評価の違い
荒神さんから説得を受けた翌日、連盟支部から僕達ジュニアハンターに招集がかかった。各学校の下校時の警備を依頼するという名目でだ。
ジュニアハンターになったときにそういうこともあると聞かされていて、実際に過去にも何度かそいうことがあったので誰も驚いていない。何度か経験した人もいるくらいだ。
学校と生徒の方も慣れたものでホームルームで連絡があってもみんな落ち着いている。魔物に襲われる不安はあっても、同時に他人事のようにしか受けとめていない。
でも、今回が初めて招集された僕の心情は違った。以前は訓練生で招集対象外だったんだ。
そして更に翌日、僕達ジュニアハンターが母校の下校時に他の生徒を警備するときがやってきた。
この日最後の授業が終わったことを知らせるチャイムが鳴ると僕はすぐに立ち上がる。
「大心地くん、後でね!」
「うん」
近くを通り過ぎようとした僕に大海さんが声をかけてくれたので短く返事をした。まだ席を立っていないことを不思議に思いつつも教室を出る。
学校の駐車場にある自動車から大袋を引っ張り出すと急いで男子更衣室に入った。学校の紺色系制服からジュニアハンターのカーキ色系に着替える。こちらの方が動きやすいんだ。
強化外骨格などを装備すると正門に向かった。対魔物用鉈だけでしか武装していないなんて久しぶりだなぁ。
正門近辺は既に下校する生徒で賑わっていた。そして、お年寄りハンターとジュニアハンターが数人正門の横に立っている。その中に住崎くんと中尾くんもいた。
二人の姿を認めた途端に僕の足は鈍る。わかっていたことだけど嫌な気持ちになった。
僕の姿を見つけた住崎くんが嫌そうな顔をする。
「おせーぞ、大心地。遅れてんじゃねぇ」
「これでも最速で来たのに」
「トロいんだよ、お前は」
いきなりの罵声に僕はかなりやる気を削がれた。それを見ていたお年寄りハンターの一人が割って入ってくる。
「まぁまぁ、放課後すぐっていうだけで時間まで指定されていないんだからいいじゃないか。それより、儂らはこれから巡回に出るから校門の警備は任せたよ」
「任せてくださいよ!」
すかさず住崎くんが元気よく答えた。それを見たお年寄りハンターの二人は苦笑いする。
ジュニアハンターの僕達も含めてみんな急遽集められたということもあって、この場で初顔合わせになった。しかもまだ遅れてくる人が何人かいる。
なので集まった人だけで先に打合せをすることになったらしい。言い方が曖昧なのはその打ち合わせが終わった直後に僕がやって来たからだ。
僕、住崎くん、中尾くんの三人を除いた人達は、二人一組で主な下校ルートを見回りに出かけた。なので正門には三人だけなんだけど実にいづらい。
見回り組がいなくなった後、僕は住崎くん達と少し離れた。それは相手も同じで、すぐに二人で雑談を始める。
「なぁ、あの砂漠地帯ってどこを探したらアイテムが見つかるんだ?」
「南西側のオアシスに近いところだ。多少確率変動があるらしいが、そのオアシスの北辺りだったぞ」
「マジか。そこ探したはずなんだけおなー」
「途中でいい加減な探し方になったんだろう?」
「う、うるせー」
今やっているゲームの攻略についての話が耳に入ってきた。僕はやっていないので何のことかわからない。
初めての招集ということで気合いを入れてやってきたけど、やっていることは立っているだけだった。それに下校する生徒は僕達にほとんど興味を持たないのですぐに慣れる。
頭の中がかなりぼんやりとしてきた頃、見知った顔の女子生徒二人が正門にやって来た。そして、その片方である飯村さんが住崎くんたちに声をかける。
「健太、なかおっち、お疲れー!」
「おー、真央じゃねぇか。今から帰んのか。いいなぁ」
「何時までそれやんの?」
「六時までなんだよ。だるいのなんの。しかもこれから毎日だぜ? 大して金にもなんねーしよー」
「うわーご愁傷様ぁ」
楽しそうに住崎くんと飯村さんがふざけ合っていた。去年一年間同じクラスだったからその仲の良さはよく知っている。
一方、村田さんは中尾くんと話をしていた。この二人は奥の方にいるから何の話をしているのかわからない。中尾くんの表情は変わらないけど、村田さんは楽しそうだ。
ある意味いつものメンバーが集まったので、僕はそっと顔を別の方に向けた。関わってもろくなことがないからこのままやり過ごしたい。
そんなことを考えていると、強化外骨格を身に付けた男女二人組が校舎から出てきた。ヘルメットのせいで一瞬誰かわからなかったけど、大海さんと木岡さんだ。
正門までやってくると大海さんが声をかけてくる。
「大心地くん、やっぱり先に来てたんだね。他の人は?」
「巡回組になった人はもう出発したよ。今は僕と住崎くんと中尾くんの三人が正門の警備中なんだ」
「ありゃ、明日からはもうちょっと早く来られるようにしなきゃいけないね」
「そうなると、俺達が巡回するのは二回目か」
木岡さんの言葉に僕はうなずいた。
とりあえず一人で立ちっぱなしということはなくなったのを内心で喜んだ僕は、ちらりと住崎くん達四人の方を見る。すると、目を見開いてこっちを見ていた。
僕の様子に気付いた大海さんと木岡さんも同じように四人へと目を向ける。住崎くんは緊張し、飯村さんは無表情になった。
遠慮がちに大海さんが尋ねる。
「えっと、そっちの男子二人が住崎くんと中尾くん?」
「そうです! オレが住崎健太郎っす! 今回は一緒に仕事ができて光栄です!」
「俺が中尾です」
住崎くんと中尾くんの態度は全然違った。とりより、住崎くんは僕から見ても完全に舞い上がっている。そういえばファンだったっけ。
一通り挨拶が済むと、住崎くんが大海さんに尋ねる。
「あ、あの、真鈴さんは随分そいつと仲が良さそうに見えるんですが、どういったご関係ですか?」
「関係? クラスメイトだけど、それがどうしたの?」
「あ、あはは、そりゃそうっすよね。それで他には何かありますか?」
よくわからない質問をする住崎くんは、残念そうに見る中尾くんと不審そうに見る飯村さんとよくわかっていない村田さんの視線に曝されていた。
首をかしげる大海さんの隣から木岡さんが口を挟んでくる。
「先日の昼休みに、俺と大海の二人で大鬼討伐の戦闘経過の説明をしてもらったことはあるな」
「え? こいつの、ですか?」
「そうだ。直接の参考にはならなかったが、そのすごさはわかった」
「わたしもそう思ったよ! あれは簡単にはマネできないね!」
優秀な有名人二人の褒めように住崎くん達四人は絶句した。目を見開いたまま僕を見てくる。あまりの驚きようを見た木岡さんもだ。恥ずかしくなってきた。
そんなことはお構いなしに大海さんが僕に笑顔を向けてくる。
「そうだ! 大心地くんは週末の夜にある街中の魔物駆除に参加するの?」
「はい。知り合いのハンターさんに頼まれたんで」
「おお、そうなんだ。実はわたしも頼まれたんだよね。それで今週末だけ参加するの」
「頭数が全然足りないって聞いています」
それから僕は大海さんと木岡さんの二人としばらく週末のことについて話をした。まさかこの二人が参加するとは思わなかったな。
僕らが話をしている間、住崎くん達四人はその様子を呆然と眺めていた。後で知ったことだけど、住崎くんと中尾くんは週末夜の駆除活動には参加していなかったらしい。
そうとは知らず僕達は他のジュニアハンターがやって来るまで話し続けた。