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待ち伏せ攻撃

 本部の影も形もないことに僕が戸惑っていると、ソムニの鋭い声が頭の中に響く。


”伏せて!”


 声が聞こえると同時に僕は地面に伏せた。とっさの行動の訓練も常日頃からやっているから体が反応する。次の瞬間、僕の頭上に小さい何かが高速で通り過ぎた音が聞こえた。


 驚く僕の視界に赤枠がいくつか現れる。


「一体なに!? 魔物の襲撃!?」


”違う、銃での攻撃よ。建物の陰から狙ってきてる”


 冷静に状況を知らせてくれるソムニの声を聞きながら僕は右隣へと顔を向けた。ミーニアさんも地面に伏せている。無事らしい。


 目が合うと話しかけられる。


「怪我はありませんか?」


「大丈夫です。それより、何がどうなっているのかわからないですよ」


「とりあえず隠れられるところへ移動しましょう。今から石の壁を作りますから、それに沿って逃げますよ」


 僕の返事を待つことなくミーニアさんが呪文を唱えた。すると、二人の前の舗装道路(アスファルト)が裂けて石版みたいなものがせり出してくる。一メートル半程度まで延びるとそれは止まった。そして更に右隣から同じものがせり出してくる。


 こうして廃墟の一角まで石の壁が次々にせり出していくのに合わせて、僕とミーニアさんは中腰で小走りした。その間に銃弾が石の壁に何発も当たる。


 放棄された建物の裏に僕達が逃げ込むと銃撃は止んだ。


 少し乱れた息をすぐに整えると僕はすぐにミーニアさんへと尋ねる。


「これ、一体どうなってるんですか?」


「依頼自体が罠の可能性がありますね。わたくし達は誘い出されたのかもしれません」


「一体誰が、もしかしてレッドサラマンダーの仕業とか?」


「推測ですがその可能性はあるでしょう。偽の指名依頼を出してまでやるのかとは思いますが」


「いやでも、ミーニアさんを勧誘したいんですよね? 殺しちゃ駄目じゃないですか」


「あなたを殺してわたくしを攫う作戦なのかもしれません」


”アタシもその可能性が高いと思うわ。銃撃のほぼ全部が優太に集中してたもの”


 ソムニの指摘を聞いて僕は寒気を覚えた。確かに必要なのはミーニアさんだけなんだろうけど、そこまでするか?


 信じられないと現状を否定したかったけど、残念ながら現実は僕を待ってくれなかった。すぐにソムニが警告してくる。


”複数の何者かが近づいてくるわ。迎撃しないと”


「魔物ならともかく、人相手となると少々厄介ですね。ソムニ、優太はどの程度市街戦で戦えますか?」


”ほぼ素人よ。こんなことになる可能性なんてずっと低いと思ってたから後回しにしてたのよ。あー失敗したぁ”


「嘆いても仕方ありません。今できることをしましょう。迎え撃つ準備を」


”待って。救援も期待できないのに籠城しても仕方ないわ。それに、アタシがいるんだから攻めた方がいいわ。動き回りましょう”


 自信満々にソムニが言い切った。現状はネットワークを介して色々と使えるからどうにかできるらしい。


 その言葉を信じて僕を先頭にミーニアさんと動き始める。


”見つけた敵を片っ端からやっつけていくわよ。はい、そこで一旦止まって。近くに敵がいるから慎重に進む”


 目の前に半透明の矢印が現れて、どこに進めば良いのかを示してくれた。建物から建物へ、曲がり角から直線へと慎重に進んでいく。


 やがて僕達は石の壁を伝って最初に隠れた建物の裏がよく見える場所に着いた。とある建物の二階の一室だ。窓から見えるその先で四人の男達がいる。


”最初に狙う相手は脚を狙って。二人目はいつも通り胴体ね。そこで敵は隠れるはずだから次に移動するわよ”


「どうして一人は脚なの?」


”後で警察に引き渡すためよ。全員殺しちゃうと、逃げ切ったヤツが知らぬ存ぜぬって言いかねないんだから”


「わたくしの魔法で四人とも足を固定できますが、した方が良いですか?」


”いいわね! それじゃ優太、四人とも動けないように足を狙って!”


 方針が決まると僕は窓の近くで小銃を構えた。百十メートル先の赤枠四つのうち、一番奥の男の脚に照準を合わせる。


 隣でミーニアさんが呪文を唱え終わると、はるか先の四人が一瞬動きを止めた。それを機に引き金を引いていく。遠くから男の悲鳴が次々に聞こえてきた。


 照準から目を離した僕がつぶやく。


「これで全員なのかな?」


「敵の正体もわかりませんから、まだいるという前提で行動するべきでしょう」


”ちょっと監視衛星を借りて見てたけど、少なくともあと三人はいるわね。ついでに敵の自動車も見つけたわ”


「三人は固まって行動してるの?」


”いいえ。一人は自動車の隣で待機してる。残りの二人はあの四人のところに移動中よ”


 聞いちゃいけないことを聞き流して僕は必要なことだけを記憶した。今度は移動している二人を攻撃するのか。いや待てよ?


 僕は思いついたことを口にする。


「拠点っぽい自動車には下柳らしき人が一人なんだよね? だったら先にそっちを攻撃しない? 何人いるかわからない敵を待つより、先に拠点を占領して敵に動いてもらった方がいいような気がする」


”いいじゃない。四人乗りの自動車が二台だから最大八人ってことになるけど、既に半分は動けなくしたんだし、やってみるのも面白いわね”


 すぐに僕の案は採用された。ソムニの案内で移動中の敵二人と接触しないような経路で敵の自動車に近づく。


 自動車二台は街の外れに止まっていた。僕達が自動車(レンタカー)を停めた場所から北に歩いて二十分くらいのところだ。


 その場所を街の切れ目に立っている四階建ての廃ビルの一室から眺める。距離は二百七十メートルだから射撃範囲内だ。


 ここで先程と同じ手順で一人立っている敵を狙撃する。


 小銃を構えた僕の横でミーニアさんが呪文を唱え始めた。これが終わったとき、僕は引き金を引く。


 いよいよと狙う先に集中したとき、背中に何かの気配を感じた。同時にソムニの声が頭の中に響く。


”優太、逃げて!”


 僕の足下に何かが転がってきた。それを確認するまでもなくミーニアさんを庇って地面に伏せる。その直後、強烈な音と光が室内に発生した。


 幸い背中を向けていたから目は守れたけど耳はやられてしまう。どうにか振り向くと室内に誰かが入ってきた。けど、体が思うように動かない。


”体の制御を借りるわよ!”


 ひどい耳鳴りがする中、ソムニの声が頭の中に響いた。こういうときは便利なんだなと他人事のように思っていると、体を自分で動かせないようになっていることに気付く。


 侵入者は起き上がろうとした僕に蹴りを入れたけど、両腕で防いで相手の足を受けとめた。目を見開くその顔をぼんやりと見て、そいつが下柳だと気付く。次いで大型拳銃を取り出してその顔面に二発撃ち込んだ。この間二秒。今の僕だと絶対にできない動きだ。


”ソムニ、ミーニアさんに怪我はないかって聞いてくれない? 耳鳴りがひどくて何も聞こえないんだ”


”平気だって。それと、自動車の前に立ってたヤツの足は止めたままだから逃げられないそうよ”


 あんな状態でも魔法を発動させたんだ。起き上がって窓の向こうを覗いてみると、確かに慌てた男がその場でじたばたと動いていた。


 若干元気のないソムニの声が頭の中に聞こえてくる。


”警察はもう呼んであるから、後は待つだけでいいわよ。残り二人がうろついているけど、こっちはちゃんと監視しておくから心配しなくていいわ”


”わかった”


 振り返るとミーニアさんも起き上がっていた。


 まだ完全に終わったわけじゃないけど、とりあえず一段落ついたらしい。


 耳鳴りに顔をしかめながらも僕は警察を待った。

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