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管理室

 肩で息をしていることにしばらくして気がついた。ここは赤暗いだけで魔物はいなさそうだったから、ようやく自分のことに気を向けることができたんだ。


 呼吸を落ち着かせながら周囲を見ると割と広い部屋らしいことがわかる。地下二階を巡ったときは実験機材のようなものを多数見かけたけど、ここはそういうものはなさそうだ。


 何から何までわからないことだらけの僕は我慢できずにソムニへと話しかける。


「ソムニ、ここってどこなの?」


”もらった地図を見ると管理室らしいわ。恐らくこの階全体の制御をしていたんでしょ”


「なんでここに逃げたの?」


”さっき言った各階の地図を見ると、ここだけ他とは隔絶されているのよ。管理室なんだからある意味当たり前なんだけど、だからこそ、ここには魔物はいないって思ったの”


「でも、ここから出られないとじり貧なんじゃないの? それとも、出口があるとか」


”隠し通路があるのなら出口も期待できるでしょうね。けど、アタシが期待しているのはそっちじゃないのよ。あっち側に操作盤(コンソール)があるから行きましょ”


 次に何をするのかわからないまま、僕はソムニの言う通り管理室の奥へと向かった。机やら機材やら書類やらが散乱している中を進んで、いくつもの画面が嵌め込まれた壁の前にたどり着く。


「随分古いね。テレビ画面なんて実物初めて見たよ」


”そりゃ今じゃ空中投影表示(立体テレビ)が主流だもの。ただの二D(テレビ)なんてどこにもなくて当然よ。アタシが興味あるのはそっちじゃなくて、こっち”


 目の前に表示された青枠の中には操作盤(コンソール)があった。それでやりたいことが何となくわかる。さっきの扉みたいに侵入(ハッキング)したいんだ。


 僕は操作盤(コンソール)に近づいてそれに手を当てる。すると、さっきまでよくしゃべっていたソムニが静かになった。


 暇になった僕は何となく湧いた疑問を口にする。


「ここが管理室だとして、一体何がしたいの? 監視カメラを復活させても映像が見えるだけじゃないの?」


”何言ってんのよ。地下三階のところで真っ当じゃないモノが出てきたってことは、ここは普通の研究施設じゃなかったってことよ。ということは、警備もそれなりだと思わない?”


「侵入者撃退用の防衛システムだね!」


”それと、研究対象が暴走したときのためでもあるわよ。扱ってるモノがヤバイほど、この手の設備は充実してるはずなの”


「それで魔物をやっつけるんだ」


”そういうこと。あとは隔壁で各エリアを封鎖して魔物の動きを封じ込めてしまうとか”


 話をしているうちに僕は次第に希望が持てるような気がしてきた。地上に出るには魔物の中を突破しないといけないと思っていたからこれは朗報だ。


 けれど、表情が明るくなる僕に対してソムニが釘を刺す。


”そのためには二つの前提をクリアしないといけないわ。一つは電源が死んでないってこと、もう一つはシステムが生きてるってこと”


「赤い光が点いてるから電源は生きてるんじゃないのかな?」


”メインシステムが使えるくらいに電力を供給できないと意味がないのよ。防衛システムを動かすのって結構電気使うんだから”


 鋭い指摘を受けて僕は黙った。電源一つとっても難しい問題ということを思い知る。


 二人で話をしている裏でソムニの作業は続いていた。しばらくして待望の返事を聞ける。


”よし、チェックとリカバリー完了! 動かせるヤツはどんどん動かしていくわよ!”


 ソムニの言葉とともに、照明が非常用の赤から常用の白に切り替わった。半分くらいは点かなかったけど、さっきよりは断然明るい。いくつかのテレビ画面も映像を表示する。


 次いで階段の出入り口の隔壁が下がった。幸いきちんと動いてくれたから、地下二階に侵入してきた魔物は他の階へ行けなくなる。


 更にまだ一部は生きていた小口径レーザー銃の銃身が天井から現れた。廊下や室内にいる魔物は一匹ずつ打ち抜かれて倒れていく。


 最後に壁の一部がスライドして自立型警備ロボットが廊下に現れた。前に僕が遺跡内で追いかけ回された昆虫型ケンタウロスのようなロボットだ。


 こういったものが全部ではないが起動できるものは次々と起動して己の役目を果たしていった。それは暴虐対無機質の戦いというもので、延々と破壊と殺戮を繰り返していく。


 その淡々とした行為に僕は嫌なモノを感じた。でも、今はそんな感傷に浸っている暇はない。ソムニが僕に促してくる。


”地下三階にも同じような管理室があるから動かしに行きましょ”


「そうだね」


 テレビ画面から目を離した僕は踵を返して歩こうとした。けど、重要なことを思い出して立ち止まる。


「どうやって三階に行くの? 今隔壁で封鎖したよね?」


”さっき向こうの端っこに管理室からどこかに延びる通路って見なかった? たぶんあそこから行けると思うの。地下一階を探索したときに、階段が二箇所あるって話聞いたでしょ。あのもう一つの階段がそこにあるはずなのよ”


「えぇ、ほんとかなぁ」


”行って確認したらわかることでしょ。ほら、行く!”


 案外雑な計画を進めているのではと疑念を感じた僕だったけど、他に選択肢はなかったから仕方なく足を向けた。


 管理室の端、僕が扉から飛び込んだ正面の向こうに通路はあった。銃を構えながら半信半疑で進むと、その先には分厚い防火扉がある。幸い、ロックされていなかったので重い扉を開けてその先に進んだ。


「うわ、本当に階段があった」


”でしょー!”


 すごく嬉しそうなソムニの声が頭の中に聞こえてきた。さっきの階段と同じ剥き出しのコンクリート製だ。上と下にどちらもいける。


 上に行きたい欲求を抑えつつ僕は階下に下りて防火扉を開けた。進んだ先は地下二階と同じ造りをしている。


 ここでもテレビ画面のあるところでソムニがシステムを操作した。地下二階と同じように隔壁が下がり、防衛システムが動いて魔物を駆除し始める。


 これで壁に穴の空いている階は封鎖できた。あとは逃げるだけなんだけど、一つ気になるところを見つけた。さっきの階段なんだけど、どうも地下四階もあるらしいんだ。


”どうせならちょっと下の様子を見ていかない? もう急ぐことはないんだし”


「そんな気軽なことを言ってる場合じゃないと思うんだけどなぁ」


 などと反論して見せたけど、実際のところ僕だって気になっていた。結局誘惑に勝てずにもう一つ下に下りる。すると、階段はこれより下には延びていなかった。


 やっぱり防火扉を開けると管理室に続いていた。


 思わずソムニに声をかける。


「この階って何をしていたところなの?」


”もらった情報だとこの階全体がデータセンターらしかったわ。ちょっと時間はかかるけど、サーバーを起動させて中を探りましょ”


「動くかな?」


”動いても一部でしょうし、普通ならこの施設を放棄するときにデータはきれいに消されてるはずね。けど、何か残っているかもしれない。こういうのは、まず調べてみるものなのよ”


 その手の専門家ではない僕はうなずくしかなかった。操作盤(コンソール)に手を触れる。


 無言で盤面に手をついたままでいると、室内が明るくなってテレビ画面がいくつか監視カメラの映像を映すようになった。地下三階から流れてきたらしい魔物が画面の向こうで徘徊している。


”おっけー! いいわよー! 少ないながらも一応あったわ!”


 どうやら成果はあったらしい。内容気になるけど、その好奇心は一旦脇へ置くことにした。データを確認するのはあとでもできるしね。


 これでもうここに用はない。僕は今度こそ地下一階に向かうために階段を登った。

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