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果てなき星のヴァルケイド  作者: 国木田エイジロウ
第2話 他人のいる日常
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2-1 見たことのある他人

 友達かそうでないかという境界は、人によって様々である。

 共通項で仲間を増やしていくヒトという生命体はそれで十分なはずなのに、それ以上を求めてしまう。

 逆に互いに興味がないことでも自然と会話の続く存在がいる。これは友と呼べるのではないだろうか。

 無論、そんな定義での友など簡単には居やしない。つくるだけでも面倒なのに、それを今さら欲しいとは思わない。

 そもそも、建前だらけの人間を友とか仲間とは呼びたくない。


 

 星導の使者との戦いから一週間。

 事件は複数人の死傷者を出した事故として処理され、容疑者死亡としてそれっぽい顔写真がでっち上げられて報道された。

 真実は別にあるが、それを語ったところでありふれたオカルト話で終わるに違いない。

 今回、偉い人たちは隠すことにしたそうだが、いつかはバレるであろう地球の脅威をいつ公表するのだろうか。

 そんなことを気にする間もなく、時間は過ぎ――。

 当初は全治一ヶ月という診断を受けた怪我も驚異的な回復をみせ、一週間で退院の許可が出た。

「驚きだよ、君は……」

「昔から怪我の治りは早いんですよ」

 が、これは決して便利などではない。治るのが早くても痛覚はちゃんとある。

 回復が早い故に骨、神経が繋がるときに起こる痺れ、その過程の痛みといった類はあまり気持ちの良いものではない。

「とにかく、交通事故から命があるだけでも良かった。お大事に」

 どうやら、今回の件は交通事故として処理されたらしい。

 俺は深く言及することなく挨拶を済ませ、一週間ぶりに外の空気を吸い込んだ。

 

 

 そして、今。学校復帰日である。

 前日にアカリが制服姿で満面の笑みで家にやってきた。

「おはよ、一緒に学校行こ!」

 と静寂な日曜に言うもんだから、言ってやった。

「今日は日曜だよ、ばーか」

 その言葉を聞いた途端、顔を真っ赤にして彼女は扉を閉めた。

 勢いよく閉めるもんだからそこで俺の目は覚めた。

 こういうところは本当に馬鹿だと思う。

 大方、俺と登校するのを何故か楽しみにしていたのだろうが、詰めが甘い。

 

 で、彼女は昨日より控えめな態度で家にやってきた。

「……おはよ。今日は月曜日、だよね? 祝日とかじゃ、ないよね?」

「お前の家にはカレンダーがないのか?」

「疑問を疑問で返すのやめて。……で、平日であってるよね?」

 彼女は昨日の失敗からか、不安らしい。

「昨日と違い、お前と俺は制服姿だ。それで聞かずとも察しはつくだろうに」

「もう! 素直に平日だよ、で済むことでしょう?! なんでそう回りくどい言い方するの!」

「当たり前のことを聞いてくるからだ」

 こうして日常は戻った。

 だが、これが偽りの日常であることはごく一部しか知らないのであった。

 


 教室に着く。一週間ぶりということもあり、俺のことを好奇な眼差しで見るクラスメイトたち。

 その視線は少々不愉快であった。

 無駄に目立っている。その事実が自分を苛立たせていた。

 かといってどこにぶつけようもない感情は、飲み込んで自分の腹の奥底へとしまうしかなかった。

「ユウタ、今日の午後に体育あるけど大丈夫?」

「何がだ」

 何を心配しているのか。俺にはどうも理解できない。

「いや、その……。一応病み上がりってことだし」

 それは余計な気遣いだった。

「問題があれば学校に来てない。むしろ俺が気を付けねばならないのは、本気を出してしまうことだ」

 ヴァルケイドの適合者になるための訓練。それをこなした大原ユウタという人物は既に常人の域を超えていた。

 徒競走なんてしようもんなら余裕で勝つだろうし、あらゆる対戦系の球技は星導の使者が相手ではない限り敵なしだろう。

 が、力の入れ具合を間違えれば相手を怪我させることだって考えられる。そうなれば悪目立ちは避けられない。

「それは……もう気をつけてというしか……」

「だろうな。俺がお前でもそう言うしかない。まあ努力はしてみる」

 

 午前中の授業が終わり、昼。食堂に行くと奴――山城アツシはいた。

「おう、二人仲良く元気そうで!」

「ちっ」

「あ、今舌打ちした。酷いなぁ、俺たち中学でそれなりに仲良かったじゃん?」

 アカリはため息をつくと、アツシに向かって言う。

「ねえ、あんた。加減とかそういうのわからないわけ? 日に日にウザくなってるんだけど」

 ……記憶が正しければ、二人は中学時代の同級生。初対面で相対した時はそれなりに仲良さげに見えたのだが。

「ウザいはないでしょ。俺は別に、何も悪いことは――」

 俺とアツシの視線が合う。と、同時に絶え間なく続いていた言葉が止んだ。

 これは、あれだ。敵意。いや、単なる対抗心とかそういう類のものか。

「ふうん。そういえば前も会ったな、君。確か光原さんの幼馴染とか。誰くんだっけ」

「お前に名乗る名などない」

「ほう、そんなこと言ってもいいのかなぁ。この何でもできちゃう俺に! 困った時、助けてやれないぞ?」

 なるほど。返せば返すほど突っかかってくるタイプか。こういうのは放っておくほうがいいだろう。

「……というわけで、海老は頂こう」

 流れを切る。そのためなら何でもしてやろう。

「あ、ちょ。勝手に――。私の海老さん……」

 すまん。後で埋め合わせの文句があれば聞こう。

「ふうん。これは……まあまあだな」

「まあまあって……まったくもう……」

 そう。こういうやり取りに相手は弱いはずだ。二人だけの会話を続けていけば居心地が悪くなるに違いない。

 アツシは意外と早く音を上げた。

「まあ……仲の良いのはいいことだね。お先に失礼しよう」

 彼はそう言ってこちらから離れる。

 彼が何を言おうとも、それは捨て台詞にしか聞こえなかった。



 彼が去ったあと、アカリは隣に座っていた俺の袖をぎゅっと掴んで小声で言った。

「あ、ありがとう。さっきは」

「なんだ、気づいていたのか」

 どうやら俺に役者は向いていないらしい。

「病み上がりなのに、ごめん。でもユウタがいない一週間はね、ずっとあんな感じで。いい加減嫌になっちゃった」

「それは気の毒だったな」

 中学から高校になって人との距離感は変わる。

 その辺をつかみ切れず、中学の気分で馬鹿をやらかす人は一定数いるらしい。

 山城アツシという人間はその類なのかもしれない。

 正直なところ、『見たことのある他人』なのでどうでもいいのだ。

 俺の今ある日常を脅かすことさえしなければ、な。

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