士のはず。なのに、作業着の裾の部分をズボンから出していた。しかもわざわざ船内の地図を確認しながら歩いている…さて、嫌な予感がするな)
狼介は胸騒ぎを覚えながら切の進んでいった廊下の先を見る。この先にある階段を下りれば、エンジン室があるはず。もしも狼介の予感が当たれば、状況は最悪などでは済まない。
狼介は自分の嫌な予感を振り払うようにして廊下を走り出していた。
一方の切はすでにエンジン室にたどり着いていた。中では切と同じような作業着を身につけた男たちが数人、設備を点検していた。
切は気にせずに階段を下り、作業している男の1人の背後へと回り込んだ。
「ども〜」
切が軽いトーンで作業員に声を掛けると、作業員は知らない声に戸惑いながら振り向く。瞬間、切は再び指を鋭利な刃物に変形させながらその従業員の喉を貫いた。
その場に崩れ落ちる作業員の死体を眺め、切は首を傾げた。
「うーん、なんか芸術点低いなぁ」
切はそう呟きながら指先についた血をハンカチで拭きとる。
すぐさま不審な音を聞きつけた他の従業員たちが駆けてくる。
「おい、どうした?」
振り向いた切の瞳に映ったのは2人の同じような服を着た作業員。彼らはすぐに切の足元にある死体に気づいた。
「…!」
「誰だお前は…!」
切は気づいた従業員の胸に、刃物に変形させた腕を伸ばして突き立てた。
殺した従業員を倒しつつ、腕を軸にしながらポールダンスのように回転し、足を刃物に変形させると、もう1人の喉元を足で切り裂き、ふたつ目の死体を作り上げた。
切は自分の仕事を終えると、右手についた血を軽く振るって落とした。
「ん〜、今の切ちゃんセクシーだったな〜。トッシーに見て欲しかったなぁ〜」
切はハンカチも取り出して手についた返り血を落とし、作業着のポケットにしまっていた爆薬とその起爆セットを取り出した。
「さて、お仕事お仕事っと」
切は陽気にそう言いながら死体の頭を踏みつけつつ、エンジンへと近づいた。
その場にあぐらをかいて爆薬セットを床に並べる。
鼻歌を歌う上機嫌な切の、少し離れた背後の物陰で、狼介は様子を窺っていた。
(あの並んでいる道具…やはり作業道具じゃないな)
狼介はそう思うと、物陰から足音を立てずに切の背後に近づく。
切はそれに気づかずに鼻歌を歌い続けているように見えた。
狼介と切の距離はあと5歩。狼介は何も言わずに切の背後に近づいていた。
瞬間、切は振り向きざまに刃物に変形させた左腕を振り抜いた。
狼介はすぐに後ろへ宙返りして、間一髪で刃物をかわす。
着地した狼介は眼鏡をかけ直す。同時に切は自分の腕を元に戻し、狼介と間合いをとりながら睨み合った。
「早いじゃん?陰キャメガネ」
「何者だ、小娘」
「何〜?ナンパ?切ちゃん、あんたみたいなの趣味じゃないんだけど」
「ふざけるな。そのC4で船ごと吹き飛ばすつもりだったんだろう」
狼介の言葉に対し、切は右腕を刃物に変形させて狼介の顔を目掛けて突きを放つ。狼介は姿勢を低くしながらそれをかわし、ひと息に切の目の前まで近づくと、切の顎を蹴り上げた。
「!」
切はそれを食らうが、その勢いを生かして後ろへ宙返りして狼介と距離を取った。
「…へぇ、躰道みたいだね、それ。動画で見たことあるよ」
「御託はいい。正体を名乗れ、命だけは助けてやる」
「はぁ、つまんな。あんたモテないでしょ?話のつまんない男とかありえないんですけど」
切の言葉をよそに、狼介は再び姿勢を低くしながら切に近づこうとする。
そんな狼介の軸足に、何かが突き刺さった。
「!」
狼介が見ると、先ほどまでただのコードだったものが鋭利な刃物に変形していた。
痛みに思わず狼介の姿勢が崩れる。
「一回触ったものなら好きに刃物に変えられるのよ、切ちゃん。あんたもここで終わり!」
切はそう言いながら変形させた右腕を姿勢の崩れた狼介に振り下ろす。
(もらった…頸動脈!)
狼介は真っ直ぐ自分の首を目掛けて振り下ろされる刃物を見つめる。
そのまま自分の足に刺さったコードを抜いて電気を流し、自分の横に放り投げた。
コードに青白い電流が流れる。
狼介に振り降りようとしていた切の刃は、狼介が電流を流したコードの方に吸い寄せられた。
(なっ…!)
逆に姿勢を崩した切。
狼介は負傷した右足の代わりに、手に体重を乗せながら切に近づくと、左足で切の顔面を蹴り飛ばした。
「ぎゃあっ!」
狼介はふらつきながら立ち上がる。一方壁に叩きつけられた切は怒りを隠そうともしないまま立ち上がった。
「痛ってぇなぁ…!可愛い切ちゃんの顔を蹴りやがって!これでトッシーに嫌われたらどうしてくれんだよクソ眼鏡!」
「元から大して綺麗な顔してないぞ」
「マジで殺す!」
そう叫ぶ切に対し、狼介は冷静に懐から拳銃(P99)を抜き、切に向けて引き金を引く。切はすぐさま腕を幅の広い刃物へと変形させて身を守りながら狼介に近づいていく。
「オラオラ当ててみろや!」
切は銃撃をしてくる狼介を挑発しながら距離を詰めていく。狼介の銃撃は全て切のガードに弾かれていた。
狼介が最後の1発を撃ち、切がそれを弾き返すと、切は腕をもとに戻して狼介に近づいた。
「死ね!」
切はそう言うと、素手によるパンチと蹴りの連撃を狼介に放っていく。狼介はそれを全てうまく身ごなしでかわすが、確実に壁に追い込まれていた。
「ちょこまかと!鬱陶しい!」
切はそう言うと、足を刃物に変形させ、狼介の足元を狙って足払いをする。狼介は咄嗟に後ろへ宙返りをした。
(飛んだな、バカめ!)
切は狼介が飛んだのを確認する。切は右手を変形させ始めた。
(串刺しだ!)
切がそう思った瞬間、狼介と切の目が合う。同時に、狼介が右手に空になった薬莢を握っていることに気づいた。
(まさか…!)
「もらった!」
空薬莢は金属。そして徐々に変形しつつある切の右腕も金属。
狼介は空薬莢から切の右腕へ電撃を放った。
青白い電撃が切の右腕へと奔る。高電圧が体を駆け巡る感覚が、切を襲った。
「ぎゃあああああぁぁぁ!!!!」
切の悲鳴を聞きながら、狼介は着地し、切の様子を見張る。同時に、回収しておいたC4爆薬を軽くお手玉する。切は電気を流され、体力をかなり消耗した様子で背後の壁に寄りかかった。
「C4は預かった。お前はもう手詰まりだ」
「…クソ…っ…!」
切は疲弊した体で立ち上がる。
「…もう…サイッアク!...切ちゃんの邪魔してくれちゃってさぁ…!えぇ!?せっかくトッシーにもっと好きになってもらえるチャンスだったのにさぁ!」
切は悪態をつきながら右腕を長く鋭利な刃物に変える。狼介ももう一度空薬莢を握りしめた。
「でもさぁ、切ちゃん、リアリストなんだよね!」
切はそう吐き捨てるように言うと、自分の背後の壁に向けて右腕を振るった。金属の分厚いはずの壁は、あっという間に切り裂かれ、水がエンジン室へと流れ込んできた。
「!」
狼介は咄嗟に身を守ると、切はその間に足を刃物に変形させ、プロペラのように回転させると吹き込んでくる水に逆行するように海の方へと出ていく。
狼介は切を追おうとしたが、切は既に船を出ており、さらにこのまま放っておけば船全体が浸水することも考えると、狼介は早速斬り捨てられた金属製の壁に電撃を放ち、互いに電磁石になるようにしてくっつけていく。
「間に合え…!」
浸水は徐々に激しくなっていき、もう既に狼介の脛のあたりまで水が浸っている。しかし壁の修理はまだ完了しておらず、どんどんと水位が上がってきていた。
「ちっ…!」
狼介は舌打ちをしながら得意のパズルの要領で壁を塞いでいく。切り裂かれた壁の破片で全て塞いだが、わずかに穴が開いており、そこから水が噴き出てくる。
「これだ!」
狼介はすぐさま使い終えた拳銃の空弾倉をその穴にねじ込み、電流を流して電磁石どうしで引き合うようにして穴を塞いだ。
「はぁ…はぁ…」
狼介はひと息ついていたが、同時に能力を発動させて壁の穴を塞いでいたので、一瞬でも気を抜けば再び浸水が開始するような状況だった。
狼介は自分が塞いだ壁の穴に寄りかかる。すぐに狼介は胸ポケットに入っているスマホに手を伸ばし、仲間たち全員と連絡が取れるグループに通話をかけた。
「おい、誰かいないか。狼介だ」
「お、狼介、どうした?」
「雅紀か、エンジン室で事件だ。船長に言って溶接道具を持ってきてくれ。隔壁に穴が開いた。今は俺がどうにか塞いでいる状況だ」
「ヤベェじゃん、皆呼んでそっち行くわ!」
「早めに頼む」
狼介はそう言って通話を終えると、改めて壁を抑えながら、背中越しに壁の様子を見る。先ほどに比べ、確かに穴は塞がっていたが、ほんの少しずつ水が流れてきているのがわかった。
「この分なら…2時間は保たせられるな…ま、余裕だな」
狼介はニヤリと笑って眼鏡を掛け直す。冷たい海水に囲まれながら、狼介はただ雅紀たちを待ち始めた。
10分後
船に穴を開けて逃げた切は、海の上を漂いながら遠く離れていく船の後ろ姿を見送った。
「…クソがよ!あのメガネ、絶対許さねぇぞ!ゴミが!」
切は船に罵声を浴びせながら水面を殴りつける。怒りを隠しきれない様子でスマホに手を伸ばし、暁広へと通話をかけた。
「もしもし、トッシー?切ちゃんだよ」
「どうした?花火の写真がないけど」
「ごめんね、トッシー、私、一生懸命やったんだけどね、でも」
切が猫撫で声で言い訳を並べようとすると、暁広の大きなため息が聞こえてきた。
「しくじったのか」
「だってしょうがないじゃん!切ちゃんは完璧だったのに、あのクソメガネが…!」
「切、ここまでだ」
暁広が短く言う。切の声から一切の愛情が消えた。
「…どういうこと?」
「言葉通りだよ。君は失敗した。それに俺は重村数馬を殺せって言ってあったはずだ。船を吹っ飛ばせとは言っていない。命令も聞けない君に存在価値はない」
「ふざけんなよ!切ちゃんはトッシーに喜んで欲しくて頑張ったのに!トッシーが喜ぶと思ってたくさん人を殺したのに!あんたが奥さんは飽きたとか言ってたから!切ちゃんは付き合ってやってたのに!あんたのために全部犠牲にしたのに!」
「切」
暁広が冷静に切の名を呼ぶと、感情的になっていた切は泣きそうになりながら弁明を始めた。
「あぁ、ごめんね、トッシー。切ちゃんが悪かったよね、本当にごめんね、だから、お願い捨てないで!切ちゃんにはトッシーしか…」
「さよならだ」
暁広は切の弁明を聞くことなく通話を切る。
虚しく鳴り響くスマホを見下ろし、切は気がつくと全力で泣き叫んでいた。
右腕を刃物にへと変形させると、自分の首元にそれを当てがう。
「うわぁああああああ!!!」
切は絶叫しながら首に当てがった刃物を引き、自分の頚動脈を切りつけた。
はずだった。
瞬間、どこからか凄まじい速さで走ってきたボートが切の横を通りすぎると、頚動脈を切ろうとした切を寸前で拾い上げ、気がつくと切はボートに乗っていた。
「何すんだよ!?」
「ボニー!寝かせとけ!」
「アイサー」
4人乗りボートの後部座席に乗せられた切は、その隣に座っていた男に殴られると、気絶する。ボートは数馬たちの乗る船と一定の間隔を保ちながら進んでいくのだった。
5/16 0:30
船内の作業員たちの苦労もあり、1時間ほどの作業を経て、狼介が塞いでいた穴は簡易的に溶接された。
「一体何があったんですか?」
作業を終えた作業員に労いの言葉をかけると、船長は狼介に問いかける。狼介は気まずそうに目線を逸らしながら、自分が国防軍であることの証明である手帳を見せる。
「ちょっと任務でして」
狼介が言うと、船長も深く質問するのをやめて狼介を解放する。
狼介は傷を負った足を庇うようにしてエンジン室の外に出て、そこで待っていた雅紀と合流した。
「よ、お疲れさん」
「どうも」
「上陸後の打ち合わせするから集まれだってさ」
「わかった」
狼介と雅紀はゆっくり廊下を歩いていく。狼介はすぐにニヤニヤとしている雅紀の顔に気づいた。
「おい、何をニヤついてる?」
「いや?女っていいもんだなぁと思っただけだよ」
「良かったな。俺はそうは思えないけど」
同じ頃 龍観基地
暁広は切との通話を終えると、自分の友人であり部下である仲間たちを集めた。
「状況は最悪だ」
暁広が言うと、彼の前に座る6人の男たちは表情を固くした。
「恐らく今日から堀口たちが動き始め、心音からの援護は望めなくなる。ここで戦えるのは、お前たちしかいない」
暁広は真っ直ぐに目の前の仲間たちを見た。
「力を貸してくれ」
暁広がそう言うと、微妙な沈黙が流れる。
「他に頼れるものは…もうないんだ」
暁広の言葉には、珍しく力がなかった。浩助は思わず顔を上げると、暁広の表情すらも固くなっていることに気がついた。
(初めて見たな…あんな顔)
浩助はそう思うと、ゆっくりと立ち上がった。
「浩助…」
「トッシー、任せろ」
浩助の言葉は、いつになく頼もしい表情だった。
「俺たちは親友だ。親友の危機には、親友が立ち向かうもんだ」
浩助はそう言って暁広に微笑む。暁広は浩助の言葉に、すぐに心の余裕を取り戻したようだった。
「俺も、ぶちのめしてぇ奴らが生きてやがるんでよ、やらせてもらうぜ」
圭輝もそう言って立ち上がる。暁広は付き合いの長い2人の言葉に、内心では深く感謝していた。
「お前たち…」
「失敗した奴らだけには任せられんな。俺も一枚噛ませてもらう」
星も嫌味を言って浩助と圭輝に目線を送りながら立ち上がる。少し遅れて興太も立ち上がった。
「なに、失敗は取り戻せる!逆境だって巻き返す!それこそが人間の素晴らしさ!俺たちならできる!そうだろう、みんな!」
「相変わらず声だけはデカい男だ。だが、お前の美学に少し乗ってやろう」
光樹もそう言いながら立ち上がる。
周りの全員が立ったのを見て、流も大笑いしながら立ち上がった。
「なぁんだ、みんな同じ発想かよ。変に気ぃ遣って損こいたわ」
流はそう言うと、暁広の方に向いた。
「おい、トシちゃん、命令してくれよ。『派手に暴れてこい』ってよ。俺たちそろそろ退屈してたんだよ」
流の言葉に興太と光樹も便乗して暁広に迫る。
暁広は全員の言葉に思わず感極まって俯いた。
「みんな…ありがとう…!」
「あ?よく聞こえねぇぞ、トッシー?」
暁広が1人で呟いた言葉に、圭輝が煽りを入れる。すぐさま暁広は立ち上がり、全員に命令した。
「…派手に暴れてこい!」
暁広がそう言うと、全員オッシャア!と声を上げる。早速流が外へ走り出そうとしたが、それを星が止めた。
「んだよ星ちゃんよぉ。こういうのは勢いが大事だってのに」
「その前に作戦会議だ」
星がそう言うと、その場に彼らのいる北回道全域の地図を広げた。
「恐らく奴らは圭輝の能力を警戒して分散して行動するはずだ。俺たちは奴らが来そうなポイントで待ち伏せ、そこで各個撃破する」
星はそう言いながら地図に印を付けていく。暁広はすぐに言葉を発した。
「俺も行く」
「ダメだ。トッシーの持ち場はこの基地だ。そして、そこに到達されないように俺たちは待ち伏せする」
星はそう言うと、最終的に6ヶ所に印をつける。
「この6ヶ所だ。ここに1人ずつ待機する」
星の作戦に、全員一斉に頷く。そして、暁広の方を向き、目線で暁広の指示を仰ぐ。暁広も頷いた。
「全員配置につけ!重村数馬たちを、この大地に葬るんだ!」
朝4:30
フェリーは北回道の運盾までやってきた。
数馬たち7人はフェリーの階段を降りると、船着場に足を下ろした。
「ヒュー、はるばる来ちまったなぁ」
雅紀が伸びをしながら明るく言う。他のメンバーたちもあくびや軽く準備運動などをして昇ってくる朝日を眺めていた。
「さて、みんな、手はずはわかってるよな」
数馬は他の仲間たちに尋ねる。早速佐ノ介がそれに答えた。
「各自別行動して最終的に龍観基地付近のポイントに集合、だっけ?」
「そう。洗柿の能力を警戒して、みんなそれぞれバラバラの電車やバスでバラバラのルートで行く」
「ふぁぁ…頑張るか」
佐ノ介の言葉に、竜雄と雄三も反応する。
「みんな」
それぞれ準備をする7人の男たちの背後から、桜が声を掛ける。
「私もしばらくここで待機します。何かあったら連絡してね」
「ありがとうな、桜」
桜の言葉に対し、佐ノ介が軽く礼を言う。雅紀は桜に背を向け、寂しそうに笑っていた。
「よし、野郎ども、行くぞ!」
その場にいた全員が準備を整えたのを確認すると、数馬が声を掛ける。男たちはそれぞれ正面を見据え、自分の道を歩き始めた。
最後までご高覧いただきましてありがとうございます
今回でChapter8は完結です。ここまで読んでいたただきありがとうございます。
次回からChapter9に突入しますが、投稿が不定期になると思います。ご了承ください
今後もこのシリーズをよろしくお願いします