↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てなき星のヴァルケイド  作者: 国木田エイジロウ
第1話 俺は彼女を理解できない
9/13

1-7A 俺は君を理解できない

 病室は俺とアカリの二人になった。

「ねえ」

「なんだ」

「私が手伝えることってないのかな……?」

 意味がわからなかった。

 手伝う? 命が取るか取られるかの戦いを?

 

 今までなんのために戦ってきたのか。

 このはじまりをひとりで乗り越えるため。

 俺の知る人を戦いに巻き込まないため。


 だから、有り得ない。

 柔らかい口調で言っても、お節介な彼女には伝わらない。

 だから、突き放してでも俺は彼女に言わなければならない。

「何もしないでくれ」

 絶対この件に彼女を関わらせてはいけないという重みを含めて、俺は言葉を発した。

「……え?」

「聞こえなかったか。何もするな、と言ったんだ。それと――」

 俺は全身がしびれるような痛みに耐えながら、病室のドアを指差す。

「用が済んだなら、帰れ」

 一切の妥協を許さず、言葉を選ばない拒絶。だが、彼女はすんなりと帰ってはくれない。

「……なんで、そんなこと言うの?」

「話すことはないからだ」

「私達、ずっと小さい頃から一緒だったよね? 私はユウタのこと、大切な――」

 俺はドキッとした。その言葉だけは言わせてはいけない。

 ……認めたくはない。

 俺が彼女を守るのは、身近な誰かが身勝手な第三者に人生を捻じ曲げられるのを防ぐためだ。

 俺に関わる人が真っ当に自分の道を歩めるようにしてほしいから、俺は戦うのだ。

 大切だから、と片付けてしまえばたしかに楽だろう。

 けれども俺はそれで大切と思った人たちを何人も亡くしてきた。

 だから大切と思わないように。曖昧な認識というものを維持してきた。なのに。

 

 壊すのか、お前は。

 幼馴染という関係のその先に進みたいのか。

 ……というのは勘違いも甚だしく、言い過ぎなのだろう。

 仮に、だ。

 この関係がもはや幼馴染の枠組みを越えているように見えてしまうのであれば。

 もうすでに、その想いにはケリはついている。

 身近な人の命ほど、失いたくはないものはないのだから。

 だから俺は言う。たとえそれが彼女を傷つけても。

 

「お前とは幼馴染だが、それ以上でもそれ以下でもない。俺とお前はいる世界が違うんだ」

 彼女は唖然としていた。

 手で拳をつくり、震えながら唇を噛む彼女の目は潤い始めているようだ。

「俺はまた、今日のように戦い続ける。お前は今まで通りの日常を歩めばいい。そうすれば、お前は青春を謳歌できる」

「そんなの……違う」

 ……何が違うのか。

 約束された、生きられる明日があるのならどれほど良いことか。

 何もしなくていいことがどれほど幸せか。

 それは謳歌できるときにすべきこと。

 彼女は精一杯楽しめる今を大切にするべきなのに。

「違わない。俺が全ての非日常を肩代わりすることで、誰かが日常を手に入れられる。当たり前のことだ」

 

 俺が全て背負えば解決する。そう、全てだ。

 追加要員の戦闘員は難癖をつけて全員クビになるように促した。

 俺の動きに付いてこれないから要らない。

 こんな動きでは足手まといだから要らない。

 身近な誰かを失わないために、その誰かを新たにつくらない。

 今いる身近な人を関わらせない。

 

 これで丸く収まると思っていた。

 けれど彼女は違った。

「それはユウタが望んでいることなの?」

「そうだ」

 俺が答えても彼女は追及をやめない。

「嘘。こんなこと、望んでやってるわけないでしょ!」

 ……望み、か。

 そんなこと、考えたこともなかった。

 これほど面倒な自分と進んで関わる他人がいる。それを守るために戦うということは当たり前ではないのか。

 むしろしなければならない。たとえ、なぜという理由が欠けていたとしても。

 そこに疑問を持ってはいけない。

 自分以外にこの戦いを任せられる人間は存在しない、というのが前提であるのだから。

 その前提が覆ることは決してないのだ。

「とにかく、だ。お前はこれ以上事情に首を突っ込むな。さっきも言ったが少なくともアカリの平和はだなーー」

 約束されている。

 そのはずであり、疑問に思わなくていい。

 何もしなくていい。

 何も考えなくていい。

 今ある日常を謳歌すればいい。

 だが彼女が納得するような素振りは皆無だった。

「こんなの、違う。違うよ……」

 彼女は怒りにも悲しみともとれるような表情でこちらを見た。

 俺はその顔に凄身を感じ、体が思わず引く。

 彼女の目を見る。

 潤んだ瞳。こちらを睨むような顔。

 救ったはずなのに。なぜ。

 瞳から零れ出る雫。

 次の瞬間、アカリは叫ぶ。

「こんなの、私の欲しかった日常じゃない!」


 そう言って、溢れ出る涙を拭いながら彼女は部屋を出ていった。


 静かになった病院の個室。

 全身の痛みからして強がりを言ってみせたが、明日明後日を普通に過ごすことは難しそうだ。

「こりゃ、今週はベッドの上か。面倒臭い」

 ただ自分の声が響くだけで何の面白みもない。

 俺はそっと目を閉じた。

 

 静かになり煩わしさが消えたはずだったが、肩の荷が降りた気にはなれなかった。

 彼女が欲しかったものは何か。

 自分の命を危険にさらしても欲しようと躍起になる彼女の中の日常とは何か。


 ダメだ。

 俺は君を理解できそうにない。

 その日はどう頑張っても眠ることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。