強行突破
地下四階でデータを取り出した僕とソムニは地下一階の階段を登りきったところにいる。目の前には扉があり、ここを開けたら地下一階の端に戻れるはずだ。
分厚い防火扉を前にして僕は息を整えた。武器を確認する。銃弾の数は相応に減っているけど失ったものはない。
「問題は、この先にどれだけ魔物がいるかなんだよね」
”まぁね。困ったことに地下一階の管理室は見当たらなかったから、今どうなってるのか全然わからないのよね~”
「ミーニアさん達と別れてから結構経つけど、どのくらい魔物が上がって行ったんだろう」
”最後の様子だと逃げるの精一杯だろうから、数が減ってることも期待できそうにないわ。ただ、階段はもう封鎖してあるからこれ以上は増えないのが救いね”
「これ弾の数足りるかなぁ」
”切れ味のいい対魔物用鉈があるんだから、そっちも使いましょ。日頃の訓練の成果をここで発揮するのよ!”
こんなときでもソムニは元気だ。実際に体を動かす僕としては気が重いどころじゃないんだけど。
ともかく、いつまでもここでじっとしているわけにはいかなかった。救出してもらえるかどうかわからない以上、自力で脱出するしかない。
覚悟を決めた僕は防火扉に触れる。
「それじゃ、行くよ」
”出会い頭に魔物と鉢合わせる可能性もあるから最初から気合いを入れなさいよ。その後はひたすら地上まで走ること。経路はアタシが示すからね”
「わかった」
簡単な打ち合わせが終わると僕はいよいよ扉を開けた。
何が出てくるのかと緊張しながら僕は扉の向こうに足を踏み入れる。目の前の通路に動くものは見当たらない。僕は安堵のため息をついた。
けど、幸先が良かったのは一瞬だけだったようだ。数歩歩いたところで大鬼一体が曲がり角から姿を現した。あれじゃ大きすぎて対魔物用大型鉈でも静かに殺せない。
僕は迷わず小銃の引き金を二回引いた。銃弾二発は大鬼の頭部に命中し、その大きな体は床に倒れる。
”いきなりダメだったわね! 走って!”
「くそう!」
悔しがったところで状況は変わらない。僕は全力で床を蹴って走り始めた。
それからは立ち止まることを許されない戦いとなる。角を曲がったところで黒妖犬と鉢合わせ、十字路で豚鬼祈祷師に待ち伏せられ、避けられない直線通路で牛頭人に立ち塞がられた。
今回はこの遺跡から脱出するのが目的なので遭遇した魔物すべてを倒してはいない。他にも次々と行く手を阻もうとしてくるから、いちいち相手をしていられないんだ。
こうやって戦いをできるだけ減らそうとした甲斐あって、ようやく地上へと戻ることができた。青い空がこんなに素晴らしいものだと思ったのは初めてだよ。
けれど、外の様子がおかしいことにすぐ気付いた。銃撃音や喚声や悲鳴があちこちからするからだ。
何が何だかわからないけれど、ベースキャンプがたくさんの魔物に襲われていることは理解できた。その光景を見て僕はしばらく呆然とする。
「何が起きてるの?」
”あー、今あっちの通話やログを確認したけど、どうやら魔力噴出から魔物の大量発生が起きたみたいね。ベースキャンプはどちらも維持できてるけど、ハンターの被害は馬鹿にならないわ”
「みんなは」
”ミーニアと荒神は無事よ。遺跡探索側のベースキャンプにいるわ。連絡したら?”
呆けていた僕はソムニに勧められて我に返った。急いでミーニアさんにパソウェアの通話機能で話しかける。
「ミーニアさん、大心地です! 戻ってきました!」
『優太、よく無事で! 今どこにいますか?』
「遺跡の入口近くです。今からベースキャンプに戻ります」
『早く来てください』
珍しくミーニアさんが急かしてくるので僕は急いだ。途中何匹かの魔物と遭遇したけど、遺跡内であれだけ苦労しただけあってわけなく倒せる。ベースキャンプにはすぐにたどり着いた。
すると、真っ先に荒神さんが声をかけてくる。
「てめぇ、生きてたか! よく帰ってきたな!」
「死ぬかと思いましたよ。それで、これ一体どうなってるんですか?」
「魔窟の方で魔力噴出が起きたらしい。それから魔物が溢れたんだが、今回厄介なのは魔物よりも魔力の方なんだ。濃度が高いらしくて何人かが魔物化したらしい」
「ええ!? 地上でそんなことあるんですか!?」
「いずれも魔法を使える奴ばっかだったそうだ。さっき遺跡でも一人魔物になった奴がいたろう? あいつも魔法が使えたんだ」
「それじゃ、ここにいるみんなは?」
「ミーニアに結界を張ってもらってどうにかなってる。その手の機材は今回持って来てなかったからな。あっちの第二職安の方は持ってきてるそうなんだが、何人か逃げ遅れた奴がいるらしい」
遺跡探索チームは地上での犠牲はないとのことで僕は安心した。けれど、魔窟探索チームの方が気になる。
ともかくほとんど底をついている銃弾を補給した。チームの人達が魔物に応戦しているから急がないといけない。そうして補給を終えて改めてベースキャンプの周囲を見たとき、気になるものを見つける。
「あれは?」
”ハンター、いえジュニアハンターね。確か住崎と中尾って言ったっけ”
「なんであんなところに!? 荒神さん、あそこに僕の知り合いのジュニアハンターが!」
「なんだと!? くそっ、ちと遠いな」
「僕、助けに行きます!」
「待て、一人で行く気か! ミーニアはここから動かせないんだぞ!」
「荒神、優太なら一人でも大丈夫です。先程遺跡から自力で戻ってきたではありませんか」
「ええいくそっ、なら俺も行く! 大心地、魔物を殺すのは後回しだ。あいつらんところまで走るぞ!」
「はい!」
僕は急遽荒神さんと二人で住崎くんと中尾くんのところへ向かって走り始めた。要領は遺跡の中でやったことと同じだ。少し怖いけど無理じゃない。
一人の時と違って一定の範囲を任せられる人が一緒というのはとても楽だ。対処するべき範囲が半分に減ったからね。
元々直線距離だとそんなにないから、魔物さえ排除できれば二人の元へたどり着くのに時間はかからなかった。
助けに来た僕を見て住崎くんが驚く。
「お、大心地!?」
「住崎くん、中尾くん。言いたいことは後で! 早くこっちに来て!」
「ガキども、用意はいいな! 走れ!」
荒神さんの合図で僕達は再び遺跡探索チームのベースキャンプへと走り出した。強化外骨格を装備しているとはいえ、魔物を排除しながら往復ダッシュというのはきつい。
住崎くんと中尾くんを中心に、僕と荒神さんが両脇を固めて走った。魔物は僕と荒神さんで撃退し、二人にはひたすら走ってもらう。
復路は往路よりも少し楽な感じがした。このわずかな間に魔物の数が減ったような気がしたからだけど、確認している余裕はない。
結局、行って帰ってくるのに十分もかからなかった。それでも、走り続けたから息が思い切り弾む。
それは住崎くんと中尾くんも同じようだった。膝に手をついて地面に顔を向けて大きく息を繰り返している。
「大心地、もう他に知り合いはいねぇよな。そう何度も付き合えねぇぞ」
「ありがとうございます、荒神さん」
「まぁいいさ。目の前で知り合いが死ぬってのはイヤなもんだからな」
笑顔を向けてくる荒神さんに僕は苦笑いを返した。確かに寝覚めはとても悪くなる。
ただ、当の二人はどう思っているかはわからない。どちらも何とも言えない微妙な表情を僕に向けてきている。今までの経緯を考えると素直に喜べないことくらいは理解できた。
それでも、二人とも僕と同じだと嬉しいなと思った。




