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夏休み明けの話題

 二学期が始まった。残暑がまだ厳しいから休み明けということもあってみんなの顔には締まりがない。始業式が金曜日ですぐに週末に入ったことも休みぼけが治らない一因だ。


 九月も四日が経過すると本格的に授業が始まる。いきなりなんてという生徒は多いけど、これは学校だからもう諦めるしかない。


 授業中、僕は眠くて仕方がなかった。いつものことと言ってしまえばそれまでなんだけど、実のところ登校する前から疲れ果てていたりする。


 理由は、ソムニ謹製の新たなスケジュールに沿った生活が始まったからだ。平日は寝起きの筋トレから始まり、夕方は格闘術と剣術の訓練が日替わりで実施される。週末は午前中は勉強で午後からはやっぱり格闘術と剣術の訓練だ。銃がない当面はこの生活が続く。


 この生活が九月から始まったから僕の体は悲鳴を上げているんだ。


 まぶたが重く感じられるようになり、意識が遠のきそうになった。すると、体に軽い電流が流れて目が冴える。


「っ!?」


”目は覚めた? 眠たくなったらまたいつでも起こしてあげるわよ”


 かろうじて周囲に気取られない範囲で驚いた僕は何度か瞬きをして渋い顔をした。そう、今学期からは授業中に眠ろうとするとソムニが起こしてくれるようになったんだ。復習の効率が落ちないようにするためにね。余計なことをと思わないでもない。


 中空投影型電子黒板(エレクトロボード)に表示されている内容を見ながら僕はソムニに言い返す。


”もうちょっと優しい起こし方はできないの?”


”これでも充分優しくしてるわよ。それとも、脳みそいじって眠たくならないようにした方がいい?”


”ひどいなぁ”


”これでもかなり配慮してあげてるんだから。ズィルバーが剣を作ってくれているんだし、優太も頑張らないといけないでしょ”


”それを言われるとつらいなぁ”


 夏休み最終日の夕方のことを僕は思い返した。突然パソウェアで通話をかけられて出ると、新しい剣を作るから意見を聞かせろと言われたんだ。結局、翌日始業式が終わって昼からツァオバーハンマーに出向いて色々と話をしたんだよね。


”それにしてもミーニアさん、思い切ったことをしたよなぁ”


魔銀(ミスリル)神鉄鋼(オリハルコン)をふんだんに使って作るなんて贅沢よね~”


”僕はその期待が重いよ”


 よっぽど故郷に帰りたいんだろうなと僕は想像した。厳密には期待されているのはソムニなんだけど、僕を起点にしている以上は僕の能力を基準に考えないといけないんだよなぁ。ミーニアさんも大変だと思う。


 ソムニの痺れる支援もあって僕はどうにか午前中の授業をやり過ごすことができた。そして、昼休みを告げるチャイムを耳にしてすっかり椅子にもたれかかる。


「やっと半日が過ぎた」


大心地(おごろち)くん! お疲れのところ悪いけどいいかな?」


 目をつむってすぐに僕は声をかけられた。振り向くと大海(おおうみ)さんが笑顔を向けてくれている。一瞬どうしてと首をかしげたけどすぐに思い出した。始業式のときに約束したんだっけ。


「思い出した。ちょっと待って。お弁当出すから」


「わたしも自分の取ってくるね。それじゃ廊下で待ってるよ!」


 やたらと元気な声で大海さんはそう言い残すと自分の席に戻っていった。


 鞄からお弁当を取り出してペットボトルと一緒に持ち出した僕は、廊下で大海さんと合流する。向かう場所は前と同じ北校舎の屋上だ。


 今回は木岡(きおか)さんを交えてお互いに夏休みの出来事を話すことになっている。始業式の日に大海さんに捕まって約束したんだ。


 北校舎の屋上には既に何人もの生徒がいた。今日は曇っていて日差しが強くないからね。その中に木岡さんもいる。四人掛けのテーブルの一角に座っていた。


 僕達が近づくと木岡さんが気付いて手を上げてくる。


「こっちだ。大心地、久しぶりだな」


「はい、お久しぶりです」


 木岡さんの対面に僕が座ると大海さんは木岡さんの隣に座った。既にパンを食べている木岡さんに倣って僕達も弁当箱を開ける。


 弁当箱の蓋をとりあえず開けてから僕は木岡さんを見た。まだパンを噛んでいるところなので先に話しかけることにする。


「ウルフハウンズ公式のアカウントを見てましたけど、夏休みの間はずっとアメリカにいたんですね」


「そうなんだ。魔窟探索(ダンジョンアタック)もだけど、アメリカ人とのやりとりも慣れるまでは大変だったよ。ノリや考え方が僕達日本人とは違ったからね」


 そこから木岡さんと大海さんのアメリカ遠征体験の話が始まった。SNSで公開していないことも話してもらえて僕は楽しく聞く。


 どちらの話も面白かったけど、木岡さんは自分達と外国人の違いについて話すことが多かったのに対して、大海さんは魔窟探索(ダンジョンアタック)の大変さを中心に話してくれた。


 肝心の成果だけど、あまり良くはなかったらしい。大海さん達が魔窟(ダンジョン)に不慣れだったのとアメリカチームとの連携が中盤まで良くなかったのが原因だそうだ。


 語り終えると大海さんが僕に話しかけてくる。


「大心地くんはどうだったの? 八王子の魔窟(ダンジョン)に潜ったんだよね」


「うん。ペアを組んでるハンターさんの提案だったんだけど、最後は一番奥の魔力が吹き出ているところまで行けたんだ」


「え、一番奥? あの魔力噴出(マナバースト)の起きたところ?」


「いや待て。八王子の所はまだ魔力の噴出が強いと聞いているぞ。精神と肉体に異常が起きなかったのか?」


 最初に大海さん、次いで木岡さんが相次いで目を剥いて質問してきた。


 頭では危険だとわかっていた僕も実のところ具体的な怖さはわかっていなかったし、今もよくわかっていない。だから二人から勢いよく食いつかれてもあまりそのすごさがわからなかった。


 若干後ろに体を引いた僕が言葉を返す。


「実のところ、ハンターさんにおんぶに抱っこという側面が強いんですよ。魔力の影響は魔法で防いでもらったので、どうして平気なのかは僕もよくわかっていないですし」


「魔法か。魔力に強い特別な体質なのかと一瞬思ったが、違ったんだな」


「それにしてもすごいじゃない、大心地くん! 最下層まで二人で行ったんでしょう?」


「ペアだから二人か。大心地、他には同行者はいなかったのか?」


「はい、二人で行きました」


 断言すると二人とも唸って黙り込んだ。


 そこから僕は八王子魔窟(ダンジョン)の顛末を語り始めた。ソムニの話を除いてミーニアさんと二人で最奥部まで行ったというように話をまとめる。話しているとミーニアさんのすごさばかりが強調されてしまうけど、もうこれは仕方ないだろう。


 途中二人からの質問に答えつつも夏休み最後までの経緯を僕は話しきった。昼休み終了まで残り九分、お弁当はまだ食べ切れていない。


「いやすごいね、大心地くん。そのミーニアっていう人の魔法もすごいんだろうけど、普通はそんなに的確には戦えないよ」


「そうだな。聞いていると弾の消費がずっと少ないように思える。効率的に戦えている証拠だろう」


「ずっと前にちょっとだけ一緒に射撃訓練をしたときは、かなり命中させてたよ?」


「なるほど、銃の命中率はいいのか」


「うーん、わたしは一度大心地くんと一緒に戦って見たいなぁ」


「俺も実際にどんな戦い方をするのか見てみたいな」


 上手な人と自分を比べたことがないから僕は何とも言いようがなかった。後でソムニに聞いてみるとしよう。


 そのとき、予鈴のチャイムが鳴った。そこで僕はお弁当をまだ全部食べていないことに気付く。話はそこで中断して僕は急いで残りをかき込んだ。


 僕の急ぎっぷりを見て大海さんと木岡さんが苦笑いしている。そんな二人を尻目に僕は急いで弁当箱を片付けた。

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