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今後について

 学校の授業の復習が終わると、一日のやるべきことすべてをこなしたことになる。筋トレ、勉強、訓練とみっちり詰まっているから大変だ。


 ソムニの終了宣言を聞くと、僕は半透明な画面を消して立ち上がる。そして、自室から食卓のある台所へと向かった。


 晩ご飯は既に用意されていたから席に座る。今日は皿うどんに八宝菜だ。僕が来る時間を見越していたらしく、麺は八宝菜から水分を適度に吸い込んで柔らかくなっている。


 箸を持った僕は麺を(ほぐ)すと、白菜や豚肉と一緒に麺を口に入れた。小麦粉でとろみのついた餡で口の中が暑い。


 汗をかきながら皿うどんを食べている僕の正面で、父さんも同様に皿うどんを食べている。もう半ばくらいまで食が進んでいた。その隣では母さんがゆっくりと箸を進めている。


 僕からは特に話すことはなかったから黙って食べていると、母さんが何かを思い出したようだ。そして、僕へと顔を向けてくる。


「優太、少し早い話なんだけど、高校卒業した後はどうするつもりなの?」


 いきなり進路の話を振られて僕は箸を止めた。確かにいつかは決めないといけないことだけど、高二の二学期で聞くのは早すぎるんじゃないのかな。


 さすがに父さんも意外だったらしく、食べるのを中断して母さんへと顔を向けた。


 とりあえず素直に返答して様子を見ることにする。


「まだ何も考えていないよ。普通は高三になってから考えるものじゃないの?」


「そうだけど、来年になったからってそう簡単に思いつくものでもないでしょう?」


 将来やりたいことが決まっていない限り、そんなに都合良く進路なんて決められるものじゃない。だから、今からもう考えておくようにということならまだわかる。たぶん母さんが言いたいのはこういうことなんだろう。


「今から考えておくようにっていうことなら、わかったよ」


「ならいいんだけど。こういうことって、早く決めておいた方がいいからね」


「父さんとしては、大学に行ってどこかに就職してくれるのが一番だな。やりたいことが決まってるっていうんなら、その限りじゃないが」


 良い機会とばかりに父さんが自分の要望を伝えてきた。


 でもそうなると、僕の学力でどの大学にいけるのかということが問題になってくる。ソムニに相談したらすぐに返答はもらえるんだろうけど、今ほしいのはその答えじゃない。


 僕が黙っていると父さんがしゃべり続ける。


「何にせよ、将来の選択肢を広げるためにも勉強はしておくべきだな。大学に行くにせよ資格を取るにせよ、できて困ることはないからね」


「そうよね。だから優太にはもっと勉強してもらわないと」


 親二人から見つめられた僕は居心地が悪くなった。夕飯を再開して皿うどんと八宝菜をかき込むと台所をすぐに出る。


 風呂に入ってさっぱりしてからまた自室に戻るとベッドに寝そべった。


 最後は勉強の話になったのは嫌だったけど、進路については少し思うところはある。将来何をしたいのかと尋ねられても今の僕は答えられない。半年後もこのままだったとしたら、そのとき僕はどうしたら良いのだろう。


 目の前に姿を現した半透明の妖精が僕に声をかけてくる。


「随分と悩んでるわね」


「今すぐ答えが出ないことはわかってるんだけど、どうにも不安になっちゃって」


「最悪ハンターになっちゃえばいいとは思うんだけどねー」


「それじゃ駄目だから悩んでるんじゃないか」


 春に親からハンターに対する否定的な意見を聞いた僕は、それだけにハンターの道を簡単には選べなかった。このままの調子で成長できればハンターで生活していけそうに思えるんだけど、今の僕じゃ両親を説得することは難しい。


 そもそも、ソムニがいつまで僕と一緒にいてくれるのかがわからないのも問題だ。この不安要素もハンターを将来の選択肢として選びきれない理由の一つなんだよね。


 色々と考えて黙り込んでいるとパソウェアの通話機能のアイコンが目の前に表示された。荒神(あらがみ)さんからだ。体を起こして通話を始める。


大心地(おごろち)、今いいか?」


「こんばんは、構わないですよ」


 バストアップ表示された荒神さんが話しかけてきた。


 内心で首をかしげながらも僕は尋ねてみる。


「どうしました?」


「特にこれと言った用があるわけじゃないんだ。八王子魔窟(ダンジョン)の一番奥までお前さんが行ったって話を聞いたんでな」


「聞いた? 誰にです?」


「源爺だよ。あの爺さんにしゃべったろ?」


 夏休みの終わりに八千代へ行ったことを思いだした僕は納得した。荒神さんにはいずれ話すつもりだったから構わないか。


「確かに横田さんには話しました。これからもたくさん買ってくれって言われましたよ」


「爺さんらしいな。ところで、誰と潜ったんだ?」


「ミーニアさんと二人でです。半分おんぶに抱っこだったんで、踏破っていってもあんまり威張れないですけど」


「どんな手段を使ってもできたんなら自分の手柄だよ。そこは素直に胸を張っとけ」


「ありがとうございます」


「しかし、あの魔窟(ダンジョン)を踏破できる実力があるんだな。大したもんだ」


 胸を張れと言われた手前黙っているけど、荒神さんの褒め言葉はどうにも僕にはむず痒かった。この言葉を素直に受け入れられるようになるにはどのくらい成長したら良いのかと思いを馳せる。正直なところ、そんな日が来るなんて想像できない。


 続けて荒神さんが僕に話す。


「お前さんがハンターだったら指名依頼が来ててもおかしくないな」


「横田さんにも言われましたよ。でも、ジュニアハンターだから期待はできないって」


「基本的にあんまり危険な依頼はジュニアハンターに出せないからな」


「基本的にってことは例外もあるんですか?」


「ジュニアハンター単独では無理だが、ハンターと組んでなら不可能じゃない。ただし、どちらも相応の実績がないとダメだ」


”ハンターはジュニアハンターをサポートする必要があるから、相応の実力が必要とされるのよ。ジュニアハンターと組むことって、実はハンターにとってちょっと面倒なことなのよね”


 頭の中でソムニの解説を聞きながら僕はうなずいた。なるほど、自分だけの問題じゃないんだ。


「そうなると、僕はミーニアさん次第で指名依頼を受ける可能性があるわけですか?」


「そうか、あいつも指名依頼されておかしくない実績があるよな。そうなると、意外に指名依頼を引き受ける可能性はあるわけか」


 指名されるのが僕なのかミーニアさんなのかはわからないけど、一応指名依頼自体をする可能性はあるらしかった。


 驚く僕に荒神さんが軽い調子で伝えてくる。


「もしかしたら、今後お前さん達に俺から何か頼むかもしれないな」


「何かあるんですか?」


「今は具体的な何かはない。けどよ、お前さんにある程度の実力があるんなら、ミーニアに仕事を頼みやすいだろう?」


「なるほど、ペアを組んでる僕が足手まといにならないと仕事を頼みやすいんだ」


「そういうことだ。だからペアやチームを組むときは、大体似たような実力のハンターが集まりやすいんだよ」


 今まで気付かなかったことを知って僕は驚いた。幸い、ミーニアさんはハンター稼業で生計を立てていないらしいから影響は小さい。けど、普通のハンターだったら僕みたいなジュニアハンターとは組みたくないということを改めて思い知る。


 その後、何でもない話をしばらくしてから荒神さんとの話は終わった。ほぼ雑談だったけど、今後活動をする上で大切なことを聞けたのは収穫だ。


 僕は通話を切ると満足してごろんとベッドに寝そべった。

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