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The Magic Order  作者: 晴本吉陽
Chapter 8 任務
105/124

Chapter 8-9 港のガンマン

今回短めです

23:00

 隼人と狼介は他のメンバーたちよりも先にフェリーのチケット販売店に到着していた。

 乗り場の受付には深夜ということもあり誰もいない。

「隼人、俺が7人分予約してくる。ここの見張りは任せた」

「おう。任せろ」

 隼人と狼介は手短に会話を済ませると、狼介は自動ドアの向こうへと歩いていき、隼人はその建物の外に立って狼介を待ち始めた。

 月が高く昇り、港に泊まる船の多くが青白く照らされていた。隼人は建物の壁に寄りかかると、穏やかな表情で船が波に揺られる様子を眺めていた。

「あのー、すみません」

 そんな隼人の横から、片言の日本語で男が話しかけてくる。隼人がゆっくりとそちらを見ると、隼人と同じくらいの身長で、カウボーイハットを被った人間がそこに立っていた。顔は月明かりが逆光になっていてよく見えない。

「なんでしょうか」

「タバコの火、いただけますか?」

 男の質問に対し、隼人は一瞬考えてから答えた。

「申し訳ない、ライターを持っていない」

「Oh」

「それと、喫煙するならここはやめた方がいい。喫煙所がちゃんと近くにあるはずだから」

 隼人が言うと、相手の男は日本語がわからなかったのか首を傾げる。隼人はそれに気づくと、少し苦しそうにしながら相手とコミュニケーションを始めた。

「どんと、すもーく。ゆー、ごー、すもーく…ぞーん?えりあ?」

「どうした隼人?」

 隼人が拙い英語で相手と話していると、受付の建物から狼介が出てきて隼人の尋ねる。隼人は渡りに船と言わんばかりに、狼介に助けを求めた。

「狼介、英語」

「あぁ」

 隼人に言われると、狼介は隼人と話していた外国人と英語で話し始める。隼人は目の前で繰り広げられる英語での会話を、ぼんやりと眺めていた。

 2人はいくつか言葉を交わし、外国人の方は笑顔で狼介に手を振ってその場を去っていった。

「相変わらずすごいな」

「まぁな、このくらいは」

 隼人の褒め言葉に、狼介は眼鏡を指で押し上げながら軽く答えた。



 一方、狼介に喫煙所を教わった男は、路地の壁に張り付いて隼人と狼介の様子を見ていた。

「へぇー、やっぱりあれが横山隼人と鈴木狼介か。思ったより手強そうな顔してんなぁ」

 彼はスマホの液晶に映る隼人の顔と、本物の隼人の顔を交互に確認する。

「先に殺るのは…こっちの強そうな方にするか」

 男はそう思うと、カウボーイハットを被り直し、ジャケットの裾を払い、腰に巻いたガンベルトに差してある拳銃シングルアクションアーミーを見て頷いた。

 男は再び隼人の方を覗き見る。折りよく狼介がいなくなり、男にとって最適な状況になった。

(お、ツイてるぜ…これを逃す手はねぇよな…!)

 男は壁に張り付きながら腰の拳銃を抜く。そしてしっかりと隼人に狙いをつけて拳銃のハンマーを起こした。

 隼人はその様子に気付く気配もなかった。

(恨みはねぇが…これが仕事でね)

 男は心の中で隼人にそう言うと、引き金に指をかけた。


 その瞬間、隼人と男の目が合った。

「なにっ」

 男は慌てて引き金を引くが、隼人は咄嗟にしゃがんでそれを回避する。

 そのまま隼人は男の方へ走り出す。

 暗殺に失敗した男は銃をしまうと、逆に隼人から逃げるように路地の奥へ走り出した。

「待て!」

 隼人は同じ路地に入ると、逃げる男の背中を見て一度足を止め、腰に差してあった拳銃キングコブラに手を伸ばす。

 その瞬間、男は振り向き様に左手で拳銃を抜き、隼人が拳銃を抜くよりも先に、隼人の拳銃を撃ち抜いた。

「!」

 隼人と男の距離は約8歩。隼人には銃がなく、男は二丁拳銃を隼人に向けていた。

「ははは…速いだろ、俺様の抜き撃ち、えぇ?」

 男は勝ち誇ったように銃を向けながら隼人に笑いかける。一方の隼人は拳を握り、間合いを測っていた。

「妙なことすんなよ、横山隼人。1発で楽にしてやるから」

 男はそう言うと、じっくりと狙いをつける。この距離ならば近付かれないという自信からの行動だった。

 その間に、隼人は周囲を見回す。左右は壁に挟まれており、逃げ道は後ろか正面のみ。使えそうな道具もなければ、落とした拳銃までは遠すぎる。しかし隼人は諦めていなかった。


 男は引き金に指をかけ、力を入れていく。


 それが見えた瞬間、隼人は右の壁に向けて走り出した。

 

 男はすぐさま隼人に向けて発砲するが、隼人の動きが速すぎて銃撃が当たらない。

 その間に隼人は自分自身のアイテムである鉢巻を発現させると、その片方の端をすぐに結び、その建物の開いていた窓へと投げ入れる。

 そのまま垂直の壁を駆け上がり、その窓へと走る。

 しかし、男の方もそれを逃すはずもなく、隼人が窓に飛び入るより先に、隼人を支えている鉢巻を撃ち抜いた。

 隼人は姿勢を崩しながら跳ぶが、窓に手が届かないことを察すると、逆に撃ってきている男の方へと飛びかかった。

 男はすぐさま隼人の攻撃を前に転がってかわす。

 男の背後を取った隼人は、そのまま男から距離を取るように逃げ出した。

「待ちやがれ!」

 男は隼人の背中に向けて銃撃を浴びせる。しかし、隼人が俊足であることも相まって銃撃はかすりもせず、隼人は夜の闇に消えていった。

「くそっ、いっつもこうだ」

 男はそう悪態を吐きながら拳銃のリロードをしつつ隼人の背中を追いかけ始めた。

(だがこの先は1本道…!罠は仕掛けておいた…!)



 隼人は数分走り続け、道なりに進んでいた。

 隼人は物陰にしゃがみ込むと、千切れた自分の鉢巻を見てため息を吐き、息を整えながら周囲を警戒していた。

(この状態では鉢巻は使えない…このまま自分の力で逃げる必要があるな…しかしあのガンマン、相当に腕が立つ…丸腰でどこまでやれるか…)

「いよぉ、マッチョマン調子はどうだぇ?」

 隼人が周囲を警戒する中、上の方から声が聞こえてくる。隼人が顔を上げると、先ほどまで隼人を追いかけていた男が、ライフル(ウィンチェスターM1873)を担ぎながら、近くの建物の屋上から隼人を見下ろしつつ声をかけていた。

「流暢な日本語だな、外国人」

「おいおい、そんな呼び方はねぇだろ。俺にはボニーって名前があるんだ」

 隼人はボニーの言葉を聞き流しながら立ち上がった。

「なんだっていい。今すぐ俺から手を引け、ボニー。そうすれば殺しはしない」

「そうもいかねぇんだよ、タフガイ。こっちも仕事なんでな」

 ボニーはそう言うと、ライフルを隼人に向ける。隼人は目を細め、それを睨んだ。

 ボニーが引き金を引いた瞬間、隼人は横に転がって銃撃を回避する。そのまま隼人は正面へと走り出した。

 今隼人が走っているところは木製の天井が設けられた長い足場のようなところだった。出口までの距離は50m。ここさえ抜けてしまえば、波止場の広い道に出られる。しかし、この通路は、ボニーから隼人の走る姿が丸見えだった。


「ランニングの時間だ!タフガイ!」

 

 ボニーの声が聞こえたかと思うと、銃声が鳴り響き始める。ボニーのライフルから放たれた銃撃は、隼人のすぐ後ろのドラム缶を撃ち抜いた。

 背後からやってくる凄まじい爆発音と爆風に見舞われながら、隼人は走り続けた。

「フォウ!いいぜいいぜ!」

 ボニーは舞い上がる赤い炎に声を上げながら、片手でライフルを回し、排莢を済ませ、続けて隼人に狙いをつけていく。

「悪趣味な男だ」

 隼人は悪態を吐きながら背後から迫ってくる爆炎から逃げていく。

 残り30m。隼人は自分の横にドラム缶があったのを確認しながら足を止めずに走り続ける。

 足下に銃撃が飛んでくるが、それすらも気にすることも出来ず、隼人は走った。

「ちっ、速いな!」

 ボニーは片手でライフルを回し、排莢を済ませ、次の狙いを定める。

 ボニーが狙ったのは、隼人が走っていく先にある、出口から5m離れた地点のドラム缶だった。


「悪いなタフガイ、死んでもらうぜ!」


 残り10m。隼人もボニーの狙いに気付く。

 だが隼人は止まらなかった。

(一か八かだ!)


 隼人は足を速めていく。


 残り5m。


 隼人の足の隙間から見えるドラム缶へ、ボニーは引き金を引いた。



 赤い炎が舞い上がり、爆風が辺りを包む。


 隼人は爆風に背中を押されるような形で誰もいない波止場に投げ出された。


「うぐはっ、げはっ」


 隼人はゆっくりと目を開け、辺りを見る。自分が走りぬけたところは既に爆発によって崩れ落ちており、自分が生きているのも不思議なほどだった。

 隼人は頭を振りながら起き上がる。

 そんな彼の頭痛を刺激するように、隼人の背後から口笛の音が聞こえてくる。

「よぉタフガイ、生きてやがったか」

 口笛と共に隼人の背後に現れたのはボニーだった。ライフルはどこかに置いてきたのか、再び二丁拳銃を持ち、クルクルと指で拳銃を回しながら隼人に陽気に話しかけてきた。

「あんたホントにタフだな。嫌いじゃねぇぜ、あんたみたいなやつ」

 隼人はボニーと向き合い、間合いを測る。約5歩。どうやっても隼人の攻撃は届かない。

「でもな、ここでおしまいだ」

 ボニーはそう言うと、拳銃を二丁とも一度ガンベルトにしまい込む。

「俺はこれが一番得意なんでな。次にあんたが動いた瞬間、眉間に叩き込む」

 ボニーはそう言って隼人を睨み、右手を銃にかけた。隼人が動けばいつでも銃を抜いて、隼人を殺せるようになっている。

 一方の隼人は、じっとボニーを睨むだけだった。

(この状況、やることは単純だ。相手より速く動いて、叩きのめせばいい) 


 隼人とボニーの間に、無言の緊張感が走る。


 誰も動こうとしない。


 

 ドラム缶の爆発で燃えた木製の足場が崩れた。


 瞬間、ボニーが右手の拳銃を抜いた。

 同時に隼人も姿勢を低くして転がる。

 ボニーもそれに気付くと、床を転がる隼人に銃を向ける。


 隼人とボニーの距離はあと3歩。


 ボニーは咄嗟に引き金を引く。


 だが隼人は持ち前の瞬発力で銃撃を避け、一気に銃口の横まで近づいた。


 隼人とボニーの距離はあと2歩。


 ボニーは近づいてきた隼人に、左手の拳銃を抜いて対抗しようとする。

(この距離なら即死だ!横山隼人!)

 ボニーがそう思いながらベルトに差した左手の拳銃のハンマーを起こした。


 その瞬間、ボニーの視界から隼人が消えた。


(何っ!?)


 同時に、ボニーは自分の認識が間違っていたと理解した。


「うぉおおおおっ!!!」


 ボニーの耳に聞こえてくる隼人の気合。

 それは、ボニーを天高く持ち上げる隼人の声だった。


「え!?おいおいちょっと待て!!」


 ボニーの足が地面から離れる。


「ぶっ飛べぇっ!!」


 隼人が気合を入れると、ボニーの体は地面と平行になり、次の瞬間にはボニーは宙を舞っていた。


「うわぁあああああ!!!!」


 ボニーの悲鳴は、海へと投げ捨てられ、沈んでいった。


 一方の隼人は、自分が投げ捨てたボニーが浮かび上がってこないのを確認すると、右手にボニーのガンベルトが握られていることに気づいた。

「…もらっておくぞ、カウボーイ」

 隼人はそう言うとガンベルトを腰に巻き、そこに一丁拳銃が刺されているのを見て、悠々と狼介の元へと歩き始めた。






5分後

 隼人がフェリーの受付施設にやってくると、狼介以外にも数馬や雄三など既に全員揃っていた。

「隼人、どこ行ってたんだ?」

 隼人の姿に気づいた狼介が疑問を口にする。

「ちょっとトレーニングしてた」

 隼人の言葉に、狼介は呆れたようにため息を吐く。

「…ま、深くは聞かないでおくよ。それはさておき、チケット取れたぜ、皆々さま。さっさと行こうぜ」

 狼介がそう言いながら全員にフェリーのチケットを手渡す。

 7人はそれを受け取ると、フェリーに乗り込んでいくのだった。

最後までご高覧いただきましてありがとうございます

今回も短めでしたがお楽しみいただけましたでしょうか

今後もこのシリーズをよろしくお願いします

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