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果てなき星のヴァルケイド  作者: 国木田エイジロウ
第2話 他人のいる日常
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2-2 諦めない他人

 合同体育の前に更衣室に入る。

 普段俺の周りに他人はいない。

 世間ではこれをぼっちと呼称するらしいのだが、それがどうした。

 群れなければ生きて行けない、というのは実に不便である。

 他人はなぜか群れをつくりたがる。有象無象の陽キャもどきに群がる陽キャオブ陽キャ。中心にいるやつはさぞ眩しい、雲の上の人なのだろうな。

 その中心であるはずの男、アツシがこちらに来た。

「よう、さっきぶり! 今日はよろしくな!」

「ああ」

 静寂。

 そもそも、会話を続けようなどとは思っていない。相容れぬ関係であることは確かで、友達になるなどもってのほかである。

「なるほど。やはり聞いていた話と同じだなぁ。必要以上の会話をしない、と」

 大方、アカリにでも聞いたのだろう。俺のことなら何でも喋りそうな、そんな気がする。

 機密事項はそうでないと信じたいが。

 彼は俺についてそれなりのことを知っていると思ったほうが良さそうだ。

 アツシがじっとこちらを見つめている。

 その視線が不愉快だったので、俺は口を開く。

「……何か?」

「いや、実は聞いてもらえると助かるんだが……お願いをさ!」

 お願い。

 陽から陰に対してのお願いというものは、ある意味脅迫と同義である。

 だからこの集団、特にこいつとは特に関わりたくない。関わってはいけない。

 面倒事が増えるのはなんとしても避けたい。

 友を選ぶ権利くらいはあって欲しいものだ。

「別のやつに頼むといい。期待には答えられない」

「君にしか頼めないんだよー、大原くん」

 そう言って彼は俺の肩を叩く。

 できるなら触れて欲しくないし、払い除けることもできなくはない。

 ただ、二人きりではないわけで。

 ちらちらとこちらを伺う何人かの視線に俺は気づいていた。

 変に目立つと円滑な学校生活に支障が出る。

 高卒と認定試験、どちらの方が大変かは想像するだけ時間の無駄というものだろう。

 内容次第では聞いてやらんこともないかもしれないが、それはきっと自分以外の人間でもできることなのだろう。

 光原と俺が、幼馴染だったことが災いしてただ目立っているだけ……いるだけか?

 これがそもそもの問題という線はある。

 案の定、彼からの頼みはアカリに関することだった。


「俺と光原をなんとかひきあわせてくれないか?」

 馬鹿馬鹿しい。ここで断ち切ろう。

「断る」

「即答?!」

 なぜ俺がそんな面倒なことをしなければならないのだ、友達でないお前に。

 冷静さを忘れ、静かな怒りがこみ上げる。

 こいつは俺を踏み台にするつもりだ。

「そもそも俺はお前の友達じゃない」

「酷いなぁ。この学校の生徒全員友達だと思っているんだけどなぁ、もちろん君も……」

 馬鹿だ、こいつは。

「それはない、決して」

「困ったな……」

 困っているのはこっちだ。

「じゃあ……こうしよう。次の時間の体育で勝負をしよう。勝ったら頼みを聞いてくれないか?」

 はい、来た。これぞ陽キャの常套手段。

 真剣勝負に見せかけた自分有利な出来レース。

 自分の土俵で相手を戦わせ従える。

 小学校のときも似たようなことがあったっけ。

「今日の体育はバスケ。だから五対五で勝負だ。チーム分けは上手く分けられてるらしいし、不公平とかはあんまりなさそうだけど……」

「俺はやるとは言ってない」

「じゃあ、何なら良いんだ? 早食い競争? 勉強? それとも……」

 種目の問題ではない。

 君とは関わりたくないのだ。山城アツシ。

「俺は嫌だとこちらははっきり意思表示をしているんだがな。どんな勝負も受けない。お前の問題に手伝う義理はない」

 そう言うと、彼から予想外の言葉を聞いた。

「……ずるいんだよ、大原くん」

「あ?」

「中学の頃からさ、光原さん……彼女のことが好きだ。でもずっと振られてばかりだ。三年かけてもだめだった」

 彼は告り続けているということか。答えは決まりきっているのに諦める踏ん切りがつかないのだろう。

「君は知っている。俺の知らない、彼女のことを。小学校の頃の彼女だったり、学校から離れたときの彼女や、家とか……」

 俺が彼女と関係があるから、なんとしても味方につけたい。理屈は理解できる。

 だが、応じるかは別問題なのだ。

「悪いが俺は……」

「彼女は多分君を特別に見ている。でなければ何度も昼飯を一緒に食べるなんてことは無いだろう?」

 口が止まる。

 特別……か。俺には彼女がただ昔からの旧知であったから、だと思っていた。思うようにしてきた。だから、

「大原くん、君は光原さんのことを蔑ろにして、大切にしていない。それでも君を彼女は気にかける。だったら――」

 その言葉だけは我慢できなかった。

「いつ俺があいつを大切にしてないって?」

 こいつに何がわかるのか。近づかず近づきすぎずの関係は、もう誰も失いたくないためだ。

 それを誤解されているのはそれこそ不愉快というものだ。

 こいつに自分の背景など知ったこっちゃないだろうが、我慢するのは難しかった。

 山城アツシ。ここまで自分に食いついてくる人はアカリ以来かもしれない。

「……光原さんに言われた。どんなに俺が強くてもユウタには敵わない、と。ならその力を見せてほしい。それで俺を納得させてくれや!」

 要するに彼は根拠が欲しいのだ。目立たない俺がアツシに負けない根拠が。

 本当に仕方のないやつだ。

 気は進まない。手を抜いて接戦にしても彼は納得しないだろう。

「……今回だけだ。お前の恋路がどうとかは知らないが、他人を手伝う義理もないことは力で明確に示させてもらう」

「……そうか。ならせめて、ただの他人という認識そのままにならないように頑張らねえとな!」

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