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魔力の風

 八王子魔窟(ダンジョン)の下位層は当初考えていた以上に近接戦闘が多いことがわかった。けど、やることは基本的に中位層以上とは変わらない。距離が離れているうちに銃撃し、魔物が近づいて来たら抜刀して戦う。


 厄介なのは、物理攻撃が無効だったり効きにくかったりする点だ。今の僕の装備だと物理攻撃が無効な魔物だとミーニアさんの付与魔法が必要になる。


 だから今長柄の戦斧を持って迫ってくる牛頭人(ミノタウロス)は物理攻撃が通じるだけまだましだ。一発、二発、三発と体に打ち込まれる度に赤い穴が穿たれるのが見える。


「ブモオオォォォ!」


 今までの魔物なら大抵一発で倒せていたのに牛頭人(ミノタウロス)は三発受けてもまだ突進してくる。何て言う耐久力だ!


 地面が若干響いているような気すらした僕は、距離が近くなったから小銃を手放して対魔物用大型鉈を鞘から抜き出した。同時にミーニアさんの付与魔法が刀身を光らせる。


 最後に大きく一歩踏み込んでためらいなく戦斧を叩き込んできた牛頭人(ミノタウロス)の攻撃を横に跳んで避けた。


 床に戦斧が叩き付けられた音を聞きながら僕は一回転して起き上がる。いつもならそこで銃を構えるんだけど今回は牛頭人(ミノタウロス)に向かって前に出た。引き上げようとするその右腕に僕は対魔物用大型鉈を叩き込む。


「ブルアァアァァ!」


 腕を半ばまで切断させた牛頭人(ミノタウロス)が、咆吼しながら左腕一本で戦斧を振り上げた。痛みで片膝を着いたり間を空けたりすることがなくて驚く。


 最低限攻撃は中断されると思っていた僕は慌てて退いた。痛覚はあるようだけど耐久力が半端ではない。


 そのとき、横合いから氷の円盤が高速回転しながら牛頭人(ミノタウロス)の左腕を切断した。よだれを垂らしながら牛頭人(ミノタウロス)は叫んで身もだえる。


 僕は次いで足を切りつけて動けなくしてからとどめを刺した。


 床一面に広がる牛頭人(ミノタウロス)の血を見てからミーニアさんに声をかける。


「助かりました。あいつしぶとかったですね」


「体力と腕力が取り柄の魔物ですが、今の優太には確かに少しつらかったもしれません」


”これからも要修行ね。道場での訓練もこの経験を活かして微調整していくわよ”


 つまり、これからも厳しくしごかれるわけだ。少しだけ気が重たくなる。


 こうして魔物と戦いながら僕達は下位層の探索を再開した。最奥の場所を目指して歩く。


 今回は寄り道なしでこの魔窟(ダンジョン)魔力噴出(マナバースト)の会った場所を目指しているけど、たまに回り道をしてしまうことがある。


 下位層も当然いくつも通路が分岐しているんだけど、輪になっているところが多いんだ。引っかかると長時間掛けて一周し、元の場所に戻ってくることになる。


「はぁ、またかぁ」


「こちら側は間違いのようでしたね。次はあちらに行ってみましょう」


”んー、やっぱり風の強い方から行った方がいいんじゃない?”


 この生ぬるい風から魔力を感じるソムニにも協力してもらっているけど、魔力の濃度が同じくらいだと当てにならないことがすぐにわかった。たまに全然わからなくなるときがあるらしいのが盲点だ。


 そうやって迷いながらも最初の三日間の探索が終わった。一旦地上に出る。久しぶりに見た地上は別世界に感じられた。そして、休息、換金、準備ともはや慣れた感覚でこなしていく。パソウェアのカレンダーを見ると二学期の始業式までもう十日もない。


 休息日の翌日、最後の探索に出発した。泣いても笑ってもこの夏休みではこれが最後だ。


 魔窟(ダンジョン)内を歩きながら僕はつぶやく。


「過ぎてみればあっという間だったなぁ」


”その感想は早いわよ。まだこれから潜るんだから”


「わかってるんだけどね。これが最後だと思うとなんかそう思えて」


 苦笑いしながら僕はソムニの忠告を受け流した。


 前回同様一日かけて下位層の手前までやって来て一泊する。そして翌日前回の最奥地点まで進んだ。


 湿った場所にいた巨大蛭(ジャイアントリーチ)の集団、パワーごり押しの牛頭人(ミノタウロス)、それに銃が通用しづらい活動屍(ゾンビ)活動骨(スケルトン)は相変わらず厄介だった。


 幽霊(ゴースト)なんていう非物理的存在な魔物をミーニアさんが倒した後、僕はソムニから話しかけられる。


”優太、体調はどう? 悪くない?”


「何ともないよ。何かあったの?」


”この辺りから魔力の濃度が随分と上がったからよ。二日酔いみたいになったり倒れたりすることもあるからね、このくらいだと”


「そんなこと言われると怖いな。でもそうなるとなんで僕は平気なの?」


”前にも言ったけど、アタシが魔力量を調整してるからよ。ミーニアは平気?”


「はい。この程度なら問題ありません。それで、奥には近いのでしょうか?」


”発生源の魔力量がどの程度かわからないから断言できないわね。近づいているのは確実なんでしょうけど”


 下位層に潜って一日目の探索が終わる頃にソムニが現状をそう評した。どんどん下に下りて行っているんだから、そりゃ近づいているはずだよね。


 そして二日目、最奥部は意外に遠くなかったことがわかった。


 明らかに風の勢いが強くなっていく通路を進むと通路も次第に大きくなっていく。その先にあったのは、以前の魔窟(ダンジョン)で見た光景を何倍にも大きくしたものだ。


 半球状の洞穴(どうけつ)、というよりもドームは青白くきれいに輝いていた。ちょうど氷で作ったかまくらのように見える。そして、ドームの床をほぼ一直線に切り裂くような大きな裂け目が延びていて、そこから強烈な風が吹き出していた。


 もはや常に突風に(さら)されているような状態で目を開けているのも厳しい。それでもどうにかドーム内部を見渡す。


「随分と広いね!」


”直径が三百メートルくらいね。んー、結構な魔力がだだ漏れじゃない。そりゃ魔物が尽きないわけだわ”


「この青白いのは?」


”たぶん、強い魔力に曝され続けた岩の表面が変質したんだと思う。魔力を込めた宝石、魔石みたいなものよ”


「これ高く売れるかなぁ?」


”どーなんでしょ? ミーニアに聞いてみたら?”


 その存在を思い出した僕はミーニアの方へと顔を向けた。すると、眉をひそめて裂け目の方をじっと見つめている。そう言えば、この吹き出す魔力を見るのが目的なんだっけ。


 なんとなく声をかけづらかった僕は再びソムニへと話しかける。


「何やってるんだろう?」


”だから話しかけなさいよ。もーしょうがないわねぇ。ミーニア、今いい?”


「はい? ああ、ごめんなさい。構いませんよ」


”ほら優太、いいって!”


「あの、目的って達成できました?」


”アンタ、さっきの聞きたいことと違うじゃない”


 呆れたかのようなソムニの声が聞こえたけど僕はとりあえず無視した。


 僕達のやり取りを見ていたミーニアさんは苦笑いしながら答えてくれる。


「ええ、知りたいことは大体わかりました。細かいことはソムニに確認することになるでしょうけど。それで、さっきの質問とは何ですか?」


「大したことじゃないです。この周りにある青白いのは高く売れるのかなって」


「残念ですが売れないですね。高純度の魔力の塊ですが、ここから持ち出すと数日で溶けて消えてしまいますから」


「雪みたいなんですね」


「はい。でも、ここにたどり着いたという証拠として一部を持ち帰りましょう。第二公共職業安定所に提出すれば、この魔窟(ダンジョン)を踏破したという証明になりますよ」


 後で聞いた話によると、吹き出す場所によって指紋みたいに微妙に違うものらしい。だからどの魔窟(ダンジョン)でも最奥部にたどり着いたときはこの魔石もどきを持って帰るものだと後で聞いた。


 勧められた僕は脆そうで手頃なところを削り取って袋に入れる。


 こうして僕達はどうにか夏休みが終わる前に八王子魔窟(ダンジョン)の最奥部を踏破できた。

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