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踏破した証

 八王子魔窟(ダンジョン)の最奥部に到達した僕達は目的を達成したので地上へと戻った。予定よりも一日早い帰還だ。


 すっかり疲れていた僕は入浴して遅めの夕飯を食べるとすぐに寝た。


 翌日、午前中に素材の換金を済ませるとあの中華料理店へと向かう。僕が麻婆豆腐と炒飯を、ミーニアさんが回鍋肉定食を注文するとまず水を飲んで一息ついた。


 最初に言葉を漏らしたのは僕の方だ。ため息を吐き出すかのようにしゃべる。


「やっと終わりましたねぇ。もう魔窟(ダンジョン)はしばらくいいや」


「予想以上の働きをしてくれて、わたくしも嬉しいです。優太はこれから学校が始まりますのでジュニアハンターの活動が制限されますが、わたくしの目的はわたくし自身で調べますのでお気になさらず」


「わかりました。でもそうなると、週末に受ける依頼ってどうしよう? たぶん、ジュニアハンターレベルの依頼しか受けられないんですけど」


「優太が好きに選んでくれて構いません。以前も伝えましたが、わたくしはハンター業で生活費を稼ぐ必要はありませんから」


 指摘されてから僕も言われたことを思い出した。ミーニアさんがそう言ってくれるのなら気兼ねしなくて済む。


 ここで注文していた料理が運ばれてきた。目の前に置かれた麻婆豆腐と炒飯の良い香りがお腹を鳴らす。まずは昼ご飯を食べることにした。


 その合間を縫ってソムニがミーニアさんに話しかけてくる。


”でも、あの吹き上がる魔力で足りないんだったら、ミーニアの帰還に必要な魔力量ってどのくらいなのよ?”


「大規模な魔力噴出(マナバースト)で、なおかつ発生直後が望ましくなります」


”それって色々問題あるけど、一番の問題って都合良くそんなものが身近で起きてくれないと間に合わないってことよね”


 麻婆豆腐を食べながら僕はソムニの指摘で気付いた。膨大な魔力の影響で現れる魔物のことに気を取られていたけど、そもそもその吹き上がる魔力量が維持されている間に現地へと行かなければならない。


 でも、そんな都合良く魔力噴出(マナバースト)は近くで起きてくれないし、起きたとしても僕達が到達する前に弱まる可能性だってある。


 気になった僕はミーニアさんに目を向けた。対策はあるんだろうか。


「実は魔力噴出(マナバースト)を検知できる魔法は既にあります。ただ、発生してからでは遅いので、今は予知できないか探っているところなのです」


”あんなの予知できるの?”


「ソムニが魔物を早い段階で察知できるように、何らかの前兆があるはずなのです。ですから、ここ数年は魔力の変化をどう捉えれば良いのか模索しています」


”ああなるほど、アタシと似た感じで察知するわけね”


 話を聞いていた僕に疑問が一つ浮かんだ。食べるのを止めて口を挟む。


「ソムニは魔力噴出(マナバースト)を予知できないの?」


”できないわよ。アタシの感知範囲は何百キロもないもん。よっぽど近づいたら異変くらいは感じ取れるかもしれないけど”


「あなたに助言を求めるかもしれませんが、わたくしが魔力噴出(マナバースト)の予知魔法を構築しますのでお気になさらず」


”はいはーい”


 軽い感じで始まった真面目な話は、最後軽い返事で終わった。


 気になっていた料理を食べ終わった後、僕達は店を出る。夏の盛りはもう過ぎたから以前より暑さはましになった。


 後は旅館に戻るだけだった僕達だけど、最初の一歩を踏み出してあまり会いたくない四人組に出会う。


「うわ、またお前かよ」


 住崎来んのつぶやきに僕は眉をひそめた。気持ちはわかる。僕も同じだ。中尾くんは微妙な表情をしていた。


 一方、思田(おもいだ)さんはミーニアさんを見て鼻の下を伸ばしていて、夢野さんはこちらを警戒している目つきだ。


 話をしても気分が悪くなる可能性が高いから僕はそのまま脇を通り過ぎようとした。けど、思田さんがミーニアさんに声をかけてくる。


「ミーニアさん、お久しぶりです! 前はありがとうございました!」


「前とは?」


魔窟(ダンジョン)内で会ったときのことですよ! 倒した魔物の取り分を取り決めたじゃないですか」


「お気になさらず。大したことではありませんので」


「いやぁ、太っ腹っすねぇ!」


 夢野さんの機嫌なんてお構いなしに思田さんはミーニアとしゃべり始めた。


 一方、手持ち無沙汰になった僕には中尾くんが話しかけてくる。


大心地(おごろち)、お前はいつまでここにいるつもりなんだ?」


「朝の間に用事は全部済ませたから、この後ここを離れるつもりだよ。中尾くん達は?」


「明日もう一回潜って明後日帰る予定だ」


「本当にぎりぎりまでやるんだね」


「こういう機会は滅多にないからな。それに今までとは稼げる額も違うし、やれるだけやっておきたいんだ」


 目的は人それぞれなんだし、中尾くん達の考えに言いたいことは特になかった。僕達が今日帰るのはたまたま一日早く目的を達成できたっていうだけだしね。


 そうやって話をしていると、突然夢野さんが叫んだから僕と住崎くん達もそちらへと顔を向ける。


「嘘よ! 魔窟(ダンジョン)の一番奥なんてそんな簡単に行けるわけないじゃない! ちょっといいように見られたいからって見栄を張るなんて!」


「なぜあなた達に見栄を張らないといけないのですか」


「夢野、ちょっと落ち着けって!」


「落ち着けって何よ! あたし達バカにされてんのよ!? 上位層止まりだって!」


 どうも僕達が魔窟(ダンジョン)の最奥部へ到達したことを夢野さんが信じられないらしかった。一方、ミーニアさんは少し困惑した様子だ。


 一気に険悪になった向こう側を気にしていた僕だったけど、今度は住崎くんが少し睨んでくる。


「お前本当に魔窟(ダンジョン)の一番奥まで行ったのかよ?」


「うん」


「証拠はあんのか?」


「そこで採れるものを少し採ってきた。魔力の塊だそうで、青白いんだ」


「見せて見ろよ」


「今手元にはないよ。これから帰って第二職安に提出するんだ。そこなら鑑定できるし、ちゃんと到達したって認定してもらえるらしいから」


「なんで春休みまで訓練生だったやつがそんなことできるんだよ!」


 僕の話を聞いた住崎くんは舌打ちして横を向いた。


 実のところ半分くらいは住崎来んの主張に僕も納得している。ソムニがいてミーニアさんも途中から加わってくれたからこそこの結果を出せたと思う。


 でも、その中で僕だって成長できるよう努力してきたんだ。一方的に馬鹿にされる謂われはない。


 何か言い返そうと僕は口を開きかけた。けど、声を上げる前にミーニアさんから呼びかけられる。


「優太、行きましょう。ここで話をしていても意味はありません」


「いやホントすいません!」


「なんであんたが謝ってんのよ! そんな嘘つき女、放っておけばいいじゃない!」


 どうやらあちらは話が終わったようだ。ミーニアさんがさっさと歩いて行く。それを見て僕も住崎くんと中尾くんに別れを告げると急いで後を追った。


 小走りで追いついてから僕はミーニアさんに話しかける。


「珍しいですね、こんな形で話を切り上げるなんて」


「一方的に嫌われているだけでなく、こちらの話を言下に否定されてばかりで話にならなかったのです。こうなりますと、あの魔力の塊を持ち帰ったのは正解でしたね」


「第二職安が認定してくれたら誰も文句言えないですしね」


「はい。他者に認めてもらう必要はありませんが、ああもうるさく否定されるのも不愉快です」


 さすがにあれだけ難癖をつけられるとミーニアさんでも機嫌が悪くなるようだ。僕も似たようなことを住崎くんに言われたから気持ちはわかる。


 こうなれば早く帰って、第二公共職業安定所にあの塊を提出して魔窟(ダンジョン)踏破を認めてもらいたい。


 僕達は足早に旅館へと戻った。

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