表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/142

次に向けての準備

 本館を出た僕は一旦自動車に戻った。そして、助手席から小銃と大型拳銃が入った袋を取り出す。


 昼下がりの日差しに晒された体が徐々に熱くなっていく中、僕は射撃場の隣にあるラッキーガンズへと向かった。店内は本館のように涼しい。


 往来するお客を避けながら受付カウンターに行くと、僕は店員にジャックさんを呼んでもらった。しばらくすると、オレンジ色の汚れの目立つつなぎを来た黒人がやって来る。


「久しぶりじゃないか。夏休み中に一度くらいはやって来ると思っていたのに」


「ちょっと別の所に遠征してたんです。昨日帰ってきたばかりで」


「夏休み中かい? そりゃまた大した冒険をしてたんだな! で、何の用だい?」


「この二つの分解整備をお願いしたいんです」


 話をしながら僕は受付カウンターの上に置いた袋から小銃と大型拳銃を取り出した。


 小銃を手に取ったジャックさんがいろんな角度から眺める。


「確か三ヵ月くらい前にやったっけ? 結構使ったの?」


「何百発か撃ちました。練習も合わせると、小銃が六百発以上、拳銃が二百発以上です」


「どこか調子がおかしいと思うところはある?」


「今のところはありません。ただ、魔窟(ダンジョン)で無茶な使い方をしたかもしれないんで、どこか痛めていないか不安なんです」


「なるほどね。わかった。それじゃ整備しておくよ」


 問題なさそうな感じで引き受けてもらえたので僕は安心した。なので、空になった袋を手にして気になったことを尋ねる。


「ありがとうございます。それで、いつ頃引き取りに来たら良いですか?」


「実は十日くらいかかりそうなんだよね。最近、店全体で整備の依頼が増えてるんだ」


「何かあったんですか?」


「夏休みが終わって銃を持ち込んでくるジュニアハンターが増えてるのさ。無茶な使い方をするヤツも結構いるしね」


 自分も同類ではないかと思った僕は表情が少し凍り付いた。正にその理由で持ち込んだからね。


 そんな僕を見たジャックさんは笑いながら言葉を続ける。


「キミのは大丈夫そうだから心配いらないよ。本当にひどいのは破損してるから」


「激戦だったのかな?」


「たぶん本人にとってはね。ともかく、これに関しては九月九日以降に取りに来てくれ」


「わかりました。お願いします」


 ジャックさんの言葉に安心した僕は自分の銃器類を預けてラッキーガンズを後にした。


 次に向かったのは門前町にある八千代だ。寂れた店のような外見の正面から中に入る。


 話し声が聞こえるかと思ったら、珍しく横田さんがお客の相手をしていた。


 僕は邪魔にならないよう棚を順に見ていく。品物がは雑多に物が積み上げられているせいで実に探しにくい。


 棚を一巡して全然見つけられなかったことに内心焦っている僕に横田さんが話しかけてくる。


「よう、坊主。何を探してるんだ?」


「ブーツと寝袋ですけど、さっきのお客さんはもう良いんですか?」


「構わねぇよ。で、ブーツと寝袋か。もうちょい詳しく言ってくれ」


 自分の要望を僕が伝えると、横田さんは迷わず棚の一角に向かって最初にブーツを、次いで寝袋を探し出してくれた。おかしいな、そこは一度見たはずなのに。


 悔しさと理不尽さを感じつつも僕は品物を受け取った。そして代金を支払う。


「まいどありっと。そういやお前さん、しばらく見かけなかったな。夏休みの間は遊んでたのか?」


「八王子の魔窟(ダンジョン)に行ってました」


「ほう。あそこは結構大変だって聞いていたけどな。まさか一人で行ったのか?」


「さすがにそれは。実は二ヵ月ほど前からペアを組んでて、その人と行ってきたんです」


「へぇ、そりゃ良かったな。気の合う(もん)同士なら、楽しく活動できそうじゃねぇか」


「実はハンターなんですよ、その人」


「なにぃ?」


 少し驚いた様子の横田さんがじっと僕の顔を見つめた。そして、少し眉をひそめる。


「相手は生活がかかってんじゃねぇのか?」


「これ言って良いのかな。えっとですね、その人は生活費は別で稼いでいるそうです」


「ああ、兼業ハンターか。なるほどな。それならまだわかる」


 話を聞いた横田さんが大きくうなずいた。本当に正しく伝わったのかは疑問だけど、具体的に話をしないのならばこれが限界だ。


 そして、話はまた魔窟(ダンジョン)へと戻る。


「それにしても、坊主が八王子の魔窟(ダンジョン)に挑戦したとはなぁ。春先に刀がねぇって泣き付いてきてから半年もしねぇうちに、立派になったもんだなぁ」


「ははは、もうそんなに経つんですね」


 何となく居心地が悪くなった僕は笑ってごまかした。今から思うと訓練生卒業試験であれだけ引っかかっていたのが不思議なくらいだけど、当時は必死だったんだ。


 そんな僕に対して横田さんが尋ねてくる。


「で、どうっだったんだ?」


「出費は結構な額になりましたけど、それ以上に稼げましたよ」


「そりゃ良かった! ならこれからもどんどん買ってくれよな!」


「欲しいものがあればですけどね」


「なーに、欲しいものなんざ後からいくらでも湧いてくるもんだ」


 僕の報告を横田さんは喜んでくれた。こうやって褒めてもらうと僕も嬉しい。


 あと一つまだ話していないことがあるのでそれも話す。


「それともう一つ、実は八王子の魔窟(ダンジョン)を踏破したんです。一番奥まで行って来たんですよ」


「儂はハンターじゃねぇからピンと来ねぇな。とりあえず、おめでとうと言っておこうか」


「ありがとうございます」


「ただ、確かにそれがすごいってことは知ってるんだ。あれだろ、第二職安に証拠を持っていったら賞金が出るんじゃなかったか?」


「賞金は出ないですけど、登録証(ステータス)の特記事項に記録してもらえました」


「ありゃ、賞金は出ねぇか。けど、特記事項に記入ってのはなかなかのモンじゃねぇのか」


「どうなんでしょうね」


 実際のところは僕もよくわからない。今は単に項目に何か記載されたということで喜んでいるだけだった。


 首をひねった僕に横田さんが更にしゃべる。


「もしかしたら、これから指名依頼が増えるかもしれねぇな」


「指名依頼、ですか?」


「そうだ。今までは自分が仕事を選んでたんだろうが、逆に誰かから選ばれるってぇことだ。危険もあるが、報酬もいいぞ」


 まるで売れ筋の商品を勧めるかのような口調で横田さんが報酬について強調した。僕としては危険の方に目が行くなぁ。


 少し気になった僕はソムニに聞いて見る。


”ソムニ、特記事項に何か書かれたら指名依頼が来るものなの?”


”指名依頼をされる条件は特記事項だけじゃないわよ。他にも実績とか性格とか色々チェック項目はあるの。ただ、特記事項が判断基準の一つなのは確かね”


”僕って指名依頼される可能性はある?”


”ゼロじゃないわね。ただ、限りなくゼロには近いけど”


”なんかよくわからない言い方じゃないか”


”ハンターに比べてジュニアハンターは半人前扱いなんだから、よっぽどの実績がないと指名なんてされないってことよ”


 説明を聞いて僕は喜ばしいようながっかりしたような複雑な思いを抱いた。


 僕が黙っていると横田さんが更に話しかけてくる。


「とはいっても、お前さんはジュニアハンターだったな。あーすまん、変な期待をさせちまったかもしれん。今の話は忘れてくれ」


 どうやら横田さんも話している途中でソムニと同じ結論に達したようだった。苦い顔をして僕に謝ってくる。


 ただ、ミーニアさんになら指名依頼は来ていてもおかしくはない。もしかしたらそれを一緒にやる可能性はある。それとも、一人でやってしまうんだろうか。


 その辺りのことを気にしながら僕はいつまでも考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ