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果てなき星のヴァルケイド  作者: 国木田エイジロウ
第2話 他人のいる日常
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2-3 断絶すべき不要の繋がり

 声が聞こえる。

「ねえあそこ。アツシくんだよね? カッコいい!」

「本当だ。マークについてるあの男子は……誰?」

 女子たちはアツシに夢中で、その不可抗力で自分にも強制的に目線が合わせられる。

 気は進まなかったが、俺は勝負を受けることにした。

 勝負内容はついさっき提示された。

 どちらがチームの勝利に貢献したか。

 すなわちシュート、アシスト、パスカットなどが活躍の指標になってくるがこれでは複雑だ。

 なので互いに別々のチームに分かれたほうが良いことを提案すると、向こうは特に否定することなく承諾した。

 これで勝負内容は簡潔になる。

 試合に勝つことが貢献の最重要項目に置き換わることで、ただ勝てばいいだけになった。

 好都合だ。

 本気を出してしまえばまず負けることはないだろう。 

 ついでに相手の心も折れれば、彼は俺を恐れて二度と近づいて来なくなるだろう。

 唯一の懸念点は女子たちの視線である。

 彼らの大多数はアツシの味方だ。

 それら全ては悲鳴と怒号に変わることになる。

 煩わしいことはこの上ない。

 

「またあの男子がボール奪った! アツシくん調子悪いのかな?」

 そんな声がちらほら聞こえ始めた体育館。

 圧勝して変に目立たないようにするのは少々面倒である。

 こちらはそんなことに苦労している一方、目の前にいるアツシは息を切らしていた。

「なんでだ。俺へのパスは全部カットされる。だからシュートがそもそも打てない。こんなことが……」

「目に映る今の光景が全て。他の選手はどうしようが構わないが、この試合は一度もボールには触れさせない」

 マークにぴったりついて、徹底したアツシ封じ。攻守に彼を絡ませないことでこの試合の大勢は決する。

 

「くそ、始めからそれが狙いか!」

「当然だ。俺を踏み台にしようとしたこと、後悔するがいい」

「……何がそんなに嫌なんだ?」

 アツシは俺に問いかける。

「お前ら付き合ってないんだろ? なのに何がいけないんだ! 少しくらい、俺に協力してくれたって……」

「むやみやたらに繋がりはつくるべきではない。死んだ親父の言葉のひとつだ」

 

 人間関係に苦労した父。その末路は死。故に俺は不要だと思うものには近づかず、必要最低限のみ環境を構築する。

 煩わしいものはすべて不要。望むのは穏やかな日常。

 極論を言ってしまえば、そう。

 他人なんていらない。

 自分をけなすものも、興味を持つものも。

 だから、放っておいてくれ。


「そりゃおかしなこった」

「何だと?」

「なら、なぜアカリ……光原はその対象にならない? 彼女も人気者だ。幼馴染とはいえ、君なら避けたくなるはずの彼女と大原くんが関わりを絶たないわけは何だ?」

 

 そんなことは決まっている。

 守らなければならないからだ。今度こそ。


 一度、彼女は使者のターゲットになり襲われ続ける運命を背負った。

 星導の使者による脅威から彼女を、平穏だったはずの街を守る。

 かといって今井それを語ったところで理解はされないだろう。もっともらしい理由を偽装するとしよう。

「理由はない。腐れ縁とはそういうものだ」

「……違うな」

 何が違うというのか。そこで思考が止まる。

「俺は分かったぞ、大原くん。君も光原さんのことが好きなんだ。だから簡単に関わりを絶てない!」

 一瞬の隙だった。

 ボールは試合で初めてアツシに渡り、あっという間にゴールドリングを通過する。

 黄色い声援。

 あっという間だった。

 

 アツシの得点から勢いを増した相手チームは、得点を重ねる。さっきまで優位だったはずのこちら側が一気に劣勢に立たされる。

 いつの間にか、ひとゴール差。

「いけー!アツシくーん!」

 女子たちの声援は増していく。やりづらさを感じる同チームの選手たちは動きが鈍くなっていた。

 ボールを追えない。

 チームスポーツは個人の肉体云々だけでは決まらない。チームの状態が最悪なら、いくらヴァルケイド関連で鍛えてきた俺でもどうにもならない。

 マークは緩くなり、シュートが決まる。

 逆転された。


 これで終わりか……。


「頑張れ、ユウタ!」

 間違うはずなどない。光原アカリの声だ。

 

 幼少期から彼女は光であった。

 それに比べて俺は影。

 交わるはずのない二人は、いつの間にか言葉を交わす仲になった。

 席が隣になったとか、家が近かったとか、あとは……とにかくそんな偶然。

 

「特別……か。そうかもな。それだけは認めるしかないだろう」

 だがその気持ちには蓋をしなければならない。

 また失いたくなければ。

 

「山城アツシ。お前を天から地に撃ち落とす。お膳立ては今済んだ」

 ワンバウンドにしたボールをとった味方からパスを受け、ユウタはシュートの体勢に入る。

 相手陣地のエンドラインがかかとに触れないかくらいの位置でゴールに狙いを定める。

「な、馬鹿な! こんな距離から入るわけ……」

 残り二秒。十分だ。

「このコートで撃てる最長距離のスリーポイントシュート。おまけにブザービートもつけて、ゲームセットだ」

 射出。

 撃ち出したボールはまっすぐゴールへと飛んでいく。

 入らない。そう誰もがアツシの勝ちを予想していた。

 苦し紛れに撃っただけに映ったかもしれない。

 だが、俺には確信があった。

 

 入る。

 確固たる意志を持ってその行方を見つめた。

 

 ブザーの音。

 同時にボールがリングを通過する。

「う、嘘だろ! あれを決めやがった!」

「いや、まぐれだ。まぐれだよな?!」

「ま、マジ?! しかも本人まんざらでもない感じだし、なんかカッコ良くない?!」

 男女ともに俺を見て騒ぎ始める。

 試合前まで空気だった俺に対して、見事な手のひら返しである。

 一方アツシは言葉を失い、立ち尽くしている。

 

 勝者が敗者にかける言葉はない。

 立ち去ろうとすると、それに気づいたアツシは俺に声をかけた。

「待てよ」

「勝負は俺が勝った。まだ何か?」

「それほどの実力があるのに隠してるなんてな……。俺からしてみれば勿体無く感じるぞ」

「ほっとけ」

 余計なお世話だ。俺の道は俺が決める。

 高校でスポーツをやる気はない。

 そもそも体育会系の部活は俺の存在だけで反則である。

 ヴァルケイドを扱うための身体能力は競うためにあるのではなく、守るためのもの。その前提を間違えてはならない。

 が、アツシもしつこく食い下がる。

「なら、君が本気で向かってきたのは光原さんのためだということになるな」

「何?」

「答えはすでに出ている。彼女が君を好きなように、君も彼女が好きなのだと。いい加減認めたらどうなんだ?」


 本当にかんに障るやつだ。

 これだけは言っておかねばならない、と俺は口を開く。

 

「そういうところだ、山城。しつこさが故にお前は光原に選ばれなかった。これまでも、これからも」

 その言葉を聞いてアツシは眉間にしわをつくった。

 チャイムが鳴る。

「だからお前とも仲良くなれそうにはない。じゃあな」

 俺はそう言ってアツシに背を向け、体育館を後にした。

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