戦いが終わった後で
後に聞いたところによると、今回の魔力噴出と魔物の大量発生は一般的なものに比べるとごく短時間で済んだものらしい。
確かにそうなのかもしれないけど、その場で戦っていた僕達からすると非常に苦しい戦いだった。
魔物の駆除が大体終わったのは夕方だ。若干残っている魔物は魔窟探索チームのハンター達が駆除している。
なので、僕の所属する遺跡探索チームは遺跡についてだけ考えれば良かったけど、事はそう簡単じゃなかった。何しろ遺跡の中は魔物だらけだからだ。
僕の報告を聞いた遺跡探索チームの人達は頭を抱えた。各階は隔壁で閉鎖された上に多数の魔物が徘徊しているため、探索するためにはこれを何とかしないといけない。最終的には今回の探索は中止ということになった。
魔窟と繋がっていたせいで踏んだり蹴ったりな状態になったわけだけど成果はあった。ソムニが地下四階で回収したデータだ。
強化外骨格内蔵の大容量記憶装置に納められたそれを受け取った探索チームの責任者は大層喜んでくれる。中身を見ていない僕にはよくわからないけど、結構な価値があるらしい。
こうして今回の探索に関しての仕事は区切りがついたんだけど、これ以外に住崎くんと中尾くんの件が残っていた。とはいってもそんなに大げさなことじゃない。単に魔窟探索チームのベースキャンプに送り返すだけだ。
荒神さんが僕に声をかけてくる。
「大心地、あの二人を向こうのベースキャンプに送ってやってくれ。あっちにはもう連絡してあるから」
「あ、はい」
折り合いの悪いあの二人に近づくのは気が進まなかった。けれど、命の危険から解放されて心身虚脱状態の二人を放っておくわけにもいかない。
ベースキャンプの一角で座り込んでいる住崎くんと中尾くんを見つけると、僕は近づいて声をかける。
「二人とも、ちょっといいかな。落ち着いているんなら、そろそろあっちのベースキャンプに送っていこうかと思うんだけど」
最初に反応したのは中尾くんだった。表情のない顔を向けて僕を確認すると少し目を見開いて、それからため息をつく。しばらく下を向いてそのままだったけど、また僕を見上げた。その顔はひどく疲れている。
「そうだな。戻った方がいいな」
つぶやくように中尾くんが答えた。それから緩慢な動作で立ち上がる。
一方、住崎くんの方はうつむいたままだった。ぴくりとも反応しない。もしかしたら寝ているのかなとも思ったけど、揺すって起こすのも躊躇ってしまう。
どうしたものかと思っていると、中腰になった中尾くんが住崎くんを揺すった。
「住崎、ベースキャンプに戻ろう」
「わーってる」
気だるそうに答えた住崎くんがのろのろと立ち上がった。僕を見て眉をひそめる。
自分の顔を見て少し機嫌が悪くなった住崎くんの様子を見ていた僕は、思ったほど怖くなくなっていて内心驚いた。もちろん今でも苦手意識はあるけど言ってしまえばそれだけだ。
半年前と比べて随分と変わったなと思いながらも、僕は二人を先導するように歩き始めた。そういえば、どこまで送れば良いのか教えてもらっていない。
つまらないことで僕が悩んでいると、背後から中尾くんから声をかけられる。
「さっきは助けてくれてありがとう。一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「え、なに?」
「どうして助けてくれたんだ? その、俺と住崎はお前のことを嫌っていただろう。助ける理由がないと思うんだが」
「うーん、なんとなく嫌だったんだ。散々ひどいことを言われたし今も苦手だけど、だからって死んでほしいとまでは思えなかったから」
「そうか」
それきり中尾くんは口を閉じた。その口調からいくらかでもわだかまりが解けたんじゃないかなと思う。
でも、続いて声を上げた住崎くんはそう簡単にはいかないようだ。口を尖らせるような感じで小さくつぶやく
「ちっ、かっこつけやがって。オレ達だけでも」
途中で住崎くんの言葉は途切れた。中尾くんの視線に気付いたからだ。耐えられなかったのかすぐに目を逸らす。
「悪かったよ。助かった」
短く謝罪と感謝の言葉を言ってくれた後、そのまま黙った。
その後は誰もしゃべることなく、魔窟探索チームのベースキャンプにたどり着く。そして、一言挨拶をしてからあっさりと別れた。
帰り際、ソムニが声をかけてくる。
”中尾の方はともかく、住崎の方は素直じゃないわね”
「そんなこと言っても仕方ないよ。何時間か前までは僕のことをものすごく嫌ってたんだし。急に態度を変えるのは難しいんじゃないかな」
”へぇ、優しいじゃない。会うたびに色々と嫌なことを言われてたのに。アイツに恨みとかないの?”
「嫌いなのは今も変わらないよ。ただ、だからって何かを仕返してやろうとは思わないだけで。何て言うのかな。住崎くんに何かしたいって思わなくなったんだよ」
”ほほぅ、つまり興味がなくなったと。ある意味一番エグい仕返しじゃない。住崎がどうでもいい存在だってことでしょ”
「うっ、その言い方はひどすぎない?」
随分とはっきり指摘された僕は顔をしかめた。自分の暗い部分を明るみに出されるとさすがに目を背けたくなる。
それにしても、半年前に比べて変わったと自分でも思う。会えば逃げたい一心だったのに、今じゃ少し嫌な思いをするだけだ。
自分の心を圧迫していたことが一つ取り除けた気になった僕は気が軽くなった。
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週末が明けると再び学校に通う日々が始まる。先日の遺跡探索の依頼を引き受けた後だと退屈といえば退屈だし、平和だといえば平和だ。勉強さえなければ、僕にとって悪くない日常だといえる。
来週から始まる中間テストのことを考慮して、ソムニが僕の勉強量を増やしてきた。はっきり言って嫌だけど、成績を下げると親に色々と言われるから拒否できない。
ジュニアハンターの活動のためにやっている筋トレや各種訓練も続けている。徐々に質と量を上げられて一向に楽にならないのが僕の密かな不満だ。
こうやって毎日を忙しく過ごしているある夜、僕が自室のベッドの上でネット巡回をしているとソムニが話しかけてくる。
「あら? あの二人、辞めちゃったんだ」
「あの二人って?」
表示していた半透明の画面から目を離した僕は、横の辺りを漂っている半透明な妖精に顔を向けた。
僕の意識が自分に向いたことに気付いたソムニが話してくれる。
「住崎と中尾のことよ。ジュニアハンターを辞めたみたい。支部のデータベースを見てたら退会ってあって」
「そもそもそんなところを当たり前のように覗いちゃ駄目じゃない。それはともかく、本当に辞めたの? 二人ともあんなに楽しんでいたのに」
「やっぱり前の魔窟探索のやつが致命的だったのかしらね」
あれから二人とは話をしていないからどんな心境の変化だったのか僕にはわからない。
ただ、驚きはしたけど同時に仕方ないとも思っている。恐らくあの二人には耐えられなかったんだろう。僕だってソムニやミーニアさんがいなければもっと早くジュニアハンターを辞めていただろうから何となくわかる。
あの二人のことから自分の身に目を向けてみたとき、どれだけ続けられるのかなと思う。ミーニアさんはもちろん、ソムニだっていつまで一緒にいてくれるかわからない。支えてくれる人がいなくなったとき、僕は果たして立っていられるだろうか。
そう考えると、あの二人がジュニアハンターを辞めたことは人ごとには思えない。
目の前をくるくると回るソムニを見ながら僕は少し真剣に考えた。




