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まだ芽が出ていない状態で言われても

 ゴールデンウィークも後半に入った。


 お金がないから早く依頼を受けたかったけど、二日前に発生した魔物の大量発生で状況は変わる。状況が安定するまでジュニアハンターの活動が大きく制限されたんだ。


 そんな中、これを機に活動を見直すジュニアハンターも一定数いた。そう言う人達は仲間内で今後の活動の相談したり、本館で色々と動き回っていたりする。


 右往左往するみんなをよそに、この日僕は強化外骨格を装備していつも通り射撃訓練をするつもりだった。更衣室を使うべく第二公共職業安定所の本館へと入る。


「うわ」


 階段へ足を向けたとき、僕は会いたくない人達を見つけてしまった。しかも、相手の住崎くんと中尾くんも僕に気付いているじゃないか!


「ちっ、こんなところで会うなんてな。いちいち人の気分をサイアクにしてくれるぜ」


 やっぱり住崎くんが僕に悪態をついた。


 一瞬、黙って更衣室へと行こうとする。けど、無視したらしたでまた話がこじれそうなので立ち止まった。


 なんと声をかけようかと考えていると、更に住崎くんがしゃべる。


「なんだお前、いっちょ前にライフルなんて持ってんのか」


「別にいいじゃないか。僕が依頼をこなして手に入れた報酬で買ったんだから」


「へぇ、お前なんかでもこなせる依頼があるんだな。随分とシケたやつなんだろ?」


 違うと言いたかったけど、以前ソムニがしょっぱい仕事と言っていたのを思い出して思いとどまった。


 そんな僕の様子を見た住崎くんが面白そうに笑う。


「ははは、やっぱりな! どうせ最近買ったばっかりなんだろ。まだまともに使えもしねぇんだ。その点、俺達は違うよな」


「まぁ、去年から使っているからな」


「そうそう! 去年の夏に訓練生を卒業して、秋までにはライフルを手に入れてたんだ。お前とは年季が違うぜ!」


 中尾くんの同意を得た住崎くんはより一層僕を馬鹿にしてきた。ただし、いつもと様子が違う。何となく機嫌が良さそうだ。


 微妙な顔をする僕に中尾くんが話しかけてくる。


「やっぱりお前でも住崎が浮かれていることに気付くか」


「ああ!? 誰が浮かれてるって?」


「お前だ。大心地(おごろち)でさえ呆れてるじゃないか」


 僕が何か話す前に住崎くんが中尾くんに噛みついていた。けど、中尾くんはそんなことを気にせずに言葉を続ける。


「俺達はな、これからハンターとチームを組むことになったんだ」


「ああ! オレが言おうと思ってたのに!」


「さっさと言わないからだ。いつまで引っ張るつもりなんだよ。待ってるこっちの身にもなってくれ」


「ちくしょう、まぁいい。そういうことだ、大心地。俺達はお前なんかとレベルが違うんだよ!」


 なんだかいつもと違って僕は置いてけぼりにされている感じがした。更にそんな自慢をされても嬉しくない。


「あの、僕これから用があるからもう行っていいかな」


「んだと? お前勝手に」


「こっちも約束の時間までもうすぐなんだからいいだろう。いつまでこいつに構う気だ」


「ちっ、しゃーねーな。行けよ」


 呆れた中尾くんが約束というのを持ち出すと住崎くんが仕方なさそうに折れた。しっしっと手を振ってくる。


 扱いに腹は立つけど別れる口実ができたから僕はすぐにその場を離れた。本館の二階に上がって更衣室で強化外骨格を装備すると射撃場へと向かう。


 屋外射撃場は屋内射撃場の更に奥にあった。だだっ広い場所にベンチ代わりのテーブルが等間隔に並べられていて、そこから撃つようになっている。また、レーン代わりの広場には百メートルから先に盛り土がいくつもあった。


 僕は係員に許可をもらって射撃を始める。昨日装備なしで撃ったときよりも反動を小さく抑えられるから撃ちやすい。


”アタシのサポートなしだと四百五十メートルでもきついかー。四百は何とかなるのにねぇ”


”風の影響もあるんじゃないかなぁ。昨日よりちょっときつくない?”


”言うほどじゃないわよ?”


 などとソムニと相談しながら一発ずつ撃っていった。正しく結果を計測してくれる妖精がいるからこそできる練習法だね。


 そうやって練習をしていると、ちょうど弾倉一本を使い切ったときに声をかけられる。


「大心地くんじゃない? あ、やっぱりそうだ!」


「え? 大海(おおうみ)さん?」


 僕が後ろに振り向くと、ジュニアハンターの制服姿の大海さんが小銃を肩から提げて立っていた。盛り上がった胸が目の保養で毒だ。


 不意打ちぎみに意外な人と会って僕は驚く。


「大海さん、どうしてここにいるの?」


「わたしも練習しに来たからよ。魔物が大量発生したせいで依頼がキャンセルになっちゃって」


「あれ? でも別の地方に遠征するとかSNSで言ってなかった?」


「そこもなのよー! もう最悪!」


 魔物の大量発生は各地で起きていることで珍しくもなかった。こういうのを見るとかわいそうに思えるなぁ。


 内心でのんきな感想を抱いていると、大海さんが僕の隣のテーブルにガンケースを置いた。そして、こちらに振り向く。


「せっかくだし、一緒に練習しましょう! 大心地くんの腕も見てみたいしね!」


「ええ!?」


 てっきり離れたところで練習すると思っていた僕は固まった。まだ小銃の練習を始めて三日、とてもお目にかけられる腕とは思えないんですけど。


 動揺する僕の頭の中にソムニの声が響く。


”どうする? 強化外骨格を装備してる今なら、アタシのサポートがありで六百でもかなりの命中が期待できるわよ?”


”な、何のためにそんなことするの? 今日はサポートなしでするんじゃ”


”あれー? こういうとき男の子って美人にイイカッコしたがるものじゃないの?”


”やめとこう。ここで大海さんにかっこつけても、僕の実力が上がるわけじゃないんだし。やる意味ないよ”


”おー、冷静な判断ね。それができているうちは大丈夫だわ”


 感心するソムニをよそに僕は銃を構えた。四百メートル先の的を狙って引き金を引く。一発撃って確認、少し考えてから構え直してもう一発。


 たまにソムニの助言を受けながら、四百五十メートル先の的も撃っていく。こちらの命中率はあまり良くない。


 いつの間にか集中していた僕は一旦構えを解いた。そして、大海さんから視線を向けられているのに気付く。


「大心地くんって、射撃うまいんだね。知らなかったなぁ」


「え? そうなの?」


「そうだよ。あの距離でそれだけ命中させられたら大したものだって!」


「でも、実戦だとこの半分以下の距離でも怪しくなるよ」


「そんなのみんな同じだよ! 遠距離になったら簡単には当たらなくなるものだもの」


「人と比べたことがないから、わからないな」


「春休みまで訓練生だったんだよね。ということはライフルを持ったのは最近のはず。大心地くん、実は射撃に才能あるとか?」


「いや、それはどうかなぁ」


 実際のところソムニの指導が良すぎるだけだと思った。何を教えてもらっても的確なんだよね。完璧すぎると言って良いくらい。


 だから、大海さんの褒め言葉は素直に受け取れなかった。後ろめたさから気後れしてしまう。せっかく褒めてもらえたのに。


 そんな僕の心情とは関係なく、大海さんは無邪気に声をかけてくる。


「絶対すごいよ! これだったらチームに入ってもらっても良さそうね!」


「ええ!?」


 冗談でもお誘いの言葉が出てくるとは思わなかったので僕は目を剥いた。大海さんのチームと言えば全国レベルだ。そんな中でやっていけるとはとても思えない。


 それでも、そう言ってもらえたのは嬉しかった。練習した甲斐があったというものだ。


 すっかり機嫌が良くなった僕はその後気持ち良く練習出来た。

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