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ひどい逆恨み

 肩から血を流す男を背にした僕が目を向けると、金田は憎々しげに睨んできた。自分から試そうと言って背後から仲間に撃たせようとしておいてひどいと思う。


 けど、その不満はとりあえず横に置いて言うべきことがある。


「後ろの人、早く治療した方がいいんじゃないですか?」


「お前自分でやっておいてよくもそんなことを抜かすな!?」


「試すだなんて言って先に撃とうとしたのはそっちじゃないですか。あれ、僕が撃たれてたらどうなってたんです?」


 僕の質問に金田はにらみ返してくるばかりだった。どこを撃つかにもよるけど、この状況で手加減するつもりだと言われたとしても信用できないだろうな。


 僕の隣のミーニアさんも口を開く。


「手遅れにならないうちに早く治療すべきだと、わたくしも思いますよ」


「ちっ、くそ!」


 怒りに染めた顔を僕とミーニアさんに向けていた金田は悔しそうに目を背けた。それを合図に僕達二人は歩き出す。今度は行く手を阻まれなかった。


 上位層まで上がると僕は肩の力を抜く。


「まさか撃たれるなんて思いませんでしたよ」


「わたくしも可能性は考えていました。しかし、よく避けられましたね」


「ソムニが手伝ってくれたからですよ。でなきゃ気付くことさえできませんでしたもん」


”しっかし、ミーニアが目的ってのはわかってたけど、素材回収の能力が目的だったとはねぇ。てっきり美人だからだと思ってたのに”


「それは僕も思った。普通に素材を回収するのは面倒だから、あんなことしたのかな。でも、地上に戻った後に逃げられたらどうするつもりだったんだろう?」


”脳みそを加工するなんて高度なことができる連中とも思えないし、案外何も考えていなかったんじゃないかしら”


「でもどこでミーニアさんのことを知ったんだろう?」


「優太と出会う前にもここの魔窟(ダンジョン)に入ったことがありますから、そのときにたまたま見たのかもしれませんね。特に隠していませんでしたから」


”それでこの前ミーニアを見かけて誘ったわけね”


 わからないことが多い金田のことを僕達は暇潰しの話題にしていた。けど、あくまでも推測でしかなかったから本当のところはどうなのかわからない。


 地上に戻るとその日は旅館でゆっくりと休み、翌日の昼に次の探索の準備を進める。素材の買取額が上位層に比べて一日あたり三倍になったのには驚いた。


 一日休んだ後、僕達は再び中位層に潜った。二度目だから驚きはあまりなかったけれど、それほど慣れたわけでもない。特に足の速い狂犬鬼(マッドコボルト)黒妖犬(ブラックドッグ)が複数いる集団は面倒だった。距離があっても一気に詰められてしまう。


 それでも根を上げることなく一日半の探索ができた。ソムニが上位層のものも含めてマッピングをしてくれているけど、結構歩き回ったように見える。


「これで半分くらい踏破したかなぁ」


「上位層だけでも一年間では探索しきれないと聞いたことがありますから、ごく一部だと思いますよ」


「えぇ、むちゃくちゃ広いじゃないですか」


「完全制覇が目的ではないのですから、気にしなくても良いでしょう。それより、次回からは下位層へ続く道を探しましょうか」


「もう行くんですか?」


「優太次第ですね。それでも、入口がどこかくらいは今から探しておいても悪くないでしょう。ソムニが記録してくれているので間違うこともないですし」


”えへへー、任せてよ!”


 嬉しそうに返事をするソムニの声を頭の中で聞いて僕は苦笑した。


 ともかく今回の探索はこれで終わりだ。魔窟(ダンジョン)に入って三日目に地上へと戻り始める。


 ところが、そろそろ上位層に到達しようかという頃になって、通路の正面から別のハンターチームと出くわした。しかも七人と少し人数が多い。


 更にソムニが警告してくる。


”金田とその仲間二人がいるわ。顔つきからしても危ないわね”


「ミーニアさん」


「引き返しましょう。追ってこなければ別の通路から上位層に向かえば良いです」


「もし追ってきたら戦うんですか?」


「やむを得ないでしょう」


「ハンター同士で争っても大丈夫なんですか?」


「大丈夫というよりも、魔窟(ダンジョン)内は政府の法が及びにくい場所ですから、ほとんど無法地帯なのです」


 何となく感じていたことをはっきりと言われて僕は肩を落とした。けど、のんびりとはしていられない。


 僕は近づいてくる金田達の姿を一瞥すると、ミーニアさんと一緒に踵を返して走り出した。これで追ってこないのならば僕達の思い過ごしだ。


 内心で祈りながら走っていた僕だったけど、ソムニからは残念な結果を伝えられてしまう。


”全員追ってくるわね。間違いなく狙いはアンタとミーニアね”


「七人も相手にするの!?」


”しばらく全力で走り続けて。ばらけてきたところで一人ずつ反撃しましょ”


「ミーニアさん、しばらく走り続けられますか?」


「風の魔法を使ってますので、お気遣いなく」


 便利だなぁと思いつつも僕は前を警戒した。人間の事情なんて魔物は察してくれないから、いつ現れるかなんてわからない。


 僕はもちろん、金田達も強化外骨格を身に付けているから走る速度は通常よりずっと速い。でも、強化外骨格は身体能力を倍増させるものだから、走る速度はどうしてもばらつきが現れてしまう。


 最初は固まっていた金田達はそのうち二つに分かれ、縦一列になり、更にその感覚も開いていった。


 そろそろ反撃の頃合いかなというとき、魔物の姿が見える。豚鬼祈祷師(オークシャーマン)一匹と上位豚鬼(ハイオーク)四匹の集団だ。こんなときに!


 顔をしかめつつも小銃を構えた僕は引き金を引く前にミーニアさんから声をかけられる。


「撃たないで! そのまま突き抜けますよ!」


「ええ!?」


 思わぬ提案に僕は驚いた。けど、意図はわからないまま従う。


 走りながら近づいてくる僕達に豚鬼祈祷師(オークシャーマン)達もすぐに気付いた。上位豚鬼(ハイオーク)四匹がこちらに突撃してくる。


「ブヒィィ!」


「くっ!」


 振り下ろされる棍棒を走りながら避けて上位豚鬼(ハイオーク)一匹の脇を通り抜けた。続くもう一匹の棍棒は対魔物用小型鉈で受け流してよろめきつつも何とかしのぐ。


 ミーニアさんと突破したのを横目で確認した僕は、正面の豚鬼祈祷師(オークシャーマン)が火の玉を放ってきたのを認めた。距離が近いので避けられない。


「うわっ!?」


「止まらないで!」


 火の玉に氷の玉がぶつかって爆発した爆圧を感じながらも僕は走り続けた。そして、豚鬼祈祷師(オークシャーマン)が目を見開くのを尻目にその奥へと駆け抜ける。


 何が何だかわからないままの僕だったけど、背後から怒号と戦闘音が聞こえてきてやっと意図が理解できた。なるほど、魔物を盾にしたんだ。


「優太、止まって。戻って金田達に反撃します」


「え、逃げるんじゃないんですか?」


「このまま放っておくと後日更に厄介なことになります。ここで片付けておきましょう」


 立ち止まって話を聞いた僕は微妙な表情を浮かべた。確かに生きていれば今後も厄介なことになるのは明白だ。けど、今まで人を殺すことを考えていなかった僕はそこで固まる。


 僕の様子に気付いたミーニアは首をかしげた。引き返そうとした足を止めて僕に声をかけてくる。


「どうしました?」


「あの、今から金田達を、その、殺しちゃうんですよね?」


「ええまぁ。もしかして、人は殺したことがないのですか?」


「はい」


「そういえば、あなたはジュニアハンターでしたね。無理もありません。わかりました。ここで待っていてください」


 苦笑いをしたミーニアさんが躊躇う僕に理解を示してくれた。そして一度うなずくと一人で戻っていく。


 それを僕はじっと見て見送るしかなかった。

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