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中間試験の結果

 ゴールデンウィークが終わった。予定通りに始まり予想外の終わり方をして僕は驚いている。意外と色々あって思っていたのとは違うけど刺激的な日々だった。


 休み明け直後はみんな緩んでいて、大型連休に何をしていたのかという話で持ちきりだ。ネット上でも同じで、僕の巡回先もそういった日記やレポートが公開されていた。


 僕の生活もゴールデンウィーク前と同じものに戻る。違う点は射撃訓練で使う武器が大型拳銃から小銃に変化したことかな。月水金の勉強の憂さ晴らしにも役立っている。


 あと、週末に受ける依頼の報酬額が少し増えた。依頼が魔物駆除から魔物討伐へと変化したんだ。前までは間引きだったけれど、今は小鬼(ゴブリン)の巣を襲撃するというようにちょっと積極的になったからね。


 一方で勉強の方はというと、中学までの復習は四月に終わって今は高一の復習をしている。けど、この進み具合が残念ながら良くない。


 自室で勉強している僕にソムニの声が容赦なく響く。


「このままだと、勉強時間を増やさないといけないわねぇ」


「これ以上増やすと受験勉強してるみたいになっちゃうよ!」


「別に悪いことじゃないでしょ?」


 半透明な妖精は僕前を漂いながら足を組んで上から見下ろしていた。裸のくせに妙に様になっているのが実に腹立たしい。


 進みが悪いと脅迫されながら僕は毎日勉強に励む。こんなに勉強したのは生まれて初めてだ。


 そんなつらい思いをして僕は中間テスト前の週末まで頑張り続けた。そして、ようやく意地悪な妖精からお褒めの言葉を賜る。


「よくできましたー! 予定より一時間オーバーだけど、これは誤差ね! やればできるじゃない!」


「これで、復習は、終わりなんだね」


「そうよ! 明日からテスト勉強! これから一週間は射撃訓練も依頼もなし! 更に頑張るわよ! いやー、間に合って良かったわー!」


 その言葉を聞いて、僕は死んだ。


 ともかく、これでようやく本命である試験の勉強に取りかかれるようになった。


 僕の高校では科目は全部で十六あって一日四科目ずつテストすることになっている。試験は四日後から週末を挟んで四日間だ。だから、二十四日までの三日間で八科目を勉強しないといけない。


「これ、間に合うのかな?」


「自力の底上げはできたのと、テスト範囲が一ヵ月ちょっとと狭い点に活路を見出すわ。ここで毎日地道に復習してたのが生きてくるのよ」


「あれがかぁ」


「正直なところ、大幅な点数アップは無理ね。時間が限られてるからテスト範囲に出そうなところに的を絞って、更にアンタが弱そうなところを重点的に勉強するわよ。覚悟しなさい」


「ひぃ」


 指導が更に厳しくなると知って僕は震えた。それでも自室で机にかじりつきながら僕は勉強する。


「ほとんど一夜漬けみたいじゃないか。やってることが前と変わらないんだけど、ほんとに効果あるの?」


「前にも言ったけど、毎日の復習が生きてくるわ。ゼロから始めるのとイチから始めるのとじゃ全然違うんだから」


「わかんないなぁ」


 疑問に思いつつも僕は一縷の望みをかけて勉強を続けた。


 そうしていよいよテスト期間が始まる。あるのかないのかわからない効果を抱えて初日のテストを受けた。手応え? よくわからない。


 帰宅してから明日のテスト勉強を軽くして眠る。そして翌日、緊張しながら二日目のテストを受けた。とりあえず全部記入できたのは進歩かもしれない。


 前半戦が終わると週末だ。いつもなら依頼を受けているけど今はそれどころじゃない。


 楽しそうにソムニが言ってくる。


「平日と違って一日が丸々使えるのはやりやすいわよね!」


「一日中勉強かぁ」


 二日間勉強漬けになることを想像して僕の気分は沈みきった。とはいえ、苦しいのはあと四日だ。これさえ終わればすべてから解放される。


 週末の二日間はみっちりと勉強し、翌日のテスト三日目に臨んだ。とにかく書いた。できたと思いたい。


 そして最終日の四日目、夕方にはすべて終わっていることを希望にテストを受ける。できはどうだったって? 結果を見たらわかるでしょ!


 こうしてすべてのテストが終わった。今回は今までと違って勉強しまくったからより一層解放感が強い。


「周りが輝いて見えるってこういうことなんだなぁ」


「なに馬鹿なこと言ってるのよ。ちゃんと結果を出さないといけないんだからね」


「なんだよ、ちょっとくらい(ひた)らせてくれてもいいじゃないか」


 良い気分に水を差された僕は口を尖らせた。


 けど、ソムニの言いたいことはわかる。先月からゴールデンウィークを犠牲にしてまで勉強したのは中間テストで結果を出すためだ。ここでいつも以上に点数を取ったら、父さんも母さんも何も言えないだろう。


 中間テストの終わった翌日からは授業が再開された。大昔は解答用紙を返却したらしいけど、今はすべて電子入力だからそういった儀式はない。


 気になるテスト結果だけど、いつも試験翌日の放課後に一斉公開される。だから今日はみんないつもと違って微妙に落ち着きがなかった。もちろん僕も。


 本日最後の授業の終業チャイムが鳴って授業が終わる。先生が教室を出るとみんな一斉に半透明の試験結果一覧表を開けた。そして、あちこちで悲鳴が上がる。


”さぁ、楽しみよねー”


 にやにやしていることが簡単に想像できる声が僕の頭の中に響いた。早く見たいけど同時に見たくないという思いも強い。


 それでも見ないわけにはいかない。僕は悲鳴混じりの喧騒に満ちた教室内で半透明の画面を表示した。


-----


 夕方に学校から帰宅した。いつもならすぐに勉強するところだけど今日はそんな必要はない。素晴らしい。早速ネットを見てだらだらと過ごす。


 日が暮れて夕飯の支度ができたと母さんに呼ばれた。お腹が空いていたのですぐに台所へと向かう。今日の晩ご飯はカレーだ。


 自分の席に座ると用意されていたカレーをすぐに食べ始めた。ちょっと辛めの方が好きなんだけど、うちは中辛一辺倒なんだよね。


 空っぽの胃袋に染み渡るカレーに幸せを感じながら、僕は母さんも席に座ったところで父さんに話しかける。


「今日中間テストの結果が出たんだけど、見てくれた?」


「もうそんな時期か。まだ見てないな。その様子だと良かったのか?」


「どの科目も前より点数が上がったんだ」


「そうなのか。どれどれ」


 食べるのを中断した父さんが半透明の画面を開けた。そして、僕の試験結果一覧表を表示させる。更に、高一三学期の期末試験結果も並べた。


 それを見て父さんが少し感心したように声を漏らす。


「本当だ。ちゃんと頑張ったんだな。母さんもこれを見てくれ。どれも点数が上がってる」


 僕は自慢げに胸を張った。どの教科も十点以上伸びてるから五十点から六十点台になっている。


 父さんの反応は悪くない。どれも点数が上がったんだから努力したのは認めてくれると思う。一方の母さんは微妙な反応だ。なぜかあまり喜んでくれていない。


「母さん、どうしたの?」


「点数が上がったのはわかるけど、あれだけ勉強していたんだからもっと高いと思っていたのよ」


 普段の勉強は今までの復習だったことを母さんは知らないことを思い出した。実際はテスト三日前から試験勉強を始めたからなぁ。


 ただ、それでも点数が上がったことで僕には強く言えないらしい。何度か半透明の画面と僕の顔を見てため息をついた。


 ソムニが言うには次回に期待ということらしいので、今の父さんと母さんの反応にとりあえず満足しようと思う。


 気を取り直した僕はスプーンを動かし始めた。

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